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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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…ずっと…ずっとずっとずっと…

 身体の中の魔力の感覚がいつもと違う。


 なんだろう?


 一瞬、ウィルに教えてもらったように青や赤に自分の魔力が動いているのかと思ったが…


 色は…いつも通り…??


 …いや、何かがおかしい。


「…セラ?どうしたの?…まさか、やっぱりその客に何かされたんじゃ!!」

「えっ!?ち、ちがうよ!?」


 ジュリの怒ったような声に思考が引き戻される。


 話の途中で違和感に気付いたせいで突然黙るような形になってしまった。


 楽しく話してたのに急に黙ってしまったら、そりゃ心配になるよね。


「え、えっとね、まほう、ちゃんとおもいだそうとしてたの」

「そうなの?ほんとに、本当に大丈夫なのね??」


 ジュリはどこまでも僕のことを心配してくれる。嬉しい。ジュリに何かしてあげたいな。


 ウィルが魔法を見せてくれたみたいに…あっ、紅茶!!


 魔法といえば、あの時はウィルに紅茶を入れてあげようとして火傷してしまったんだ。


 ここの紅茶ポットは持ち手までとても熱い。後から他の子達に聞いてみたところ、そばに置いてある布巾で持ち手を包まなければいけなかったらしい。


 あの時は知らなかったけど、改めてやり方を聞いてきた僕なら紅茶を入れることなんて造作もないことだ。


 ジュリはお疲れのようだし、せっかくだから紅茶を淹れてあげよう。


「ジュリにこうちゃ、いれてあげるね!!」


 ソファから飛び降り、紅茶セットのある棚まで走る。


「えっ!?セラが!?ダメよ!!危ないわ!!」

「だいじょぶ!セラね、こうちゃのいれかた、おぼえたの!!ジュリはすわってまっててくださいー。セラのこと、みててー??」

「あ、ああ、セラが…私に触れて…かわいいぃ…えぇ、見てる。ずっとずっと見てるからね…」


 僕に続いて駆け寄ってきたジュリをソファまで押し戻す。


 何故かジュリが蕩けたような表情でデレデレし始めたが、大人しく待っててくれるなら何でもいいや。


 魔道具のスイッチを押してお湯を沸かす。


 今日も魔道具の中には水が入ってるし、紅茶ポットの中には茶葉がセットしてある。準備は万端だ。


 …お湯が沸くまで少し時間がかかるな。


 ………


 …身体の中の魔力は…やっぱりいつもと何かが違う。


 …そもそもだ。今まで自分の中の魔力が勝手に変化していることなんか無かった。


 いつも同じ色をしているし、色を変えようとした時も物凄く集中して、初めて変化が現れるような状態だった。


 なのに…なぜ今は変わっているんだ??


 深く意識して改めて確信する。今の魔力は、明らかにいつもの僕の色じゃない。ウィルに教えてもらった青も赤とも違うし、そういう変化じゃない。


 むしろ…


 色が違うというより、何かが混じっている…みたいな…??


 違和感の正体を探るため、試しに身体の中の魔力を動かしてみる。


 みぞおちの辺り、奥の方。


 そこの深く深くにあるようなモヤモヤとした大きな塊を、いつもの自分の色を思い出しながら…



 僕の魔力は、例えるなら黒に近い…僕の髪の色同様、黒に限りなく近い紫…というより、濃紺色が近いかもしれない。


 魔力を動かす感覚は肉体を動かすのとはまた違い何度やっても慣れないが…いつもなら少しは動く魔力が…今は全くと言っていいほどに全然動く気配がない。


 ………


 お湯が沸くまで時間が無い。


 今は僕が紅茶を淹れるのに集中していると思っているからかジュリは静かだが、その後はきっと違和感に集中する機会がないかもしれない。



 別に確かめるのは後でいいんじゃないか。



 そう思う気持ちが主張する一方、僕の心の奥底のほうがザワついて、どうしても今、この違和感を確かめなければいけないと警笛を鳴らしている気がする。


 神経を尖らせ、いつも以上にググッと力を入れた瞬間、魔力が突然大きく動いた。


「ッ!?」


 それは色が変わると言うより、まるで枷が外れたような。


 まるで、何かを弾き出したかのような…



 魔力の急激な変化に目の奥で火花が散るような感覚に襲われ、思わず息を飲む。


「…セラ?どうかした?やっぱり手伝う…いいえ、一緒に…手とり足とり私が…えへへ…」


 …えっ??


「ッ!?だっ、だいじょぶ!!!ジュリは、まってて!?ジュリのために、がんばる!!」

「セラが…私のために??…えぇ、えぇ!!待ってる!!頑張って!!セラ!!」


 声をかけられてジュリを見た瞬間、驚きのあまり言葉に詰まってしまった。


 …なんだ??さっきまで何も感じなかったのに…



 …ジュリが…怖い…???



 なんで…


 笑顔が、目付きが、雰囲気が、怖い。


 とても怖くて、見られているだけなのに足がすくむ。


 それに…思い返してみると、クルカラが話をしていても片時たりとも僕から視線を外さないジュリの様子は…言い方は悪いかもしれないが、ちょっと…いや、かなり…不気味だ。


 なんで??何が起きた??いつからだ??


 いつからジュリの様子はおかしかった???


 ………


 ボコボコとお湯の沸き立つ音がする。


 我に返り、ポットのお湯を紅茶ポットへゆっくりと注ぐ。



 ………



 ここまでの記憶を順を追って思い出していき、愕然とした。



 いつから、とかじゃない。



 最初からだ。



 扉を開けて目にした瞬間から、ジュリの様子がおかしかった。



 僕はなぜおかしいと思わなかった??



 なぜ今の今まで気が付かなかった??



 意味がわからない。



 理解の及ばない現象に心が騒めく。心臓がバクバクと音を立て、背中を冷たい汗が伝う。


 僕はなぜあんなにもテンション高く、無邪気に喜んでいたのか。心の奥底に違和感はずっとあったのに。見えていたのに気が付かなかった。


 何がどうなっているのか。頭の中が混乱し、ぐちゃぐちゃで思考がまとまらない。


 そんな混乱した脳を和らげるような紅茶のいい香りが漂ってくる。


 …お湯を入れてからどのくらい時間が経った??


 考えようとするたび不安や恐怖が襲ってきて、考えが先に進まない。


 背中を冷たい汗がつたい、身体がブルりと震えた。



 とにかくこの状況が…僕の頭の中がやばい事だけはわかる。



 …一先ず目の前のことから順に対処していくしかない…か。


 紅茶ポット…は素手で触ると火傷するんだった。カップに紅茶を…あっ、先に砂糖を入れとかなきゃ…


 ………


 紅茶ポットは2人用だったのだろう。いつもより随分と紅茶が少なく感じる3人分のカップをお盆に乗せ、ジュリとクルカラの待つテーブルへ運ぶ。


 頭が回らないし手も足も震えてしまうが、カップにはそれぞれ半分ずつしか紅茶が注がれていないおかげで溢れることは無かった。


「あ、あついから、きをつけてね…」

「あぁ…ありがとう…セラが淹れてくれた紅茶を飲めるなんて…夢見たい…」

「…いいにおい…これなに??」


 クルカラは紅茶初体験らしい。


 この部屋に入ってからずっと硬い表情をしていた顔が、ふわっと漂ういい香りに少しだけ緩む。


「こうちゃ、っていって、あまくておいしい…あっ。あつあつだから、きをつけて」

「あつあつ??」

「ここもって、ふーふーしてのむの」


 クルカラに説明しているうちに僕も少し落ち着いてきたようで、カップを持ちふーふーして飲んでみせる。


 すすっ…


 んっ!!いつもより甘い!!


 3人分用意してくれた砂糖を2人分の量の紅茶で割ったのだ。ものすごく贅沢な甘さだ。


 クルカラなんてあっち!あっつ!なんてやりながら紅茶を啜っている。


 そんなに急いで飲まなくても少ししたら適温までぬるくなるのに…とは思うものの、果物以外の甘味が無いこの場所で過ごしていると、砂糖の甘さに夢中になってしまう気持ちはよくわかる。



 すすっ…おいしい…



 …けど、すこし苦くなっちゃったな。勿体ない。



「おいしい…甘くて…少し苦くて…セラみたいな味…」


 !?!?!?


 ジュリのねっとりとした声色と視線に全身の肌が粟立つ。


 極力ジュリのほうを見ないようにしてるのに…視界の端に輪郭だけ見えるジュリからの視線にすら恐怖を感じてしまう。



 ………



 紅茶をちびりちびりと啜りながら考える。


 ジュリが怖い。なぜかわからないけれど、目の前にいるだけで心の奥底から恐怖心が湧き上がってくる。


 ジュリのほうに少し目線を動かすだけで、『これ以上はいけない』と心の奥で本能が警笛を鳴らす。



 さっきまではこうじゃなかった。身体の中の魔力が、変な色になっていたからだろうか。


 解らない。全く理解できない。


 僕のさっきまでの様子は何だったんだ。


 わからなすぎて、怖すぎて、頭が思考することを拒否している。けど…このままじゃいけない。ジュリとちゃんと向き合わなきゃ。


 今後のためにも…色々話も聞かなきゃいけないんだ。



 …ごくり。


 喉を通る紅茶が熱さを主張し、喉がヒリヒリと痛む。


 身体が恐怖で震えるのが痛みで少し和らいだ気がした。


 残りの紅茶をひと口で飲み込み、僕は意を決してジュリと向き合う。


「ッ…じゅ、ジュリは…これまで、なに、してたのっ」


 震える喉に必至に力を込め、絞り出すように声を出す。


 僕の問いかけに、ジュリはうっとりとした表情で妖しく微笑みを返してくれる。


「…セラのことを考えてたの…ずっと…ずっとずっとずっと…」


 …僕のことを考えてくれるのは嬉しいけど…答えになってないよ…



 ジュリと僕の距離はさっき紅茶を入れていた時よりも近く、ジュリの様子がよく見え…愕然とした。



 ひび割れた唇からは所々に血が滲み。


 ジュリの血走った目を濃いクマがさらに主張させ。


 腰までツルりと流れる様に輝いていた髪は以前に比べツヤがなく、あちこち跳ねて荒れている。



 たった半年。


 たった半年で、こんなにボロボロにされたのか。



 春に別れた時からのあまりの変貌ぶりに、そしてそれに今の今まで気が付かなかった自分自身に。


 強い怒りが湧き上がってくるのと同時に、胸がぎゅうっと締め付けられて苦しくなった。



 なんで僕はすぐに脱出しようとしなかったんだろう。



 なんで悠長に様子見なんてしていたんだろう。



 周囲がどうなっているかわからない?



 1度失敗すると次が難しくなる?



 …確かにそうだ。間違っては、ない。



 間違ってはいないけど…そんなの、ただの言い訳だ…



 春になったらジュリ達が他のどこかに連れて行かれてしまうことは聞いていたはずなのに…僕は…



 ………



 僕は…保身の為に…



 彼女達を…見捨てたんだ…

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