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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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ジュワァっと滲み出る肉汁

 4回目のお勉強をした次の日。


 昨日のお勉強の終わりに、明日の夜にジンムカ様が来ると言われていた。


 つまり今日だ。


 今日ばかりはいつもと変わらない朝とはならず、みんなそわそわしていた。

 僕が夜、お貴族のお相手をするのを知っているからだろう。


 みんないつも優しい子ばかりだけど、今日はなでなでされたり抱きしめられたり…いつも以上に優しくしてもらえている。


 ああ、夜にならなければいいのに…


 そんな願いも虚しく無慈悲に時間は過ぎていき、あっという間に夕食の時間になった。


 時間過ぎるの早すぎである。


 食べ終わったら男娼としての初仕事か…嫌だ…憂鬱だ…胃のあたりのムカムカを紛らわすためにお腹を擦りながら食堂に向かうと、食事をもらう前に世話人からみんなに少し話があるという。


「今日はみんなも知っての通り、セラもお客様のお相手がある。みんな不安な気持ちもあると思う。が、大丈夫だ。お相手はジュリを懇意にして下さっているジンムカ様だ。セラがこれからも働いていけるように協力して下さる。そのジンムカ様から、セラの仕事への復帰を祝して高級なバカ鳥を頂いた。滅多に食べられない高級食材だ。皆、ジンムカ様に感謝して味わうように。それと、食事が終わったらセラを応援してやってくれ。それじゃあ順に取りに来るように」


 世話人の演説が終わり、みんなでプレートをもって食事を取りに並ぶ。


「世話人いっぱいしゃべってた!」「世話人って普通に話せるんだ…」などのおしゃべりが聞こえてきて、そんなに不思議なことかな?と思ったけれど、そういえば世話人は普段は全然話さない寡黙な人だった事を思い出した。


 最近はジンムカ様対策にお勉強で詳しく説明されたりしていたので、世話人が長くしゃべっていることに全く違和感を感じなかったのだ。慣れって怖いな。


 それにしても…


「『バカどり』ってなにー?」


 高級食材とか言っていたが、世話人の説明からは鳥という事しかわからなかった。僕の言葉にほとんどの子が首を傾げていたが、どうやらジュリは知っているようだ。


「『バカ鳥』っていう鳥のお肉よ」


 …え?説明それだけ??


 ジュリを見上げてみると、ジュリは『バカ鳥』なるものが食べられるのが余程楽しみなようで、話しかける僕の方を見向きもしなかった。目線はずっと列の先のバカ鳥がある位置に向いたままだ。


 …ジュリが僕を気にもしない程の肉なのか。


 こう言っては自意識過剰だと笑われるかもしれないが、何故かジュリは僕に過剰にかまってくる。


 どこに行く時も何故か常に一緒だし、クルカラ達と走り回って遊んでいる時も、視線を感じる先には必ずジュリがいる。


 小屋の中でみんなとお話をする時はいつも抱きしめられているし…こうゆう表現はよくないかもしれないが、僕に粘着しているという表現がしっくりくるほどに異常なほど僕に夢中だ。


 そんなジュリが、僕をおざなりにする程のお肉なのだ。


『バカ鳥』…気になる!!もう少しなにか教えて貰えないだろうか。


「…とりのおにくー?」

「そう、鳥のお肉よ…セラも知っている鳥さんよ?ほら、アッポの赤い実を採ってく…」


 うげ…あのすっぱいやつか…高級食材って言うくらいだから美味しいんだろうけど…あの赤い実をかじった経験のある者として言わせてもらうと、正直恐ろしい。


『バカ鳥』は食べ物なのか?食べて大丈夫なのだろうか…


 ジュリの話を聞いていたクルカラとオープルも期待に満ち溢れた表情から一転、非常に苦々しい顔で『バカ鳥』がある方向を見つめている。


 そんな様子に気付くことなく、ジュリは説明を続ける。


「あのすっぱい赤い実を食べれるのは、あの鳥しかいないそうよ。他の鳥も動物も誰も食べないの。きっと舌がおバカになっちゃってるんだって。だからあの鳥のことをみんなバカ鳥っていうらしいわ。ジンムカ様が教えてくれたの」


『バカ』…説明を聞いて、なんとなく意味はわかる気がする。僕の勘違いでなければ、思った通りの意味だと思うが…


「…『おバカ』ってなにー?」

「え?えっと…どういえばいいのかしら…そう、クルカラみたいな鳥かしら」

「わたし鳥さんじゃないよ?」


 僕の前に並んでいたクルカラが不思議そうに反応する。

 クルカラみたい?…食いしん坊って意味だったのかな。


「クルカラ、たべるのだいすきー」

「食べるのだいすきー!セラも食べるのだいすき?」

「うん!」


 もちろん僕も食べるのは好きだ。デザートが待ち遠しい。


「…あはは…確かにクルカラもセラも、食べるの大好きね。でもおバカはそう言うことじゃなくって…なんて言えばいいのかな…」


 食いしん坊とは違うのか。


 僕とクルカラとジュリが頭を捻っていると世話人が簡潔に教えてくれた。


「バカというのは、他の人がやらないことをして失敗する者のことだ。アッポの赤い実を食べて転げ回ったりな」


 ………


 最初に思った通り、『バカ』は日本語のバカという意味だった。


「…クルカラおばかー」


 あっ、言わないようにしないとと思ったのに、クルカラを見たらつい口が滑ってしまった。


「〜〜!!セラもオープルも食べたもん!!セラもオープルもバカ鳥だもん!!」


 鳥ではないな。確かにクルカラはちょっとおバカなのかもしれない。

 そばにいたオープルがちょっと傷ついたような顔をしていた。巻き込んでごめんよ…


「セラはとりじゃないですー」

「わ、わたしも…」


 僕がふふんと鼻を鳴らすと、クルカラはむー!!っとさらに怒ってしまった。


 どうしよう…そうだ!


「ジュリがいったの、まねしただけー」

「えっ!?ちょっとセラ…」

「そうだった!ジュリひどい!!」


 クルカラも最初にジュリが言い出した事を思い出したのか、今度はジュリに怒り始めた。なんて単純な子なんだろう…それとジュリ、ごめんなさい…でもジュリが言ってたし…


「ええぇ…クルカラごめんね?そんなに怒らないで…」


 プンプンと怒るクルカラだったが、いざバカ鳥の前に辿り着くと怒るのをやめて目を輝かせていた。


 列に並んだ時から薄々感じてはいたが、バカ鳥の料理の目の前にはりんごの甘酸っぱい美味しそうな匂いが強く漂っていたのだ。


 とはいえ、この匂いは齧った時の強烈な酸っぱさを思い出させる。


 クルカラもオープルもあの強烈な酸っぱさを思い出しているようだが、目の前の肉があまりにも美味しそうで忌避感よりも食欲が勝っているのだろう。


 かくいう僕は高級食材と聞いていたので、既に赤い実とは完全に別物で美味しいのだろうと期待に胸を弾ませている。


 本来りんごとは美味しいものであり、あの匂いだけのりんごもどき(赤い実)が異端だったのだ。


 この肉は絶対にうまい。

 そう確信できる。


 果物をエサに混ぜて飼育された豚や牛は、混ぜた果物の香りを受け継ぎ芳醇な味わいを醸し出す高級肉になるという。

 日本では高級すぎて庶民の僕は食べる機会がなく、結局今の今まで食べず終いだったが…それが鶏肉ではあるものの、こんな所で食べる機会がやってくるとは。


 …人生何があるか分からないものだ。


 そして極めつけに、通常エサに混ぜるのは人が食べない味の劣る果物や皮、ジュースを搾ったあとの絞りカスだというではないか。それでも数々の美食家たちを唸らせてきたというのに…


 あの強烈な赤い実を食べて越え太ったバカ鳥は、一抹の不安は残るものの…さぞや美味しい肉に育っていることだろう。


 1cmくらいの厚さに切られたバカ鳥の肉を世話人がトングで掴むと、ジュワァっと滲み出る肉汁。


 ごくり…

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