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理解

見知らぬ天井。

覚めやらぬ眠気のなか、わたしはここが実家ではないことを思い出す。


時刻は……朝と昼の中間。

いけない、寝すぎてしまった。

隣部屋にしてもらったロゼーヌを呼び、朝の支度を始める。


「おはようございます、お嬢様。いつもと違うベッドでしたが眠れましたか?」


「ええ。いつもと違う……とは言っても、何度か泊まったことのあるお屋敷だし」


子どものころを思い出す。

小さいころはトリスタンと共にこの屋敷を駆け巡ったものだ。


「アイニコルグ伯爵夫人のはからいで、部屋にあるドレスや調度品は自由に使ってもよいとのことです」


「そうね。わたし用のドレスも捨てられていないみたいだし、ありがたく使わせてもらうわ」


いつまでもリディオのために買ったドレスを着ていても仕方がない。

わたしは衣装棚から青と金を基調にしたドレスを選んで着た。

……うん、やっぱりこういう色合いのものがしっくりくる。


「そういえば……早朝、トリスタン様がお戻りになられました。お嬢様が起きたら話したいことがあると」


「あぁ……両親と話し合ってきたのかしら? それにしても早く帰ってきたわね。学校とか大丈夫なのかしら……?」


頑固な両親のことだ。

トリスタンにきつく当たっていないだろうか。

彼が一方的に突きつけた婚約破棄は許されたことではないけれど、だからこそ父や母が過剰な罵倒を浴びせていないか不安になる。


わたしは急いで支度をしてトリスタンの部屋に向かった。


 ***


「結論から言えば、君の両親は説得できなかった。私の実力不足だ。すまない」


トリスタンは結論から述べた。

両親はわたしを家に帰すようにと催促しているらしい。


「そう……仕方ないわね。実家に帰るのは億劫だけれど、いつまでもお邪魔するわけにもいかないし。きっとお父様も心配しているでしょう」


「いや、帰る必要はない。私がなんとか交渉してみせる」


「え……? でもアイニコルグ家に迷惑がかかってしまうでしょう? 監禁を疑われてもおかしくないわ」


トリスタンは何かを我慢するように口ごもっている。

幼少からの付き合いだ、隠し事をしているのはすぐにわかった。


「……両親が何か言ったのね?」


「……いや、建設的な交渉だったとも。少なくとも君が置かれている現状をネシウス伯に説明することはできた」


「わたしがリディオに騙されていることも?」


「ああ、説明した」


それはおかしい。

わたしがリディオに騙されていることを知っているなら、普通はアイニコルグ家に滞在することを許可してくれるはずだ。

それとも何か、あの性格の父が婚約者を失ったわたしを労わるとでも?


「どうせ両親はこう言ったのでしょう? 愛人でも何でもいいから、リディオとわたしを結ばせるって」


「…………あぁ。よくご両親の性格を理解しているんだな」


「そういう人たちだもの。トリスタンはわたしを助けようとしてくれているみたいだけど……あの両親がいる限り無理なのよ。否が応にも望まぬ婚約を強要されるでしょう。結局、他家のつながりとお金が欲しいだけだもの」


極論、リディオでなくとも誰でもいい。

資金援助してくれる貴族の家ならば。

貴族としての生活の質を落とさないために、両親はわたしを金に換えようと躍起になっていた。


「金……か。それならば当家からネシウス伯爵家に資金援助をするというのはどうだろう。一年前と同じように」


「……それは」


どうだろうか。

今やトリスタンとネシウス伯爵家には何のつながりもない。

むしろ関係性はかなり悪化している。


アイニコルグ家とローティス家、仮に両方が援助を申し出たとしよう。

父は誇り高い人間でもあるから、ローティス家の援助を受ける可能性が高い。

あるいはローティス家とすでに援助の約束を取り付けているか。

だからトリスタンを軽くあしらい、わたしを帰すように要求したと考えられる。


貴族間の信頼は重要だ。

信頼を傷つけた以上、トリスタンの要求は通らない可能性も高い。

トリスタンの父であるアイニコルグ辺境伯直々の頼みならまだしも……今は病で寝込んでいるし。


「トリスタン。わたしは貴方だけならまだしも、貴方のご両親やアイニコルグ伯家の人には迷惑をかけたくないの。ここは大人しくお父様に従うしかないと思うわ」


「……駄目だ。絶対にリディオなんかに君は渡さない。未来でリディオに捨てられた君が、どれほどつらい思いをしたか知っているからな。悪いがこれだけは譲れない。君は安心して屋敷で過ごしていてくれ」


やっぱり頑固だ。

一度決めたら中々退いてくれない。


でも……そういう側面を見るほど支えてあげたいとも思う。

いや、婚約者だったころはそう思っていた。


「次の策に移る。まだまだ打つ手は考えてあるんだ。実家に帰ることを考えるのは、私が万策尽きてからにしてほしい」


「ええ、わかった。……無理はしないでね」


「ありがとう。やはり君は理解のある人だな」


そう、トリスタンのことは理解している。

良い側面も、悪い側面も。

だからこそ心配しているのだ……彼が無茶をしてしまうのではないかと。

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