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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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ちまたで有名

※主人公視点となります。

『セラのお勉強とお客様編』スタートです。

 暑い夏のピークを過ぎ、季節は秋へと移り変わろうとしていた。


 いつもと変わらない目覚め。

 いつもと変わらないキス。変わらない朝食。


 そんないつも通りの朝食の後、いつもと違う出来事があった。


 世話人にジュリだけ残るように言われ、僕たちは庭に追い出されたのだ。


 食事の後に食堂に呼び止められるのは、毎回その日にお客様のお相手とやらをする子だけだった。しかも客の相手は昼食か夕食の後にしか無かったのだ。


 それが…今日は何故か朝食の後の呼び出しである。

 これは何か…イベントの予感…!!


 先に庭に出た少女たちもかなり気になっているようで、みんなの話の話題はジュリが呼ばれたことでもちきりだった。


 ただ呼ばれただけだろ、と思う人もいるかもしれない。

 別に騒ぐことでもないだろうと。


 ここに拉致されてくる前の僕ならそう思ったことだろう。



 ただ、ここではそうじゃないんだ。

 なにせ、ここには何もないから。



 思い返してみてもビックリするくらい何もない。



 起きて、食べて、狭くはないが広くもない庭の中で時間を潰し、寝る。変化があるのは天気ぐらいだ。


 …あまりにも何も無さすぎて、ちょっと普段見かけない虫がいただけで大騒ぎになるくらいだ。


 みんな娯楽に飢えていた。僕も娯楽に飢えていた。


 僕は普段からテレビなんて見ないし、アニメも漫画も自分からはあまり見ない。オススメされたら見るくらいだ。スマホにもあまり依存はしてなかったと思う。

 SNSだってリアルの知り合いの近況報告が上がってないかチラ見するくらいだった。


 娯楽といえば、ちまたで有名になってるなろう系作品の小説をたまに読むくらいだろうか。


 それでも普通に仕事をして人と関わっていれば自然とニュースの話題や様々な情報は耳に入ってきていたし、毎日当たり障りの無い「暇な人生」を過しているような気になっていた。



 それがどうだろうか。



 今現在、この圧倒的に何の変化も新しい情報も何ひとつ入ってこない高い壁に囲まれた暮らしをすること約半年。


 たった半年ほどの間に、僕は今まで現代社会の文明の利器による恩恵がどれほど素晴らしかったのかを身をもって体験させられた。


 情報社会に慣れすぎていたことを嫌でも認識させられた。


 毎日あまりにも何も無く、あまりに暇すぎて気が狂いそうだ。


 そのせいだろう。ただいつもと違う時間に1人だけ声がかかっただけで、周りの少女たちの話の盛り上がりっぷりがハンパではなかった。


 もちろん僕も少しワクワクしているとも。


 たとえ彼女達の言葉が半分ほどしか理解できず、話の内容がしっかりとはわからなくても、変化があるというのはそれだけで楽しい気分にさせてくれるものなのだ。


 …こんな生活を、この子達は僕よりもずっと長くしているんだ。


 生まれた時からこの変化のない日々しか知らなければ、そもそも不満に思うことすらないのかもしれない。


 そんな取り留めのないことを考えていると、ジュリが帰ってきた。笑っているけれど少し困ったような、落ち込んでいるような雰囲気で。


 何があったのかと問うみんなの声に「ちょっとね」と苦笑いを返し、ジュリは真っすぐに僕の所までやってきて話しかけてくる。


「あのね、セラ…その、えっと…」


 いつもはっきりしていて明るいジュリにしては珍しく歯切れが悪い。どうしたんだろう。

 ミルカもいつもと違うジュリの様子が気になったみたいで心配そうにしている。


「ジュリ、顔色が悪いわ。何があったの?」

「ミルカ…えっと、心配かけてごめんなさい。特に何かあったわけじゃないの。セラのこれからのことよ。…いつかはこうゆう日が来るって覚悟してたつもりだったんだけど…ちょっと、動揺してしまって…」


 僕のこと?いつかはこうゆう日が来る?…なんだか不穏な言葉と雰囲気に及び腰になってしまった僕に、ジュリは不安が滲み出ている声色でこう告げた。


「あのね、セラ。あなたはこれからお勉強にいかなくちゃいけないの。でも慣れるまでは不安だと思うし、私もお手伝いとして一緒にいくから」

「…おべんきょう?」


 お勉強。…お勉強??どうやら何かを学びに行くらしいことはわかった。わかったが…どうしてこんなにも不安そうなんだろう…勉強の出来不出来でご飯が減らされるとか、何らかの罰があったりするんだろうか。


 とりあえず勉強ができなくて僕だけが怒られずにすむように、肉体年齢的には同い年らしいクルカラやオープルも連れて行けないかな…


「…みんな、いっしょ?」

「えっと…いいえ、私とセラだけよ。でも大丈夫、クルカラもオープルも前に同じお勉強をしているし、私もここに来た時には同じようにお勉強を受けたの。セラには私もついて行くし、わからないところは私も教えてあげる。だから大丈夫、なにも怖くないわ…」


 そう言いながらジュリは優しく僕を抱きしめてくれる。


 べつに勉強くらい全然恐くないんだけど…こんなに不安そうにしているジュリを見てしまったせいで逆に不安になってきてしまった…


 なんだろう…ジュリは計算や読み書きとかが震えるほど苦手なんだろうか…


 周りで話を聞いていたミルカやクルカラ、ほかの少女たちも不安そうな、というかジュリの様子に戸惑っているのか、どこか複雑そうな面持ちをしている。


 よく分からないが、一応僕は大学まで出ているし…言葉が半分くらいわからなくてもまぁなんとかなるだろう。むしろ学べると言うなら大歓迎だ。


 僕はジュリの背中をぽんぽんしながら、「がんばる」と宣言しておいた。ジュリがあまりに不安そうにしてるからね。


 そうして向かったのは、食堂に向かうのとは違う扉。今まで入ろうとするたびに困ったようにやんわりとダメよと禁止されてきた扉だ。


 僕たちが普段遊んで過ごしている庭から確認できる扉は4つあって、そのうちの2つは食堂とトイレ。残りの2つははっきりと入ってはいけないと言われた扉と、今目の前にある、やんわりとダメよと言われてきた扉。今日ようやく、禁止の扉のひとつが解放され、次のステージへと物語が進行した、いや、これから進行するわけだ。



 さて、鬼が出るか蛇が出るか…



 少しの警戒心と、新しい場所にいけるワクワクで緊張しながら待つ僕をジュリがチラリと確認し、扉を開ける。



 扉の先は、すぐに真っ暗な下り階段になっていた。


 湿った風に乗って少し酸っぱい嫌な臭いが流れてきて、思わず顔を少し顰めてしまう。


「セラ、怖かったら私にくっついてていいからね」


 ジュリはそう言ってくれたけれど、臭かっただけでそこまで怖いわけじゃない。でもこうゆう時にジュリを無視すると大抵の場合、夜寝る前にそれはもう酷い目に遭わされるのだ。


 僕は仕方なくジュリのお腹あたりに手を回して軽くくっついておく事にした。


 ジュリは壁際に置いてあったランプにマッチで明かりをつけると、僕を腰にくっつけたまま器用に階段を降りて進んでいく。

 外のほのぼのキャッキャした明るい世界から、ジメッとした暗闇の地下世界へ。

 なんだか恐ろしい場所に連れていかれているような、なんとも言えない不安が込み上げてくるせいだろう。気付くと僕はジュリの服をギュッと握りしめていた。


 うーん。ジュリも何も言わず硬い表情で階段を降りているし、僕も無意味に緊張している気がする。階段を下る度に足が僅かに強張ってしまっている気がする。


 …いや待てよ?


 そもそも身体が小さくなってから階段を上り下りするのって、もしかして初めてなんじゃないか?世話人に背負われながら階段の上り下りを経験した事はあったけど…そうだ。この身体になってから初めての階段だ!そう気付くと、さっきまでの謎の緊張が一気にほぐれた気がした。


 慣れていないのにしがみついた変な体勢で階段を降りていれば、そりゃあ身体も強張るだろう。


「ジュリ、て、つなぐ」

「そう?でも手をつないで歩くにはちょっと狭いと思うけど…」

「う…ほんとだ…」


 子どもが2人くっついているから問題なく降りられるけど、離れて手を繋いで進むには狭すぎたようだ…ジュリから離れたら軽く壁にぶつかってしまった…


「あとちょっとだから。ね?」


 仕方がないので抱きついたまま下まで降りて扉を開けると、そこは何もない広い空間になっていた。暗くてよく見えないけど、僕たちが寝泊まりしている小屋と同じくらいの広さだろうか?結構広い。


 何もない部屋を進んで奥にあるもう1つの扉を開けると、ロウソクの光とは違うオレンジ色っぽい光が漏れ出てくる。


 中は…大きめのベット、ソファ、机と椅子…


 こう言っては失礼かもしれないが…安いラブホテルみたいな雰囲気をしている部屋だった…

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