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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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ハムハムするのもダメよ?

※ジュリ視点になります

※この話から暗い話はおしまいになります

※ヤンデレ的な表現があります(ヤンデレの注意書き必要かな…次回からは書かない方針で…)

 セラに付きっきりで一緒に過ごしていて、わかってきたことがある。


 セラが泣き出す前には必ず、少しの間苦しそうにもがいていること。

 そして1度泣き出して落ち着いたあとは、しばらく泣き出すことはないこと。

 たまにセラはたまに目を開けたまま、反応はないが寝ていない時間があること。

 その時には泣き出したことはないこと。


 …トイレの処理をする時だけロウソクをつけているのだけど、その時にセラが目を開けていて驚いたのだ。話しかけたりしてもこちらを見てくれないし、本当に起きているのかはわからないけど。


 地下室には常にセラを除いて3人以上いることにしている。だから、セラが苦しみだしたら誰かがセラを抱きしめてあげて、1人は地下室の扉を閉め、もう1人は外に繋がる扉を閉めに走ればいいんじゃないかということだ。


 早速食事を取りに言ったときに世話人に相談し、そう言うことなら試してみるといいと許可をもらった。ただ、お客様がいる時と寝る時はダメだと釘を刺されたが、私もそれでもいいと思った。


 そうして日中に扉を開けっぱなしにする事になり。


 セラが泣き止んだ後や、セラがボーッと起きている時は少しの間だけ外に連れていってもいいという許可ももらった。


 扉を開けたことで暗い地下室でもうっすらセラの顔がみえるようになる。


 セラは…今は起きているようだ。少し目を開けてぼーっとしていた。


 この状態なら外に連れ出しても大丈夫だろう。早速外に背負って連れていく。

 今日は天気がいいし、せっかくなら外でご飯を食べさせてあげたい。


 …外は風が気持ちいい。


 陽の光がさんさんと降り注いでいて、久しぶりに外に出たセラにはちょっと眩しすぎるかもしれない。


 木陰にセラを寄りかからせるとクルカラがスープを運んできてくれた。隣に座り、一緒にスープを飲ませる手伝いをしてくれる。


「セラのひだりのほっぺ…あかくはれてる…」


 クルカラが非難げに私を見てくる。


 …私はそっと目を逸らした。


 セラ、はいあーん。


 スプーンで口の中にドロっとしたスープを少し入れると、ゴクンと飲んでくれる。かわいい。


「あ、痛そう…ジュリ、暗くてバレないからって噛んじゃだめって言ってるじゃない…ちょっと切れてるし…」


 ミルカまでそんなことを言う。


 …私のせいじゃないもん…


 私がいつもセラの左側を陣取っているからか、濡れ衣を着せられているのだろう。


「…ジュリ?自分に関係ないって顔してるけどダメだからね?改めて見たらジュリも唇ボロボロじゃない…もう…世話人からクリーム貰ってくるわ」


 反論する暇もなくミルカが走っていってしまった。


 …私じゃないもん…



 戻って来たミルカがセラのほっぺと私の唇にクスリを塗り、少しのあいだセラと草むらで日向ぼっこをした。


 吹きぬける風と草の匂いが鼻をくすぐる。いつものようにセラと寝転がっているだけなのに、地下室と外ではこんなに違うんだ。ポカポカ陽気も心地いい。


 うとうとしながらセラの可愛らしいほっぺにキスをした。クスリのおかげでいつもよりモチモチしていてハムハムしがいがある。ちょっと苦いけど。


「あー!!ジュリがまたほっぺにチューしてるー!!」

「…ジュリ?さっき注意したばっかりよね?噛まないのはいい事だけど、ハムハムするのもダメよ?…いつまで咥えてるの、いい加減やめなさい!」


 …クルカラに見つかり、ミルカにニコニコしながら怒られた。

 セラのほっぺが私の唇にくっついてくるのよ。私のせいじゃないわ。


 それにしても笑顔で怒るなんてミルカはとても器用な子だ…あむあむほっぺおいしい。



 その日から日中は地下室が少し明るくなり、セラと一緒に外に出て過ごす時間が増えていった。


 そのおかげだろうか。


 だんだん心の中のトゲトゲした気持ちやモヤモヤも、少しずつだけれどスッキリしていくのを感じた。


 セラもぼんやりと一点を見ていただけだったのが、だんだん視線を、そして顔の向きも自分で少しずつだけど動かすようになっていった。



「今日は三ヶ月(みかづき)の日だ。夜は外も騒がしいだろうからセラも連れてくるといい」


 ある朝、朝食をとりにいくと世話人にそう声をかけられた。


三ヶ月(みかづき)の日』


 もうそんな時期だったんだ。


 1年に1度、夜空に浮かぶ3つの月が横一列に綺麗に並ぶ日。


 1番大きい銀色の月が「神の月」。いろんな神様が住んでいると言われている。

 1番小さな紫色の月が「魔の月」。魔物の王様が住んでいると言われている。

 神の月と魔の月の真ん中くらいの大きさの黄色の月が「人の月」。昔は人の月は無くて、月は2つだったらしい。

 人の世が栄えてしばらく経ったある時、神様が神と魔の月があるのに人の月がなくて可哀想だと作ってくれたんだそうだ。


 そのお礼に人は大きなお祭りを催して神を招待した。

 これから月を持つもの同士、仲良くしようと魔物の王も招待した。

 そして夜、神と人と魔物のそれぞれの代表が横一列に並んでお酒を呑み交わす。


 それを合図に一夜限りの祭りが開催された。


 普段仲の悪い神と魔物も。普段は敵対関係にある人と魔物も。その夜ばかりはみんな一緒にお祭りを楽しんだという。そして、これからも年に1晩くらいは仲良くしようと約束をした。


 それが三ヶ月(みかづき)の日。


 だから三ヶ月(みかづき)の日はどこの街や村でもお祭りをしているらしい。

 この日ばかりは仲の悪い者同士でもお酒を呑み交わし、仲良くしようという歌があちこちで流れて、それに合わせるようにみんなで騒いでお酒をたくさん飲むそうだ。


 この日ばかりはみんなお仕事がお休みになるらしい。

 私たちの小鹿亭でもお仕事はおやすみだ。


 そして次の日からしばらくの間、来るお客様たちの会話が三ヶ月(みかづき)の日の話題ばかりになる。

 今年はどんなイベントがあった、こんな旅芸人がいた、新しい詩を唄う詩人がいたなど、いつも面白いお話が多いから毎年楽しみにしているのだ。今年はどんなお話が聞けるんだろう。



 子どもの私たちはお祭りには参加できないけれど、孤児院にいた時からこの日だけは夜を外で過ごして、お祭りで賑やかな街の音を聞きながら、いつもと違う雰囲気に心をウキウキさせてみんな外で眠るのだ。


 三ヶ月(みかづき)の日は必ず晴れる。


 何故なのかはわからないけど、私はお客様が言っていた「この日は人の事が好きな神様がお祭りを見て楽しむために必ず晴れにしてくれるんだ」というお話が好きだ。そしてその神様は、三ヶ月の日に月に向かってお願いごとをすると、願いを少しだけ叶えてくれるという。


 お客様から聞いたそんな話を小鹿亭のみんなにも話してからは、みんなお話を気に入ったみたいで寝る前にお月様を見上げてお願い事をするようになった。


 夜ご飯も食べて、トイレも済ませて。

 風に乗って街の賑やかな喧騒と楽器の音が聞こえてくる。私達もみんなで歌ったり踊ったりして夜が深まるまで楽しく過ごした。


 こんなに楽しいのはいつぶりだろう。


 セラが泣いて起きるようになってからは、1度も笑えてなかった気がする。

 セラもいつもと違うこの夜を楽しんでくれているかな。楽しんでくれているといいな。


 夜が深まり月が真上に昇った頃に、みんな揃って寝っ転がって夜空を見上げる。私の隣にはセラがいて、ボーっと夜空を見上げている。

 銀の月も、黄色の月も綺麗だ。前まで紫色の魔の月はちょっと怖いと思っていたのだけれど、セラの珍しい紫の髪と瞳の色に似ているからか、今年はとても綺麗に思える。


 私の願いごとは毎年「ジンムカ様が早く迎えにきてくれますように」だったけど、今年は違う。ううん、もちろんそれもお願いするけど、その前に。



 セラの手を取り、神様が見ているという銀色のお月様に向かって願いを口にする。



「セラが早く良くなりますように。セラとずっと一緒にいられますように」

三日月ではなく三ヶ月になっているのは誤字ではないです。

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