彼はマザコンだった…
結婚のお相手は公務員だそうで、色々なスポーツやアウトドアを広く浅く、何でもかじってみるのが趣味らしい。僕も直接会う機会が何度かあったが、優しそうな好青年に見えた。
しばらくして恵麻にも娘が産まれ、夫婦生活は順風満帆…かと思っていたが実はそうでもなかったようで、恵麻に飲みに誘われる機会が増えた。
話の内容は旦那の愚痴のオンパレードだ。
恵麻は子どもの頃は口数がそこそこ少なく、でも小動物みたいにちょこちょこと動きまわって人懐っこく、とても愛嬌のある可愛らしい子だったのに…今じゃボスネズミのような貫禄が…
いかんいかん!!そんなことを言ったら旦那への愚痴が僕への愚痴に早変わりしてしまいそうだ。
話を聞くところによると、付き合っている時はとてもいい人だったらしい。
僕も当時聞いていた話では、プチ旅行を計画して連れていってくれた、なんでもない日にサプライズプレゼントをくれてびっくりしたなど、結構アクティブな性格でいい人だという印象を持っていたし、悪い感じはなかった。
しかし結婚して娘のひかりちゃんが産まれ、旦那の実家に移り住むようになったことで状況が変わってしまったらしい。
嫁姑問題か。単純にそう思ったが、少し違ったようだ。
どうやら旦那はマザコンだったらしい。
お姑さんはいい人らしく、恵麻もお姑さんをあまり嫌ってはいない。
しかし、お姑さんが恵麻のことや娘のことで少し愚痴をこぼすのを聞いた旦那は、恵麻や娘に絶対禁止とでも言うかのように改善を要求してくるという。
実家に帰らせていただきますと何度も家を出たり戻ったり。
そして結婚から12年、とうとう我慢の限界に来てしまったらしく、恵麻は旦那に離婚届を投げつけ、10才の娘を連れて実家に帰ってきたらしい。
「離婚届を投げつけてやったわ!!」
電話越しに嬉しそうに宣言するのを聞いて、いい笑顔をしていそうだなと苦笑いしてしまったものだ。
ちなみに僕は恵麻とよく飲みに行く事もあって、娘のひかりちゃんには毎年お年玉をあげていて会っているし、恵麻が連れて来たひかりちゃんと一緒に遊びに行くことも時々ある。僕とひかりちゃんの仲はいい方だと思う。
何より、恵麻の子どもの頃に瓜二つのひかりちゃんは可愛くて可愛くてしかたがないのだが、いい歳したオッサンがデレデレすると一瞬で嫌われるなんて事は目に見えているので、いつも心を鬼にして冷静に接している。
仲がいいのは日頃からのたゆまぬ努力の成果だろう。これからも日々精進していく所存である。
次の休みは遊びに来てと恵麻に誘われたのでひかりちゃんへの手土産を持って遊びに行ったところ恵麻の旦那さんも一緒にいたのだが、彼は僕の顔を見て渋い顔をした。
話の途中だったか…タイミング悪い時に来ちゃったかなと思いながら「こんばんは…?」と挨拶はしたが、旦那さんは恵麻とひかりちゃんを見て一言「…じゃあ、帰るわ」と言い、僕には何も言わず暗い顔で帰っていったのが気になったが、恵麻の「ナイスタイミング…!!」というサムズアップにより、それ以降気にすることは無かった。
実家に帰ってきてから何度か旦那が訪ねてきていたらしいが、その日を堺に来なくなり離婚も無事に成立したそうだ。
それからちょくちょく恵麻とひかりちゃんと一緒に遊びに行くことが増え。
「遅くなっちゃってごめん。一緒に幸せになろう」
1年半後、僕は恵麻にプロポーズした。
恵麻は静かに泣いて、喜んでくれた。
12才になったひかりちゃんも、なんだか照れくさそうに抱きついてきてくれた。
恵麻の両親も静かに微笑みながら「最初からそうしてくれればよかったんです」と言ってくれた。
最初からってどうゆう事だよ…いや、僕だって今になってみればそう思うけれど…
恵麻には幸せになって欲しかったんだから、しょうがないじゃないか。
まさか相手がマザコンだなんて思わなかったんだ…いや、過ぎたことはもういい。
これから前を向いて歩いていこう。
そしてお互いの家族だけを呼んで小さな結婚式を行い、結婚式が終わった日の夜にふと見上げた夜空があまりに綺麗で。
僕は恵麻と手を繋いで、2人きりで散歩に出かけたんだ。
星が綺麗だった。
辺りは家やお店の明かりでそんなに暗くはなかったけれど、いつもよりも星を近く感じた。
ゆっくり歩き、時々歩道の赤信号で立ち止まりながら。
恵麻と仲直りしてからもう14年。
星空を見ながら、再開してからずっと言いたくて、でも、彼女の幸せを願ってずっと言えなかった言葉を口にだす。
「恵麻、好きだ」
「…私も、好き」
恵麻の声は震えていた。
「…恵麻、愛してる」
「…私も…私も…」
照れくさそうな顔をしながら静かに泣いている彼女の綺麗な泣き顔をほかの誰にも見せたくなくて。
僕は彼女を抱きしめて隠した。
「…恵麻、愛してる」
僕の声も震えていた。
「…私も、愛してる…ずっと、ずっと、愛してた…ずっと、愛してる…」
見上げた星空は今まで見たこともない程に近く感じて。
吸い込まれそうなほどに綺麗だった。
「…そろそろ帰ろっか」
このままずっと抱き合っていたいけど、あまり遅いとひかりちゃんに心配かけちゃうね。
結婚式ではしゃいでいたから、もう寝ちゃっているかもしれないね。
そんな事を話しながら、赤から青に変わった横断歩道を一緒に渡る。
道路を半分渡った所で、停車した車の影から猛スピードで突っ込んでくるバイクに気がついた。
2人とも轢かれる。
そう思った瞬間、僕は彼女を力いっぱい後ろ側に突き飛ばしていた。
驚いた彼女の顔
僕に向かって伸びた左手
薬指に光る指輪……
ここまで1ページ目としてメモ帳に書いていたんですが、投稿してみるとちょっと長かったので3ページに分割しました…題名が適当ですみません…
ちなみに望月優志は私の本名ではありません。
なろうに登録するのにユーザー名が思い付かなかったので、書いていた小説の主人公の名前を拝借しました…!!