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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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今度こそ絶望した

 次の日。

 今日は天気がいいけれど外に出してもらえない日らしい。


 クルカラとオープルはあきらかにガッカリしているし、ほかの子たちも少し残念そうだ。


 僕も今日こそはハイハイに挑戦しようと思っていたのに。

 外に行けないのではしょうがないか…大人しくして…ん?ハイハイは家の中で練習するものじゃないだろうか。


 みんなが大人しく座っておしゃべりしているものだから、なぜか僕も大人しく座っていないといけないと思い込んでいたけれど…そんな必要がないことに気がついた僕は早速ハイハイをしてみる事にした。


 身体は昨日よりもずっと軽い。正直なところ、今なら掴まり立ちくらいできそうだ。誰かの背中を借りれば挑戦することくらいはできるだろう。

 でもまぁ、ハイハイから始めてみようかな。転んだら痛いし…


 僕は座った状態から手を床につけ、四つんばいになる。


 うん、昨日と全然ちがう!まだバランスをとるのが難しいけれど、手も震えないしまだまだ余裕がある!!


 そのまま1歩、右手を前に出し、左手を前に出し。右足を前に出し、左足を前に出す。

 かなりぎこちないけれど、僕は今、自分の手と足を動かし、自分の力だけで移動している。


 たったそれだけの事なのに僕はとっても嬉しくなった。前のほうを見ると、ジュリが後ろを向いて座っていて、ほかの子とおしゃべりをしている。

 よし、まずはあそこまで行ってみよう!


 右手を前に、左手を前に。転ばないように、ゆっくりと。

 しばらく進んでだんだん汗をかいてきた。手もプルプルしてくる。


 でも、せめてジュリの所まで。息を整えて、1歩ずつ。

 あとどのくらいだろう。顔を上げるのも辛くて先が見えない。それでも、1歩ずつ。


 ふと視界の中に、誰かの膝が映りこんだ。

「セラ」と、目の前からジュリの優しい声がする。

 もう顔を上げる力なんて残っていなくて…でも、あともう1歩。もう1歩だけ。


 最後の力を振り絞って踏み出し、僕はジュリのひざの上に倒れ込んだ。


 ジュリは優しい声色で、たぶんすごいよとか、よくできました、みたいに褒めてくれているんだと思う。とても嬉しそうに何度も頭を撫でながら褒めてくれている。


 …ジュリのひざの上で脱力しきり、ほわほわとした達成感に包まれていると、ジュリの声が涙ぐんだ声になってるのに気がついた。どうしたんだろう…


 脱力しきって少し回復したので、上半身を起こしてジュリの顔を上げてみる。大丈夫?


 目が合うとすぐに抱きしめられた。驚いたけれど、僕がハイハイできたことを喜んでくれているみたいだ。周りに集まってきていた女の子たちも次々と僕とジュリをまとめて抱きしめて喜んでくれる。


 ハイハイしただけなのにこの反応…過剰すぎない?


 今日は僕のハイハイ記念日として、彼女たちの心に一生残る思い出に…なるわけないか。


 娯楽が少ないからちょっとした事でもイベントになるんだろうなーなんて考えながら、たくさんの女の子たちから代わる代わる頭を撫でられていると、ガチャリと扉の鍵を開けて男の人がみんなを呼びに来た。男の人は僕たちの方を見て一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに気を取り戻したのかみんなに何かを言って出ていった。


 ジュリはすかさず男の人を追いかけていき、ほかの子たちもみんな揃って外に出ていく。


 いつの間にかお昼ご飯の時間になっていたらしい。


 この部屋には時計がないので時間は分からないけれど、みんな揃って出ていった後には必ずご飯を持って帰ってきてくれるのだ。


 今日のご飯はなんだろうか。

 とはいっても、どうせスープなのだが。


 そんなことを考えているとタタタッとジュリが戻ってきた。どうしたんだろう?

 1人でぽつんと座っていた僕のところまで来ると、僕をおんぶして部屋を出る。


 もしかして…


 プレハブ小屋を出て正面の建物のに渡り、すぐ左側にある扉をくぐる。


 部屋に入った瞬間、パンを焼いたいい匂いが漂ってきた。

 部屋には大きな木製の長テーブルとイスが並んでいて、みんなはいつもここでご飯を食べていたようだ。


 みんな部屋の奥の方にお盆をもって並んで、自分でパンをとり、大きな鍋からスープをよそい、男の人からおかずを盛ってもらっている。

 おかずといっても野菜を炒めたような簡単な物だけれど、今の僕にはごちそうに見える。

 なんてったって、ここ何日間もスープしか飲んでいなかったのだ。


 ジュリは僕を端の席に座らせると、列に並びに行った。


 自然と頬がゆるむ。

 僕もついに病人食を卒業だ!!


 少ししてジュリがお盆をもって戻ってくる。手にはほかの子と同じものを持って、僕に微笑みかけてくれる。


 たぶんお箸なんてないだろうから、手づかみで食べるのかな。

 ほかの子達はみんなもう座っていて、ジュリを待っているみたいだ。いただきますをするんだろう。わくわく。


 ジュリは僕の隣の空いている席にお盆を置いて、座った。



 …あれ、僕の分は…


 一瞬絶望しかけたが、すぐに後ろから僕の前にお盆が差し出される。

 ジュリの持っているお盆に気を取られて気付かなかったけれど、ジュリの後ろから男の人がお盆を持ってきていたみたいだ。


 なんだ、びっくりした…僕だけ食べられないのかと思ったよ…


 お盆を持ってきてくれた男の人に笑顔を向けてありがとうをした後、ワクワクしながら前を向き、お盆をみて、今度こそ絶望した。



 お盆の上に、いつものスープしかないではないか。



 後ろを振り返ると、お盆をもってきた男の人は少しバツが悪そうな顔をしている。


 一方ジュリは……なんだかとても楽しそうだ…


 僕のほうを向き、僕の両手を取って手を合わせて組ませる。教会でシスターが神様に祈るみたいな形だ。

 ジュリが僕に何か言っているけれど、たぶん、ご飯を食べる前にいただきますするのよ、みたいなことだろうか。


 僕が手を組んだままなのを確認すると、ジュリも自分の手を組み、みんなを見回す。

 みんな同じように手を合わせて組んでいるのを確認し、一言何かを言ったあとにみんなが復唱していたので、僕も真似して言ってみた。合っているんだろうか…


 ジュリたちはパンをスープにつけて食べている。フランスパンを薄切りにしたようなパンで、外側は硬そうだけどとても美味しそうだ。

 いっぽう僕はというと、僕の横に男の人がイスを持ってきて座り、スープを飲ませてくれている。



 いつもよりスープの具は大きいけれど、すぐ隣や目の前でいい匂いのするパンやおかずを食べているのを見ながらだと、とてもひもじい気持ちになってしまう…


 口元にスープが運ばれてくる。それを見て、ジュリがパンを頬張るのを見て、男の人を見る。

 あ、男の人が目を逸らした。


 僕は肩を落としながらスープを口に含み、せめて食べてる感じがあるように小さい具をもぐもぐとする。


 ジュリは僕がもぐもぐしているのを見ていい笑顔で声をかけてくる。おそらく「おいしいね」みたいな事を言っているのだろう。自分はパンをもぐもぐしながら。


 男の人から申し訳なさそうな雰囲気がひしひしと伝わってくる。この感じからすると、おそらく今日はまだ僕のご飯はいつも通りのスープだったんだろう。

 そしていつものようにみんながご飯を食べたあとにスープを持って部屋に戻り、僕の食事タイムになる、予定だったに違いない…


 さっき男の人が呼びに来てジュリが追いかけていったのは、僕が一緒にご飯を食べれるようにかけあっていたんだろうな…


 でもね…僕はね、かわいい女の子たちに囲まれて、食べさせてもらえる食事の時間を…実は楽しみにしていたんだよ。


 たとえスープだけだったとしても…美少女に囲まれて、しかもみんな好意を持って接してくれる食事の時間は、今まで経験したことがないほど満たされた時間だった。


 それが…


 それが今や、横目に美味しそうに食べているのを見ながら、男の人にスープを飲まされている。


 確かにこの男の人はかっこいいさ。

 それこそ大人だった時の僕なんか比べ物にならないくらい。

 ハーフでイケメンな俳優さんみたいな感じだ。


 もしも僕が女性だったならすごく嬉しかったんだろう。女性だったなら。

 でも僕は男だ。


 介抱されるなら可愛い女の子の方がいいに決まっているではないか…


 ふぅ…っと大きなため息が出てしまった。


 ジュリが心配そうに話しかけてきてくれるけれど、原因は君だよ…なんて思っていたら、男の人がボソリと何かを言い、ジュリが何やら慌てはじめた。


 もしかして僕がスープしか飲めないからしょんぼりしているのに気がついたのだろうか…


 今さら慌てたところでもう遅い。

 僕のテンションとジュリへの好感度はだだ下がりなのだ。


 …頭を撫でられたからって…ちょっとしか嬉しくないんだからね!!


 僕はスープの最後のひとすくいを啜ると、小さなお肉の欠片ごともぐもぐごっくんした。


 男の人は僕が食べ終わるのを見て頷くと、頭を撫でてお盆を片付けてくれる。

 ジュリたちも食べ終わった子からお盆を片付けているし、ごちそうさまの風習はないのかもしれない。


 いただきますはあるのに。変なの。

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