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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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ピッタリフィット

 絶対にこの拘束を解いてやる…!!


 そう意気込んだものの悲しいかな、座った体勢を維持するのがやっとという弱った身体では、到底勝ち目の無い戦いだった。


 少しの間必死に逃げようとする僕と、絶対に逃がすまいとするクルカラのモゾモゾとした戦いが続く。


 僕の心が折れかけたその時、その攻防に終止符を打ったのはジュリだった。


 クルカラの後ろから僕ごと2人を抱きしめ、何かを2、3言クルカラに言うと、クルカラは納得したようだ。大人しくなって僕をもう一度ぎゅっと抱きしめた後に解放してくれた。


 …もうちょっと早く助け舟を出してくれても良かったのよ?ジュリさん…


 その後はみんないそいそと自分の毛布に潜り込んでいき、この謎のイベントは終了したようだ。


 最初から最後まで何も分からないままだったな。一体なんだったんだ…


 ちなみに僕の寝る位置は、最初にここで目覚めた時と同じように部屋の真ん中に戻ったようだ。昨日までジュリの横だった気がしたんだけど…


 ジュリと寝る位置が離れたことは別に寂しくない。むしろちょうど良かったくらいだ。


 今は少し、他の子より発育の良いジュリの膨らみとは距離を取りたいから…2日連続で殺されかけたし……


 隣だったら警戒してしまって眠れなさそうだ。

 …男なら興奮して寝れないのが正解なんだろうけど、もう僕には男としてのシンボルがないからね。


 …ダメだ、思い出したら悲しくなってきた。余計なことは考えないでさっさと寝よ…


 明日からはまたみんなが見てないところで筋トレして、言葉を覚えられるように努力していこう。




 …そう、努力していこうと思っていたのだが…



 その日は何やら今までと雰囲気が違っていた。


 まず、朝ご飯の時間に男の人が呼びにきたのはいいが、彼は何故か僕を抱えて食堂へ。そして昨日みたいに彼の膝の上でジュリやクルカラに睨まれながらの食事をすませ、一旦部屋へトイレのために連れ戻される。


 …トイレの時間は下敷きになっているジュリが僕の頭を撫でまわしながら頬ずりしてくるし、クルカラも僕の胸あたりに頭をよせてお腹をいつも以上に優しく撫でまわしてくるし…


 …何やらみんなの様子がおかしい…


 よくわからないままにトイレを済ませると、また男の人が長い布を持ってきて僕を背負い、結い始めた。これは…抱っこ紐と言うやつだろうか。ずり落ちない様にピッタリフィットしている…お出かけかな?もしかして施設の外の様子が見られるかもしれない!


 少しワクワクしながら後ろを振り返ると、僕の方…正確には男の人を睨みつけているジュリとクルカラと目が合った…え?どうゆうこと?


 他の女の子たちもしょんぼりしているというか、なんだか複雑そうな顔をしている。


 …まってまって、お出かけじゃなくて、何処かに連れていかれるってこと?昨日の夜にみんながハグしてくれたのはやっぱりお別れの挨拶だったのか?


 …何かあるんだろうとは思っていたけど…そっか。お別れか。


 そうだよな。だっておかしいもんな、男が1人、こんなに大勢の女の子に囲まれて介護してもらえるなんて。異常だもん。


 寂しくないと言ったら嘘になる。正直すごく寂しい。でも、離れなきゃ。


 ここは僕の居場所じゃないんだ。



 僕は覚悟を決めて、少女たちに今までのせめてものお礼として少し笑顔を作って手をふった。


 みんな複雑そうな顔で手を振りかえしてくれた。


 …本当は満面の笑みで手を振りたかったんだ。今までありがとうって。

 本当にありがとうって思ってるし、感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ただそれ以上に、どこに連れていかれるのかが恐かった。


 僕がここにいる理由がよく分からない以上、秘密を知るものとしていつ処分されてもおかしくはない…と思う。だから僕は記憶喪失のフリをしているし…


 …もしかしたらただ単に、この施設や薬とかの研究者のところに定期検診に行くだけかもしれない。また戻ってこられるかもしれない。


 …わからないけどね。


 男の人が小屋を出ると、みんなも外に出て庭の方に行く。こちらをちらちら気にしながら。

 ジュリが男の人に何かを言ったけれど、却下されたようだ。


 …ジュリ、あんまり睨まないであげて。ジュリの後ろにクルカラも隠れて、顔だけ出して睨んできている。どうせ最後なら…最後に見るのは笑顔であって欲しい。


 でもそんな僕の願いは叶うことはなく、男の人はジュリに背を向け、僕を背中に乗せたままジュリ達から遠ざかっていく。


 クルカラが俯いた。ジュリが悲しそうな顔をしてクルカラの頭を撫でている。


 その様子を見ているうちに男の人が部屋の中に入り、2人の姿も他のみんなの姿も見えなくなった。



 …すごい呆気なかったな…心にぽっかりと穴があいたような気分だ。


 でもいつまでも振り返っていてはいけない。僕はいつかここから脱出して家に帰ろうと思っていたんだ。その目標は今でも変わっていないのだから。


 少女たちから貰った温もりに後ろ髪を引かれながらも、僕は前を向くことにした。まずは状況の把握からだ。


 周りは…ん?さっき食事をとった食堂か。

 ここから外の玄関に繋がっているらしい。


 食堂から台所へ、そのまま外へ出るのかと思いきや、男の人は僕を背負ったまま水に漬けられた食器を洗い始めた。


 …おいおい…


 食器洗ってからなら行くなら、彼女たちにお別れの挨拶くらいさせてくれてもいいじゃないか。

 彼が朝から来たから彼女たちと触れ合えたのなんてトイレの時くらいなんだよ…まぁ昨日の夜にお別れの挨拶みたいなのはやったけどさ…


 はぁ、まあいいや。


 …それにしてもこの人、洗剤使ってないような…


 気になって肩ごしに手元を覗いてみると…大きく平たい桶が2つ。1つは灰色に濁っていて食器が浸かっているが、底が見えない。


 …いやいや濁りすぎだろう。


 この桶見るからに底は深くないはずだ。水の上の方しか食器が見えてないとかどれほど濁ってるんだ?


 その濁った水の中で汚れを布で撫で落としているらしく、サラサラと撫でた後に水を切り、左の綺麗な桶に食器を入れていく。

 しかし不思議なことに、あんなに濁った水に漬けた後の食器をいくつも入れているハズなのに、左の桶の水は何故か綺麗なままだ。


 左の桶はいつ濁るんだろうか。ちょっと真剣に監視していたが、結局、人数分の食器とプレートを洗い終わり、左の桶から食器を全て出し終わっても左の桶の水は綺麗なままだった。


 謎だ。


 さて、食器も洗い終わったところで、いよいよどこかに連れていかれるらしい。


 彼はロウソクに火をつけて燭台と大きな袋を持ち、台所の横の扉を開けると…先の見えない真っ暗な下り階段を僕を背負ったまま降りていく。


 …地下に施設があるのか…僕を子どもにした薬もここで作っているのかもしれない。


 そろそろ階段を1階分くらい下がっただろうか。階段は何回も折り返しになっていて、更にまだまだ下がっていく。


 階段を下る事に気温が下がっていくのを感じるけれど、この寒い中をどこまで進んでいくんだろう。今僕は薄いワンピース姿だし、男の人だって薄着だ。下に防寒着でもあるのかな…


 僕の心配をよそにどんどん下っていき、3階分くらいを降りきった先の扉を開けると一層冷たい冷気が吹き込んできた。


 まるで冬のような寒さに思わず男の人に身を寄せる。


 男の人はそのまま中に入り、信じられないことに扉を閉めてしまった。


 この人は正気なのか?

 こんな薄着でこんな所に閉じこもっていたら凍死してしまうぞ…


 あまりの寒さにぎゅっとしがみついたからだろうか、男の人に頭をぽふぽふされた…甘えてるわけじゃないんだけど…男の人は部屋の隅にあるいくつかのロウソクに火を灯し、若干見通しの良くなった寒い部屋でガサゴソと、箱や袋から何かを取り出しては持ってきた大きな袋に手際よく入れていく。


 箱の中身は藁が詰まっていて…ん?今でてきたのは肉?あっちの袋の中身は…野菜…かな…


 台所の横の冬のように寒い地下室…


 あ、わかった。これ氷室だ。昔の冷蔵庫みたいなやつだ…地下に謎の施設が〜とか、恥ずかしい…隣に話す相手が居なくて本当によかった…もし居たら恥ずかしい迷推理を披露してしまうところだったよ…名推理じゃない、文字通り迷うほうだ…


 え?料理の食材取りに来たの?僕を背負って??何のために???


 わけが分からないまま、男の人は用事が済んだようで部屋のロウソクを消し、食材の詰まった大きな袋を持って台所に戻った。


 そして料理を始める。僕を背負ったまま。

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