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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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わからせてあげなければ

 恵麻が笑ってる。

 周りには僕や恵麻の家族、友人達。


 ここは…結婚式場?


 そうか、今日は結婚式だ。


 みんなが祝福してくれる。

 ひかりちゃんも恥ずかしそうに抱きついてきてくれて、3人で一緒に写真を撮る。


 幸せだなぁ。


 離婚してから16年、ずっと1人で生きてきた。


 長かった。


 今まで何も無かったけれど、これから幸せを詰み重ねていくんだ。


 幸せな結婚式が終わる。夜がくる。


 ふと見上げた夜空が満点の星空で、今まで見た事がないほど綺麗だった。



 怖くなる程に。



 恵麻が星空を見て綺麗だと言い、散歩しようよと僕の手を引く。

 ひかりちゃんも一緒に僕の反対側の手を握って恵麻と一緒に引いていく。


 綺麗な星空に何か怖いものを感じながら、けれど恵麻とひかりちゃんが嬉しそうに手を引くものだから、僕は何も言えずに恵麻とひかりちゃんと一緒に歩いていった。


 見慣れた街並み。


 たまに道路を車が通り過ぎていき、その度になぜか恐怖が湧き上がってきて心臓がドクンと強く脈打つ。


 前の方の歩道が赤信号に変わる。

 歩道の前で恵麻が抱きついてくる。ひかりちゃんはそばで僕たちの様子をニヤニヤしながら見ている。


 気まずくなった僕は空を見上げた。


 見上げた星空は今まで見たこともない程に近く感じて。


 吸い込まれてしまいそうで恐ろしかった。


「あーあー、イチャついてると置いてっちゃうよー!」


 いつの間にか信号が青になっていた歩道を、ひかりちゃんは僕たちを茶化しながら後ろ向きに歩いていく。


 それの光景を見た瞬間、僕の心臓は跳ね上がった。

 この先何が起こるのか僕は知ってる。


 バイクが飛び出してくるんだ。


 僕は言葉を発する余裕もなく走り出し、ひかりちゃんの腕を掴んで力いっぱいに引っ張った。


 反動で僕の身体の位置がひかりちゃんがいた場所と入れ替わるように押し出される。


 真横からとても眩しい光が急速に迫ってくるのがわかる。


 ほらね、やっぱり飛び出してきた。


 この体勢じゃ避けられないな。ぶつかったら痛いだろうなぁ。


 なんて、やけに冷静に考えながら。


 恵麻とひかりちゃんが見える。

 2人とも驚いた表情をしている。


 最後なんだから笑ってよ。2人の笑顔が見たい。そんなふうに思った。


 なんで最後だなんて思ったんだろう?


 ふと真横の光を見る。

 それは大きな大きな光の塊だった。


 …あぁ。確かにこれは助からないな。



 ぶつかるのは一瞬のはずなのに、何故かとても長く感じる。


 この光に当たれば死ぬんだ。それなのに体は動かない。

 ジリジリとゆっくり近づいてくる光から目を逸らせず、恐怖心が湧き上がってくる。


 …恐い



 恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い



 こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい



 …光に、ぶつかる。



「っああぁぁああああ!!!」


 その直前に目が覚めた。


 心臓がちぎれそうな程バクバクしていて痛い。全身が汗でベタベタして気持ちが悪い。

 涙が溢れてきた。目元にもってきた手が重い…


 泣きながらも辺りを見渡す。

 ここは…僕の部屋じゃない。ログハウスみたいな…この天井は知ってる。けど…どこだっけ…


 扉が開く音がして、涙を流しながらもそちらを見る。金髪の少女と男の人が立っている。

 …ジュリだ。思い出した。僕はここで看病されてて…ここは夢じゃないんだ。


 ジュリが抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。

 僕は恥も外聞もなくわんわん泣いた。


 泣いて泣いて、泣き疲れて。いつの間にか眠ってしまう。


 そして眠る度に同じ夢を見て、飛び起きてわんわんと泣く。


 たまに夢を見ずに起きるけれど、頭に霧がかかったみたいに、まるで夢の中のように、何も考えることが出来ない。ぼーっとジュリたちにされるがままになっていた。


 眠るのが怖い。


 眠る度に死が直前まで近づいてきて、飛び起きるんだ。

 いつの頃からか、近づいてくる死の光が日を追う事に真っ白から紫の光へと変わっていき、今では底が見えないほどの黒い紫色の光の塊になっていた。


 それが近づいてくるのが恐ろしくてたまらない。

 これに当たったら、今度こそ本当に死んでしまう。本能がそう警笛を鳴らすのだ。


 なのに身体は動かない。


 いつも黒紫の色をした、闇の底のような大きな光が、僕の身体にぶつかる直前で叫び声をあげて目が覚める。


 あぁ助かった、死ななかったと涙を流す。


 そんな日々がしばらく続いた。

 後から聞いたところによると、ひと月ほどだったという。


 いつの頃からか、僕の寝る場所が部屋の壁際になっていた。

 ジュリとミルカの間に挟まれるような形だ。


 恐らくその頃から悪夢を見る頻度が減っていった…のかもしれない。頭にかかっていた霧のようなものも少しずつ、少しずつ晴れていったように思う。




 部屋が明るい。周りがとても静かだ。


 みんなはご飯を食べに行っているんだろうか。


 悪夢を見るようになってからの事を思い返す。


 これまでぼーっと何も考えることが出来ずにいたけれど、見てはいたんだ。

 考える事ができなかっただけで。


 ジュリや女の子たちみんなが僕を心配してくれていたこと。

 男の人とジュリが僕のほうを指さしながら激しく言い合いになった事が何回もあったこと。

 おそらく1度だけ、何故か夜にみんなで庭に出て、みんなで寝っ転がりながら不思議な星空を見たこともあった。


 …庭といえば、何度かクルカラが庭の雑草をプチッとちぎって僕の口の奥に突っ込み、抵抗もせずそのまま飲み込んだことだって覚えている。

 もうちょっと頭がはっきりしてきたら仕返ししなくちゃいけない。



 それよりも印象的だったのは、あの不思議な星空のことだ。


 満天の星空に、月が3つもあった。


 大きな大きな金色の月、白色の月、小さめな紫色の月。



 なんで3つも月があるんだろう、なんて霧がかかって思考がまとまらないながらも、ぼんやりと思った。


 あの夢だけはなぜか強く印象に残っている。


 最近の出来事は頭にずっと霧のようなものがかかっていて、夢なのか現実なのか曖昧だ。


 ジュリと男の人が怒鳴り合っていたのだって…思い返してみるとあれも夢だったのかもしれない。


 いつも静かな声で少しだけ話すあの男の人が大声を出すとこも想像できないし、ジュリが怒鳴っているのなんてもっと想像できない。そうなる理由も全く想像ができない。


 クルカラが雑草を食べさせてきたのは…間違いなく現実だな。

 あの子はやる。絶対に。以前もやられたもん。


 仕返し…もとい、おしおき決定だ。


 いたずらっ子のメスガk…ゲフンゲフン、クルカラちゃんをわからせてあげなければ。

 大人の男の人を怒らせると怖いんだぞ!ってことをな!!


 …よし、まだ本調子じゃないけど、それなりに考えることは出来るようになってきたな。


 …わからせ、といえば。


 僕のアソコはどうなっているんだろうか。




 …


 ……


 ………



 …いや、現実逃避はやめよう。僕はもう知っているはずだ。

 夢でも何度も光がぶつかってくるのを嫌という程経験して、その度に飛び起きた。


 現実を見るんだ。…そうすればもうあの夢も見ないかもしれないし。


 腕は…動く。


 ここしばらく、ジュリやミルカに泣きながら抱きつく以外に身体を全く動かしていなかったせいか、もの凄く重いけど…一応動く。


 自分の手を、お腹の上へ。そこからゆっくり股間の方へ滑らせていく。


 …知っているはずだ。見たんだから。

 覚悟はできている…はずだ。


 手が股間の上を滑り、ナニかに引っかかる…こともなく、おしりの方までスルンと滑った。



 …


 ……


 ………



 知っていたさっ!!


 アソコに何も付いていないことくらいっ!!!!


 アソコにナニが付いてないことくらいっ!!!!!!


 覚悟は出来ていたさっ!!!!!!!!



 僕の頬をつーっと涙がつたい落ちていった。

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