表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/241

7-1『神様』

新章開幕。

 燦々と照りつける太陽。

 セミの鳴き声が今でも耳に響いてくる。

 吹き出す汗と、涼し気な風鈴の音。

 庭先で、私は切り分けられたスイカを片手に祖母を見上げていた。


 よく、祖母は言っていた。


『この世界には、神様がいるんじゃよ』

『……かみさま?』


 幼いながらに、私は首を傾げて疑問を覚えた。


『でもみんな、かみさまなんていないー、っていってるよ?』

『いいや、茜。神様は、ちゃーんといるんじゃ』


 大きな祖母の手が、私の頭を撫でた。

 優しく、柔らかく、シワの刻まれた老人の手。

 私はその手を握り返すと、祖母は語った。


『昔っから、普通じゃ説明とつかんことは、多くあった。奇跡もあったし、その中で不幸もあった』

『……?』

『……神様はなぁ。いっつも、私たちのことを見てくれとるんじゃ』


 祖母は、そう言って顔を上げる。

 雲ひとつない青空を見上げて、太陽を見上げて目を細める。


『昔……ずぅっと昔。神様と、人間が戦ってなぁ。その時に、こっちの世界に移り住んだ神様っちゅうのが、今でもずっと生きているんじゃ。生きて、私たちのことを見守ってくれとう。だから、頑張るんじゃ』

『……がんばる?』

『そう、頑張る』


 私の言葉に、祖母は笑った。



『努力は必ず報われる。必ず神様が見とってくれる』



 だから、折れず、腐らず、諦めず。

 いつだって、一生懸命頑張るんだ。


 そう告げた、2日後の朝方。

 私の祖母は、心臓の病で永眠した。




 ☆☆☆




 少女はその日、1年A組の教室にいた。


「で、どう? 近くで雨森ってのを見た感じ」


 赤髪の少女、紅秋葉は問いかける。

 既に、自分の中で答えは出たという顔だ。

 少女は大きく頷くと、自分の見解を述べる。


 雨森悠人は、脅威である。

 異能は【燦天の加護】と盗み聴いた。

 これは『夜宴の教室』の外、堂島忠と雨森悠人がグラウンドで戦った際、彼の感知範囲外から聞き及んだ能力だ。

 三つの異能を保有する異能。

 1つは万能の霧の力。

 1つは最速の雷の力。

 最後の能力は、完全に不明。

 十分、脅威に値する。


 そこまで聞いて、紅は顔を歪めた。

 しかし、彼女が口を開くより先に、少女は重ねた。



 ――だが、雨森悠人には欠点がある。



 その言葉に、その場にいた多くの者が反応を示す。


「おや、どういうことダイ? 言っておくがねガール。アマモリはこの場にいる誰よりも、肉体的に高位にイルよ? 勝てないわけではないが、間違いない」

「あー、それなぁ。話は聞いてたけど……想定以上だったわ。ありゃ人間やめてるよ。化け物の一種だ。どんなスポーツやったとしても、世界で上位に喰い込めるだろ、アレ」


 ロバート・ベッキオ、米田半兵衛。

 A組が誇る近接最強の2人が、それでも言った。

 その時点で、彼の純粋な肉体の強さは測り知れる。

 だが、それでも勝ち目が無いわけじゃない。



「――雨森悠人は、公衆の面前で能力を使えない」



 ふと、横合いから声が聞こえた。

 そこには背筋を伸ばしてたたずむ一人の少女、邁進が居た。


「……夜宴、八咫烏、でしたか。どうやら、朝比奈霞をメインに据えて、影から介入するつもりらしいですが……あまりにも浅はか。それは言い換えれば、表では目立ちたくないと言っているようなもの」

「なるほどね。否が応でも目立っちまう。そんな状況に陥れちゃえば相手はなんの力も使えない、ってわけね」

「現に、彼は新崎康仁に、公衆の面前で敗北している」


 それが、雨森悠人の弱点。

 自身による自身の力の制約、制限。


「それに、燦天の加護……と言いましたか。確かに便利な力だとは思いますが、それが強いとは思いません。なにせ、その力もまた加護の力。【概念使い】と来れば警戒もしましたが、加護の中で三つの力を保有するとなると……個々の力はそれ相応に弱まってくる」


 邁進の推理に、少女は頷いた。

 確信は無い。

 だが、確実に『何らか』の隙はある。

 でなければ、同じ異能として成り立たない。

 現に、熱原の【熱鉄の加護】は、熱と鉄の2つの能力を有しているが故に、純粋な個の【加護】と比べると強烈さで劣る。


 朝比奈霞の雷神の加護。

 新崎康仁の神帝の加護。


 あれらと、雨森悠人の誇る3つのうち1つが、同等なはずがない。



「……まぁ、本当にそれだけなら、苦労しないんだけどね」



 ふと、紅はクラス後方へと視線を向ける。

 そこにはポツンと一人で机に座り、彼女らを楽しそうに見つめるアルビノの少女が存在していた。


「あら、どうかしましたか?」

「ねぇ、橘。ちょっとは手伝ってくれてもいいんじゃないの?」


 橘月姫。

 1年A組の王。

 最強の概念使い。

 彼女は紅の言葉に微笑んだ。


「いいですよ? ただ、これは、あなた方が『雨森悠人に勝てる』と言って始めたこと。なれば、私が介入するのは、貴女方が敗北した後です」

「……コチラが敗北する前提デスね?」


 ロバートが、眉を寄せて問いかけて。

 それを受け、彼女は驚いたように目を丸くした。



「えっ、当たり前でしょう?」



 逆に勝てると思ってるんですか?

 そう言わんばかりの様子に、少女は歯噛みした。


「……言っとくけどね。私たちは、他でもないアンタが見出して、直々に異能を教えた生徒たちよ? それが……負けるとでも思ってる訳?」

「はい」


 即答だった。


「正直なところ、あなた方はとても強い。この短期間でそれだけの力を身につけた。驚嘆に値します。が、相手が悪すぎます。今回ばかりは」


 橘は、雨森悠人を正当に評価していた。

 ……いいや、彼女でさえ『過小』なのかもしれない。

 過大評価するに足るだけ、彼の底を見れていないのだから。

 故に、これは過小評価。

 最低でもこれくらいはやるだろう、と。

 そんな感覚の元に生まれた感想だ。


「……あんたね。いくら雨森が大好きだからって、色眼鏡使ってんじゃないでしょうね」

「さて、どうでしょう? 恋は盲目、愛は麻薬と言いますし。もしかしたら、不肖この私、雨森様に夢中になりすぎるあまり、現実が見えていないのかも」

「あー、わかったわかった、バッチリ見えてその結論なのね」


 唐突に演技がかった台詞を言い始めた橘に、紅は言葉をかぶせるようにそう言った。


「珍しっ。あの橘が読み違えるなんてあるのか……」

「失礼ですよ、米田。橘様とて人間。時にそういった時もあります」


 米田の言葉に邁進が口を出す。

 その姿を、橘は笑って見つめていた。

 それは、女神のような微笑みだった。


「ええ、そういうこともありましょう。なので、頑張って私の間違いを証明してくださいまし。否定されることは、とても嬉しいことですから」

「でた、橘の変態。否定されて喜ぶとかどんなマゾよ」

「ええ、もう、肯定や正解、納得なんて感情は飽き飽きです」


 天才ゆえに、何もかもが思いどおりになる。

 その生に、橘は嫌気が差していた。

 だからこそ、自信を否定されることを嬉しく思う。

 自分が間違っていると叩きつけられる。


 ――自分より優れている()()()()()()相手がいる。


 その事実に、快感すら覚える。


「楽しみにしていますよ。それと、間違っても手は抜かないこと。私はいつでも、あなた達を見ていますから」

「ひー、怖っ、なに、アンタは神様かなんかなわけ?」

「……紅」


 紅の言葉に、邁進が諌めるように口を挟める。

 その光景に、白髪の少女は楽しく笑う。



「さて、私は、なんなのでしょうね?」




 ☆☆☆




 夏休みが明けた。

 新学期が幕を開け、いつも通りの日常が帰ってくる。

 そう、いつも通りの日常。

 いつも通り……、いつも、通りの――。


「……なぁ、雨森。お前、小森さんになんか変なことしたのか?」


 唐突に、烏丸が僕に問うた。

 僕は否定した。何もしてないと思うよ、と。

 そしたら彼は、とっても引き攣った笑顔を浮かべて。



「いや、めっちゃお前のこと睨んでるけど」



 隣の席を見る。

 小森さんが、僕の事を睨んでいた。

 視線を逸らした。烏丸の目を見た。


「……本当だな。どうしたんだろうか?」


 ドッ、と小森さんの拳が机に叩き付けられる。

 思わず烏丸が身体をびくつかせる。

 かく言う僕もめっちゃ驚いた。やめてよねー、そういうの。


「……うわっ! ちょ、ちょっと、びっくりするでしょ! 急に何するのよ、小森さんって言ったっけ? 机を叩くのは自由よ? でもね、びっくりするから事前に言ってちょうだいな」

「で、なんでいるの? その人」

「知らん」


 そして、僕の膝の上に座ってる四季いろは。

 もはや僕への『Love』を隠すつもりは微塵も無いらしい。

 彼女は当然のように僕の膝上に座り、ちょっとズレたことを指摘する。


「あら悠人! もしかして私のこと話してた?」

「話してない。お前の聞き間違いだろう」

「あら、悠人がそう言うのならそうなのね」


 もう、四季は僕に対して『能力』は使ってないらしい。

 彼女の能力【嘘王の戯れ】。

 嘘発見&相手の好感度を稼ぎ、騙しやすくする能力だ。

 その力を使えば僕の嘘なんて1発だと思うんだけどね。まぁ、気合い入れて思い込みを激しくすれば、彼女の能力を躱すことも苦じゃないんだが。


「……雨森。お前、私を侮辱したこと、忘れたとは言わせない」


 ふと、小森さんが話しかけてきた?

 えっ、侮辱?

 難易度低すぎて楽勝でしたわ! 的な発言のことか?

 余裕綽々で彼女に背を向けたことに対してか?

 それともカレーを配る時彼女のカレーだけ肉を少なめにしたことか?

 それに気がついた小森さんが怒っている中、無表情で豚肉をほおばったことに対してかもしれない。

 やべぇな、心当たりが多すぎて分からない。


「……なんの、ことだ?」

「……そう。なら、それでいい。否が応でも思い出させる。それだけだ」

「ね、ねぇ雨森? 小森さんめっちゃ怒ってない? お前まじで何やったんだよ……あの無口な小森さんがブチギレるって相当だぞ……」


 烏丸の声を聞きながら。

 僕は、小森茜の真意について考えていた。


 ――何に対して怒っているのか?


 その答えはきっと簡単だ。


 雨森悠人が、1年A組を格下として見ている事実に対して。


 彼女の怒りはその一点に集うのだろう。


 決して楽に勝てるような相手じゃない。

 場合によっては苦戦するかもしれない。

 けれど、勝てる。

 そも、僕が脅威を感じているのは橘単体に対して。彼女が『手を出さない』と宣言した以上、それ以外のA組を相手に、敗色なんて見えちゃいない。


 今回も。なんだかんだで最後は勝つんだろうなって楽観視してる。



 ――彼女はきっと、それが気に食わないのだ。



「井の中の蛙、大海を知らず」


 小森茜は、僕を睨んで呟いた。

 その瞳には明確な憎悪と殺意が宿っていて。



「覚えておくといい。近いうちに、お前の人生最大の教訓になる」



 そうかい、なら、覚えておこう。

 ただ、その言葉、そっくりそのままお返しするよ。

 お前が蛙で、僕が海だ。

 お前じゃ僕には勝てないよ、小森茜。



「楽しみにしておく。頑張ってくれ、応援してる」



 僕の心ない言葉に、彼女は強く歯噛みした。

 そんな光景を、烏丸が心配そうに見つめているのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
― 新着の感想 ―
[良い点] 小森さんって 「ざぁこ♡ ざぁこ♡」 ってなりそうですね [気になる点] 雨森は大勢の前で力を出したくないのか出せないのかこの主人公だと本当に目立ちたくないだけってのがありそうなんだよ…
[良い点] 机を叩くのを事前に言えってwww [気になる点] も、もしかしてあのすげぇ嘘くさかった夜宴が堂島を叩き潰した噂の出どころが雨森じゃあ無いってのはガチだったのか?! これ何の時間?
2022/08/03 22:39 退会済み
管理
[気になる点] 現状雨森の【霧】【雷】は【神の加護】以上は確定、隠し球の最後の異能が橘とも渡り合える程らしいが、マジ最後の異能は何だろ。ヒントがないのが辛い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ