5-12『勝者と敗者』
レビュー、ありがとうございます!
まだ100話も書いてない時点でレビュー4件、夢なのかなぁと思いつつあります。
闘争要請、1日目。
始まって間もなく、森の中で。
「な、んで、どうして!?」
新崎康仁は、目を剥き叫んだ。
その頬に張り付いた笑みは既に薄い。
常に笑顔たる彼でさえ、笑顔を忘れるほどに現状は酷かった。
周囲には、恐怖に震えるB組の生徒たち。
その真ん中で、雨森悠人は佇んでいる。
「い、異能を……異能を封印したんだぞ!? なんなんだよ……なんなんだよお前は! どうして動ける! どうして戦える、どうして異能が使えている!?」
彼は、なんの憂いもなく異能を使っていた。
その光景に新崎康仁は悲鳴をあげたくなった。
まるで抵抗など無駄と言わんばかりに。
まるで最初から勝敗が決まっていたように。
徹頭徹尾、無表情を貼り付けた悪魔は、新崎の元へと歩いている。
「――天は僕に三物を与えた」
ふと聞こえた言葉に、新崎は耳を疑った。
「…………なに、言ってんだよ、お前」
「聞こえなかったか? 僕には三つの能力がある。お前の異能はその内の一つしか封印できないらしい」
新崎康仁は、既に理解していた。
雨森悠人は規格外の男だと。
でも、それでも、現実は彼の想定をも上回っていた。
「複合型……とも、また違うのだろうが。堂島にも聞かせたが、言葉もなかったよ。驚かれた」
「ど、堂島……? や、やっぱり、お前が――」
言いかけた言葉は、無理やりに閉ざされた。
気がついた時、目の前に雨森悠人は立っていて。
新崎の口を塞ぐように手を当てていた。
「喋るな、語るな。僕が何故お前を生かすと思う。用済みになったガラクタを、なぜ捨てずに置くと思う。それはお前がこの先使えるかもしれないからだ。その可能性以外、お前に価値など見いだせない。お前は弱者だ、何者にも成れはしない」
「……ッ! ……!」
言葉も出ない。
ただ、恐怖に体が引きつっていた。
自分は随分とイカれ、狂っていると思う。
けれど、この男は格が違う。
その目を見た瞬間に理解した。
この男は……自分以上に狂ってる。
新崎は歯を食いしばると、彼の手を払い除ける。
大きく雨森との距離を取ると、感慨もなくこちらを見た雨森へと、叫んだ。
「負けて……負けてたまるか! 僕は絶対に負けられない! 正義の面を被った悪を! お前みたいな理不尽を! そういうものを許さぬために生きてきた! ここで負けたら……僕が狂った意味が無い! 正義の味方で在りえない!」
「正義の味方……か。それに最も必要なものが、お前にはないだろう」
正義の味方に必要なもの。
それは心か、優しさか、カリスマか。
あるいは朝比奈に語ったように責任感か?
いいや違う。
「正義の大前提、それは強さだ」
理不尽なまでの強さ。
絶対に負けぬ不条理。
何があろうと自分を貫く圧倒的な強さ。
それこそが正義の前提。
それが、新崎康仁には欠如していた。
「……お前は、惜しかった。今まで出会った誰よりも、僕に近かった。僕と同じだった。イカれた感じも、その考え方も。親を殺した過去も。ただ唯一強さが足りなかった。お前に不足していたのはただ一つ、強さだけだった」
「……お、お前! な、なんでそれを――」
「僕が知り得ない。そんなことがあると思うか?」
かくして、雨森悠人は歩き出す。
既に、新崎の腕に力は入っていなかった。
「僕は全てを知っている。この学園の成り立ちも、異能の正体も。……というか、学園長より詳しいんじゃないのかな。まぁ、そこは、お前は知らなくていいことだが」
「ふ、ざけ――!」
最後の言葉を言い切ることは出来なかった。
それより先に、雨森の拳が彼の顔面を撃ち抜いた。
嫌な音が響き渡り、雨森は拳を振り抜き、呟く。
「新崎康仁。お前の今後に、期待する」
☆☆☆
「雨森ぐん……! よかった! よかったよぉ……!」
「……いい加減、離れろストーカー」
僕は、抱きついたまま離れない朝比奈に顔を歪めていた。
すっごい! 僕が笑顔以外に表情を作るなんて、よっぽど嫌な時だけだぜ! もう何年ぶりかも分かりゃしねぇよ。
僕は彼女の顔面を引き剥がすと、改めて一息ついた。
「まぁ、心配かけたが問題は無い。生きているからな」
「そ、そうよ! 雨森くん! どうしてスタート地点に来なかったのかしら!」
「ん? あぁ、悪い。お前から伝えられる言葉は右から左に流す性分なんだ。純粋に聞いてなかった」
「……さ、さすがの私も怒るわよ、雨森くん」
胸を押さえながら、そんなことを言われた。
全く説得力がなかったが……まぁ、これでクラスに居場所が無くなっても嫌だからな。一応、言い訳をしておこう。
「……実は、伝えられた後、お前と同じ顔をした生徒に違う場所を告げられてな。場所の変更になったと言われたが……実際に転移してみれば新崎康仁の真正面だった」
「……! そ、それは……」
「……お前も見たか。八咫烏は、変身系の能力者だった」
僕の『らしい』言葉に、朝比奈は深刻そうに頷いた。
「……ええ、交戦したけれど、そうね。少なくとも、変身系の能力と、視力強化の能力、刃を生み出す能力、盾を生み出す能力。……そして、私と同じ雷系の能力。計五つの異能を使っていたわ。……こうなると、八咫烏がC組かB組の中にいる、という情報自体疑わしいわね」
「えっ、なにそれやばいじゃん。朝比奈さん、勝てたの?」
隣から火芥子さんが声を挟めてくる。
実の所、火芥子さん達とは既に合流は済ませていた。
朝比奈嬢が彼女らと離れた直後だな。
そのタイミングを見計らって、分身体をセーフティゾーンに向かわせた。
そのため、既に彼女たちとは感動の再会は済んでるわけだ。
「……いいえ、残念ながら、勝てなかったわ。……格が違った。例え万全だったとしても……勝てるとは思えない。それだけの差だった」
「……僕も、新崎と戦っている時に乱入された。……見ただけで格が違うと分かった。あの時、真っ先に逃げ出して正解だったみたいだな」
八咫烏としても『横槍を入れた』的な発言はしてた。
今の発言で朝比奈嬢の中での【辻褄】は合ったはず。
これで、僕と八咫烏を同一視することは無くなるだろう。
「そ、それより朝比奈さん! その怪我……ちょっと見せて! かなり酷いよ! 点在先生にも見てもらわないと……」
「はいぃー、呼ばれてやってきましたぁー」
間延びした声が聞こえた。
見れば、B組担任の点在先生が僕らの方へとやって来る。
彼女はパチンと指を鳴らすと、途端に朝比奈や僕の傷が巻き戻ってゆく。
さすがは『時間操作系』の能力者……。最強の代名詞の面目躍如だな。
「皆さん、お疲れ様でしたぁ。今回はB組の完敗ですぅ。下手に、八咫烏なんてよく分からない人を入れたのが失敗でしたねぇー」
「まぁ、いなくても朝比奈さんなら勝てたと思うけどねー」
火芥子さんがそんなことを呟いていたが、まぁ、同感だな。
今の新崎じゃ、朝比奈嬢には及ばない。
いい勝負にはなるだろうが、最終的には速度のゴリ押しで朝比奈嬢が勝つだろう。
そう分かっていたから僕が出張ったわけだし。ああして、雷の見本を見せることにも成功した。
来たるべき【A組との対決】に向けて、いい感じの訓練にはなっただろ。
「……点在先生、ありがとうございます。……今回は私たちの勝利。つまり、B組は今後、私たちに害なすことは出来ない。そういうルールでしたよね」
「えぇー、もちのろんですー。今後は、学園の名において、B組はC組に対して攻撃したり、害をなしたりは致しませんー」
僕の目的は朝比奈の強化だったが、クラスの目的としてはそっちがメイン。
新崎康仁を大人しくさせる。
それが今回、闘争要請を受けた何よりの理由。
まぁ、それに関しちゃ『闘争要請』による結果なわけだし、制約を破ってどうこうというのは無理な話だ。
校則にも【闘争要請のルールを破った者は原則として罰金、或いは退学とする】とあるからな。
朝比奈は安堵の息を吐くと、その場に座り込んでしまう。
「よ、よかった……。ありがとうございます、点在先生」
「いえいえー、ルールですので、お構いなく〜」
点在先生はそう言ってどこかへと歩き去っていく。
あの先生はあまりいい噂を聞かないが……まぁ、今は特に問題視しなくても大丈夫だろう。榊先生同様に、彼女と敵対するとしたら学園を敵に回した時だ。
というか、今はそれよりも警戒すべき相手が居るしな。
「……それじゃあ、僕は休むよ。さすがに疲れたし、腹が減った」
「あっ、そ、それなら、私も行きます。おなかが、空いてしまって……」
「あははー、私もー。これ3日間だったら耐えられなかったかもねー」
僕が歩き出すと、星奈さんや火芥子さんを筆頭に、文芸部の皆もぞろぞろとついてくる。
きっと、僕が心配だったからしばらく目を離したくない、っていうのが本音なんだろうけど、たぶん、腹減ったっていうのも本音だろうね。星奈さんの可愛らしいお腹の音を聞いてみたい僕も居ます。
「あ、ま、待って! わ、私も行くわ、雨森くん!」
慌てたように朝比奈嬢もついてきて、僕は小さく吐息を漏らす。
その際に……ふと無人島へと視線を向ける。
僕の目は、この距離でもしかと捉えた。
僕らが戦っていた浜辺に立っている、一人の少女を。
「……いけ好かない女だ」
小さく呟き、僕はアルビノの少女から視線を逸らす。
それと同時に、きっと少女は幻と消えたはずだ。
そういう女だと、僕は知っている。
誰より知っている、あの女の脅威を。
「……? 雨森くん、何か言いました?」
「いや、朝比奈がいけ好かないと言っただけだ」
「聞き捨てならない言葉が聞こえたわ!」
背後から朝比奈の声が聞こえ、僕は少しだけ歩を速めた。
今はまだ、気楽にしていていいと思う。
けど、その時は刻一刻と近づいている。
――1年A組、橘月姫との戦い。
それはきっと、想像を絶するものになるだろう。
本当に人が死ぬ事まで考慮しなきゃいけない。
昨日今日とは比にならない総力戦になるだろう。
それこそ、僕が本気で対応しなきゃ行けないレベルの。
「……はぁ、疲れる」
「そ、それは遠回しな私への悪口かしら?」
「そうだよストーカー。どっか行け」
僕はそう言って、船の中へと入る。
既に、アルビノの少女の姿は消えていた。
【嘘なし豆知識】
○新崎康仁の真意について
1年B組は、社会不適合者の集まりです。
その中における異分子こそ、純粋無垢な星奈蕾。
最初期の段階で星奈さんの異質さに気づいた新崎は、B組は星奈蕾に相応しくないと判断しました。
A組、C組共に内情を知らない状態で、どちらのクラスに引き渡すのが正しいのか分からなかった新崎は、【星奈蕾を虐めて、先に助けにきたクラス】へと星奈さんを移動する作戦を立てました。
その結果、雨森悠人が四季いろはを殴り、クラスメイトを殴られて腹を立てた新崎は、雨森を殴る&星奈蕾を引き渡す、という二つの目的があって闘争要請を決意。
その後の流れとしては、1年C組が本当に正義なのかを確かめつつ、ふつーに朝比奈嬢で遊んでいました。
また、3章で新崎くんが殴っていたB組生徒ですが。
彼は元々女性関係で問題を抱えており、入学してからも幾度となく問題を起こしていました。
あの時は、クラス移動となった星奈さんへと手を出そうとしたため、それを察知した四季から情報を受け、新崎くんが物理的に性格矯正を行っていました。
いつだって、弱者にとっての心強い味方。
新崎康仁という男を、雨森も『正義の味方』として評価していたからこそ、手心を加えて退学にはしなかったのでしょう。
☆☆☆
第五章、雨森悠人の【本当の目的】
それは朝比奈の強化と彼は語った。
されど、その言葉は雨森悠人の口から出任せ。
そも、彼の言葉に信頼を抱いてはならず。
故にこそ、見定める必要がある。
雨森悠人は何者で。
何故、この学園に居続けるのか――
次回【後日談】
第五章は、このラスト一話が本番です。
作中最大の謎、『雨森悠人の本当の異能』
それがついに、彼の口から語られる。




