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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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優しくクルッと

「あっ!!」

「…みた?」

「…みた!!」


 はじめてビグルミを食べた日から1週間。


 毎日頭上の赤々とした果物を見上げながらまだかなー、まだかなーと眺め続けた5才組の僕とクルカラとオープルは、今日ついに鳥が赤い実を咥えて飛び立つ姿を目撃した。


 ということは…十分に熟したということだ!!


 赤い実が熟したらこっそり食べてみようねと3人で企んでいたため、ついにその時が来たのだと思わずはしゃいでしまった。


「どうしたの?…ああ、鳥が赤い実を咥えていったのね。じゃあ白い実も収穫できるわね」

「たべれる!?」


 収穫と聞いて勢いよく返事をしたのはクルカラだ。


 ジュリが来た時は気付かれないようになんとか誤魔化そうと焦った僕達だったが、白い実が収穫できると聞いて誤魔化そうとした気持ちはどこかへ吹っ飛んでいった。


 普通に木に登っていいのかな?


「待って、木に登ったらダメよ。揺らすと熟した実は落ちちゃうの。だからちょっと待っててね。…みんなー!アッポが収穫できるみたい!!ハシゴとカゴを持ってきてちょうだい!!」


 そういってみんなに声を掛けると、みんなはすぐにハシゴとカゴを持ってやってきた。

 みんな嬉しそうだ。


「セラ、クルカラ、オープル。3人はアッポの収穫は初めてよね?」


 うんうんと頷く僕達。


「じゃあ、大事なことを教えておくわね。他のみんなは収穫をお願い!まだ初日だから熟れてないアッポばかりかもしれないから気をつけてね!…よし、じゃあ3人とも、んー…ミルカを見て。やり方を説明するわね。木が揺れないようにゆっくりハシゴを登っているでしょう?」

「木登りしたほうがはやい?」

「ふふっそうね、普通に木登りした方が早いわよね。でもねクルカラ、熟したアッポは木が揺れると枝からすぐに落ちちゃうの。だから揺らさないようにゆっくり登らなきゃいけないのよ。あっ、ミルカが熟したアッポを探してるわね」


 ミルカは真っ白のアッポを掴むと、少し捻っては離して次のアッポに手を伸ばし、捻っては次へ、捻っては次へを繰り返している。


「しゅうかく、しないのー?」


 ミルカはアッポを触るばかりで、なぜか収穫しないのだ。なんでだろう。


「収穫しないんじゃなくて、まだ熟していないのよ。アッポはちゃーんと熟すとね、優しくクルッとするだけで枝からプツンと離れるのよ。あっ、いま1個収穫できたわね。収穫したら腰に付けたカゴに入れて、何個か集まったら下の人にカゴを取り替えてもらうの」


 そうこう説明を受けているうちにある程度熟したアッポを収穫し終えたようだ。


「今日は少なかったけど、明日からはどんどん収穫できるアッポが増えるから大変よ?明日からは3人にも手伝ってもらうからね。あ、そうだ。3人とも今のうちにハシゴに登る練習をしておきましょ!アッポを収穫し終えた今のうちに!!」


 そういってミルカの使っていたハシゴの元へ連れてこられた僕達は、順番にハシゴに登ることになった。


「クルカラのぼるー!」


 やっぱりクルカラが最初に声を上げた。木登りとかも大好きだもんね。


「いい?ゆっくり、木を揺らさないように登るのよ?ゆっくりね」

「だいじょぶ!!」


 自信満々に大丈夫と宣言してハシゴに手をかけたクルカラだったが、登る際に勢いをつけすぎたのか反動をつけすぎたのか、ハシゴがガタンと揺れてしまった。


 すると当然、木も揺れてしまうわけで…


 ボトッボトッ


 枝から白い実と赤い実が1つずつ落ちてきた。


 あーあ…あんなに気をつけてねって言われたのに…


 クルカラは揺れたのにビックリしたようでハシゴにしがみついたまま、落ちたアッポを見つめて愕然としていた。今にも泣きそうだ…


「クルカラ…ふふっ、そんな顔しないで?大丈夫よ」

「あ…ごめんなさい…アッポが…」

「大丈夫よ。落ちちゃったアッポは今日食べれば大丈夫なの。でも落とさなかったらしばらく残しておけるから、できるだけ落とさず収穫できるようになりましょうね。落ちちゃったアッポは落ちちゃった用のカゴに分けて入れてね」


 ふむ。かなり簡単に落ちちゃうみたいだ。クルカラは1度ハシゴの上まで登ってアッポを触り、少し捻る練習をして僕と交代した。


 僕は登り始めからゆーっくり体重をかけたおかげで1つもアッポを落とさなかったけど、次に続いたオープルはどうやら高い所が苦手だったみたいだ。

 ハシゴの真ん中くらいまでは頭上のアッポに夢中で順調に登っていたが、下を向いたら急に怖くなってしまったらしい。震えてその場から動けなくなってしまった。


 僕たちの中では1番背の高いジュリやミルカでも抱いて降ろすにはちょっと高すぎて危なかったため、せめてあと2段だけ頑張って下がってきてとお願いされていたのだが…


 オープルも頑張ったと思う。


 ガクガクと震えながらも1段頑張って下がった。


 しかし、1段下がるだけでアッポが6つも落ちてきてしまった。

 2個は他の子がうまくキャッチしていたので無事だったけれど。


 僕も落ちたアッポを拾い集めて再びハシゴの近くに戻ると、オープルはハシゴにしがみついてごめんなさいと繰り返しながら泣きじゃくっており、さっきの場所から完全に動けなくなってしまっていた。


 ジュリもミルカも頑張ってと声をかけているけど…もう自力で降りるのはどうみても無理だ。


 どうしよう…そうだ、世話人なら背も高いし降ろせるかも!!


「せわびとよんでくる!!」


 ダッと食堂に向かって走りだし、食堂を駆け抜けて調理場に顔を出す。いつものように昼食の準備をしている世話人を見つけた。


「せわびと!」

「ん?セラ、どうしたんだ?またおぶってほしいのか?」


 料理を見るのも面白いけれど、今はそれどころではない。


「えっと、オープルがね、ハシゴ…おりれなくて、たいへん!」

「ハシゴ?…ちょっと待て、すぐ行く」

「こっち!!」


 オープルの元へ案内するために走って食堂を出る。


 食堂を出るまでは僕の後ろに走って着いてきた世話人だったが、食堂を出たらすぐさま僕を追い越してアッポの木の方へ走っていってしまった。


 やる気満々で案内しようとしていたのに、追い越された挙句に逆に置いていかれて思わず唖然としてしまったが、冷静になってみるとパッと見で人集りができているのに気が付いた。


 案内などなくてもどこで問題が起きているかは一目瞭然だったようだ。


 気を取り直して小走りでみんなのもとに戻った時には既にオープルは救出されており、地面に座りこんでミルカに抱きしめられていた。


「セラ、よく知らせてくれたな。お手柄だ」


 世話人には置いていかれたのでちょっと釈然としない気分だったけれど、頭を優しく撫でてもらえたのでまあ許してあげよう。


「せわびとも、おてがら。ありがと」

「俺もお手柄か」


 世話人はふっと笑うと、僕の頭をさっきより少し乱暴にくしゃくしゃっとしてから食堂に戻っていった。


 ふむ?なんか最近世話人がよく笑うようになった気がする。

 夜みんなに話してみたけど誰も賛同してくれなかった。なぜだ…


 その日の夕食には今日収穫したばかりのアッポがデザートに並んだ。

 夕食を急いで食べるのは昨日までと同じだが、今日はビグルミがでた初日と違い、ちゃんと全部飲み込んでから席を立って列に並んだ。


「ちょうだい!」

「…ちゃんと食べ終わってから来たんだな。はい、どうぞ」

「わぁ〜」


 アッポを皮がついたままリンゴのように切られたものが2かけと、ビグルミを2枚のせてもらえた!やった!!


 どっちから食べようか一瞬迷ったが、ここは今日採れたてのアッポから頂くとしよう。味が気になる!!

 まず匂いは…梨っぽい?これは皮ごと食べるのかな…あ、みんな皮ごと食べてるね。


 よし、僕も…シャクリ…!!


 …わぁ!!


 梨のような瑞々しい優しい甘さと、シャキシャキした食感!!梨のようなというより、これ梨だ!!おいしい!!


 …梨の木ってりんごの木とは違う木だよね?りんごと梨って色は違うけど形は一緒だし…


 そういえば梨の木って見た事ないかも。知らないだけで赤い実もついてるんだろうか?


 …あ、考えながら食べてたらアッポ食べ終わっちゃってた!!最悪だ…


 その後のビグルミももっちもっちと甘さと食感を噛み締めていたら気付いた時には食べ終わってたし、至福の時間はどうしてこうもすぐ終わってしまうのか。


 しょんぼりとした気持ちでさっきまでデザートが乗っていたお盆を眺めていると、パンパンと手をたたく音が聞こえてきた。


 …初日に引き続き、今日もまたみんなしてしょんぼりしていたらしい。


 ビグルミはどうか知らないけど、アッポは明日もある。というより明日からが本番だ。よし!お盆を返しにいこう。

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