この狂った世界で
※主人公視点になります。
こないだは酷い目にあった。
いやまぁ、自業自得ではあるんだけどさ…
…まだ子どものジュリに、なんであんな事をしてしまったのか。
いくらジュリから誘惑してきていたとしても、大人としての意識がある僕は断固として断らなければいけなかったんだ。
それなのに…なんで僕は…流されてあんな事を…
あの日は目が覚めてから一晩中、反省と後悔の念に苛まれた。
ジュリも流石にやり過ぎたと思ったのだろう。その日の夜は軽く口を潤す程度の、他の女の子達がしているような軽いキスで許してくれた。
次の日も僕は引き続き反省と後悔で悩み落ち込みまくっていたんだけど…
ジュリが反省して大人しくしていたのは1日だけだった。
その夜から当たり前のように再開された激しいキスとくすぐり責めにより強制的に意識を刈り取られる日々を送っているおかげで、幸か不幸か、僕は寝不足に悩まずに済んでいる。
とはいえ次のお勉強の日が近付くにつれて憂鬱な気分はどんどんと募っていき…
…お勉強当日。
僕は今、胃のあたりのどんよりとした地味な痛みに顔を顰めている。
…嫌だなぁ。
…ジュリが相手なら命の危険があり、世話人が相手だと貞操の危険がある。
DEAD or DIE
どちらであっても肉体の死か、精神の死が待っている。
肉体年齢僅か5才にして、こんなにも胃痛に悩まされるなんて思ってもみなかった。
だが実の所、近付いてくる死を回避するためにどうすればいいのか、その策は既に考え付いている。
僕は…
…
……
………
「…ダメだ」
「…なんでー?」
「悲しそうな顔をしてもダメだぞ」
「そうよ…セラ…私のこと…嫌い…??」
うぅ…いい考えだと思ったのにな…
僕が相手にと考えたのはジュリでも世話人でもなくて、ミルカだ。
ジュリと同い年の少女で、赤毛でちょっと目付きが鋭く勝気な雰囲気はあるけれど、実はとっても面倒見が良くて優しい子。
あの子が相手なら暴走の懸念も貞操の危機に怯えることもあるまい。
…と思ったんだけど。
世話人には却下されてしまったし、ジュリに至ってはもう泣き出しそうだ…
あ…目に涙が溜まってる…
でもジュリは自業自得でしょ…泣くなんてズル過ぎるよ…
「あのなセラ。前にも言ったことだが、クルカラもオープルも1人でお勉強を受けてる。お客様のお相手をする時は1人でしなきゃいけないんだ。本当はジュリがここにいる事が特別な事なんだ。わかるな?」
「…わかる…」
…できれば分からないふりをして知らぬ存ぜぬで通したい。だが、ちゃんとお勉強を受けて仕事が出来るアピールをしないと、これもまた命の危険性があるのだ。追い出されて連れていかれた先でどんな非道な実験をされるか分からないから…
「それにジュリがお勉強に付いてくるのはあと何回かだけだ」
「ぐすっ…え?ちょ、ちょっと待って!?」
「ジュリ、この前のことを忘れた訳では無いだろう。それにお前はセラに対して過保護過ぎだ。お前が居なくなった時にセラがちゃんとやって行ける様にしなくてはならないんだぞ?あと半年も居ないっていうのに…」
「そんな、そんなこと今言わなくても…少しでも長くセラと一緒にいたいのよ…」
ジュリはあと半年も居ないのか…?そういえば13才からは大人専門の娼館に移動になるって言っていたかもしれない。ジュリが居なくなるのは…寂しいな…
それに心配でもある。向かう先は本当に大人専門の娼館なのか? 向かう先が何かの実験施設じゃないとは言いきれない。
「お前が付きっきりであることが、セラの為にならないとわかっていてもか?」
「…そんなことないわ…」
僕の為にならないのは…残念ながら本当の事だ。
世話人が言う「セラの為にならない」と、僕が言う「僕の為にならない」は全然意味合いが違うけれど。
昨日の夜だって、今までだって。
朝のキスに始まり、トイレの後に拭く紙がないこの場所ではアソコやおしりを舐めたり舐められたり。まだ10才前後の少女達が当たり前のように男性客の『お相手』なるものをしていたり。夜はジュリから気絶するまでキスとくすぐり責めをされたり…
歪んだ常識を教えられて育ってきた少女達が性的に搾取され続けているのを、僕は倫理的におかしい事だと知りながら黙って見ているしかない。
…少なくとも逃げ出す方法が確立するまでは。
そして僕は記憶を失っていない事がバレない様に、その狂った輪の中で同じ様に生活していかなくちゃいけない。ジュリや周りの女の子達の狂った常識にどんどんと毒されて、これを当たり前のように受け入れ始めてしまっている自分がいる。
これは…とても危険な事だ。
ここが日本の中なのか、海外なのか。それすら今は分からないけれど…ここから脱出して家に無事に帰れたとして、ここで慣れ染み付いた何らかの習慣が日本でもし出てしまったら、1発でアウトだ。社会的にも法的にもおしまいだ。
色々な意味で危険すぎる。
「いいや。わかっているはずだ。このまま、1人でまともにお客様のお相手ができない状態になったらどうなる?セラはここでの暮らしを失うことになるんだぞ」
「そんなこと…」
「無いとは言えないだろう。セラの今後の人生が決まる大事なことだ。わかってくれ」
僕の今後の人生が決まる。この狂った世界で働いていけるようにならなくちゃいけない。
できないなら…
…僕は家に、恵麻とひかりちゃんの待つ家に絶対に帰るんだ。
どんな事をしてでも。
何があっても。
…ナニはないけど。
僕は覚悟を決めることにした。
「…せわびと、ジュリ」
「セラ…蚊帳の外にして悪かったな。なんだ?」
「…セラ…私…」
「セラ、おべんきょうがんばる。せわびとおしえて」
「セラ。わかってくれたか…」
「………」
そう宣言すると世話人は見るからに安堵していた。普段は絶対に見せない様な、とても優しい顔で。
この表情だけ見ていると、とても僕の貞操を狙う変態だとは思えないな…
反対にジュリは、目を見開いて唖然としていた。
つーっと涙が頬をつたい落ちていく。
…ごめんジュリ。
でも僕は生きなきゃいけないんだ。生きて帰る。そのために間違っても、夢中になってたら死んじゃいました!てへぺろ♪みたいな事になる恐れが非常に高いジュリにこの身を預けることはできない。
…とはいっても世話人にこの身を完全に預けるのは正直いって怖すぎる。ジュリには悪いが、世話人に対するちょっとした防波堤になってもらおう…
「…ジュリ、セラが、せわびとにいじめられたら、たすけて?」
「「!!??」」
ハッとしたように驚いた表情をする2人。
「なっ!?セラ、俺は絶対に虐めたりなんかしない。安心してくれ」
「信用できないわ!!セラ、私が絶対に、ぜーったいに守ってあげる!!…世話人!!セラに酷いことしたら許さないから!!絶対!!!」
…ジュリ、世話人を睨む目が怖いよ…僕はジュリのワンピースの裾をちょいちょいと引っ張って言う。
「ジュリ…こわい…」
「セラが怖がってる…世話人!!やっぱり貴方はセラのお勉強に相応しくないわ!!私が代わりにやる!!」
「…セラが怖がったのは…ジュリのことだと思うが?」
「なんですって!?」
あぁ…どうやら火に油を注いでしまったようだ…




