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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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感情のない瞳

※ジュリ視点になります

 セラはその夜、夜泣きをしなかった。


 もしかして神様に願いが届いてセラを治してくれたのかと思ったけれど、日が昇ってからはまたいつもの様に泣き叫んで起きたから、治ったわけじゃなかったみたい。


 それでも。


 神様が今夜だけはと、セラに安らかな眠りを与えてくれたのかもしれない。

 神様、ありがとうございます。



 それから、セラの夜泣きの回数がどんどん減っていった。

 最初のうちは日中に6回、夜は10回以上泣いて起きていたのが、だんだんと日中に2回、夜中に3回くらいまで減り、さらにその数日後には夜泣きをしない日さえあった。


 夜も含めて1日中夜泣きをしなかった日はあまりに嬉しくって、世話人に思わず報告してしまった。嬉しさが溢れてしまったせいか、笑顔で話してしまい世話人に若干引かれたけれど…世話人も報告を聞いたらいつもの仏頂面を珍しく崩して嬉しそうな表情になっていたから、たぶんすごく嬉しかったんだと思う。



「1日に1回しか叫ばないなら地下室じゃなくてもいいだろう、との事だ。よかったな。」


 夕食の時にそう言われて一瞬なんの事かわからなかったけれど、セラをみんなのいる部屋で寝かせていいんだと気付いてみんなで手をたたいて喜びあった。


 はしゃぎすぎて世話人にみんなで怒られた。世話人だって嬉しいくせに…


 一応その日の夜は地下室で最後の夜を過ごしたけど、今までの苦しい日々が報われたような、なんだか寂しいような、ちょっと不思議な気持ちを噛み締めて過ごした。


 セラはその日はしっかり夜泣きをした。

 もうわんわん泣いていた。


 あやしながら、少し前までの疲れて頭がおかしくなりそうだった頃の自分を思い出して苦笑いが出てきた。


 大好きなのに。息を止めてしまおうかと考えるなんて。一緒に死ぬ事を本気で考えて悩むなんて…本当にどうかしてた。

 追い詰められると人が変わるって話は聞いた事があったけれど、自分がそうなるなんて想像もしてなかった。


 でもそんな生活とももうお別れなんだ。名残惜しいような、もう二度と経験したくないような…とっても変な気持ち。


 いつの間にか静かな寝息をたて始めたセラの涙と鼻水を吸って綺麗にしてあげて…名残惜しい気持ちがちょっと強くなった。



 次の日からみんなのいる部屋にセラと移り、また前みたいにみんなでセラの面倒を見る生活に戻った。


 その数日後、食事中に「最近セラほとんど泣かなくなったね」と誰かが言った事からみんなでセラの可愛さを語って盛り上がった食事を終えて部屋に戻ると、セラが激しくもがいていた。


「セラ!!大丈夫…大丈夫よ…」


 私は慌てて持ってきていたスープを後ろの子に押し付けるように渡し、セラに駆け寄って抱きしめる。


 叫び声が聞こえずに静かだったから完全に油断していた。

 今までは必ず叫び声をあげていたから、すぐに飛んでくることが出来た。

 今は叫び声が聞こえないから、セラは安静にしているんだと思い込んでた。


 でも、本来ならむしろ悪夢に魘されて叫びながら起きるほうが珍しいんじゃないだろうか。

 私も悪夢を見て飛び起きることはあっても、声を上げて起きることはほとんどなかった気がする。


「もう大丈夫…大丈夫…そばにいるからね…1人にしてごめんね…こわかったね…セラ、大丈夫。大丈夫だからね…」


 もしかしたら今まで気付かなかっただけで、みんなが離れている時にもこうゆうことがあったのかもしれない。1人で苦しんでいたのかもしれない。そう思うと胸が締めつけられて苦しくなる。


 本当にごめんね…セラ…


「…ジュリ」


 自責の念に囚われながらセラを抱きしめてあやしていると、ふいに私の胸元から、ひどく懐かしい小さい声が聞こえてきた気がした。


 …気のせい?でも、確かに聞こえた気がした。


 …もしかしたらと抱きしめていたセラの顔を胸元からそっと離して覗き込んだ。


 セラが顔を上げて私の顔を見た。


 不安そうな顔で、私の目を覗き込んでいた。


 今までなんの返事もなく、ただボーっと眺めているだけだった感情のない瞳が、私を見つめている。それに気づいた瞬間、私は息をすることが出来なくなった。


 息ができない苦しさにやっと我に返り「…セラ?」と呼びかけてみる。


 …セラは何も答えない。でも、確かに私を見て不安そうな顔をしている。


「…セラ、わかる?私がわかる?」


 もう一度呼びかける。もしかしたらさっきのは幻聴だったのかもしれない。幻聴だったとしてもいいんだ。セラは今ちゃんと私を見ていて、確実に良くなっていってるってわかったから。


 だから返事は期待していなかった。


 それなのに。


 セラは頭をこてんと傾けて、「…ジュリ??」と可愛くお返事した。


 …かわいい…お返事した…セラが…私のセラが…


 私は今度こそ本当に息ができなくなった。

 セラが夜泣きするようになった頃から今までの事が一気に思い返されて、涙が溢れてとまらなくなった。


 よかった。


 一時は本当に…今度こそ本当にセラが連れて行かれてしまうんじゃないかと。どうしようもないんじゃないかと思っていたから。


 私がわんわん泣きながらセラを抱きしめていると、みんなも私とセラに抱きついてきた。

 みんな嬉しいんだ。私も嬉しい。もしかしたら月にいる神様が願いを叶えてくれたのかもしれない。

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