1「迷子の一年生」
ひらり、ひらり。桜の花びらが舞い落ちる並木道は煉瓦造りの建物に続いている。立ち尽くす少女の足元で、花びらは風に吹かれて踊る。
「……迷った」
ぽつりと零した言葉を聞くものはいない。少女ーー東雲志乃はため息をついた。
晴れて高校生となった彼女は、昨日から、ここ汐留学園高等部の生徒なのだが、いかんせん校舎まで辿り着けないのだった。
方向音痴というわけではないと自身では思っているし、確かに頻繁に道を間違えたり迷ったりするわけではない。
広大な敷地なうえに、似たような建物、似たような道、似たような景色が広がるため、途方に暮れていた。
「はあ……」
早起きしたので散歩してから行こうなどと思わなければ良かったと志乃は後悔した。周りの子達と同じタイミングで寮を出れば、今頃は教室に着いていただろうに。
入学早々に遅刻してまうのかと、志乃は肩を落として歩いていると煉瓦造りの建物のあたりに人がいるのを見つけた。あの人たちもきっと今から高等部の校舎に行くに違いない。
志乃の表情に少し明るさが戻ったが、彼らに近づくにつれて彼女は怪訝な顔つきをした。
「一年生? 君、かわいいね」
「ねえねえ名前は? 俺たちと遊ぼう」
「え、あの……」
毛先がふんわりとウェーブした長い髪は亜麻色で、お人形さんのように大きな瞳は明るい茶色。まさに美少女。そんな可愛い女の子が、いかにもヤンキーといった風情の男2人に絡まれている。
「すみません、今から学校に行かなくてはならないので……」
「知ってる、俺たちも生徒だし」
志乃は少し離れたところで足を止めて様子を伺っていた。だが、一人の男が美少女の腕を掴んで無理やり歩き出そうとすると、すぐさま駆け寄って茶髪の男の腕を掴んだ。
「この子、嫌がってますよ」
「は? あんた学園警察?」
「学園警察?」
初めて聞く単語に志乃は首を傾げたが、もう一人の金髪の男が割って入った。
「あれ、君も一年生じゃん」
男は志乃の左胸あたりに視線をやっており、彼が見ているのは名札である。汐留学園高等部では名札の色が学年ごとに違い、一年の志乃は赤だ。男たちは緑色なので、2年生のようだった。ちなみに、3年は青色である。
「ほんとだ。じゃあ学園警察じゃないんだ。そうだ、君も俺たちと遊ぼうよ」
「無理です」
志乃はそうきっぱりと言い、美少女の腕を掴んで歩きだそうとしたが、男が肩に手を回してきた。反射で手を上げそうになるのを志乃は堪える。
「あの、困り「何をしているんだ」
その言葉に被さった声は、また別の男だった。