私だけのものよね?
※途中から、ヤンデレ的な表現があります。
※苦手な方は途中から読まなくても物語に影響は無い気がします。
ボロボロのジュリの姿を見て決心を固める。
早くここを脱出しよう。
今すぐ…は、さすがに無理か。他のみんなのことも置いていけない。
それでもできる限り早くここを出る。もう、様子見なんてしていられない。
そのために最低限必要なことは…
まずはみんなに子どもが娼婦として働くなんておかしいと伝える事からか?
…娼婦のシンデレラストーリーを聞かされて育ったここの子たちは理解してくれるだろうか。
考えるだけで頭が痛くなるが、どうにか説得しなくちゃいけない。
とにかくまずは話してみよう。
次は…ジュリと話を詰めなくちゃ。
不幸中の幸いと言うべきか、普段閉じ込められている僕たちと違ってジュリは外側にいる。外の情報を聞き、ジュリを…そうだ、ジュリと一緒に連れていかれたミルカや他の子たちも出来ることなら助けてあげたい。
彼女たちは今どうしているんだろう?
聞かなきゃいけないことが山積みだけど、1つずつ確実に進めていかなくちゃ。
「ねえジュリ、そとはどんなところなの??」
「…あぁ…いい声…セラはお外に興味があるの?」
「うん…えっと、おそと、でたことないから…」
僕はここで目が覚めた時からずっと四方を高い壁に囲まれ、外界から隔絶された小さな箱庭で暮らしてきた。壁の外がどうなっているのか検討もつかない。
わかっているのはここ小鹿亭が倉庫街の一角にあることと、市場の近くという、曖昧な情報だけだ。
「そうねぇ…どんなところ…大きなお家が沢山あるわ」
「たくさん??」
「ええ。ここだと小鹿亭と、みんなと寝ているお家の2つだけでしょう?でもお外には、もっともっと沢山のお家が並んでるのよ」
沢山の家…ここは表に出せないような実験などをしている、言わば犯罪者が集まる隠れ集落か何かだと思っていたけど…どのくらいの規模なんだ?
「おうち、なんこくらい??」
「ふふっ…可愛い…いっぱいよ?何個なんて数えられないくらい!外にはずっとずーっと、見えなくなるほどずぅっと先までお家が並んでて…セラはきっととっても可愛いお顔でビックリするに違いないわ!!あぁ…早く見せてあげたい…」
…先が見えないほど…家が並んでる…???
え???
「お、おうちのほかには、なにがあるの???」
「他??そうね…遠くの方にはおっきなお城が見えるわ。アリスが王子様と一緒に暮らしている所ね。
あとは…大きな通りを進んだ先の広場には噴水があって、お水がキラキラしてとても綺麗なの。きっとセラは大はしゃぎしちゃうわ。あぁ…はしゃぎ過ぎて噴水に落っこちちゃうかも…でも大丈夫よ。私がすぐに助けてあげるから。…ずぶ濡れになったセラ…服が透けて…えへ…えへへ…ああ、だめよ!!他の人に見られちゃう!!誰にも見られないように…2人きりになれる場所に行って…えへへへ…」
ジュリは途中から僕に話を聞かせると言うより、早口で妄想の中にトリップしていってしまった。
が、そんなことよりも…問題は…
遠くに城??広場に噴水??
なんだそれ…犯罪者集団…なんじゃないのか??隠れ住んでない??…でかい城??え??
集落どころか…村、どころか…町??街??
もしかして、もしかしなくても…僕が想像していたよりもずっと…あまりにも広いんじゃないか???
え??
逃げて…隠れる場所は…どうしよう??
全く想像もしてなかった情報に頭が混乱してる。ジュリが嘘やでまかせを言っている可能性は…
いや、実際に僕が外に出た時にがっかりするような嘘を、果たしてジュリはつくだろうか。
ジュリはこんなにも楽しそうだし、そんなしょうもない嘘をつく必要なんかない。
つまり…多少誇張があったとしても…ジュリの言っていることは本当のことで…
………
だ、だめだ!!考えるのは後にしよう!!今は他にも聞かなきゃいけないことや話さなきゃいけないことがあるんだ!!
「ほかのみんなはどうしてるの??…ジュリ??…ジュリ!!おしえて!?」
「…ほへっ!?あっ、あっ、セラ!?セラがいる!?ああ、可愛い!!ほっ、ほんっ、本物!?」
ジュリが妄想の中から帰ってきたと思ったら、急に意味のわからない事を言いだした。
本物じゃなかったらなんなんだ…僕の偽物でもいるんだろうか…
「ジュリ、みんなは??どうしてるの??」
「みんな??みんな…って??」
「ジュリといっしょに、4にんでそと、いったでしょ??ミルカとか…」
「…どうして…」
???
ミルカの名前を出した途端、ジュリの様子が変わった。
「どうして、他の子なの」
先程までニコニコでれでれと喜色に染まっていたジュリの顔から、一瞬で笑顔が消え失せる。
まるで能面のような、表情のないジュリの視線が突き刺さり、一瞬息が吸えなくなった。
「じゅ、り…??」
怖い。怖くて声が震える。
怒らせた…のか??
なんで…??他の子…??ミルカとも、仲良かった…よね??…え??
「セラは私より、他の子がいいの」
「…えっ??」
呟くような小さな声が聞こえてくる。
ジュリより、他の子??どういう意味だ??聞き間違いか??
「セラは、私より、他の子がいいの」
さっきより大きな声。今度ははっきりと聞こえた。
ジュリより他の子??…他の子も大切だけど、ジュリのことだって大切だ。
「ジュリも、みんなも…」
ダンッ!!!
!?!?!?
僕の答えを遮るように、ジュリが両手でテーブルを叩き付ける。
「皆って何!?セラには!!私がいるのに!!みんな!?みんなって!!なによ!!」
「おっ、おち、ついてっ!?じゅり!?」
ジュリが金切り声を上げ、ダン!!ダン!!と勢いよくテーブルを叩きつけるたび、テーブルの上のティーカップがガシャンガシャンと耳障りな音をたてる。
「セラは!!私が好きなの!!私が好きなの!!他なんてない!!私だけよ!!」
…怖い…
…ジュリはきっと疲れてるんだ。
身体がボロボロになるまで働かされて、心がボロボロになるまで客の相手をさせられて、心が擦れ切れてしまったんだ。
「セラを愛してるのも!!愛していいのも!!私だけ!!セラが愛してるのも!!私だけ!!セラには!!私だけがいればいいの!!私だけのセラなの!!そうでしょう!?」
ジュリの血走った目も、掻き毟ってボサボサになった風貌も、何もかもが怖い。
「ねぇ!!そうでしょう!!セラ!!」
嘘でもそうだよと言ってあげたい。
ジュリの心を少しでも軽くしてあげたい。
なのに…
恐怖で喉が引き攣って、声が出ない。
「ねぇ…セラは、私だけのものよね?」
今までテーブルを叩き、髪を振り乱し、金切り声を上げていたジュリが、一転して抑揚のない声で話しかけてくる。
「おいで、セラ。いつもみたいに。甘えて、抱きついておいで。来なさいセラ」
無表情でこちらを見つめる目が、ジュリの全てが、怖い。
「どうして来ないの?セラは私のものなの。セラは私の全てなの。セラは私の全てを受け入れてくれるの。そうでしょう」
心臓がバクバクと音をたて、キーンと煩い耳鳴りがジュリの声を少しでもかき消そうとしている。
「ああわかった。前みたいに甘やかせて欲しかったのね」
口だけに笑みを浮かべたジュリが立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
逃げなくちゃ…
脳が危険だと、逃げろと叫んでるのに、身体がピクリとも動かせない。呼吸がうまくできない。
ジュリが近付いてくる。
涙が勝手に溢れてくる。
あと一歩で…
終わる。
次の瞬間、僕の視界の端からジュリの姿を遮る何かが現れた。
「セラ…はッ…わたしがッ…まもっ…りゅ…」
…クル…カラ…??




