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断罪

「屋敷が変な連中に囲まれてるわ! 大公の旗を掲げた騎士団よ!」


母が報せを持ち込んだとき、確信した。

イシリア嬢が証拠を手に入れたのだと。

証拠を手に入れ次第、外で待つ騎士団に合図を出して動いてもらうことになっている。


瞬間、父が眉をひそめる。


「た、大公閣下の騎士団だと……? 事前の示し合わせもなしに閣下の軍が動くなど、まるで我が家を潰しにきたようではないか……!?」


「だからそう言ってるじゃない! きっとあなたが帝国に寝返ろうとしているのがバレたのよ! どうにかしてちょうだいな!」


「い、いや……大丈夫だ。しらを切ればいい。そうだ……急いで金庫を隠さねば」


父は脂汗を滲ませながらも、まだ逃れる余地があると思っているようだった。

ただし、そんな余地を潰すかのように。

ロゼーヌを伴ったイシリア嬢がやってきた。


「……すでに金庫内の密書は回収させていただきましたよ、ネシウス伯。執務室に地下の酒蔵、井戸裏の小屋。使用人の方々の助けもあって多くの証拠を回収できました」


「セフィマ伯爵令嬢……まさか、あなたが……!?」


「マリーズ嬢も時間稼ぎをありがとうございました。あなたのおかげで無事に騎士団を動かせましたよ」


父が咄嗟にこちらに振り向く。

彼の目には、かつてないほどの憎悪の炎が燃えていた。

わたしの背筋にゾクリと悪寒が走る。


「マリーズ、お前……まさか情報を売ったのか!? 何を考えている、この出来損ないが! 実の両親を裏切るなど言語道断だ!」


「そ、そうよ! あなたが起こした問題でしょう!? 今すぐに責任を取りなさい!」


両親はすさまじい剣幕でわたしに詰め寄った。

大丈夫、落ち着いて……二人から怒られるのはこれで最後。

最後くらい自分らしく反抗してやるんだ。


「そうやってわたしを道具扱いするから、見放されたのではないですか?」


「なんだと……!?」


「わたしをお金としか見ていない、悪評の尽きないリディオ様とも婚約させようとする……娘の幸せを考えようとしたことがあるのですか? 貴方たちを両親と思うことはできません。そちらがわたしの幸せを願わないのなら、わたしも貴方たちの幸せを願うことはできませんわ」


どうせ両親は牢に繋がれるのだ。

この際、今までに我慢していたことを言ってやらねばならない。


父の顔が紅潮する。

今まで従順な操り人形だったわたしに、言い返されるなど思っていなかったのだろう。


「お前……! 躾が必要なようだな!」


「――そこまでだ」


父が詰め寄ろうとした瞬間。

わたしの前に大きな影が立った。


「貴様は……トリスタン!」


「ネシウス伯。あなたには公国への反逆容疑がかかっています。大公閣下の命により、夫妻の身柄を拘束させていただきたい」


「何をふざけたことを! 今すぐにマリーズを渡せ!」


「一度手放してしまったマリーズを、二度も手放すものか。私はもう彼女を失わないと決めたのだから。申し開きがあるのなら法廷で聞こう」


トリスタンが片手を挙げると、屋敷に兵が雪崩れ込んでくる。

こうした場面での手際のよさは、トリスタンの右に出る者はいないだろう。

取り押さえられようとする父はなおも抵抗。


「ま、待て! 私は長い間、大公閣下のために領地を治めてきたのだぞ!? 多少帝国と交渉をしていただけでこの仕打ちはどうなんだ!」


「多少……ほう、通算三十回以上にもわたる密書のやり取りがか? イシリアが回収した密書の内容を見れば、何を企んでいたのかは一目瞭然だが」


「し、しかし……領地はどうなるのだ! それにマリーズのことも……」


「ネシウス伯爵領は、告発者であるアルバン子爵領に接収される予定だ。民の暮らしは今よりは豊かになるだろうな。マリーズの将来に関しては、アイニコルグ家が保障しよう。決して彼女が不幸にならないように取り計らうつもりだ」


トリスタンの言葉を受けた父は愕然とする。

領地の喪失。

それは暗に爵位が剥奪され、貴族でなくなることを示していたのだから。


「た、頼むトリスタン! この一件だけはどうにか見逃してくれ! 二度と帝国に親書は送らぬように誓おう……な、元義父の頼みだと思って!」


「……私はマリーズを愛していても、あなたがたを敬愛しているわけではない。あなたが本当に娘のことを思っているのなら、ここはマリーズに謝罪する場面ではないのか? 最後の最後まで自己保身しか考えていないのだな、あなたは」


諦観。

トリスタンの言葉に籠っていた感情だ。

わたしはもうとっくに諦めていたけれど、彼はまだ両親が更生する余地があると思っていたのだろうか。


「……連れて行け」


命令と共に両親が連れ去られていく。

もう二度と会いたくない。

いや……実際、わたしの望みどおり二度と会うことはないのだろう。


「待て! やめろ、私は無実だ!」


「助けてマリーズッ!」


耳を塞ぐ。

瞬間、わたしの体を温かいものが包んだ。

トリスタンの抱擁を黙って受け入れる。

以前はわたしに触れることを躊躇していたけれど……拒みはしない。


喪失と解放を同時に味わう、奇妙な感覚。

わたしは意味なく涙をこぼした。

両親と別れることは悲しくない、悲しみの涙じゃない。


今……寄り添ってくれる人がいることが嬉しくて、わたしは涙を流したのだ。

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