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6-7『夜ッ!』

日常回で気が緩んだ読者諸兄へ贈る爆弾。

「恋バナしよーぜー!」


 倉敷蛍は宣言した。

 ――夜ッ!

 肝試しのトラウマが生徒たちの心に大きな爪痕を残した後!

 消沈したままお風呂に入ってその直後ッ!

 1年C組、女子の泊まるログハウスで、彼女は叫んだ!

 叫ばずにはいられなかった!


「な、何をいきなり……」

「霞ちゃん! 何をいきなり……じゃないんだよ! お泊まりの夜は恋バナ! これは最早鉄則だよ! 男子だって今頃恋バナしてるに違いないよ!」

「そ、そんな訳……」

「いいや、あるね」


 全く関係のない方向から声が飛ぶ!

 そこに居たのは、壁に背を預けた一人の少女!

 赤みがかった長髪を揺らし、格好つけるその女!

 そう、火芥子茶々であった!


「朝比奈さん、純情にも程があるよ。……気づかないのかい? 常日頃から朝比奈さんの体に注がれている雨森を除いた男子たちの熱視線」

「あの、なんで雨森くんが除かれているのかしら?」

「このクラス……いいや、学年でも最高峰の美少女、朝比奈さんがそんなにやる気がないんじゃやってけないよ、恋バナなんて」


 朝比奈の質問、見事にスルー!

 火芥子は触れなかった!

『いや、雨森は朝比奈さんのこと、興味ないから』

 とは言えなかったから! 絶対にッ!


「それに……いいの? 朝比奈さん。雨森としょっちゅう一緒にいる私や天道さん、大本命の星奈さん、言わずと知れた人脈お化け倉敷さん……。これだけいたら、朝比奈さんの気になってる雨森の攻略法……わかっちゃうんじゃないのかなぁ?」

「はっ!?」


 朝比奈、愕然ッ!

 彼女は大きく目を見開いた!

 そして気がついた時には、聞く姿勢になっていた!


「はっ!? わ、私は何を――」

「はいはーい! みんな座った座ったー! 朝比奈さんと倉敷さんがやる気なんだから、もう拒否権ないからねー!」


 火芥子の言葉がトドメになった!

 少なからず『恋』というものに興味のあるお年頃!

 それが高校1年生、恋にときめく青春時代ッ!

 クラスメイトの女子たちはゾロゾロと集まり始め、1分と経たずして全員の聞く姿勢が整っていた!


「で、何から話そっか?」

「うーん? じゃ、クラスで1番のイケメンって誰?」

「「「黒月くんじゃない?」」」


 即答だった!

 圧倒的人気! 圧倒的イケメンッ! 黒月奏!


「いやー、大人気だね、黒月」

「そうだろうねぇ。だって黒月くんだもん。わからなくはないよぉ。まず第一に顔がイケメンだし、雰囲気もなかなかどうして孤高な感じがしていいよねぇ。あと、運動神経抜群で頭もいいし、無口なところも人によってはかっこよく見えるだろうしねぇー」

「く、倉敷ちゃんは、黒月くんと……その、仲良かったりするのかな?」


 女子のひとりが、勇気を振り絞って問いかけた!

 ゴクリ、と女子一同が喉を鳴らすッ!

 気がつけば朝比奈でさえ身を乗り出している!

 それらの視線を一身に浴びた倉敷は、それは無いよと手を振った!


「いやー、まぁ、仲良いのは認めるけどねぇー。そもそも、私はほかに好きな人いるし。黒月くんとはそういうのじゃないよー」

「……ほっ、良かっ――今倉敷ちゃんなんて言った?」


 飛び出した爆弾発言ッ!

 先程までとは比較にならぬ緊張感が溢れ出すッ!


「えっ? 好きな人いるって……」

「ええっ!? ま、まじな話!? い、いやー! 恋バナっぽくなってきました!」


 火芥子がテンション高めでさけぶ!

 クラスのアイドル、倉敷蛍の恋事情ッ!

 敢えて言おうッ、気にならない女などいるはずも無いッ! と!


「あはは……恥ずかしいなぁ。と、というか! それより霞ちゃんだよ! ずーっと雨森くん雨森くん言ってるけど、どうなの? 好きなの?」


 強制的な話題転換!

 それは「好きな人なんて居ないのに、ついうっかりそれっぽいことを言ってしまった。面倒くさいし雨森ってことにするか? 雨森……? あ、朝比奈に振ればいいんだ」という最悪極まる内心によるものだったッ!


「な、なな、な、……な、何を言うの蛍さん! そんなわけ――」

「いいや違うねっ! 霞ちゃん! いくら雨森くんが最初いじめられてたからって、霞ちゃん、構いすぎだから! 雨森くん雨森くん言い過ぎだよっ! あれは絶対好きだって! 好きじゃなかったらおかしいもんっ!」

「は、はわわ……」


 朝比奈の口から、変な声が漏れたッ!

 それは動揺の表れだった!

 ――勝機ッ!

 倉敷は勝利を確信した!

 このまま自分の恋バナから完全に話を逸らすのだ!

 彼女は更に言葉を重ねようと口を開いて――!



「えっ、でも、雨森って好きな人いるじゃん。星奈さんでしょ?」



 爆弾発言ッ! 再びッ!

 そしてバレていた!

 雨森悠人の好きな人ッ!

 火芥子茶々には、バレていたッ!

 羞恥! 彼が知れば恥ずかしがるかもしれないッ!


「ひ、火芥子さん……、そ、その、あれは冗談で……」

「何言ってんの星奈さん。いや、あれはマジでしょ。たまーに、雨森が星奈さんを見る目が笑えない時あるもん。確実に惚れてるよ。というか星奈さん狂いまで有り得るよ、アイツ」

「そ、そんな、こと……」


 星奈、羞恥ッ!

 真っ赤な顔を両手で隠すッ!

 だが隠しきれない!

 ――満更でもないッ!

 そんな雰囲気を隠しきれず、女子の興奮は天元突破ッ!


「ほ、ほんとなの!? へ、へぇー! 雨森くんってそうなんだ……」

「まぁ、前からそんなことは言ってた気がするけど……」

「こ、好意があからさま過ぎて、冗談かと思ってた……」

「わ、私も、です……」


 他ならぬ星奈自身が冗談だと思っていた事実! 発覚ッ!

 それを前に火芥子は肩を竦めた!

 そして、朝比奈は絶望していた!


「そ、そんな……ほ、本当なの火芥子さん!?」

「あぁ、うん。本人に聞くのが1番だと思うけど、たぶんね」

「な、なんてこと……」


 朝比奈霞は崩れ落ちた!

 まさか、雨森くんに好きな人がいたなんて!

 というか、雨森くんを好きな人がいたなんて!

 ということは……これは相思相愛!? もう付き合う直前なのでは!?

 朝比奈はガバッと顔を上げた!

 そして同時に、何故か真備から声が上がった!


「で、でも、あれよね! 憶測の域を出ないわよね! な、なら……あれよ! まだチャンスは残ってるってことよね!」

「…………チャンス?」


 その言葉を、倉敷蛍は聞き逃さなかったッ!


「……カナちゃん、雨森くんのこと、好きになっちゃたの?」

「ばっ!? ち、違うわよ! 絶対に有り得ないわよそんなこと! だ、誰があんな、あんな……あんな奴の事なんて」


 雌の顔ッ!

 真備は言葉とは裏腹に女の顔になっていた!

 全員察した!

『あっ、雨森のこと好きなんだ』と!

 いやむしろ、そう思えば最近の態度にもうなずける!

 あれは、倉敷と接する雨森に、倉敷を取られると思って嫉妬していた――訳では無いのかもしれない!


 純粋に、女の子と仲良くしてる雨森に嫉妬していた!

 それだけなのかもしれないッ!


「あ、あわわ……か、カナちゃんが、カナちゃんが……雨森くんに心を奪われていたなんて!」

「ち、違うって言ってんでしょうが!」

「いやー、こうしてみると雨森大人気じゃん、ヤバくね」


 火芥子の言葉に、全員が頷いた!

 何たることか、これぞ主人公の成せる業なのかッ!


「朝比奈さんでしょ? 倉敷さんも体育祭の借り人競走で雨森選んでたし怪しいでしょ? 星奈さんは既に相思相愛で、真備さんも参入したと。で、既に雨森に告ってる四季いろは。……やばいじゃん、なにあいつ? 黒月よりモテてるんじゃないの?」

「有り得ます! 何たるリア充! 許すまじ!」


 今まで黙ってきた天道も、思わず叫んだ!

 しかし。

 火芥子は、ふと、バスの中の出来事を思い出した。



「……でもアイツ、恋愛しないとか言ってたんだよね」



 その言葉に、ヒートアップしていた空気が、少し緩んだ。


「……んん? なにそれ初耳」

「いやさ、バスの中でさ。いつものように星奈さんに雨森が半分告白まがいのことをされてたんだけどさ。その時に、今は誰とも付き合う気は無い、みたいなこと言ってたの聞こえたわけ。……ねぇ、星奈さん?」

「は、はい……。その、確かに、言ってました」


 その言葉に、倉敷は顎に手を当て考える。

 彼女をして、その言葉は初耳だった。

 雨森悠人はイカれている。

 だが、彼女の目から見ても、まだ人間らしい部分は辛うじて残ってる。

 その部分をかきあつめて、努力さえすれば、きっと彼はマトモな人間性をとりもどせるはずだ。

 それが……何故、その残った人間性さえも捨てようとしているのか?


「……雨森くんのこと、知ってる人……いないんだよね?」

「中学の話? まぁ……知らないよね。自分のこと語ろうとする奴じゃないし」


 この学園には、日本中から生徒が集まる。

 それこそ、全都道府県から、大都会から小さな集落まで、ありとあらゆる人が集まる。それが1学年90人、三学年分集まっているのだ。

 あれだけの身体能力があれば必ず有名な中学生だったはず。それなのに知っている生徒が1人もいない……というのは、それだけ辺境の生まれなのだろうか?

 倉敷がそう考えていた時……ふと、朝比奈が声を漏らした。



「そういえば……小学校の頃、クラスに、雨森くんに少し似た男の子が居たわ」



「……! そ、それって……」

「で、でも、似てるってだけよ? 顔も……名前も似ているわ。けど、奇跡的な程に、性格が違ったし……昔のことだし、勘違いかと思っていて」


 倉敷の脳裏に、雨森悠人の背中が過ぎる。

 なぜあの男は、執拗に朝比奈霞を推しているのか。

 その答えが、何となく『そこ』にある気がした。


「そ、その子の名前って……」

「……昔のことだから、正確かどうか自信が無いけれど……」


 そう前置きして、朝比奈霞はその名を語った。




「【天守優人】……当時、クラスの中心人物だった人よ」




【嘘ナシ豆情報】

〇天守家について

今代は三人の実子に恵まれ、特に長男と末の長女は歴代でも最高水準の才能を持っているらしい。

ただ、その一方で。

兄と妹に囲まれた次男は、才能なしのハズレとの噂もある。



次回【アルビノの少女】

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] 天守予想してたから、主人公の異能は一文字なら「天」かなと思ってたけどこれワンチャンあるのか、、?
[一言] ついに爆弾が投下されてワクワクです。
[気になる点] 優しい人はねーよバキ森くん [一言] そういえば席交換してましたね、ずっと朝なんとかさんの隣な気がしてました
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