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神様が僕に遣わしてくれた天使

「∃℃e*…◇o%×w∧?」


 優しい声とともに僕の顔を覗き込んできたのは、12才くらいの少女。

 背中まですらっと伸びた金髪、緑の瞳、まつ毛も長くて、リアルなCGの映画やゲームに出てきそうな美少女だ。


 寝る前に聞いた声と同じ声…部屋に入ってきたほうの女の子だろうか?


 控えめに言って、とても美人だと思う。

 まだ子どものはずなのに、なんだかとても大人びた雰囲気をしている。


「…◇o%×w∧?」


 心配そうに何かを話しかけてきてくれているが、さっぱり分からない。

 それでも何か話さなきゃと思って声を出そうとしたけれど、声が掠れて音にならなかった。


 そうだ、夜から喉がカラカラだったんだ…


 水がほしいとジェスチャーしようと思ったが、腕が痛くて重くて上げることができなかった。


 力なく口をパクつかせて息をもらす僕を見て、金髪の少女は僕が何か喋っていると思ったようで耳を口元まで近づけてきてくれたが、うまく声が出せない。


「…み………ず……」


 1文字ずつ、力を振り絞ってようやく言葉にすることができた。


 たった2文字を口にしただけなのに、その時にはもう疲れきってしまって息を吸うたびにヒューヒューという音が鳴る。


 身体に力を入れることは出来ても、腕すら上げられない。


 …もしかして、僕は死ぬ直前なのだろうか。


 そんな不安が脳裏によぎる。

 嫌だ、死にたくない。やっと、やっと恵麻と結ばれたんだ…まだ死ねない!!


「み、ず…?」

「み、ず??」


 心の中で悲痛な叫びをあげている僕とは裏腹に。


 目の前の5才くらいの少女と12才くらいの少女はきょとんとした顔でお互いを見ながら可愛らしく小首をかしげている。


 そりゃそうか。


 言葉が違うのに、日本語で話しかけても伝わるわけがなかった。


 途方に暮れる僕と、困ったような顔の少女たち。

 12才くらいの少女が5才くらいの子に何かを言うと、ふいにまた、12才くらいの少女が心配そうな表情で顔を近づけてきた。


 …早く帰らないと。恵麻の娘で、僕の娘になったひかりちゃんだって、家で僕らの帰りを待ってる。


 事故のあと僕はこんな状態になってしまっているが、恵麻はきっと大丈夫だ。

 バイクがあのままぶつかったとしても、恵麻は車線からしっかり外れていたはず。


 咄嗟に全力で突き飛ばしてしまったけど、きっと尻もちをついたくらいだろう…かわいいおしりに青アザができてしまっていたらどうしよう。


 なんてどうしようもないことを考えて現実逃避をしていると、顔を近づけてきていた少女と唇が重なった。



 !!!???



 あまりに驚いてとっさに突き飛ばそうとしたが、幸か不幸か、身体は痛みと重さでピクリとしか動いてくれなかった。


 驚きと痛みに身悶えしている僕を知ってか知らずか、少女はさらに口の中に舌まで入れてきて、僕の舌に絡めてくる。


 意味がわからない。

 僕はもうパニックだった。


 なぜキスを?相手は外人の12才くらいの少女で、しかもただのキスじゃない。ディープなほうだ。


 あれか?わいせつな行為をされたって慰謝料をふんだくろうとしてるのか!?

 こんな満身創痍な僕に?


 …いや。もしかしたらこの子は、もう治る見込みがないからと、神様が僕に最後のご褒美として遣わしてくれた天使なのかもしれない。


 されるがままに少女の舌を受け入れているが…この子、キスがすごく上手い。


 娘のひかりちゃんと同い年くらい…だよね?僕はひかりちゃんがこんなキスの上手い子だったら、ショックで寝込んでしまうよ…


 などと思いながらも、ひかりちゃんとは違う魅力たっぷりの美少女に舌を絡められて興奮しないはずもなく、耳と頬が熱くてたまらない。いい歳をして、恥ずかしい事に耳も頬も真っ赤になっているのを感じる…のだが、僕の股間は反応する気配がない…


 ピクリとも反応がないかわりに、股間から下腹部にかけてじくじくとした深く重い痛みが広がるだけだ…



 …ああ、神様…お亡くなりになったのは、僕ではなくて息子のほうだったのですね…



 などと心の涙を流しつつ、5分くらい続く長い長いディープなキスを受け入れていて気がついた。


 喉が潤ってる…もしかして唾液のおかげ?そのためにキスを?


 …水でよくない?


 一瞬冷静に考えてしまったが、おはようのキスで喉まで潤う。素晴らしいじゃないかと考え直した。


 …いややっぱり良くないだろう…恋人ならともかくとして、相手は20才以上年下の、自分の娘であるひかりちゃんと同い年くらいの少女だぞ!?


「…◇o%×w∧?」


 おもむろに唇を離した少女が心配そうに声をかけてきてくれているが、喉が潤っても言葉がわかるわけではない。それでも、まずはお礼を言うべきだろう。


「…あ、ありが…と???」


 本当はありがとうございますと言いたかったが、言いかけて僕は首を傾げてしまった。


 キスをしてくれた少女も僕につられるように首を傾げている。


「…え?…あ…え?」


 僕の声がおかしいのだ。


 最初は声が掠れただけかと思った。でも、違う…女の子みたいな細くて高い…もしかして事故で喉まで潰れたのか??


 いや、喉が潰れたならそれこそ掠れて、こんなにしっかりとした音なんてでないはずだ。


 声がおかしくて、体も痛いし怠いし重い。部屋も臭い。そして金髪の美少女にディープなキスをされるというこの状況が全く理解できない。


 混乱している僕を見て金髪の美少女はつらそうな顔をした。

 そして寝たままの僕の頭を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれる。


「…◇o%×w∧…◇o%×w∧ …◇o%×w∧…」


 なんて言ってるんだろう。わからないけれど、声色がとても優しくて安心する。なんだかとても眠いや…


 そのまま僕はまた、深い眠りに落ちていった。

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