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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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見たくない現実

 世話人の目が怖いが、とにかく脱走する気はないとアピールだけでもしておかないといけない。


 本当は脱走する気満々なのだが、警備を強化されたりしたらたまったものじゃないからだ。


「せ、せわびと…あのね、じゅりにおそと、なにがあるのって、きいたの…」

「…そうか」

「…セラ、おそと、でたことないから…」

「…言われてみればそうか…そうだったな」


 そこまで言ってようやく世話人は腑に落ちたのか、険しい顔をやめ、頭を撫でてくれた。


 その様子を見てジュリが世話人をキッと睨むのもセットだ。なんだか懐かしい。


 そう、僕は記憶喪失で外の景色を知らない設定になっているの。壁の外に興味が出るのは仕方の無いことなのだ。


 世話人の誤解は解けたが、次はジュリの問題をどうにかしないといけない。


 僕の胸に顔を擦り付けながらわんわん泣くクルカラの頭を撫でつつ考えるも、これといったアイディアは何も思い浮かばない。


「…ジュリ、かわいそう…かえらなきゃだめ??」


 ひとまずジュリのことを休ませてあげたい。


 目の下のクマも酷いし、さっき呼びかけて反応がなかったのも、半分眠っているような状態だったのかもしれないと考えれば納得がいく。


 どうにかここで匿ってあげられないだろうか。そう提案するも、返ってきたのは無情な答えだたった。


「セラ、ジュリはもうここの娼婦じゃない。他の店に身を置いている以上は帰らなければならないし、本来なら会いに来ることも禁止されているんだ」


 禁止されてるって…でも…ジュリはこんなにボロボロで…


「それに…セラ…気付いているか?」

「…きづく???」


 気付いている??何に??


 キョトンとする僕に、世話人は言いづらいことを言うように少し目を伏せ、僕の方を指さした。


「…自分の身体を見てみろ。それは…ジュリにやられたんだぞ…」


 自分の…身体…???


 改めて自分の身体を見下ろし、絶句してしまった。


 細い腕や足にはいたる所に痛々しくうっ血したキスマークがあり、あちこち歯型に血が滲んでいるのはかじられた痕なのだろう。


 クルカラが抱きついているので胴体がどうなっているのか見えないが、恐らく似たような状態だろう。


 道理であちこち痛いわけだ。


「ジュリ…」

「………」


 ジュリも自分がやった自覚があるのか、目を逸らしている。


「…セラ、違うの。えっと…加減は、した、というか。齧っちゃダメって…私も我慢、したんだけど…その…えっと………ごめんなさい…」


 噛み跡は見えるだけでも10か所以上で、数え切れないほどあるんだが…これでも我慢してくれていたのか…


「目もこんなに腫れて…一体何をしたらこんな事になるんだ。とにかく後はやっておくから、2人はもう戻りなさい」


 確かに…目がズキズキと痛いし、涙がずっとじんわり出てくる。ほんとに何をしたんだろう…


 クルカラがタックルをしてきたおかげでジュリからは離れられたし、世話人の言う通り戻った方がいいのかな…


「ま、待ってセラ。お願い、一緒にここを出ましょう??」


 ジュリに懇願され、クルカラには戻ろうと手を引っ張られる。


 ジュリを放っておけない気持ちもあるが…正直いうと身体のあちこちが痛くて、疲れのせいか頭もうまく回らない。


 …とりあえず、ゆっくり1回寝てから考えたいな…


 僕の心が傾いたことを察したのか、ジュリは椅子に縛られながらもバタバタと暴れだした。


「いや、待って!!行かないでセラ!!お願い!!会えなくなっちゃう!!いやぁ!!!」

「暴れるな、怪我するぞ」


 …え???


「…あえ、ない??なんで??また、あえる??」


 世話人に聞いてみるも、難しい顔をしたまま何も答えてくれない。


「ジュリ、なんで??あえなくなっちゃうの??」

「うぅ…だって…だって……セラを……ごめんなさい……ごめんなさいせらぁ…」


 ジュリは答えようとしてくれたが、言葉に詰まり泣き出してしまった。


 あわててジュリに駆け寄ろうとする僕の手が反対側に引っ張られるのと同時に、クルカラから今まで聞いた事のない硬い声が聞こえてくる。


「セラ、いこ。みんなのとこ、もどろう」

「…えっ??」


 驚いて振り向くと、クルカラは複雑そうな面持ちでジュリを見ていた。


「ジュリはセラにひどいことするから、しかたないの。ちかづいちゃだめだよ」

「クルカラ…そんなこといわないで??セラはだいじょぶだから…」

「だいじょうぶ??…だいじょうぶ、じゃないでしょ!?またこんなにケガしてるんだよ!?」


 うっ…確かに全身が鬱血したキスマークと、歯型のアザだらけだ。大丈夫そうには見えないか…


 僕の軽率な発言にクルカラは再び堰を切ったように泣き出してしまった。


「…さっきも…ずっとおきなくて…!!…またぜんぶ、わすれちゃったらどうしようって…こわかった…!!…セラはもっと、じぶんをだいじにしてよ…!!」


 …全身の怪我に、全部忘れる??


 …あっ、そうか、クルカラは僕がここに連れてこられた時の事を思い出してしまったのか。


 思い返してみれば、あの時は全身傷だらけで酷い状態だった。まだ幼いクルカラにとってトラウマになってしまっても仕方がないと思う。


 今の僕も全身アザだらけだし、見た目だけなら当時の状態にあまり引けを取らない気もするなぁ。


「…クルカラ、しんぱいしてくれてありがとね…」

「しんぱいじゃない!!…しんぱいもだけど…くやしいの…!!」

「…くやしい??」


 …くやしい…悔しいってこと??どういう事だ??


 泣きじゃくるクルカラの背中をトントンしてあやそうとするも、先程怖い思いをしたせいなのか全然泣き止んでくれない。


「だって…!!セラにこわい、おきゃくさま、きたとき、クルカラ…すごいって…!!…がんばってって…!!…いっちゃったんだもん…!!」


 …怖いお客様??


 …そんなこと、あったっけ…


 クルカラは僕に客が来るたびに毎回心配そうだし、頑張れなんて言われたこと…あったか??


「セラ…いっぱい…ケガして…!!…いたそうで…ぜんぶ…わすれちゃって…!!…だからっ…!!…クルカラが、まもってあげるって、きめたの…!!」


 クルカラが何のことを言っているのかわからない。


 僕がケガをしたのは…バイクに突っ込まれたからだ。そして子どもの身体にされて、ここに連れられてきた…


「ヨーカのときも…!!…ほんとはっ…!!…たすけて、あげたかった…!!…セラみたいに…なってほしく、なくて…!!…でもっ…だれかが、おあいてしないとって…!!…なのに…なのに…!!…アイビスまで…ケガだらけに、なって…!!」


 …ヨーカのこと、クルカラは避けてるんだと思ってた。僕が近付こうとするたびに邪魔してきたから。でも本当は、助けたかったのか…ただ、僕みたいってどういうことだ……それにアイビスも…って…


 確かに、翌朝見たアイビスは全身傷だらけで…酷い怪我だった。ヨーカは医者に連れていかれたっきり帰ってこない。助けられるなら助けたかったし、あの日を迎えるまで気が付かなかった自分自身の愚かさをあれほど呪った事はなかった。


「…だから…セラのことだけは…!!…ぜったい…!!ぜったいまもるって…きめたの…!!…きめた、のに………また…まもれなくってぇ…!!…ごめん…!!…ごめんねせらぁ…!!…わあぁぁああ!!!」


 意味がわからない。


 クルカラが何を言っているのかわからない。


 わからなすぎて、脳が考えるのを拒否しているみたいにズキズキと痛む。


 クルカラはまだ、6才だぞ…そんな子が、守ろうって、守れなかったって、こんなに苦しそうに泣いて…


 …なんだよ、それ。


 …そんな後悔も、覚悟も、子どもが背負ってていいものじゃない…


 いつも明るく元気な子だと思っていたクルカラが、こんなとんでもない罪悪感や苦しい思いを胸に秘めていたなんて…


 そして、その覚悟の相手が僕だなんて…そんなの…


 ………


 …吐き気がする…


 ………


 こんなのって、ないだろ。


 なぜこんな小さな子が、そんな覚悟を背負わなきゃいけない??


 なぜここの子たちは、こんなに苦しめられなくちゃいけない??


 こんなの…あまりにも理不尽だ…


 目の前の景色がぐらりと歪み、立っているのもままならず、クルカラを抱きしめながらその場に座り込む。


 いつもなら意識を手放していたかもしれない。


 ここではいつもそうだ。


 毎晩のように気絶させられているのはあるが、辛くて、苦しくて、思い通りにならなくて、どうしようもない時、いつも僕は気絶してしまう。


 もしかしたら気絶する癖がついているのかもしれない。


 …きっと今だって、気絶して、流れに任せてしまえば…楽なんだ。


 そうすれば、僕が知らないうちに知らない所で何かが進んで、どうしようも無いことが終わって…そしたらもう、どうする事もできないんだから…ただこれからどうするかだけ考えればいい。


 こんな現実は見たくない。


 こんな世界は耐えられない。


 心がもう嫌だと叫んでいる。


 ………


 それでも…僕は知らなくちゃいけない。


 ………


 開いた唇が震える。舌がピリピリと痺れ、思うように動いてくれない。


「…ねぇ、せわびと…」

「…なんだ?」


 喉がからからに乾いてて、何も言いたくない。


「…セラは…どこからきたの…」

「…どこから…??…どういう意味だ?」


 キーンと大きな耳鳴りが両耳を責め立て、世話人の声を遮ろうとする。


 嫌だ。何も聞きたくない。


 …それでも…


「…セラが…ケガする、まえ。…セラが…ぜんぶ、わすれちゃう、まえ。…セラは…どこからきたの…?? …どうして…ここに…いるの…??」


 …見たくない現実から逃げ続けるのは…こんな幼い子たちに、負担を押し付け続けるのは…もう、嫌だ…



「…セラも、他の子と一緒だ。孤児院でオーナーに声をかけられた。そして、セラがここに来たいと願ったからここにいる」



 今まで気が付かないフリをしてきた。


 僕が、どこからきたのか。


 どうしてここにいるのか。


「クルカラとオープルと共にここに来て…ヨーカやアイビスのように…セラも酷い客の相手をして、記憶を失ってしまったんだ…すまない…」


………


「…そう…」


 …そう、か…


 …そう…だったんだね…


 ………


「…"この子(セラ)"は…きおくを…うしなったんだ…」

最後のセリフの言い回しを修正しました。

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