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5-13『後日談』

第五章本編ラスト

超巨大爆弾の三連投です。

「雨森さん! お久しぶりです!」


 黒月奏が復帰した。

 残るC組の多くは入院していた。

 闘争要請、翌週の月曜日。

 始業のおよそ40分前。

 いつもより少し早く登校した僕は、黒月以外は誰もいない教室で、開口一番にそう言われた。


「黒月。おはよう。大丈夫なのか?」

「はい! なんだか昨日、目が覚めてしまって。普通に退院してきました!」


 医者の話じゃもうちょっとかかるとかなんと言ってた気がするが……。

 まぁ、異能の関係で精神的な変質があっても不思議じゃない。

 常人ならば1ヶ月、という所を数日で目が覚めても……おかしくは無いのか? あまり医学には精通していないから分からない。


「無茶はするなよ。お前に壊れられると少し困る」

「あはは……酷い言い方ですね。……それより、倉敷さんから聞きましたよ! 雨森さん、本当の異能について教えて回ってる、って」

「……まだ、倉敷と堂島にしか言ってないが」


 新崎にも似たようなことは言ったが、ついぞ名前は教えなかったからな。

 そんなことを考えていると、黒月から期待の視線を感じた。

 見れば、彼はキラッキラした瞳で僕を見ている。


「……なんだ?」

「いえ! 教えて下さらないのかな、と!」


 なんだよ、倉敷から聞いてないのか?

 或いは、僕の口から直接聞きたいのかも知らんけどさ。

 ……まぁ、黒月になら知られてもいっか。


 僕は自分の席へと鞄を置いて、その名を口にした。




「【燦天の加護】」




「……さんてんのかご?」


 僕の言葉に、ピンと来ない様子で黒月は首を傾げた。

 まぁ、大抵は能力を聞いたら内容もわかるからな。

 雷神の加護、魔王の加護、熱鉄の加護、等など。

 その中でも、僕の力はイレギュラー極まる。


「僕の力は……まぁ、複合型ともまた違うんだが、『三つの異能が使えるようになる』という力だ。しかも、個々の力がそれぞれ加護に等しい力を持っている。うち二つが、霧の力と、雷の力だな」


 僕は右手に霧を、左手に雷を纏う。

 いずれも僕の能力は黒く染まっている。

 その光景を見て、黒月は納得いったように手を打った。


「なるほど、つまりチートってわけですね」

「……軽いな」


 えぇー、なにそのアッサリ。

 ついにだよ? ついに長らく秘密にしてた僕の本当の能力が明らかになったんだよ? それが『なるほど、つまりチートってわけですね』ってなに? なんでそんなにあっさり受け流せるわけ? まじ意味不(イミフ)


「……もっと驚いたりしないのか? 堂島は声もでてなかったぞ」

「あぁー、堂島先輩は、自分の方が雨森さんより強い、って思ってたからじゃないですか? 僕は元々雨森さんには勝てないと思ってますし。あー、そりゃ勝てないなー、って改めて実感するだけですよ」


 そうなのか? そうなのかぁ……。

 なんだか今まで能力を隠してたの、なんなの? って感じさえしてくるね。これなら最初から言っとけばよかったかもしれない。


「というか、残りのもうひとつの能力……なんなんですか? その二つまで言ったんなら教えてくれても……」

「いいや、これは言わないでおく。念の為にな」


 黒月の言葉を、途中でさえぎってそう言った。

 確かに能力を秘密にする意味なんて無いかもしれない。

 素直に打ち明けた方が楽になるのかもしれない。

 けれど、僕はきっと、いつまでも隠し続ける。



「だって、お前が裏切ったらどうする。黒月奏」



 僕は誰も、信じちゃいないのだから。




 ☆☆☆




「……アンタ、ホントに負けたのね」


 四季いろはは、病室でポツリと呟いた。

 目の前には、倒れてから一度も意識を戻さない、一人の男の姿がある。

 絶対に倒れないと思っていた男の敗北に、四季は、少しだけ思うところがあって、学校に行く前、この病室へと立ち寄った。


「私も、ちょっと前まではアンタが1番強いと思ってた。……強いヤツには巻かれておけ、ってね。でも、違ったわね」


 闘争要請が終わってから。

 B組は、新崎の一強時代の終焉を迎えていた。

 誰もが、新崎に感謝していた。

 自分たちの味方でいてくれたこと。

 そして、自分たちを守ろうと、雨森悠人へ立ち向かったこと。

 全生徒が等しく感謝し、恩を感じ、動き出した。

 今までの【停滞】から抜け出してしまった。

 それが、仇となった。


「……皆、今度はアンタの為に強くなろう、って息巻いてたわよ。アンタがピンチなんかになるから……全く。自分で自分の首絞めてちゃ世話ないわね」


 新崎康仁の力は【神帝の加護】。

 自分に付き従う者を対象とし、あらゆる力を借り受ける能力。

 その『付き従う者』は『自分を崇拝し、庇護対象となっているクラスメイト』には該当する。

 だが、自ずから努力し、彼に並び立とうとする生徒たちには該当しない。

 だってそれは『付き従う者』ではない。


 ――ただの、『仲間』でしかないのだから。


 つまり、ここに来て新崎康仁は、能力の過半を失うこととなった。


「……ほんと、馬鹿みたい」


 四季は少しだけ、嬉しそうにそう言った。

 雨森悠人に救われた。

 心の底から惚れ込んだ。

 だけど、彼女もまた1年B組。

 社会不適合者の一員だった。

 だから、新崎が必要としてくれることに、多少の恩を感じていた。

 そんな新崎を裏切ることに、複雑な感情を覚えていた。


 だからこそ、嬉しかった。


「私なんか居なくても、アンタは十分、恵まれてるわよ」


 もう、新崎康仁は一人じゃない。

 孤独じゃない、独裁者じゃない。

 機能しなくなった神帝の加護が、その証拠だった。


「んじゃ、行くわ。新崎、()()()()()()()()()()()()? アンタも早く学校来なさいよ。私以外はみんな待ってんだから」


 かくして、彼女は病室を後にする。


 残ったのは、静まり返った病室と。



 そして、体を起こした新崎康仁だけだった。



「痛ててて……、なるほどね。四季が内通者だったのか。……雨森の野郎、まったく、どうやってあのじゃじゃ馬を躾けたのか……。機会があったら聞いてみたいよ」


 彼は身体中を押さえながら、壁へと背中を預ける。

 窓の外には青空が広がっている。

 右手に力を込めるが、以前のような力はない。

 四季の言う通り、自分で自分の首を絞めた。

 その結果がこれだ。笑うことも出来やしない。


「……やっと、決別できた、ってことかな」


 常に笑顔たれ。

 頭の中に染み付いた教えは、いつの間にか消えていた。

 窓に写る自分は、どこまでも陰鬱とした雰囲気だ。

 その姿は滑稽で、負け犬のようで。


 そしてどこか、清々しかった。


 父は言った。誰より強くあれ、と。

 母は言った。常に笑顔たれ、と。


 それらの教えを思い出し、彼は目を閉じた。


「盛大に負けて……笑顔も消えて」


 もう、守るべき教えは破ってしまった。

 残ったのは壊れに壊れた正義感だけ。


 ドクンと、心臓が大きく鼓動する。


 その瞬間。

 まるで、心身が新しく生まれ変わったような気がした。


 汚れきった血が、新しいモノへと変わっていく。

 鼓動の度に筋肉が壊れ、その端から強靭な筋肉が生まれる。

 そんな感覚が、身体中を駆け巡った。


 目を開けば、狂おしいほどの使命感は消えていた。


「これ、は……」


 ふと、机の上に置いてあったスマホが鳴動する。

 手に取ってみれば、新たなメールが届いていた。

 かくしてそこには、簡潔にだけ記されていた。



【第三期生、最初の()()()()を確認致しました】

 〇所有者・新崎康仁

 〇天能・【神帝の加護】→【王】(new)



 それは、新たな波乱の第一歩。

 牙を折られた獣の、新たな力の目覚め。


 その文章を前に、新崎康仁は目を見開いて。

 やがて、とても楽しそうな笑顔を見せた。



「……なんだ、もしかして、リベンジの機会をくれるのかい?」



 新崎は、改めて窓の外へと視線を向ける。

 既に、C組へと害なすことは禁じられた。

 つまり、雨森悠人との直接対決は、もうありえない。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……なぁんだ、最初から、やることは変わらないんじゃん」


 ならば、学園をぶっ潰してしまえばいい。

 そうすれば校則も制約も無効になる。


 もう一度、雨森悠人と戦える。


 そう考えると、心が燃える。

 そして不思議と、雨森悠人の言葉を思い出す。


【僕が何故お前を生かすと思う。用済みになったガラクタを、なぜ捨てずに置くと思う。それはお前がこの先使えるかもしれないからだ】


 その言葉を思い出して、爆笑する。

 あぁ、もしかして。雨森はこうなることも見越していたのか。

 学園を潰すという目的の下、雨森と新崎は協力関係を結べると。

 そこまで読んだ上で、あんなことを口にしたのか。

 そう考えると、新崎は笑わずには居られなかった。


「あぁー、おっかし。いいね、いいよ、雨森。協力してやるよ。お前をぶっ潰すために、お前に力を貸してやる」


 それに、B組は雨森悠人を理解した。

 八咫烏としての彼を知ってしまった。

 彼がB組に情報を与えたということは……つまりは、脅迫(そういうこと)に他ならない。


「なんだっけ? 確か『()()()()()()()()()』とか言ってたけど……マジであいつ、能力何個持ってるんだか」


 けれど、言葉を返せば。

 あの男の正体に触れさえしなければ、なんの問題もなく反旗を翻せるということ。



 新崎康仁は立ち上がる。


 もう、ベッドで休んでいるのは終いにした。

 腕の点滴を引きちぎり、彼は満点の青空を見て笑顔を浮かべた。


 それはいつになく清々しい笑顔だった。



「さぁ、楽しくなってきた!」



 新崎康仁は、こんな所では終わらない。




 ☆☆☆




 時は少し遡り。

 新崎康仁を制した直後。


 雨森悠人は、森の中に佇んでいた。


「……これは」


 眼の前には、殴殺した竜の死骸。

 先に戦った新崎と比べれば蜥蜴同然の雑魚であったが(あくまでも雨森悠人にとっては)、その強さに対しての感情は、今はない。


 死体に手を突っ込み、弄る。


 真っ赤な血肉を取り出して。

 その血肉に対して、雨森悠人は【もう一つの異能】を行使した。



「…………」



 長い、永い沈黙。

 時間にしてみれば数秒のことでも。

 異能を行使し、結果が出るまで。


 否、全てに理解が及んでもなお。

 雨森悠人は、やや動こうとはしなかった。


「……はぁ」


 やがて、深いため息ひとつ。


 手の中の死肉を、握り潰す。

 跳ねた肉片が頬へ跳ねた。


 肉片の流れる頬に、無表情は無い。

 この学園に来て初めて。

 笑顔以外の表情が、そこには在った。



 ――空気が、淀む。



 彼が死体の前から立ち上がると、周辺に生息していた魔物たちが、あまりの恐怖に逃げ出してゆく。


「嫌な予感は、どうしてこう、当たるのかな」


 口調は酷く穏やかなれど。

 立ち上がった彼の姿に、普段通りの影など欠片もない。


 雷が周囲を焼き。

 殺意だけで多くの魔物が失神する。

 空を泳ぐ竜すら墜ち。

 周辺の木々すら枯れてゆく。


 それほど、濃厚な殺意。

 ひたすらの憎悪。


「疑念で済めばよかった。……この学園に来た理由が、僕の思い過ごしであれば、どれだけ良かったか」


 雨森悠人には、この学園に入学を決めた【本当の理由】があった。

 彼が語ることはないけれど。

 嘘つきは本当の事を言うとは限らないけれど。


 自由を求める雨森悠人にとって。

 校則に縛られる学園生活など、続ける価値はどこにもないのだ。


 故に彼には、理由があった。

 自由を捨ててでも。

 何を犠牲にしてでも。


 この学園で確かめねばならないことがあった。



 そしてそれは、今、ハッキリした。



「やはりこの学園は、近いうちに潰す」



 この死体を前にして。

 雨森を名乗る以上。

 もう、後戻りはできない。


 彼は死体を再度見下ろす。

 そのガラス玉のように濁った瞳には。


 憐憫の感情と。

 蔑むような感情が入り雑じる。




「最悪の気分だ。こんな贋作に……()()()()()()()()()()()()()()




というわけで、第5章でした。


ここで本編補足。


〇雨森の異能について

雨森悠人の燦天の加護は。

①霧②雷と、もうひとつの異能より構成された最上位異能。……とされている。


〇異能の序列について

長らく語られなかった序列の最上位。

第一位、あり得るわけがない、とされた机上の空論。

加護の上位に位置するその力は【漢字一文字】にて示されるらしく、その力は加護の力とは一線を画すらしい。


〇雨森悠人について

彼と真正面から戦った、熱原と新崎。

二人の意見によると『あの男は間違いなく人間だ』とのこと。

撃てば響くし、痛みも感じる。

どこにでもいる一般人と同じ肉体構造をしていて。

――それでも、混じり気のない人間とは、また少し違う。

雨森悠人は人間である。

ただ、何か嫌なものが混じっている。

不思議と、これが二人の共通認識らしいです。


では、あの日、堂島忠の眼が捉えたのは。

雨森悠人の肉体的な強さだったのか。


――あるいは、それ以外の何かだったのか。


それは、雨森悠人本人しか知り得ないことでしょう。



☆☆☆



次章はついに【夏休み編】

夏休みといえば海! 山! 川! 水着! 肝試し!

コメディ色強めの日常回をたっぷり詰め込みました。


そして、ついに1年A組が動き出す――


次回はいつもの幕間です。

B組との戦いが終わりましたので、長らく空気になっていた四季いろはが満を持して登場!




面白ければ下記から高評価よろしくお願いします!

とっても元気になります。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] 雨森君の本当の苗字は天守かな?燦天の加護の天と、感想欄で雨か守どちらかは正解って書いてた気がするし
[一言] 一文字で示される「らしい」だからなー…… 伝聞形な時点で「それが正解」かどうかは判らんと。 「王」という異能が存在する時点で「それも正解」ではあるんだろうけど…… 「一文字」じゃなくて「一語…
[一言] 主人公の能力、自然現象系だと思ってたけど、違うのかな。 ただ、主人公が言ってた能力も多分違う気がする。 明らかに能力それよりも多いし。 ただ、3つ異能を持っているのだけは、本当なのかな。 複…
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