表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/108

だからまぁ、そこそこに

雌鹿邸オーナー・アルダイン視点になります

 ジュリを迎え入れてから3ヶ月あまりが経過したが…この状況は予想だにしていなかった。


 我が友ジンムカの願いにより、必要な資金が貯まるまで半ば匿う様な気持ちで受け入れたのだが…なんと、当の本人から積極的に客の相手をしたいと申し出てきたのだ。


 あまりの勢いに事情を聞いてみたところ、どうやら自身がジンムカに身請けされる時、一緒に小鹿亭に残してきた少女を身請けしたいと考えているのだとか。


 おそらくジンムカが前に話していた少女のことだろう。


「最近はジュリと一緒にもう1人、小さな少女を指名していてね」


 そんな言葉が飛び出した時にはジュリ一筋だったジンムカをも魅了する少女が現れたのかと大層驚いたものが、話を聞くうちに相当な訳アリらしいということがわかり少し安心したものだ。


 それと同時に、そんなだから金が貯まらんのだ、とも思ったが…まぁ、一途に惚れた女の願いを叶えてやりたいと思うその気概は僕も存外気に入っている。そんなジンムカだからこそ僕は友と認めているのだ。


 そんな友の妾候補の頼み、ましてや働きたいという願いなら、多少の融通は利かせてやるかという気にもなるというもの。


 とはいえ僕のした事といえば、顔馴染みの常連に『我が友、ジンムカの妾候補だ』と念押しした上でジュリを紹介したくらいだ。


 ただでさえ中級貴族であるジンムカの妾候補、そしてジンムカが我が友である事。それらを併せて伝えられれば、今後いくらジュリを気に入ろうとも略奪しようなどと考える輩は皆無だろう。少なくともそのような者は、完全紹介制であり僕自ら客全員を審査しているこの雌鹿邸の客にはなれない。


 だからまぁ、そこそこに気に入られ、そこそこに客が付き、そこそこに稼げればいい。


 ジンムカも金を貯めるのに数年はかかるだろうから、それに合わせて小鹿亭の少女を身請けして多少手元に金銭が残るくらい稼げるよう便宜を図ってやれば。


 幸いな事に、ジュリは人を惹きつける類の魔性を持っている可能性がある。あまり大きな声で言い広げることはできないが、魔性を持つ者など早々お目にかかれるものでは無い。見聞を広めるために一度経験してみたいという貴族も多い事だろう。


 と、当初は安易に考えていたのだが…


「アルダイン様、面会のご予約をされているオルジア様とご紹介者様がお見えになりました。それともう1人、新たに紹介したい者がいるとか…」

「…またか…」


 僕は今、毎日毎日、一体どこから湧いて出てきたのかと思うほどひっきりなしにやってくる新規の客の対応に追われている。


 雌鹿邸は僕の作りあげたユートピアだ。受け入れる客にもそれ相応の品位を求めているし、決して妥協はしない。


 その審査を楽にするため、誰かに紹介してもらわなければ客になる事ができない完全紹介制度をとっているし、紹介する側も下手な人物を紹介すれば自身の評価が下がることをわかっているからこそ、合格ラインをクリアできる者しか紹介してくることは無い。


 きっと今回紹介したいと連れてきた2人も問題ない人物なのだろう。


 念の為に直接会い、十分に面接を行い、問題ない事を確認するだけだ。

 決して大変な作業では無い。


 大変な作業ではないが、いかんせん数が多く気が滅入る。


 まったく…ジュリもジュリだ。

 あれだけの美貌を持ちながら決して奢らず、老いも若きも問わず客の選り好みをしない。


 無理をしているのではないかと何度か鎌をかけてもみたのだが…本当に何も気にしていない様にしか見えなかった。


「あの娘は良い子だ。枯れかけのワシ相手に嫌な顔ひとつせん。あまりにもワシが若かった頃と同じように自然に接してくるもんでな、まるで若い頃に戻ったかのような感覚がして久々に滾ってしまったわい」


 最近は歳を気にしてか覇気も減り、風俗通いも目に見えて減っていたオルジア老だったが、そう言って軽快に去っていった後ろ姿を見て当初は紹介してよかったと思ったのだ。


 だがしかし、オルジア老は相当ジュリを気に入ったのかあちらこちらに声をかけているらしく、ここ最近は風俗に通わなくなった年齢層高めの者達までをも引き連れて連日紹介にやってくる始末だ。


 その紹介が更に紹介を呼び、おかげで雌鹿邸には連日ひっきりなしに客がやってくるようになってしまった。


 ジュリにオルジア老を紹介したのは僕なのだが…今となってはもう少し相手を選んでいいんだぞと苦言を呈したいくらいだ。


 そんな朝から晩まで来客の対応に追われ、いい加減うんざりしていたある日の朝。


 今日も朝食後すぐ面談の予定が入ってるのかと若干うんざりしながら顔を洗いに行くと、珍しく朝風呂を浴びたらしいリーヤと出くわした。


「おはようリーヤ。珍しいな、リーヤが朝風呂なんて」

「あ、あぁ…おはよう、オーナー。そっちこそ珍しいじゃないか。普通に話しかけてくるなんて。一瞬誰かと思っちまったよ」


 そういえば最近は部屋に2人きりでいる時ですらあっちの喋り方でしか接していなかったか、と思いつつ。


「まぁ、他に誰もいないからな。たまにはいいだろう?」

「さぁね、好きにすればいいんじゃない?オーナーがどんな喋り方でも、こっちはこっちで勝手について行くから」

「キミは昔から素直じゃないね」


 リーヤは昔からそうだ。


『娼婦というものになってみたかったんです。縁を切ってもらって構いません』


 国一番の大商会会長の娘でありながら、家族と縁を切り娼婦という肩書きを背負ってまで僕に付いてきてくれた。

 実際には客の相手などしなくても、娼館で働けばなんと言い繕おうとも後ろ指を指され噂話の種にされてしまうもの。それをきっぱり娼婦になったとする事で噂話の芽を完全に摘んだ彼女の手腕と覚悟は流石だと思った。


 どんなときも強気で、物怖じせず、思慮深い。


 そんな彼女が朝早くから疲れた顔で風呂場から出てきたら、僕だっておどけてなどいられない。


「それで?朝風呂なんて珍しいじゃないか。昨夜は寝苦しかったかい?」


 まだ夏前で夜はそんなに暑くない。寝苦しい訳ないのだが、明らかに寝不足気味で疲れている様子の彼女のことが気になった。


「寝苦しい…そうね、寝苦しかったわね…」


 どうやら本当に寝苦しかったらしい。


「それよりオーナー、あの子、ちょっとやばいかもしれないわ」


 あの子とはジュリの事だろう。


「確かに連日働き詰めだが…本人が休みはいらない、もっと客の相手をしたいと言う以上、露骨に減らす訳にもいかなくてな…」

「それはそうなんだけど…あの子最近、全然眠れてないみたいなのよ」


 ジュリとは客の相手の前に顔を合わせているが、日に日に目の下のクマが濃くなってきていたので確かに気にはなっていた。


「『お客様に求められている間はセラの事を考えずに済む』とかなんとか言ってたけど…そのセラって子と離れ離れになって相当追い詰められてるんじゃないかと思う。急いで何かしらの手を打たないと、ぶっ倒れるわよ。…アタシが」

「ぶっ倒れ…リーヤが?待て、どういう事だ?」

「あの子に色々聞いてみたのよ。慣れない環境に馴染めなくて眠れないんじゃないかって思ってね。それで、いつもはセラって子と抱き合って寝ていたそうだから、じゃあアタシと抱き合って寝てみようかって。そしたら…うぅ…」


 両腕を抱え込み身体をブルリと震わせ言葉を詰まらせるリーヤ。


「…とにかく、早く何とかしないと、アタシが無理。ヤバいわあの子」

「…何があったのか教えて貰えるか?」

「…無理。お願い、聞かないで」


 強く目を瞑り、しかめっ面で何も話せないというリーヤ。

 ただならぬ雰囲気に、聞いているこちらも冷や汗が出てくる。


 なんだ、何があったんだ。


「…そう、匂い。匂いがしないとか言ってた。セラの匂いがしないって。本人は連れて来れなくても、服とか!セラって子の匂いのついてるものを取り寄せられない!?」

「あ、ああ。早速連絡してみよう」

「ああそれと、抱き枕も必要。大きめの、セラって子と同じくらいの大きさがいいと思う。あんなの相手してたらこっちの身が持たないわ…」


 リーヤはそう言いながらふらふらと出ていってしまった。


 もう少し詳しく聞きたかったのだが、彼女としては話は終わったんだろう。疲れているようだったし、引き止めて話を聞くより今できることをしよう。


 ささっと顔を洗い、執務室で小鹿亭への手紙をしたためる。

 内容はジュリに関して相談があるため時間を取って欲しいという事、セラという少女の匂いがついたものを用意しておいて欲しいという事の2点だ。


 使用人を使いに出すと、すぐに返事を持ってきてくれた。

 小鹿亭オーナーはすぐにその場で直近の開けられない予定を書き出して持たせてくれたそうだ。


 走らせ続きで悪いが早速午後一に予定を取り付けるため使用人に走ってもらうと、小鹿亭オーナーがこちらの時間に合わせて足を運んでくれるという。


 さすが仕事のできる男だ。運営の難しい中級娼館を任されるだけのことはある。


 午前中の仕事を終わらせ急いで食事を取り、あっという間に小鹿亭オーナーとの約束の時間となった。


 今日も予定がびっしりと詰まっているため急ぎ足での会談となってしまったが、話が聞けてよかった。どうやらこちらの想像以上に…いや、想像以上という言葉では生ぬるい程にジュリはセラという少女に執心しているらしい。


 その深過ぎる想いゆえか、何度か殺しかけてしまうなど…むしろ依存していると言ってもいいほどだ。


 我が友ジンムカよ…キミはとんでもない女性に想いを寄せているようだよ…


 ジュリとセラが出会ってたった1年間の出来事を聞いただけなのに、これほど頭の痛くなるような話が出てくるとは思わなかった。


 それと、小鹿亭オーナーはセラが普段着ている服を持ってきてくれた。

 女児専門の娼館で過ごす少女達が着ている、ごく普通の薄汚れたワンピースだ。


 小鹿亭を出る直前までセラが着ていたもので、洗濯の名目で回収したらしい。


 早速使用人に抱き枕として用意させた2人がけの枕の中に仕込ませるよう命じ、午後の仕事に取り掛かる。


 これでリーヤの負担も少しは減るだろう。


 ………


 ……


 …


「離しな!!こんなベチャベチャになっちまったら洗うしかないじゃないか!!」

「いやぁ!!!」


 翌朝、洗濯場で抱き枕を取り上げようとするリーヤと、顔中をベタベタに濡らして泣きじゃくりながら抱き枕にしがみつくジュリの姿を目撃した。


 …が、何も見なかったことにしよう。


 それよりも、小鹿亭オーナーへもう一度手紙を出さなければ。


 僕は急いで執務室へと向かうのだった。

アルダインが自身を「私」としていた部分を僕に修正しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ジュリとセラの話が毎回面白すぎる。 はやく再会してほしい・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ