6-9『問い』
なんと総合、20,000ポイント突破してました!
A組との全面戦争、雨森悠人の過去編、上級生とのバトル、学園との戦争等など、色々と残しておいてこのポイント数。
我ながら、やばいんじゃないかと思ってます。
皆様、いつもご愛読ありがとうございます!
目が覚めた時、既に夕方だった。
昼飯……は、どうやら取らなかったらしい。
勿体ないことをしたな。せっかく星奈さんと一緒にご飯を出来たかもしれないのに。そう思考している事が、僕の『いつも通り』を証明していた。
「……良かった。戻ったか」
胸の内に膨らみかけていた憎悪は、既に消えていた。
「あっ! 雨森くん起きた!」
「おっ、ほんとーじゃん。大丈夫雨森?」
声がして見れば、そこには文芸部のみんなが集まっていた。
何故男子のログハウスに女子まで……と思ったが、どうやらみんなでトランプをしているらしい。えっ、星奈さんとトランプ、僕もやりたい。
「楽しそうだな。僕を除け者にして」
「そ、そそ、そんなんじゃないです……っ。あ、雨森くんが、意識を失ったみたいに倒れたって、言われて……その、心配で」
「すごい心配そうだったから、気を利かせてトランプでもしてストレス発散させてたところなのさー。感謝したまえよ雨森ー」
「そうか。……感謝する。悪かったな」
心配かけたのは、僕も素直に反省してる。
というか、8時間近い昼寝とか想定もしてなかったし。
最初からこうなるとわかっていたら、心配させずとも済んだのかも。
「ちなみに布団を敷いたのは俺で」
「掛け布団を掛けたのは私ですよ!」
「……あぁ、皆もありがとう」
間鍋くんや天道さんも、何気なくアピールをしてくる。
その光景に微笑ましさを感じつつも、僕は上体を起こす。
額に乗っていたタオルが落ちて、僕はぼーっと視線を漂わせた。
「……えっ、本当に大丈夫? 雨森……目がやばいけど」
「……あぁ。少し、顔を洗ってくる」
僕は布団からそそくさと出ると、そのままログハウスの外へと歩く。
どうも、怒りは消えたが頭のモヤが取れきれてない。
よほど酷く見えたのか、しまいにはあの火芥子さんに心配されるほどだ。自覚はないが、これはかなり重症だなと理解ができた。
「自覚がねぇのがいちばん怖いんだぜ、雨森」
「…………倉敷か」
ふと、木の影から声がした。
僕はその場で立ち止まると、彼女はちらりと顔を出す。
「A組が来てから、様子が変だぞ。触発されたか? それとも、引っ張り出して欲しくねぇ過去でも連想する奴があの中に居たか?」
「……正解だ」
僕の答えに、彼女は大きく息を吐く。
その様子から察するに……彼女も『僕の過去』については、触りだけでも聞いてしまったんだろう。
「今更、お前に隠し事をする気はねぇよ。聞いた。お前が朝比奈と同郷で、今からは考えられないカリスマ持ってて、クラスの中心人物で……ある日ぽつんと姿を消したってこと。そこまでは聞いた」
「……他には?」
「てめぇの苗字が【天守】ってことだ」
彼女の言葉を受けて、僕は目を閉ざす。
なんだ、1番知られて欲しくないことが知られてるじゃないか。
「天守家。……私の勘違いじゃなけりゃ、世界有数のビッグネームだよな?」
「先に言っておくが、何かを勘違いしているぞ、倉敷」
天守家?
そんなもんは聞いたことも無い。
僕の名前は雨森悠人。
親もいなけりゃ兄弟もいない。
ただの、孤独男。そんだけだ。
「朝比奈と同郷だったのは認める。……が、その天守優人と僕は別人だ。……音読みが同じだから、よく間違えられたけどな。れっきとした別人だ」
「……お前の言葉は重みがねぇんだよな……。もう、お前の発する言葉全てが嘘なんじゃないかって思えてくるぜ」
そりゃよかった。
お前もよく分かってきたじゃないか、この僕が。
「……まぁいい。で、どこ行くんだ? 今のお前は……なんだか、ふわふわしてるからな。控えめに言って、私でも不意打ちかませば倒せそうな程に弱っちく見える。プライバシーの関わらねぇ領分なら私もついて行ってやるが?」
「……いいや、いい。川で顔を洗ってくるだけだ」
僕はそう告げて、ふらりふらりと歩き出す。
足を踏み出す力も上手く入らない。
やばいな、これは本格的に重症だ。
おもわず頬を引き攣らせた僕は――
「……顔なら、ログハウス出たところの蛇口で洗えばいいじゃねぇか」
そんなことも気づけない今の雨森悠人が、自分で心配になってきた。
☆☆☆
「さーて! お料理はっじめっるよー!!」
倉敷蛍は包丁片手に叫んだ。
危ないからやめなさい。
時刻は既に夕刻。
夏場の為太陽が沈むのは遅くなってきたが、さすがにそろそろ夕焼け小焼けも出てきた頃だ。……今思ったんだが、小焼けってなんだろう? そんな言葉あるんだろうか?
閑話休題。
なんだか頭のふわふわしている僕ではあるが、この一大イベントを忘れてはいなかった。というか忘れるわけがなかった。
そう! 星奈さんとの合作料理! である!
いやー、このキャンプはこのために来たと言っても過言では無いですよー。……えっ、真備? あんなのはただのオマケに過ぎない。そも、星奈さんと競おうという時点でおかしな話だ。お前が星奈様に勝てるはずないだろ。
と、言うわけで!
さぁ、僕の楽しい楽しい仲間たちを紹介するぜ!
僕こと、雨森悠人!
二次元オタク、間鍋諭!
大声モンスター、錦町!
無言少女、小森茜!
忍者少年、楽市楽座!
以上!
……ちっくしよおぉおおおおおおおおおおああああああああああ!!
星奈さんが居ねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁああああああああああ!!
クソッタレが! 薄々感づいてたよ馬鹿野郎!
こんな楽しみにしていた僕にご褒美が降りてきたことが1度でもありますか!? いいえありませんね! 星奈さん関連で楽しみにしていたことは尽く潰される運命にある! ここまで邪険にされるなら、僕は運命の女神だって殺して見せよう。星奈さんのためだけに。
「雨森、気を落とすな。後で星奈の作ったカレーを分けてもらおう」
「ありがとう、間鍋くん。君はいい人だ」
さすが我がベストフレンド!
僕の肩を叩いてくれた間鍋くんと、大声で笑い続ける錦町。
無言で佇む紅一点の小森さんと、楽市楽座。……こいつ前々から思ってたけど、名前が織田信長だよな。楽市楽座ってなんだよ。それ、名前なの?
「おや、雨森。楽市楽座って、織田信長が行った政策じゃなかったっけ? みたいな顔をしているでござるな? 社会のテストであれば100点満点でござるよ」
「……楽市は、忍者なのか?」
ござる。
まさかの、ござる。
やべぇ、そんな語尾の奴生まれて初めて遭遇したわ。
僕は戦慄を覚えていると、錦町が大声で近寄ってきた。
「あはははは! 楽市は忍者が大好きだからなー! 実は、名前も改名してカッコイイやつにしたんだよなー!」
「その通りでござる」
か、改名……改名って言ったかこいつ。
マジかよ、ここにも偽名で学校に来てるヤツが居たぞ。
こんなのと同類かよと考えると、少し落ち込むな。
僕は大きく息を吐くと、黙っていた小森さんが口を開いた。
「それより、早くやる。お腹減った」
「そうだなー!! よし! 世界一うまいカレーをつくろーぜぇ!!」
錦町は、一人で『おおおー!』と拳を掲げた。
誰も真似はしなかった。
僕らは錦町を放置、そのまま料理に取り掛かった。
「間鍋くん、楽市。具材の準備を頼む。小森さんは米洗って。僕は黒月か佐久間に火を出して貰えるよう頼みに行く」
「およ! 火なら拙者、忍術で出せるでござるよ! これでも自警団に所属する身なれば! 困っている人は見過ごせぬでござる」
えっ、こいつ自警団だったの?
ふつーに知らなかったんですが。
僕は思わず素で驚きつつも、素直に役目を彼へ渡した。
「なら、楽市は炭と火の準備を頼む。終わったら……そうだな。他の班の火付け手伝ってきたらいい。自警団なんだろ?」
「そうでござるな! 承ったでござる!」
「雨森! 俺は!!」
「お前は佐久間の所でも手伝ってこい」
「分かった!!!!」
錦町が大声で返事を返し、ドドスカと佐久間の方へと進撃する。
哀れ、佐久間。
錦町をグループに入れたのが運の尽き。
是非、今後とも厄介者の排除に一役買って欲しい。
「雨森イイィ!!」と、どこからか佐久間の叫び声。
僕は完全に無視を決め込むと、間鍋くんと一緒になって具材の下拵え、カレーの準備を始めていく。
ちらりと見れば、間鍋くんはなんとも言えない表情で玉ねぎを切っている。
「……雨森。俺が言えたことでは無いが、少し人見知りをどうにかした方がいいと思うぞ。あからさまに錦町を追い出し、楽市にしたって似たようなもの。小森も米とぎと称して離しただけだろう?」
「……考え過ぎだぞ、間鍋くん」
「そして気になる。なぜ俺だけ『くん』付けなのだ?」
……たしかに。
井篠、黒月、楽市、錦町、佐久間、烏丸に、新崎や熱原その他諸々。
僕は基本的に誰かに対して『くん』を付けない。
女子は別として、僕は無意識のうちに男子を呼び捨てで読んでいた気がする。
ただ、間鍋くんを除いて。
「……なんでだろうな? よく理解してなかった」
「ならば呼び捨てにしろ。俺も雨森のことは呼び捨てにしている。……いつまでも他人行儀なのは不愉快だ」
……なんだろう、すごいツンデレ。
つまりあれだよね。いつまでも君付けしないでよねっ! これからは呼び捨てで読んでくれないと怒るんだからっ! ぷんぷんっ! ってやつ。
……どうしてこう、文芸部は男子の方が女子力高いのだろうか?
ルックス100%女子の井篠。
女子力100%の間鍋くん。
この2人が居る時点で向かうところ文芸部に敵はいないだろう。
「……そうだな。愉。今日から間鍋くんを愉と呼ぼう」
「し、下の名前でか……? そ、それは少し早くないか?」
妙にてれるところも女子っぽい。
何この男子、朝比奈よりも可愛げがあるんですが。
間鍋くん……もとい、愉が女子だったら惚れてたかもしれない。
まぁ、星奈さんが居る時点で無意味な『if』だがな!
あぁ、星奈さん。
星奈さんのカレーが食いたい。
食べれなくてもいいから、星奈さんとカレー作ったという思い出が欲しい。
そのためにこのキャンプに来たってのに……なんでこんなことなってしまったんだ。今更文芸部男子の女子性に気づいた所で何の得もないってのに。
「……雨森くん、米といだ。見て」
「ん? あぁ。今行く」
ふと、思考を中断させるように小森さんから声がした。
僕は手を洗って彼女の方へと歩いていくと、既に米を炊く準備は万全に整っていた。……ふむ、見たところ完璧だが、これはカレーと米、どっちを先に火を通した方がいいんだろうな? こんなのは初めてだからよく分からない。
「……小森さんは」
何か知っているんじゃなかろうか。
そう考えて、僕は彼女へと口を開いて。
だけど、少し考えて別の『問い』を投げかけた。
「――小森さんはA組側の人間、僕の敵だよな?」
僕の言葉に、彼女は大きく目を見開いた。
少年は、問う。
いいや、既に確信を持っていた。
この少女は、1年C組の敵なのだと。




