いざパンツを脱がせてみたら
「できた!!」
「ああ…もう終わっちゃった…」
ジュリは残念そうだ。頭洗ってもらうの気持ちいいもんね。僕も残念だった。
「セラ、初めてだったのよね?とっても上手で気持ちよくって、つい夢中になっちゃった…セラ、ありがとう」
ふっふっふ…こちとら子どもの頃から毎日お風呂に入って髪を洗ってきたからね。やり方が違うとはいえ、たまにしか頭を洗わない君たちとは年季が違うのだよ!年季が!!
と、ちょっと鼻高々になっていると、突然ジュリに抱きつかれてキスされた。
ちょ!?裸!!まだ裸だから!!
「ふふっ、気持ちよくしてくれたお返しっ」
熱くなった頬を両手で押さえる。
うぅ…ジュリには当分勝てなさそうだ…勝負しているわけじゃないけどね。
「さてとっ、少し片付けて準備しましょうか」
先ほど脱ぎ捨てたワンピースを着て、泥の入った桶から表面の水をゆっくり溢していく。
ほんと、掻き混ぜるとすぐ水に溶けるのに、あっという間に沈むんだから不思議だよなぁ…髪もさっぱりするし。
「後の片付けは世話人がやってくれるわ。行きましょ」
そう言って連れて行かれた先は、いつもお勉強をしている地下室への扉とは別の扉。
今まで入ることができなかった、庭に面している最後の扉だ。
…ここを脱出するときのためにも、中がどうなっているかしっかり覚えておこう。
ジュリが扉を開くと…廊下になっていて、すぐ近くの左側に扉が一つ、その少し先で左に廊下が続いており、真正面は壁で左右に廊下が続いているようだ。正の字の3画目まで書いて、左右反対にした感じだ。
入ってすぐ大広間…なんて期待してなかったけど、今はまだ屋敷の見取り図が全く想像できないな。とにかくジュリについていくしかないか。
ジュリは扉をくぐると、1番手前にある左の部屋に入って行った。ついて行くと中は衣装部屋のようだ。僕たちが普段着ている薄汚れた灰色のワンピースではなく、綺麗な白いワンピースや、手触りの良さそうなシルク生地のワンピース、少し向こうが透けて見えるネグリジェなどが複数用意されていた。
さ、さすが娼館…こうゆう衣装もあったんだね…あ、靴もある!!
ここに来てから約8ヶ月、靴とは無縁の生活を送ってきた。世話人も履いていなかったので見ることすらなかった。
「ふふっ、それは靴っていうのよ。お客様のところに行くときは、靴を履いて行くの」
「くつ…」
「そう、靴。それでこっちの綺麗なお洋服を着て行くのよ」
ふむ、客の相手をするときはまともな格好をさせてもらえるってことか。
「セラは…うーん、これなのかな…??」
ジュリが僕に選んでくれたのは、何故かどぎつい濃い紫色をしたネグリジェ…僕がこれを着るのか?
おもわず半目でジトーっとジュリを見つめると、ジュリは慌てたように弁明する。
「えっと、違うの!!セラにこれを着せたかったわけじゃなくって…」
僕にこれを着せたかった訳じゃないなら一体なんだというのだ。それ、いの一番に取り出してきたでしょ。
「あのねセラ。ここで着る服は自分の髪の色に合わせるのよ。…その、セラは黒っぽい紫色でしょう?近い色がこれくらいしかなくって…」
僕のジト目にジュリはアワアワしているが、そもそも僕は黒髪だよ?いつも見ているはずなのに、ジュリには僕の黒髪が紫に見えていたらしい。
いや紫って…ノリのいい大阪のオバチャンじゃないんだから…
そう思って胸まで伸びている自分の髪を手に持ってじっくりと見てみると…
んん?
部屋の明かりが暗いからかな…若干紫にも見えるような…んんん?
「世話人にセラの髪に似合う服を用意してもらわなきゃいけないわね…うーん、でもこれはちょっと…セラには似合わなそう…」
サイズも合わないけどね。
と思ったら、両脇の紐でサイズ調節できるらしい。
子どもはすぐ大きくなるからね。どの年齢の子でも着れるように…って、そんな所だけ拘らなくっていいわ!!
まったく…
結局ネグリジェは断固拒否させてもらい、薄紫のワンピースを着ることになった。
僕って、男娼なんだよね?
男の子っぽい格好はないのか…あれ?…今まで何度かお願いしても髪を切らせてもらえなかった…けど…
…もしかして…まさか…
…男の娘…って、ことか…??
…それで客を取れと!?
………
…さ、最低だ…!!
男の娘。
それはかつて二次元コンテンツのみに存在していた。
しかし男女差別が凶弾される現在、男として生まれたとしても、男らしく生きなくても良いではないか!!女性のように生きてもいいではないか!!という思想に後押しされる形で、それまで心の中で「実は自分は心が女なんです…」と隠してきた性自認・女性を爆発させるように、お化粧だけに留まらず女性ホルモンの注射や、豊胸や骨格を削ったりする整形手術を施し…ついにはアソコを切り落としたりと、それまで世間から認められてこなかった鬱憤を爆発させるかのようにプチ人体改造を望む人々と、それを嬉々として行う整形外科医が現れ始めた。
ネット上にはそういう人達が一定数存在しており、見目麗しい女性にしか見えない男の娘という存在が実際に現実の世界に爆誕しているのである。
「ネットで知り合った女の子と実際に会ってさ、めっちゃ可愛くて…猛アタックしたんだよ!それで少しずつ仲良くなって、ある時ホテルに行くことになったんだ。そしていざパンツを脱がせてみたら…あったんだよ…ナニが…!!!!」
という嘘か誠かわからないような話題さえチラホラ見るようになった。
一部の界隈では「付いていてお得!!」などと叫ばれているとか…
…実に恐ろしい世の中だ…
僕の見解としては。
二次元コンテンツとして見るのはいい。
リアルでそうゆう格好をするのを趣味にしている人がいることも知っている。
別にそれは悪いことではないのだろう。
誰かを騙す為でもなく、陥れる為でもない。
自身の心と身体の違和感に苦しんでいる人だって実際にいるのだ。
そして、自ら望んで手術を受ける。
お金をかけて自身を限りなく女性に、心と身体のギャップを埋めようと努力している性自認・女性の人たちがいることも知っている。
知ってはいる…知ってはいるが…それを望んでいない者に強制するのは違う。断じて間違っている。
僕は…僕は!!
男の娘として男の相手をさせられるのはゴメンだ!!人によるんだろうが、少なくとも僕は嫌だ!!変態なおじさんがショタっ子を…というのと、変態なおじさんが男の娘を…というのは、似てはいるがなんか違うのだ。
せめて男として扱ってもらいたい!!嫌だけど…とっても嫌だけど…男娼としてどうしても相手をしなければいけないなら…せめて男として扱ってほしいし、そうされるんだと思い込んでいた。
そう思って、諦めていた…
もちろんその前に逃げ出すつもりではあるが、間に合わなかった場合はしょうがないと思っていた。
でも男の娘は違うだろう…そんな覚悟してないよ!!
…もちろんそれは相手が男だった場合であって、お相手が女性であったなら、僕は男の娘プレイも可だとは思っている。
男女差別は良くないかもしれないが、男と女は違うのだ。僕の中では根本的に違うのだ。
まったく…とんでもないことに気がついて心の中で取り乱してしまったが…言われるがままにジュリの着替えを手伝っていたら、いつの間にやら準備ができてしまったらしい。
ジュリは大きな緑色の宝石の付いた髪留めで長い髪を後ろで1つに結わえ、薄い金色のネグリジェの上に薄緑の羽織ものを羽織っている。
胸とアソコの局部は少し厚手の白い布で見えないようになっているが、それ以外は透け透けで…いやらしさもあるが、どこぞの神話に出てくる女神のような…なんだろう。これを神聖さというのだろうか。
さっきまでの心の葛藤はいつの間にか吹き飛んでいた。
やっぱりジュリは綺麗だ。




