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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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膝の上は危険

※少し暴力的な表現があります。

「ひゃあ!!」

「う〜!!」


 時折ビュウっと吹き付ける冷たい風に悲鳴のような喜声をあげながら、今日も僕たちは元気に走り回っていた。


 子供は風の子、元気の子。


 それを体現しているかのように元気に走り回る子ども達。


 朝と夜の冷え込みもだいぶ厳しくなってきたし、今朝外に出た時は寒い冬特有の冬の匂いがした。あともう少し寒くなったら雪が降るんじゃないだろうか。


 ちなみに僕たちの服装はというと、いつものワンピースの上に長袖のワンピースを重ねがけして着ている。


 こんなに寒いのに、こんなに薄着だとすぐに風邪をひいてしまうんじゃ…なんて思っていたが、そんな心配も動き始めるとすぐに吹き飛んだ。


 動けばすぐに身体がぽっかぽっかしてきて、むしろ暑い。中には途中で長袖を脱ぎ捨てる子達もいる。


 うーん…小さい頃の事はほとんど覚えてないけど、子どもは体温が高いってゆうのはよく聞く話だ。僕も昔はこうだったんだろうか…覚えてないな。


 ビュウゥ!!!


「うひゃああ!!」

「かぜー!!」

「つめたーい!!」


 ぐふぅ…周囲の子達から楽しそうにタックルされた…


 タックルというか本当はおしくらまんじゅうなんだけど…みんなが元気に動き回っている時に突発的に風が吹くため、走り回っている勢いそのままに周囲の子達が集まって、タックルまんじゅうとなるのだ。


 どうやら冷たい風が吹いた時は小さい子を中心にして集まって、寒さから守ってあげよう!という孤児院の頃からの習慣らしいんだけど…孤児院に行っていなかった僕は当然そんなことは知らず、これを初めてされた時は少しパニックになった。


 いつものように優しく抱きしめられるものだと思って全く身構えることもなく周囲の少女達からのタックルを受けたことにより、肺の空気が抜けきるほどに押し潰されて少しの間息が出来なくなってしまったのだ。


 幸いなことに強い衝撃は一瞬だったんだけど…前にみんなから押し潰されて死にそうになった記憶がフラッシュバックしてきて、情けないことに半泣きしてしまった。


 その時はみんなに優しく慰めてもらえて、それから少しの間はみんなからのタックルも優しかったのに…ぐふっ!?…今ではご覧の通り、すっかり全力タックルである。


 この子たち、冷たい風が吹くの絶対に楽しんでるよね…



 まあ、元気なのはいいことだ。


 ちょっと離れたところでクルカラとオープルも元気にタックルを受けて、喜んでいる。僕だけ貧弱なままではいられない。


 みんなを連れてここから脱出するんだ。


 僕が1番しっかりしないといけないのだ。精神的にも。肉体的にも。


「ジュリ、セラ、片付けが終わったら少し食堂に残っていてくれ」


 僕が改めて身体をしっかり鍛えるぞと気合を入れて昼食を完食し終えると、世話人から声がかかる。


 …なんだ?また何か問題を持ち込んできたのか…??


 世話人に呼び止められる時はいつもそうだ。お勉強が始まったり、客の相手があったり…まったく。今回は何を言われるのか。考えるだけでも頭痛がしてくる。


 皆はいいよね…ヒソヒソとなんだろ?なんだろ?と目を輝かせていられるんだから…


 みんなが食堂を出ていき、世話人の片付けも一区切りついたようだ。

 世話人は僕を抱えているジュリに呆れ顔を向けながら向かいの席に座ると、気を切り替えるようにフッと短く息を吐いていつも通りの無表情に戻った。


「ジュリ、セラ。ジンムカ様から連絡があってな。また2人を指名したいそうだ」

「っ!!セラ!!やった!!また一緒にお仕事できるのね!!」


 ジュリにギューッと抱き締められて、左右にブンブンと振られる。


 …嬉しいのは…わかった…けど…落ち着いて…脳が…脳が揺さぶられる…


「ジュリ!少し落ち着いてくれ…セラが苦しそうだ」

「そうだ!!世話人!!セラのお洋服はちゃんと仕入れたんでしょうね!?」


 や、やっと止まった…頭がグワングワンする…


 ブンブンと振り回されるのは終わったが、まだギューッと締められていて少し息が苦しい…腕をトントンするけど気付いてくれる気配がない。


「はぁ?一応注文は入れたが…おい、少し腕の力を緩めろ。セラの顔が青くなってるぞ」

「どんな服なの!?というか一応!?ちゃんとジンムカ様がいらっしゃる前に届くんでしょうね!?」

「届く予定だ!いいから一旦落ち着け!その手を離せ!!」

「予定じゃダメよ!!絶対に間に合わせて!!それになに?私からセラを奪う気!?ダメよ!!世話人にだけはぜーったいにイヤ!!」


 うぐっ!?締まってる締まってる!!息が…吸えない…!!


 暴力はいけないが、仕方なく僕は足をジタバタさせて猛抗議することにした。


「あぁ、セラも楽しみなのね??待ちきれないのね!!私も!!ジンムカ様、早く来ないかしら」


 僕は全然楽しみじゃないよ!!むしろ来ないで欲しい。でも…その日が来るより先に僕が死にそう…


 ジタバタする元気も薄れてだんだん身体に力が入らなくなってきたその時、目の前からドスの効いた恐ろしい声が静かに響いてきた。


「…おい…いい加減にしろ…ジュリ!!…約束を…忘れたのか?」

「ひっ…な、に…約…束…??」


 僕も相当ビビったが、ジュリも相当ビビっているようだ。ジュリの腕にさっきより力が入り、息ができない状態に更に首がモゲて身体が潰されそうなくらいの痛みが追加される。


 ああ…手足が痺れてきた…感覚が麻痺してきたのかもしれない…それと同時に締め付けられる痛みも和らいでくる…


「セラが、死にそうだ。その手を、離せ」

「せ…セラ…が…しに…そう??その…て??」


 ジュリは恐怖が先に立ってしまって、言葉の意味が理解できてないんだろう。

 歯をカチカチと鳴らして小刻みに震えながら、世話人の言葉を繰り返している。


 ああ…視界が暗くなってきた…ここ1月ほど、ジュリが寝る前以外は暴走してなかったから完全に油断してたよ…ジュリの膝の上は危険なんだ…次の機会があれば…回避…しないと…あぁ…目を開けてるはずなのに…何も見えない…


「ッ!!その手を離せ!!」


 バンッ!!という音が響いたかと思うと、身体がグルリと傾いた感じがして地面に投げ出された。


 それと同時に拘束が解ける。


「っっぶはあ!!はあっ!!げほっ…ごほっ…」

「セラ!!大丈夫か!?落ち着け、ゆっくり息を吸うんだ…そう、そうだ…」


 声にしたがってゆっくり息を整える。段々と視界に光が戻ってきて、背中から誰かがさすってくれている感覚が伝わってくる。


 はぁ……はぁ……


 …た、たすかった…あぶなかった…それにしても、何が起こったんだ??


 僕は今、地面に投げ出されたまま横向きに寝ているようだ。地面からキンとした冷たさが伝わってくる。


 視線の先にはジュリがいて、僕と同じように寝転がりながら涙を流してこちらを見ている。僕の背中をさすってくれているのはどうやら世話人らしい。声が真上から聞こえてくるからそうじゃないかとは思ってたけど。


 ふぅ……ふぅ……


 うーんと…あ!足元にイスとテーブルがあるってことは、イスから後ろに転がり落ちたのか。


 ジュリ、頭を打ったりしてないかな…あ、こっちに手を伸ばしてる。


 はぁ…ふぅ…


 ギシギシと痛む身体にムチを打ってジュリに手を伸ばし、その手を掴む。


「…セラ…セラ…ひっく…せらぁ…」


 …暴走さえしなければいい子なんだけどなぁ…

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