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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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ただのやつあたり

「あっ、まって!!」

「セラ、アイビスと喧嘩しちゃったの〜?私が行ってくるよー」


 そう声をかけてきてくれたのはアイラだ。


 確かに嫌われてる僕が追いかけるより、アイラが追いかけてくれる方がアイビスにとってもいいだろうな。


「アイラ…えっと、おこらないであげて?」

「アイビスのこと?」

「うん…なにか、わけがあるのかも…」

「ん。セラは優しいねぇ。クルカラもそんなに睨まないの。うん、まずはアイビスの話を聞いてからだね〜」


 そう言うと、アイラは僕とクルカラの頭をポンポンとしてからアイビスが消えていった方向に歩き出した。


 アイラは頼りになるなぁ。シアノよりアイラのほうが1番上の姉さまっぽいんじゃないだろうか。


 なんて一瞬思ってしまったが、ルーンとリリカの方を見ると既にシアノが2人を抱きしめてフォローしていた。


 そういえば去年はジュリが1番上の姉さまだったが、決して1人で何でもこなしていた訳ではなく、同い年のミルカや他の子たちと協力して分担していたように思う。適材適所ってやつか。


 それにしてもクルカラはまだ睨んでたのか。


「クルカラ、にらまないであげて」

「むぅ…だって、アイビスがセラのこと、アンタって言った」


 …うん?


 確かに「アンタには関係ないでしょ」って言ってたけど…睨むポイントそこ?

 アイビスに『アンタ』と言われ、聞いたことがない言葉だったので一瞬なんの事かわからなかったけど、文脈から僕のことを指してるのかなと思って気にしてなかった。悪口か何かなんだろうか?


「『アンタ』って、わるいことばー?」

「…わるい…わるい…?」


 悪い言葉なのかどうか、クルカラが悩んでいる。悩むくらいのことなら睨まなくていいんじゃないかな…


「…こじいんでは、男の子がわるいふりしてる時とか、先生にアンタとかお前とか言って、そんなことば使うんじゃありません!って、おこられてたから…」


 悪いふり。なんだか小さい子が大人に反抗的な態度をとる時みたいな情景が浮かんでくる。可愛らしいなぁと思う反面、できれば子どもが使わないに越したことない言葉なんだろうな、と思う。


「そうなんだ…クルカラ、おこってくれてありがと」

「ふふん!クルカラはセラのおねーちゃんだからねー!」


 一応僕のために怒ってくれたのだからとお礼を伝えると、一気に上機嫌になるクルカラ。僕のお姉ちゃんではないが、単純な子で助かる。


 それで、と。


「それで、アイビスはなんで、ルーンのえを、ぐちゃぐちゃしちゃったの?」


 問題はそこだ。なんでルーンに意地悪してしまったのだろう。


「んー…わかんない」

「クルカラ、ちかくにいなかったの?」

「いっしょにあそんでたよ?」

「アイビスと?」

「うん」


 クルカラはアイビスと一緒に遊んでたのか。僕は遊ぼうと声をかけても無視されてたのに…


 若干ショックを受けつつ、話を聞き進める。

 どうやらクルカラ、ルーン、リリカ、アイビスや他数名でお絵描きをして遊んでいたらしい。


 最初は仲良くみんなでそれぞれ絵を描いていたが、少しするとアイビスがルーンにちょっかいをかけ始め、突然ルーンの絵をガリガリと塗りつぶしてしまったという。


 突然の事にみんな驚き固まってしまったが、ルーンの泣き声にハッとしたクルカラがアイビスに怒り、揉み合いの喧嘩に発展したそうだ。


 なるほど。ある程度はわかったが、肝心なところがわからない。

 そのため今度は当事者であるルーンに話を聞きにいった。


 シアノに静かに抱きしめてもらいルーンも大分落ち着いたらしく、ゆっくり話してくれる。


「ルーンは、てんとうむしさんかいてた」

「リリカはいもむし」

「アイビスが、ルーンのてんとうむしさんみて、しょっかくがないっていった」

「トゲトゲがあるいもむしもいる」

「ルーンは、しょっかく?ないよっていった」

「トゲトゲがないいもむしもいる」

「アイビスが、あるっていって、ルーンのてんとうむしさんにかこうとした」

「トゲトゲいもむしは、さわっちゃダメ」

「やめてって、アイビスのてをつかんだら、てんとうむしさんガリってなっちゃった…」

「トゲトゲいもむし、さわるとチクチク。ずっといたい…」

「かなしかった。アイビスがルーンのせいだって、てんとうむしさんもっとガリガリしちゃった…」

「さわるときけん。ちかづいちゃダメ…」


 2人して悲しそうな顔をして、ひたっと身を寄せ合うルーンとリリカ。


 ルーンの話はわかった。

 リリカはなんでいもむしの話を…ああ、リリカはいもむしの絵を描いてたんだっけ。ルーンが悲しい思いをしたのはわかったけど、リリカの悲しみはいつの思い出なんだろう…それにルーンとリリカは交互に話さなければいけないルールでもあるのだろうか…わからん。

 2人が通じあってるならいいか。


 要するにルーンがてんとう虫の絵を描いていたところ、アイビスが頭に触角がないと言い出し、勝手に描き足そうとしたのでやめてと手を掴んだら、勢い余っててんとう虫の絵をガリッと色石で傷付けてしまい、アイビスがお前のせいだと癇癪を起こしてガリガリと塗りつぶしてしまったということらしい。


 まぁ、子どもの喧嘩だ。すれ違うことも沢山ある。言葉が足らないことも、言葉より先に体が動いてしまう事だってしょっちゅうあるだろう。


 話を聞く限りアイビスもわざとじゃなかったようだし、ちゃんと理由があって起きたことらしい。


 仲直りできそうな内容でよかった。


 それにしても…


「てんとうむしに、しょっかく…??」


 てんとう虫に触覚なんてあっただろうか?


 おもわず頭を傾げる僕に向かって…


「ない」

「ある」


 ルーンとリリカが同時に答え、2人して驚いた顔で見合わせている。

 意見が違っても息ぴったりだ。


 てんとう虫に触覚…あったかなぁ…


 そうだ!!


「アイビスと、なかなおり、するの。いっしょに、てんとうむしさがそって」


 アイビスだって、ルーンと喧嘩したくて喧嘩したわけじゃなかったはずだ。失敗してムキになってしまっただけで。


 それなら原因となったてんとう虫を2人で探して、触覚があるのか無いのか確認してみればいいのだ。


 幸い、ルーンも仲直りには乗り気なようだ。

 てんとう虫を探そうと言ったら顔がぱぁっと明るくなった。


 今は春。

 まだ虫は少ないが、全然いないわけじゃない。探せばそのうち見つかるだろう。


 早速2人を連れてアイビスとアイラの姿を探す。アイラがいる所にアイビスもいるはずだ。


 僕としてはルーンと、ついでにリリカを誘ったつもりだったのだが…何故かみんなついてきた。聞くとみんな、てんとう虫を探すのを手伝ってくれるらしい。


 クルカラも僕の隣についてきているが、クルカラは明らかに不満そうである。

 クルカラの中ではアイビスと絶賛喧嘩中なのだろう。


 そうして2人の姿を探しながら庭を進み、畑がある所まで進んでようやく2人の姿を見つけた。


 こちらを見つけ困った顔をするアイラと、それまで普通だったのにこちらを見た途端に不機嫌な表情になるアイビス。


 はぁ…一体なんなんだ。


「セラー、ちょっと待っててー」


 アイラはそう言って少しアイビスと話をしたあと、1人でこちらに駆けてきた。


「待たせてごめんねぇ。えぇっと…みんなで来たんだねぇ」


 驚いているアイラに簡単に事情を説明する。


「なかなおりしたいから、いっしょにてんとうむしさがそって、さそいにきたの」

「てんとうむしさん、しょっかくない」

「てんとうむし、しょっかくある」

「いっしょにさがす」

「なかなおりできる」

「みんな、てつだってくれるって」

「そっかぁ。それで皆いるんだねぇ…うん、ルーンとリリカはアイビスとお話しておいで。みんなも探すの手伝ってあげてねぇ。セラは…クルカラも、ちょっとこっちに来てくれるー?」


 僕とクルカラだけみんなと引き離されてしまった。なんだろう?


 こちらを気にするルーンに「がんばって」とガッツポーズをして送り出し、僕とクルカラはアイラについて行く。


「これくらい離れればいいかなぁ。とりあえず座ろ」


 みんなが遠くに見えるくらいのところまで移動すると、アイラは僕たちと一緒に座り、考え込んでしまった。


 …遠くではルーンとアイビスの話が上手くまとまったのか、早速みんなでてんとう虫探しが始まっているようだ。


 みんなの方を見ながら不満そうな顔をしているクルカラにアイラが話しかける。


「クルカラはまだ怒ってるの?」

「…アイビス、セラにアンタって言った」

「あん…? あー、えっと、そっかぁ…嫌だったんだねぇ」


 アイラも予想外の回答だったのか、返答に困っている。クルカラ自身、それが悪い言葉なのかわかってないようだったし、アイラも一瞬そんなことで?みたいな顔をしていたし、実際よく使われている呼び方なのかもしれないな。そして先生に怒られると。


「アイビスにはあとでダメだよ〜って伝えておくねぇ。男の子みたいな言い方だし、よくないからねぇ」

「とし下なのに、なまいき」

「う〜ん…」


 クルカラ…その歳で年上年下の上下関係に厳しいのはさすがにどうかと思うよ…


「えっとね…実は、アイビスはセラに怒ってるみたいなんだぁ」

「えっ!?」


 アイビスが僕に??何をしてしまったんだろう…身に覚えが無い…


 一生懸命アイビスと今まであったことを思い出そうとするが、アイビスを最初に遊びに誘った時から無視されていた記憶しかない。


 どうして…何で怒らせてしまったんだろう…


「あははっ、セラがアイビスになにかした訳じゃないよぉ」


 一生懸命思い出そうと頭をひねっているとアイラに笑って頭を撫でられてしまった。

 僕がなにかした訳じゃない…なら、なんで怒ってるんだ?


「怒ってるってのも、ちょっと違ったかなぁ。ごめんねぇ。…ほら、この前までアイビスは、怪我で動けなかったでしょう?」

「うん…」

「その時にねぇ。セラ、ルーンとリリカを遊びに誘っていたでしょう?それがね…アイビスはセラが2人と自分を引き離そうとしてるように感じちゃって、すっごく嫌だったみたいなんだぁ」


 そんな…そう…だったのか…


 あの時は怪我で動けないアイビスのことをシアノやアイラが付きっきりで看病してくれていた。しかし、怪我をしていないルーンとリリカもすっかり怯えてしまい、2人が部屋から出ようとしないのをどうにかしないとと考えるばかりで、アイビスへ全然気を使えていなかったのも事実だ。


 確かに僕の行動はアイビスからすると、2人とアイビスを引き離そうとしていると受け取られても仕方がなかったかもしれない…


「アイビスも怪我が治って、遊びに行けるようになってから2人を誘ってみたけど、断られちゃったみたいでねぇ…セラのせいで遊んでもらえないんだって思っちゃったみたいなんだよねぇ」


 そうか…それで怪我が治ってからずっと、話しかけても無視されたり邪険にされてたのか。


「…ただのやつあたり」


 クルカラは辛辣だなぁ…でもそれは違う。

 完全に僕の落ち度だ。配慮が足りなすぎた。


 シアノやアイラが付いてるからアイビスは大丈夫だと決めつけて、アイビスがどう思うかなんて全然気にしてなかった。


 言われてみればアイビスの言い分はもっともだ。


 不安もある中で小鹿亭に一緒に入ってきて、1番仲良くなるはずの同期なのに、それを自分が動けないのを尻目に同期の子たちを遊びに誘い、自分たちを引き離そうとしてくる先輩がいたら誰だって嫌だろう。


 そして自分が動けるようになりいざ遊びに誘ってみたら、同期の子たちから拒絶されてしまうのだ。完全に僕のせいだと思われても仕方がない状況だ。


 とはいえ、僕が何度遊びに誘ってもルーンとリリカは1度も遊びに乗ってきてくれなかったのだが…アイビスはまだ5才だ。そこまで考慮してくれというのは酷だろう。


「…アイビスのきもち、かんがえてなかった…」

「セラはわるくない。わるいのはアイビス」

「クルカラ、それはちがう」


 それは違うとは言ったが、どう説明すればいいのか。

 クルカラだってまだ6才の少女だ。難しい話はわからないだろうし…


 どう説明しようかと悩んでいるとアイラに2人まとめて抱き寄せられる。


「セラは優しい子だねぇ。クルカラもセラを見習って、優しい心を持とうねぇ」


 いつの間にかクルカラの遠くでてんとう虫を探しているみんなの方を見る目がさっきまでと違い、睨むようなものから、ちょっと不満そうなものへと変わっている。


 クルカラも何となくはわかっているんだろう。僕のために怒ってくれる優しい子だ。


 ただちょっと、気持ちがすっきりしないだけで。


「…アイビスもねぇ、セラがルーンとリリカを自分から引き離そうとしたわけじゃないって、本当はわかってるんだぁ。でも、2人と上手く仲良くできない自分にイライラしちゃうんだろうねぇ。

 上手くいかないことを誰かのせいにしちゃえば楽だけど、そのままじゃあ上手くいかないままだから。ほんとは喧嘩なんかしたくないのに喧嘩しちゃって、ずっと仲直りできないのは…辛いと思うなぁ。クルカラも、みんなが仲良くいられたら1番いいと思うでしょう?」


 クルカラの唇をツンっと尖らせて不満そうな顔をしている姿はなんとも愛らしく、おもわず「かわいいねぇ」と頭を撫でたくなる誘惑に駆られるが…真剣な話の真っ最中にしていいことでは無いので、ほころびそうになる顔を何とか引き締める。


「アイビスだってここに来たばかりの頃は乱暴なこともしなかったし、乱暴な言葉も使わなかったでしょう?とっても辛い目にあったばかりだから…怪我は治ったけど、心がまだ苦しいんだと思うんだぁ。

 だからね。生意気な言い方とか、乱暴な言葉を使っちゃったりする事もあるかもしれないけど、アイビスのこと許してあげてくれないかなぁ」


 …そう、アイビスは辛い目にあったばかりなのだ。全身傷だらけになって、きっと僕には想像もできないほどに怖くて痛くて苦しかったはずだ。


「クルカラ、ゆるしてあげて。おねがい」

「………」


 返事はしてくれなかったが、黙って頷いてくれた。


「ありがと」


 不承不承といったところだが、何はともあれ納得してくれたようでよかった。お礼を言うついでに可愛らしく主張している唇をキュッと摘んだら、怒られて逆に頬っぺをもみくちゃにされてしまった。


 ごめんて…好奇心には勝てなかったよ…



 僕のほっぺを散々もてあそんで満足したのか、機嫌の治ったクルカラとアイラと一緒にみんなの所へと向かう。

 若干ひりひりするほっぺをさすりながら周りの子達に聞いてみると、どうやらてんとう虫はまだ見つかっていないらしい。


 どこでも見かける気はするけれど、いざ探してみると案外いないものである。


 てんとう虫はもう少し暖かくなってからかな。



 アイビスとルーンとリリカは仲直りできたのか、それとも仲直りするために一緒に探しているのか。3人で並んで探しているところに僕らも近付いて行く。


 僕もアイビスと仲直りするためだ。


「クルカラはセラとあそぶから。アイビスはルーンとリリカとあそべばいいよ」

「なんでそんなこというの」


 開口一番にツンっとした態度でそう言い放ったクルカラにチョップしつつ。


「アイビス、ごめんね。アイビスがたいへんだったのに、アイビスのこと、かんがえてあげれなかった。ルーンとリリカ、おちこんでたから、げんきにしてあげたかったの。いやなきもちにさせて、ごめんね」


 どうやって謝ろうかと色々考えたが、自分が思ったことをそのまま全部話すことにした。難しい言い回しとかわからないし、それで気持ちが伝わらなければ意味が無いからだ。


 アイビスも先程までとは違い睨んだりせず、ただ…素直にうんいいよと仲直りできるほどまだ心の整理もできていないのだろう。居心地が悪そうな表情で僕の謝罪を聞いてくれた。


「…アンタなんでそんなへんなしゃべりかたなの?」

「あー!またアンタって言った!」

「クルカラにはいってないでしょ!こんなやつ、なまえでよびたくないもん!」

「セラはセラだよ!アンタなんていいかたしたら、おこられちゃうんだからね!」

「ふんっ!しらない!!」


 アイビスからの指摘におもわずぽかーんとしてしまったが、僕はそんなに変な喋り方をしてるんだろうか。


「セラのしゃべりかた、へんー?」

「とてもかわいいですよ」


 隣に来ていたシアノに聞いてみたが、なんとも的を得ない回答しか返ってこなかった。

 周りにいる子たちもうんうんと頷くだけで、変なのか変じゃないのかよくわからない。


 仲直りの話もクルカラとアイビスが言い争いを始めてしまった事で有耶無耶になってしまい、その日は結局仲直りできず…


 アイビスとの仲直りはまだまだ時間がかかりそうだ。

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