表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/240

5-9『新崎康仁②』

 新崎康仁は、裕福な家庭に生まれた。

 古くよりその地域に於いて知られていた華族・新崎家。

 優しい母と、厳格な父と。

 恵まれた家庭に、長男として生を受けた新崎康仁は。

 きっと、将来が約束されていたのだろう。


「康仁、お前は誰よりも優れた人間になれ」


 父は、誰より厳しく、多くを望む人だった。

 華族の長男、後継として、ありとあらゆるものを習わせた。

 勉学においては学年で最高を『当たり前』と断じ。

 運動においても、あらゆる面で他人以上を求める人だった。

 厳しく、時に辛い時もあった。

 けれど、父の根底には優しさを感じていた。

 だから、苦しみはなかった。


「康仁、貴方は誰より優しい人間になりなさい」


 母は、誰より優しく、美しい人だった。

 華族の長男として、優しさが最も大切だと考えていた。

 人の上に立つ存在として、誰にも平等に優しさを配り、下の者が自ら付き従うような強く優しい人になれと、口癖のように言っていた。

 ()()()()()()と、いつも言っていた。

 だから、康仁はいつも笑顔で優しかった。

 誰にでも等しく、笑顔を振りまく子供だった。


 彼は、強く、優しい子に育った。


 誰より優れ、誰より優しい。

 だから、彼には多くの友ができた。

 多くの者が、彼に付き従った。

 歳など関係なく、彼は万人のカリスマだった。


 中学校、1年生の時までは。


「あ、あの、僕……市呉、っていいます……」


 1年生の、最初のクラス。

 1つ前の席になった少年は、貧乏な家の出身だった。




 ☆☆☆




 朝比奈は、冷静に鑑みた。


 新崎康仁は、複数の能力持ちだ。

 その数は優に『27』。

 四季いろはを除き、B組全員の能力を手中に収めている。

 故に、大抵の状況には対応出来るだけの力はある。


 ――だが、使いこなせるかどうかは、また別の話だ。


「新崎くん」


 駆ける駆ける。

 凄まじい速度で駆ける朝比奈へ、されど新崎は動じない。

 それを前に、朝比奈は今一度深呼吸をして。



「――()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



「……ッ」


 新崎が焦りを見せた、次の瞬間。

 朝比奈の姿が、霞のように掻き消えた。

 いや、速度が爆発的に跳ね上がった。

 それを前に……緩急に、新崎は一瞬、その姿を見失った。


 ――直後に、衝撃が駆け抜けた。


「が……!?」

「【雷撃】」


 新崎は、自らの横腹へと視線を落とす。

 そこには稲妻を纏った朝比奈の姿があり、彼女は拳を新崎の横腹へと叩き込んでいた。


「こ、の……!」


 新崎は拳を振るうが、その時には既に朝比奈の姿は消えていた。

 先程までとは、文字通り【ケタ】が違う。

 それだけの速度を、この足場の上で出している。

 通常の地面であれば、間違いなく今以上の速度が出ていただろう。

 そうなれば、おそらく、目で追うことも難しい。

 いいや、今でも――


「あら、どうしたの?」


 背後から声が響き、新崎は裏拳を叩き込む。

 だが、その裏拳は彼女の片手に受け止められ、その光景に新崎は大きく目を見開いた。今の彼女からは、黒月を助けに入った時と同じ雰囲気を感じたから。


「この力は……電圧を上げるほどに体にダメージが蓄積するけれど、上げるほどに速度が増すし、力も増す。……この状況は、さほど長い時間は使えないけれど――」


 気がついた時、新崎の体はぶん投げられていた。

 一瞬まで上空へと吹き飛んだ彼は、大きく目を見開いている。


「マジ、かよ……!」

「まじよ」


 短い声と共に、彼の()()()かかと落としが叩き込まれる。

 咄嗟にガードした新崎だったが、勢いは殺せず、そのまま砂浜の中心へと叩きつけられた。

 凄まじい衝撃と舞い上がる砂嵐。

 朝比奈は少し離れた木の上へと着地すると、舞い上がった砂が止むまで、一時的に能力を切って息を吐く。


(……ッ、やっぱり、キツいわね。あと一分も持てばいいのだけれど)


 この力は、朝比奈霞のとっておき。

 わずか数分しか使えない。

 使い切ってしまえば行動不能になってしまう。

 だが、強い。

 新崎康仁でさえ圧倒できるほど、強い力。


「く、は、ははははは! すごい、すごいや! 侮ってたよ朝比奈霞! 雨森も、お前も、力を隠すことに何かルールでもあるのかなぁ! でもね、でもね! 力を出した雨森を、僕は殺せたよ! お前もきっと、同じことになるんじゃないかなぁ!」

「……本当なら、もう、救えないわね」

「あぁ、そうさ、雨森はもう――」


「あなたが救えないと言っているのよ、新崎康仁」


 砂埃の中から、新崎が姿を現す。

 雷に焼かれ、全身から蒸気を噴出し。

 それでもなお、笑顔のままで立っていた。


「更生対象……と、貴方を考えていたけれど、考え直さなくてはならない。貴方は、私の許容を超えた可能性があるのだから」

「はぁ? 正義の味方さーん。もしかして僕を許さないってぇ?」

「ええ、私は貴方を許さない。絶対に」


 その憎悪は揺るがない。

 全ての前提として、彼女は人間だから。

 だから、何も思わない訳では無い。

 だが、彼女は正義の味方でもある。

 憎悪も全て飲み込んで、更生させるつもりがあった。


 つい、先程までは。


「私は貴方を更生させることを諦めない。諦めるつもりは無い。……けれど、私は私に失望しそうよ。生まれて初めて、更生を諦めたいと叫ぶ自分が居るのだから」

「ほーん。で、なに? 時間稼ぎ?」

「いいえ。単に、最後通告をしようと思って」


 それは、朝比奈霞の、最後の情け。

 失望に失望を重ねて、それでも残った正義の味方が告げる、最後の願い。



「雨森くんを返しなさい、新崎康仁」


「ばぁぁあか。死んだって言ってんだろクズ」



 かくして、朝比奈は全てを諦めた。

 この男を更生させるにせよ、しないにせよ。

 この場で倒す、()()()()()()()()()()()


 彼女は雷鳴を纏い、木の枝を蹴る。

 ここに来て最速。

 そして、最大威力を手に集わせる。


「【雷神刀】」


 圧縮。

 凝縮。

 具現。

 膨大な熱量、電圧。

 凄まじい大きさの雷を一本の刀へと集約する。

 帯電の嫌な音が響き渡り、新崎は巨大な盾を召喚する。

 だが、既に対応としては遅すぎた。


 彼女は雷。

 雷鳴の化身。

 人智及ばぬ自然の具現。

 理不尽の権化。


 故に、その力は時に不条理。



「悪いわね、新崎くん」



 それは、稲妻の一閃。

 盾すら貫き、肉を穿つ。

 その一撃は、新崎の体を焼き穿った。


「が……」

「貴方はただ、彼我戦力を測り違えた」


 彼女は雷の刀を振り払う。

 背後を振り返るのと、新崎が倒れたのは同時のことで。



「私は強いわ。あなたより」



 アラームが鳴り響き、B組最後の生徒が脱落した。


血で血を洗う、B組との最終決戦。

多くを失った闘争要請。

誰も彼もが傷つき、沈み。

何も得ず、何も成せず。

不快のみが胸を占める戦いも、ついに終幕する。


その幕切れは鮮やかに。

されどあっけなく、斬り落とされる。


――さあ、勝敗は決したよ。


正義の味方は、後にも先にも一人で十分。

ここから先は、ただの余談さ。


この勝利には、もう誰も抗えない。



だって、最後に笑ってた奴が勝者だろう?



次回【新崎康仁③】



おもしろければ高評価よろしくお願いします!

すごーく元気になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[気になる点] B組の人数と八咫烏としての雨森にルールは適用されるのか知りたいです。 [一言] 最近の楽しみです!
[気になる点] 雨森の死体は強制転送でゲームオーバー扱いじゃないのに、新崎死亡はゲームオーバー扱いなんですね。 新崎が死ぬ前に装置に攻撃当たって脱落判定かもしれないですが。 この違和感にC組は気付け…
[一言] 雨森視点も増やして上げてください(笑)。 もしかして新崎と雨森がその場で何らかの理由で一時的に手を組んだから、異能無効化を使わなかったとか。 ナイナイ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ