おもちゃの棒じゃない
※前半に男性との性的な表現があります。苦手な方はご注意ください。
実りの秋が過ぎ、収穫できるものが少なくなって、それに合わせるように夕食後のデザートがどんどん目減りしてきたある日のことだった。
朝食後、珍しくジュリだけが世話人に食堂に残るように言われたのだ。
コソコソと静かになんだろうと沸き立つ少女達。
ついこの間まで果物の収穫にデザートにと楽しいこと続きだった彼女達は、最近減ってきたデザートへのもの哀しさを紛らわすかのように、キャッキャとあれやこれやと話に花を咲かせている。
要するに、暇なのだ。
…みんなと一緒で暇だった僕はというと。
一瞬みんなと一緒にはしゃぎかけたが、確か前にジュリが今回と同じように呼び出された時はお勉強が開始されたんだよなぁ…あの時はジュリにペ〇バンでガンガン突かれて窒息死しかけたんだよなぁと思い出し、イヤな予感に背中にひやりと冷たいものが伝うのを感じていた。
なぜそんなネガティブな方向に思考が向いてしまうのかというと、ここ1月ほどジュリの様子がなんかおかしかったからだ。
本人はいたって冷静を装っているようだったが、お勉強の時に端から監視…もとい、見守っている時も「キスをする時は手を背中にまわして〜」とか「身体を優しくさわさわ触ってあげて〜」とか、ちょくちょく生々しい指示が飛んでくるようになった。
…見守るなら静かにしているという約束はどうなったのだろうか。
世話人もまんざらでもないのか、いい気持ちだとか言ってくるせいで最近は世話人とも平然を装って(本当はすごく嫌だけど)行えるようになっていたキスとか、腰に装備した棒を舐めたりだとか、そうゆう行為の時に鳥肌が立ったり動きが固まったり…要するに拒絶反応がぶり返してしまったりはしたが…まぁそれなりには自然体を装ってできるようになってきた…と思う。
ちなみにまだ僕の貞操は無事だ。
大事なことなので2回いっておこう。
まだ僕の貞操は無事だ!!
ジュリが眼を光らせているおかげか、世話人がそもそも狙っていなかったのか。
まだわからないが今後も気をつけていきたいと思う。
何に気をつければいいのかはわからないが。
「セラー!…大事な話があるの。食堂までいきましょう!」
ジュリが走って来たかと思うと、僕の手を取って返事も待たずに食堂へと引っぱられていく。
特に拒否する理由もないので大人しくついていったけど…どうしたんだろう?今までこんなにせかせかしているジュリは見たことがないかもしれない。
食堂に入って世話人の向かいにジュリと並んで座る。
世話人から何か話があるんだろうけど…
世話人の口が開いた瞬間、勢いよく話し始めたのは何故かジュリだった。
「セラ!あのね!!私によくしてくれているお貴族様のジンムカ様のことは覚えているかしら?前に何回か話したことがあると思うんだけど…」
突然隣から大きな声が聞こえてきてビクリとしてしまう。
…ジンムカ様?確かジュリを気に入って何度も指名してくれている貴族のロリコ…ゲフンゲフン、えーっと…ジュリを将来的に妾として娼館から買おうとしている変態野郎だったかな…
言語が違うのでちゃんと理解できているか不安だが、小鹿亭が所属しているこの場所をまとめて『オーライン王国』と言うらしく、その中で偉い順番に『王族』『上級貴族』『中級貴族』『下級貴族』『平民』となっているそうだ。
ちなみに僕は囚われの身なのに『平民』らしい。平民とはなんぞや。
『貴族』は日本語でたぶん貴族のような位置付けなんだと思う。今時どんな階級のつけ方だよと思うが、家電は無いし、トイレはぼっとん便所だし、トイレットペーパーの代わりに藁を使うし、風呂が無いどころか毎日体を拭くという事もさせてもらえないような、まるで古い時代の生き方を強制されているわけで…
中世ヨーロッパみたいに貴族階級を使っているのもそんなに違和感はないのかな?と思ったりした。
文明の利器を導入してくれよ…
こんな、今時ありえないほどに人権を無視した施設だから情報漏洩の対策が必要なのはわかるが、ここを作った奴は中世ヨーロッパマニアなのだろうか。不衛生さまで再現する必要はないだろうに。
…でも、料理をする時は薪として木を燃やすのではなく、コンロなんだよね。変な形をしてたけど、間違いなくコンロだ。
今もたまに世話人にお願いして背中の上から(何故か背負われる事が条件となっている)料理を見せてもらっているが、コンロと思しき物のボタンをカチッと押したら火がつくのだ。地下室の部屋の光もロウソクではなく、スイッチを押すと明かりがつくタイプだったはず。
…もしかすると電気はダメでも、ガスは使ってもいいルールなのかもしれない。
調理場の地下には冷蔵庫の代わりに室があるから、電気は使っていないはず。地下室の明かりは電気かと思っていたけど、そういえば昔はガス灯という物があったと聞いたことがある。
コンロもガスを引いているんだろう。前にカチッとしても火がつかなくなった時にコンロの一部を開けて紫色の綺麗な火打石みたいなものを入れているのを見かけたことがある。
電池を使わないかわりにいろいろ工夫しているんだろうなぁ…素直に電気を導入してほしいところだ。
まぁそんなことはさておき…ジンムカ様の話を覚えているか、だったっけ?
「…ジュリのことすきな…えらいひとー?」
ジュリが「そう、そのジンムカ様よ」と嬉しそうに笑った。
ジュリはジンムカ様という人を気に入っているようなので、ロリコンとか変態とかあまり変な事は言わない。そもそもロリコンとか変態とかを指す言葉がわからないから口を滑らせる心配もない。やったね。
「実はね、ジンムカ様が来てくれるたびに、可愛いセラのことをジンムカ様に沢山お話しててね。最近はお勉強を頑張っているんだってお話していたの。その…お勉強は苦手だけど、頑張ってお勉強しててとってもいい子なんだって自慢したくて!」
自慢してくれるのはいいけど…わざわざその報告をするためだけに僕をここに呼ぶわけがないよね。なんだか嫌な予感を感じるんだけど…ジュリの話は止まらない。
「それでね。もし良かったらなんですけど、私とのお相手の時にセラも一緒に連れて来てもいいですかって聞いてみたの!!」
なに!?なんてことを聞くんだ!?
…え?
ジュリがロリコン変態野郎に貪られている現場を観察しろと??どんなプレイなの?ジュリは露出癖持ちなのか??
「ジンムカ様は…私との愛の語らいを見られるのは少し恥ずかしいって言ってて…」
そうだよね。
普通に後ろめたい事してるのに、それを外野に見られながらとか…恥ずかしい以前に常識的に考えて無理だと思うよ…愛の語らいとか…へっ!!
「でも、もう一度お願いしたら、私のお願いなら聞いてくれるって!!」
いやいや断れよ!!ジンムカ様!!なにオッケーしちゃってるの!?
「セラのお勉強も手伝ってくれるって!!」
僕のお勉強?…勉強手伝うって、実際のお客様とやらがお勉強してくれるの?
…は??
お勉強って、キスしたり棒を咥えたり…え?は?お客様が??その場合の棒って、おもちゃの棒じゃないんじゃない??肉の棒になるんじゃないか!?
「あ!もちろんジンムカ様にお願いする前に、世話人にもオーナーにも相談してからジンムカ様にはお話したから、勝手なことをした訳じゃないの。オーナーも聞いてみていいって言ってくれたし…それで今日ね、次のジンムカ様のお相手をする時には私とセラの2人でお相手をしますって、正式に決まったみたいなの!!すごいでしょ!?とっても楽しみ!!!」
いやいやいや、世話人とオーナーに聞く前に、まずは当の本人に聞くべきなんじゃないだろうか。
ん?ちょっと待ってなんて言ってた?
ジュリと僕の2人でお相手する…?え??
ちょっと待って…頭が混乱してる…勉強するんじゃなくって、お相手するの?
やっぱり??
え???




