かにはこいつがいいのかも ~そのパッケージの商品説明を信じてはいけない~
世の中には誇大広告というものがあります。
一般的に『紅ズワイガニ』は『ズワイガニ』より安価ですが、『紅ズワイガニ』を『ズワイガニ』と称して売ると問題になります。
もちろん、現実の性能より大げさに書いたり、ないものをあるかのように誤認させることは景表法で禁止されています。
しかし、逆のパターンもあるでしょうか。
実際の性能を、わざと低く誤認させる表記とか……
その森では栃の木が並んでいる。白い花が香りをたてていた。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、笹で巻かれた白い粽が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
彼らは薄荷の匂いの水を身体にぺたぺたと塗っている。
「んとね。白猿さん。これってほんとに蚊にきくの?」
「さてな。この森には蚊がいないから効果はよくわからん。最近暑くなってきたから、清涼効果が期待できるぜ」
「んとね。人間の世界では、今年はもう蚊が出始めたみたいなの。まだ五月なのに」
「先月も気温が高かったからな。幼虫のボウフラが増えやすくなったかもね」
「人間の世界の『虫よけ』も、商品によって効果がまちまちみたいなの。パッケージに蚊の絵が描いているのに、注意事項に小さく『血を吸う蚊は対象外』って書いてる場合もあるの。白猿さん、これってどう思う?」
「蚊によく似た『ユスリカ』が対象となっている商品もあるな。ユスリカは血を吸わないんだ。でも大手のメーカーの商品で、成分に『ディート』か『イカリジン』が入っていれば、血を吸う蚊にも効くはずだぜ」
「そうなの? じゃあ、なんで対象外にするんだろう?」
「大きな理由は以下の2つかな」
1)使ってても血を吸われる可能性あり
2)効果を表記するには認可が必要
「1つめのは、効き目が弱いってこと?」
「血を吸う種類の蚊のメスは、産卵のための栄養補給で血を吸いに来る。虫よけは蚊が嫌がる匂いなんだけど、我慢して吸いに来る蚊もいるんだ」
「ある程度は効果があるのかな」
「身体のむき出しのところに虫よけを塗って、左腕だけを塗らなかったとする。蚊がいるところで歩き回れば、左腕の方が多く刺されると思うぜ」
「んとね。ぼくはそんなのは試したくはないの」
「ついでにいうと『ディート』『イカリジン』は、ユスリカより血を吸う蚊を対象にしていると思うぜ。血を吸いに来る蚊のセンサーを狂わせる効果があるからな」
「じゃあ、それを使った方が刺されにくくなるんだね」
「まぁ、怪しいメーカーの商品だと本当に効果がないかもしれないから、ネットの評判とかも見ておいた方がいいかもな。医薬品とか医薬外品って書いているものは効果が期待できそうだ」
「さっきの2つめの理由だよね。認可がいるとか」
「蚊が血を吸った場合に、伝染病を広めることがあるんだ。だから『血を吸う蚊』への効果は、伝染病を防ぐ効果があるってことになるんだ。効果を商品に書くためには、厚生労働省の審査を受けて、医薬品や医薬外品にする必要があるぜ。ただし、認可を得るには何年もかかるし商品の価格も上がるから、メーカーもやりたがらないんだね」
「じゃあ、『血を吸う蚊』に効果があっても、対象外って書いたほうが売りやすいんだ」
「そういうこと。蚊の虫よけの説明で『ユスリカでしか検証していません』と書いてあったとしても、大手メーカーのだとまず『嘘』だろうな。検証用に血を吸う蚊の養殖もしているだろうし、そいつで検証していないとは考えづらい。そもそもユスリカは、人間の家に入ってくる可能性も、皮膚にとまる可能性も低いんだ。ユスリカで検証する意味はほとんどないんだよ」
「パッケージに書いたことが真実じゃなくても、そういうのは許されるのかも」
「家の中では、虫よけより蚊取り線香とか電気蚊取器がいいかな。スプレータイプの殺虫剤なんかも、寝室で手軽に使えるものもあるみたいだ」
最近は、蚊よけになるリアルのトンボの模型も売られているようです。
暗いところでは効果が低いかも。