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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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おでこ0距離

 ほぼ自暴自棄になって意識を手放しかけたその時、ふいにひょいっと上に持ち上げられて僕は誰かに救出された。


 急に息ができるようになってげほっげほっとむせる。


 酸欠で視界も定まらないまま、けれど聴覚だけは先に戻ってきたようで、僕の耳は男の人の声を拾った。



 静かに、でも明らかに怒っている声だ。


 怒っているどころか激怒している…静かに。



 頭が酸欠でクラクラしていてよかった。

 こんなふつふつと沸き上がるように静かに激怒している男の声なんてまともに聞いてたら、元大人の僕でも恐怖にふるえていたと思う…言葉の意味もわからないからとんでもなく怖い…むしろこの人に殺されるんじゃないだろうか…今から大量虐殺が始まるんじゃなかろうか…


 この人は僕を助けてくれたんだよね…そうだよね…?それで僕のために怒ってくれてるんだよね??

 背中をさすってくれてるし。さすりながらみんなに説教してるし…声こわいし…チビりそうなほどこわいし…みんなもさっきとは別の意味で泣き出してるし…


 とにかく何とかしないとと思って、僕はとりあえず男の人の背中に手を回して抱きしめることにした。


 説教の声が止んだ…怖いけど…男の人もこっちを見てるっぽいから、顔を上げて男の人を見る。


 笑顔のひとつでも見せれば、もしかしたらお説教が終わらないだろうか。そんな安易な考えだったが、残念なことに僕は笑顔を作ることができなかった。笑顔のかわりに、涙と鼻水と嗚咽が溢れてきた。


 さっきまで死にかけ、助かったと思ったら怒った声に恐怖し、僕の情緒はとても不安定になっていたんだと思う。自分でも自分の感情がわからない。


 身体をガタガタ震わせながら抱きつき、泣きながら見上げる僕を見て彼は何を思ったのだろうか。


 男の人は静かにみんなに何かを言うと、僕を抱っこしたまま部屋から出た。


 井戸で片手で器用に水を汲み、優しく僕の顔を洗ってくれた後に食堂に連れていかれ、スープを飲ませてくれた。


 …何故か彼の膝の上で。


 今、彼は無表情に近いが、とても穏やかな表情をしているように見える。さっきの激おこ状態とは雲泥の差だ。


 …彼を怒らせてはいけない。なので大人しくスープを飲んでいるが、これはどうゆう状態なのだろうか。


 みんなも落ち着いたのか、食堂にきて食べかけで放置されていたご飯を食べ始めた。

 ジュリがムッとした顔で僕と男の人のところに来て何かを話していたが、ムッとした顔のまま自分の席に戻って行った。


 僕が来た時には食堂にみんなの分が食べかけの状態で並んでいたので、僕が目を覚ましたのをクルカラが見ていて、ご飯中のみんなに知らせに行ったということだろう。


 そんなクルカラは現在、ご飯を食べながらこちらを睨んでいる。ジュリまでこちらを睨んでいる。いったい何がどうなっているんだ…


 食事後、ジュリはまた話しかけてくるものの、男の人に軽くあしらわれて頬をふくらませながら食堂を出ていく。


 みんな行っちゃった…と思ったら、僕は再び男の人に抱きかかえられて外へ。みんながいる中庭へ出た。


 そして彼は木陰に座り、僕は彼のあぐらの中に座らされる。

 みんなちらちらこっちを見るけれど、僕は男の人に腕をお腹のところに回されてガードされているせいで誰も近寄って来れないみたいだ。


 …なんだろう。この人は、僕の守護者かな?


 自由時間ならリハビリしたいんだけど…


 あ、クルカラが木の陰に隠れてこっちを睨んでる…その後ろからジュリまで睨んでる…

 なんか叫んでるし、君たち仲良いね…


 吹き抜ける風が涼しい。

 男の人の大きな手が優しく頭を撫でてくれるのも気持ちいい。


 穏やかな時間の流れにうとうとし始め、僕はいつの間にか眠ってしまったらしい。


 気がつくともう夕暮れ時なのか、薄暗い部屋の中に1人で寝転がされていた。


 …昨日は胸に顔をうずめられて死にかけ、今日は胸に首を締められて死にかける。

 とんでもない出来事が立て続けに起こったなと苦笑いが浮かんできた。


 …ジュリの胸の膨らみは凶器だ。間違いない。


 これからここで過ごす上で最も気をつけなければならないナンバー1だ。いや、ナンバー1はあの男の人を怒らせることかもしれない…あれは恐かった…チビってしまいそうな程に…思い出したらちょっともよおしてきちゃったな…ど、どうしよう…


 それからすぐみんなが戻ってきて、ご飯を食べさせてくれる。そしてトイレもいつも通りだ。


 もうすぐ日が完全におちて寝る時間…だと思うのだが、なぜかジュリを中心にしてみんながコショコショ話をしている。誰かに聞かれると不味い話でもあるのだろうか。


 部屋の中の全員は聞いているし…そもそも誰も周りにいない気がするけど…


 何か話がついたのかみんながそれぞれ頷くと、僕に振り返った。


 …な、なんだろう…先頭にはいつものようにジュリがいて、口元に人差し指を立ててしーっと静かにするように合図を送ってくる。


 そしてゆっくり近づいてきて、ゆっくり優しく僕を抱きしめた。


 何かを呟きながら、10秒くらいで解放してくれて、次は赤髪のミルカがジュリと同じように優しく抱きしめてくれる。


 何かをボソボソと呟いたあと、また10秒くらいで次の人へ、その次の人へと交代していく。


 …


 ……


 ………


 これはなんだろうか。

 なにかの儀式?という感じではないけど…お別れの挨拶…とか??いや、順番にごめんなさいをしているんだろうか??


 並んでいるのは年齢順かな?だんだん幼い子たちへ交代していって、その度に抱きしめるというか、軽いハグみたいな感じになっていく。


 抱きしめ終わった子たちは、なんか静かにキャッキャしてる…器用な子たちだ…


 5歳くらいのオープルが軽くハグして離れたあと、次は最後かな?クルカラの番になったようだ。


 少しだけモジモジしながらジュリに背中を押されて、僕を抱きしめてくれた。日中のような突撃ではなくて、優しく。


 …クルカラは何も言わないみたいだ。いつも賑やかなのに、なんだか変なの。


 そして離れ…るのかと思ったが、身体を少し離しておでこ同士をコツンとあてて、僕と見つめ合いながら何かをボソボソ言いはじめた。


 大きな子たちはそれぞれ違うことを言ったりしていたけれど、小さい子たちはだいたい同じような単語をボソボソ言っている感じだった。


 クルカラは…何を言っているんだろう…


 …それにしても、クルカラの話は長い。なんかずっとボソボソ語りかけてくる。

 周りの子たちもなんかクスクス笑っているし…


 ずっと至近距離、というかおでこ0距離でしゃべり続けてるけれど、この子は恥ずかしくないんだろうか…一応僕男なんだけど…やばい、意識したらちょっと恥ずかしくなってきちゃった…


 抱きつかれてて逃げられないし、せめて顔を逸らそうと動くとすかさず両手で頬っぺを挟まれ正面を向かされる。


 この子、押しが強すぎじゃないだろうか…すごいグイグイくるんだけど。

 抱きつく前にモジモジしてたのは一体なんだったんだ。


 なんか段々と語気が強くなってるし…もしかして口説かれてるのか?こんな子どもに?…そんなわけないか。そんな状況でもないし。


 一体なんなんだろう…うーん、とりあえず頬っぺを挟み込んできたおかげで抱きつきが外れたので、身体は離しておこうかな…


 クルカラの身体を押して…え?両足で僕の腰を挟み込んだだと!!?


 絶対に逃がさない体勢だな…どうするんだこれ…というか、男と女でこうゆうことしてると色々よくないと思うんだ…両方子どもだけど…僕が変な性癖に目覚めてしまったらどうするんだ。


 …あ、僕にはもうナニがついてないんだった…


 …くそぅ、嫌なこと思い出させやがって…

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