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6-5『肝試し』

「未来予知って、どうやったら勝てるんだ?」

「あ、雨森くん! 無茶しすぎだよもうっ!」


 数分後、僕は敗北していた。

 真面目な話、未来予知を使った堂島は強かった。

 やっぱり強すぎた。純粋な肉弾戦で、今の僕じゃ届きそうになかった。

 どれだけ力を込めても、技量を込めても、無駄に終わる。

 なにせ、予め来るのが分かっているから全てかわされるし、フェイントも一切通用しないし、ならば牽制に弱い攻撃を……と思えばその攻撃は全て真正面から受け止められる。……もう、どうしろと?

 僕は倒れて青空を見上げつつ、考えていた。


「がはははは! 異能なしなら雨森、異能ありなら俺が勝ったな! 一勝一敗、またやろう雨森!」

「二度と御免です」


 なんでったって勝ち目のない勝負をしなきゃならんのか。

 それと、僕それより前に1回勝ってるから。公共の面前で言えないのは分かるけど、僕の勝ち越しだから。お前の負けね? そこら辺覚えておいてよ?

 え? 騎馬戦で負けてる?

 いや、あれはノーカンでしょ。

 まぁ、下手につつくと【ならリベンジだ! 戦おう雨森!】となるのは目に見えているため、心の中でしまっておくけれど。


「井篠、怪我の具合は?」

「黒月くん……それが、骨の一本も折れてないんだよ。表面的な傷はあるけど、木を丸々一本叩きつけられて、内傷がないってどういうことかな……?」

「それが雨森ということだ。熱原や堂島先輩に真正面から殴り勝った時点でそこら辺はあきらめろ」


 クールモードの黒月がそう言った。

 まぁ、井篠の言う通りあまり大怪我はしなかった。

 殴り合いを始めて二分少々、勝てないと思った瞬間に「参った」したからな。あれ以上続けてたら本当に骨が折れてたよ。


「にしても、雨森ってやっぱり強かったんだなー。俺、能力使っても勝てる気しないんだけどー。なに、霧道の時は手ー抜いてたのかー?」

「……あぁ、アイツはな」


 霧道ね、霧道……霧道? 誰だっけそいつ。

 ……あぁ、そうだ! 朝比奈嬢のストーカーだ。

 朝比奈嬢がストーカー、ではないよ? 朝比奈嬢のストーカー。最初期に「朝比奈は俺の嫁」とか言ってた頭のおかしい人ね。僕が退学させた奴。

 懐かしいなぁ、アイツがまだクラスに残ってたらどうなってたんだろう。

 ま、ろくなことにはなってないか。


「入学早々、『朝腹は俺の嫁』って言ってたんでな。なんか、恋仲を邪魔した僕が悪いのかと思って黙ってた。……悪かったな霧道の嫁。僕が黙ってたから霧道が自滅してしまった」

「……もしかしなくても私のことかしら?」


 朝比奈嬢の額に青筋が浮かんでいた。

 彼女は僕のパーカーを手渡してくると、腕を組んで僕を見下ろした。


「言っておくけれど、私は霧道くんと恋仲になんてなっていないわ! それに私の名前は朝比奈よ!」

「……は? 霧道の奴、『朝蝦蟇とはもう子供を作った』とか言ってたけど。……なぁ、倉敷さん」

「うん、言ってたね。あと蝦蟇じゃなくて比奈だよ雨森くん」


 口から出まかせだった。

 僕らの言葉に朝比奈嬢は愕然と目を見開いて、周囲の視線が全て霧道の嫁へと向かった。


「そっ! そんなわけないじゃないの! ほ、本当なの蛍さん!?」

「うん。霧道くんが自慢げに言っててね。それを聞いて私と雨森くんが冗談だと思って笑ってたら……うん。殴られちゃった!」

「改めて思い返すと、面白いやつだったなー」

「頭がぶっ飛んでるだけだろ」


 烏丸と佐久間が言葉を重ねて、周囲には笑い声が響く。

 朝比奈嬢は『屈辱!』と言わんばかりに拳を握っている。

 ま、居ない奴のことは、存分に笑いのネタとして使わせてもらうさ。

 終始害悪な男ではあったが、こういう所で利用してやらねば可哀想だろう? そうでもなけりゃ、あの男に存在意義なんて在り得ないから。


「というか雨森くん! なんで抵抗しなかったの!」

「お前の夫を殴るのは……少しな」

「ひっ、人を疑うことを少し覚えてちょうだい!」


 そのセリフをお前の口から聞くことになろうとはな……。

 僕は肩を竦めると、彼女は苛立ちを隠すことなく頬をふくらませた。

 何だか怒った時の星奈さんみたいな反応だな。星奈さん可愛い。朝比奈、お前はダメだ。星奈さんのパクリみたいで全く萌えない。生まれ変わって星奈さんになってから出直してこい。


「がはははは! 元気そうだな! 雨森! もう一戦やるか!?」

「あ、クラスメイトの烏丸くんが、さっき『余裕で勝てる』って言ってました」

「えっ?」

「烏丸ぁぁぁぁぁ! 出て来い、勝負だ!」


 発動! スケープゴート!

 雨森は、烏丸を生贄に差し出した!

 烏丸は焦ったように僕を見たが、僕は目を逸らした。


「えっ? なんで俺?」


 困惑の声と共に、烏丸は堂島先輩に引きずられていく。

 その姿を見て錦町やら佐久間やらが爆笑し、やがて、僕の話題は逸れていく。いまじゃ、誰なら堂島先輩に勝てるのか、みたいな話題に移ってる。

 その光景を見て、僕は人混みの中から抜け出し、パーカーを羽織る。

 ……ふと、隣を見れば真備たちが僕の方を見つめていた。


「……ん? どうした、真備」

「あっ、いや……あんた、思ったより強いのね」


 彼女はそう言うと、そそくさとどこかへと去っていく。

 取り巻きの女子たちも焦ったように彼女の後を追う。

 その姿を見て、僕は内心ほくそ笑んだ。



 ――とりあえず、第1段階、終了だ。




 ☆☆☆




 第1段階。

 それは『真備たちに「雨森悠人は強い」と思わせること』だ。

 少なくとも、自分たちよりは強いと思わせること。

 誰よりも強い……とまでは行かなくてもいい。

 ただ、強いという純粋な事実を突きつける。

 それで、彼女たちが僕に対して嫉妬していた理由の一つ『格下だから』がとり払えた。なら、あとは簡単。


 ――雨森悠人は()()()()()と理解させること。


 それだけで、今回の件に関しては解決するはずだ。



「さーて! みんなお待ちかね【肝試し】いいいい!」



 僕の思考を塗り潰す勢いで、烏丸の声が響いた。

 時間は流れて、夜。

 えっ、星奈さんとの共同作業(晩メシ作り)はどうしたのかって? 残念でした! 初日の晩ご飯は学校の方で用意してくれてたみたいです! 星奈さんとの初めての共同作業は明日の夕方までお楽しみに!

 というわけで、特に着替える必要性もなかった僕らは、それぞれ上着を羽織って防寒をしつつも、水着の格好のまま森の前へと集まっていた。


「肝試しかぁ……うう、こういうの苦手……」

「井篠は全身から苦手な雰囲気してるもんな」

「えー! 私はめっちゃ好きなんだけどなー」

「火芥子さんは幽霊でも拳で殴りかかりそうな感じがある」


 僕の感想に、火芥子さんがぶーぶー言い始める。

 いや、今のは正しくなかったな。

 幽霊が出ても「おっすー。おつかれー」とか言って素通りしそうな風格がある。この人が動じた姿を見た覚えがありません。


「わ、私は、その……」

「星奈さんは幽霊程度、見ただけで浄化できるさ」


 何だか会話に混ざりたそうな星奈さんへ、最高のスマイル!

 でもきっと無表情なんだろうなぁ。くそう、こういう時に新崎みたいな笑顔を浮かべられたらどんなに楽か! あの男が羨ましいぜ。

 無表情の僕からそんな言葉を受けた星奈さんは、恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに顔を俯かせた。あら可愛い。


「雨森氏! 私は――」

「天道さんはビビって失神しそう」

「失礼極まる発言ですね!」


 だって、そうだろ。天道さんだぞ?

 幽霊とか出てきた瞬間「ピギャ」とか変な悲鳴を上げてぶっ倒れそうな雰囲気がある。というかそんな未来しか見えない。

 彼女はムムムと呻くが、やがて、タガが外れたように『ククク』と笑い始めた。


「ククク、はははははは! 雨森氏! 肉体の極地に至りし者よ! 昼間の筋肉凄かったので後で写真撮らせて貰えると助かりますが、閑話休題! よもやこの私が、このような絶対気絶するイベントになんの策も練っていないとお思いか!」

「写真なら構わないが……なにか策でもあるのか?」


 素直に問いかけると、彼女は待ってましたと口を開いた。


「我が権能は【創造授与】! 我が胎内で権能を創り、他者へと与える最強の力!」


 最強……では無いと思うけどな。

 彼女の力は【創造授与】。

 好きな異能を創り、体内にストックする。

 そして、自由に他人へと配ったり、自分で使ったりできる能力だ。

 こうして聞くとチート極まる彼女の力だが、もちろんデメリットはある。

 ひとつは、能力を作るのにかなり時間がかかること。

 そして、強い能力であればあるほど、使用可能時間が短いこと。

 これらのデメリットがあるからこそ、彼女の力は「まぁ、便利」という程度に収まっている。……使いようによっては強いんだけどなぁ。


「此度! 我が作りあげたのは【恐慌耐性】! ありとあらゆる恐怖からこの身を守る最強の盾! この鉄壁、どのような幽霊・亡霊とて破れるものでは無いと知るがいい! ふはははははは!」

「ちなみに使用時間は?」

「1分! なので雨森氏、私と組みましょう! 私をゴールまで抱えて全力疾走してください! 雨森氏なら間に合います!」

「無茶を言うな……」


 僕は星奈さんと組むんだぞ! 天道さんとは組まん!

 ……と言いたいところだが、生憎、今回組む相手は決まっていてな。


「じゃじゃーん! 私の独断と偏見によるあみだくじで、実は肝試しの組み分けは決めてあるのでしたー! 好きな男の子、好きな女の子と組みたくてソワソワしてたそこのあなた! 人生そんなに甘くはなぁァァあい!」

「「く、倉敷ーーーッ!?」」


 倉敷が掲げたあみだくじの紙を見て、多くの生徒が絶叫した。

 僕も内心では阿鼻叫喚。

 どれだけのこの時を待ち望んでいたことか……!

 星奈さんと二人きりで肝試し。

 きゃっ、とか言いながら抱きついてきた星奈さん。

 大丈夫だよ、僕が守るから、と僕。

 ぽっと頬を染め、顔を俯かせる彼女。

 けれど僕の腕を握りしめる力は強まるばかり……って!


 ずっと期待してたんだよおおおおおおおお!

 それこそ倉敷から肝試しやるって言われた時からさぁ!

 それを……真備! お前は絶対に許さねぇ!

 もうちょっと控えめに僕の事嫌っててくれりゃ、こんな作戦なんて立てず、星奈さんとキャッキャウフフできてたのによォ!



【第6班 雨森+小森+真備】



 そう、真備と同じグループである。

 ちなみに小森さんは、僕の隣の席のすごく大人しい女子だ。

 また、僕が『目を悪くする力でぇーっす』と自己紹介をした時、全く笑ってなかった一人でもある。

 ちなみに残りは倉敷、黒月、烏丸だったりする。烏丸はなんで笑ってなかったのかは不明だけど……小森さんはいつも無表情だからさらに謎なんだ。

 えっ、もう1人居たって?

 誰だったかなぁ、覚えてないや。


 閑話休題。


 ……さぁーて。こんな2人と上手くやって行けるのかしら!

 僕が2人から視線を外すと、間もなく鋭い視線が横っ面へと突き刺さった。ギャルって怖いよぉ。


「おっ! 私達おなじ班じゃん!」


【第4班 井篠+星奈+火芥子】

【第8班 黒月+天道+錦町】

【第10班 朝比奈+倉敷+間鍋】


 ほかの班もズラーッとみて、色々と不安になる。

 まず、4班は、まぁいいさ。

 実質女子3人みたいなもんだし、火芥子さんがいるし。

 ……えっ? 井篠は男の子だって?

 いや、男の娘の方でしょ? 見た目は100%女の子だから大丈夫。


 そして、8班天道さん。

 ……なんとか、生きて帰れよ。

 無口な黒月と大声モンスター錦町。

 とんだ珍道中になると思うが、頑張れ! 応援してる!


 そして間鍋くん。

 羨ましい限りだ、三大美少女の二人と一緒だなんて。

 ぜひとも僕が代わってやりたいくらいだよ(棒)。


「ふむ、まぁ……妥当か」

「妥当!? 妥当なのですかこの組み合わせ!? 無口と大声に殺される未来しか見えないのですが!」

「雨森は……おおっふ、がんばー。応援してるぜー」


 火芥子さんから諦めの滲んだ声が響く。

 僕は小さく頷き返すと、早速第1班が準備を始めていた。


「改めてルール説明するぜい! この森は……まぁ、学園の保有してる場所だからお察しのとおり! マジモンの怪奇現象が起こると噂の森さ! クリア条件はただ1つ! みんなに配る御札を、1番奥の祭壇に備え付け、グルーっと回って向こうの出口から出てくること! とりあえず、前の班が祭壇にたどり着いたら合図が出るみたいだから、それが出たら次の班出発みたいな感じでー!」


 烏丸がすらすらと説明を進めていく。

 ……って、いま、マジモンの怪奇現象とか言わなかった?

 え、そんな森で肝試しなんてやっちゃっていいものなの?


 僕の疑問など、烏丸はつゆ知らず。



「さぁ! それじゃー、スタート行ってみようか! 第1班!」



 かくして、不安だらけの肝試しが幕を開けた。



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
創造授与って、『定着』とか『時間短縮』とかいうのを作ったら格段に進化しそう。
[良い点] 烏丸は笑ってなかった、普通にいい奴の可能性あるが旧七大罪に虚飾ってあるんよな…虚の王…現時点だと雨森の方が虚飾っぽいが、ていうか本性隠してる奴ら全員に言えるわコレ。旧七大罪だと後は憂鬱とか…
[気になる点] 烏丸は黒月に似てる感じかな? 黒月程天才ではないけど、なんでもソツなくこなす的な…… ただ黒月と違って人間関係もソツなくこなせてたのかな。能力も『虚ろの王』だし『チャラ男』という仮面を…
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