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5-7『全滅』

3件目のレビュー頂きました。

あと、総合15,000ポイント突破しました!


いつもありがとうございます!

「これは……どういうことかしら」


 森の中には、惨状が広がっていた。

 鬱蒼と生い茂る木々。

 周囲には真っ赤な鮮血が撒き散らされて、無残に潰えた魔物の姿があるばかり。

 控えめに言ってもグロテスクな死骸に、星奈や井篠、天道が気持ち悪くなったように口を抑える。

 その中で、頬を引き攣らせた火芥子は口を開いた。


「ヤバいね……一撃で殺されてるよ、これ。まるで通りがかりにぶん殴って行ったみたいに。何かを急いでたみたいに。ただ、なんの技術もへったくれもない力の限りで殴殺された。……そんな感じの死体だね。視てるだけで気持ち悪くなってくる」

「……嫌な、予感がするわね」


 今までの道中、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 出会ったのは、この死骸同様に殴り潰され、命を引き取って【間もなく】の姿ばかり。

 まるで……そう、まるで、この戦いが始まってすぐ、誰かが島中の魔物を殴って殺し回ったかのような。

 そんな、嫌な想像をしてしまう光景だった。


「……戻りましょう。雨森君が一層心配になったけれど、嫌な予感がするわ。蛍さんたちが危ないかもしれない」

「……うん、今回ばかりは従うしかなさそうだね。雨森を探すにしたって、1度戻って、ちゃんと考えてからの方がいいかもしれない」


 かくして、朝比奈たちは元の浜辺へと歩き出す。

 そして、彼女らが更なる【地獄】を目にしたのは、数分後の事だった。



「こ、れは……!」



 彼女らC組のスタートライン。

 小さな浜辺。

 そこには、大量の鮮血が巻き散らかされていた。

 倒れ伏す多くの生徒たち。

 彼ら彼女らは()()()()()()()()『機器』を避けて殴られ、なぶられており、脱落することも出来ずにその場へと倒れていた。

 そして、その中には佐久間や烏丸の姿もあった。


「う、嘘……!?」

「さ、佐久間くん、烏丸くん……!」


 真っ先に、朝比奈が駆けた。

 彼女は佐久間らの近くまで寄ると、その怪我の酷さに目を剥いた。

 情けも容赦も、一切が窺えない。

 なんの憂いもなく、全力でなぶられている。

 殺さないよう細心の注意を払って。

 人体の弱点を的確に外して、痛みだけを与えたような傷だった。


「ぐ、あ、さひな……ッ」

「佐久間くん! な、何があったの……!?」


 朝比奈の中に嫌な予感がふくれあがる。

 いいや、聞かずとも、こんなことをする男には覚えがあった。

 こんなことが出来る男を、朝比奈は一人しか知らなかった。



「――新崎……だ。あの野郎が、来やがった……!」



 その言葉に、朝比奈は強く歯を食いしばる。

 拳を流血するほどに握りしめ、その目を強く閉ざした。


「倉敷……は、運良く、脱落できた。が……俺たちは、遅すぎた。一瞬で……ゲボっ、がほっ……」

「さ、佐久間くん、喋ったらダメだよ! これだけの傷……僕だけじゃ治しきれない! 急いで点在先生に見てもらわないと……」


 井篠が佐久間へ静止を叫ぶ。

 だが、佐久間は井篠の腕を強く掴むと、首を横に振った。


「……伝えることは、伝えさせてくれ」

「で、でも、佐久間くん……」

「今じゃ……俺以外は、全員……意識もねぇだろ。クソッタレた、ことにな……がほっ!」


 佐久間の口から鮮血が溢れる。

 それは、内臓が傷ついているという何よりの証拠だ。


「新崎……あの野郎に……なにも、出来なかった、ッ。雨森の、野郎を、人質にしたと、言ってきて……クソが……ッ」

「――!? あ、雨森君が! そ、それは本当なの!? 佐久間くん!」

「知ら、ねぇよ。だが、雨森がこの場に来なかったのは、あらかじめ、情報が間違って伝えられた……と、考えると、辻褄は合う」


 この場に倉敷さえいれば、その間違った事実を正せただろう。

 黒月奏が居れば、さらに深い思考ができただろう。

 だが、二人はこの場には居ない。

 事情を知る者は既に一人としておらず。

 あるのは、ただ収拾不能になった混沌だけ。


 誰も何も知らない以上。

 憶測だけが飛び交い、話は真実を掠めながら飛躍する。


「……だ、だけど……!」

「それに……あの野郎。一筋縄じゃ、勝てなかったんだろうさ。雨森に、抵抗されまくったのか……ボロボロだったぜ。間違いねぇ、と、思うぜ。雨森は新崎に嵌められた。……んじゃねぇと、新崎が、あそこまで傷つくか、っての」


 佐久間は、C組の中で最も雨森を買っている。

 それはひとえに、熱原と戦った経験があるからこそ。

 彼と戦い、敗北した経験を持つから。

 だから、熱原に真正面から打ち勝った雨森の強さを、正当に評価していた。


「朝比奈……俺たちは、もう無理だ。三日で治る怪我じゃねえ。どーせ、船には救急の奴らが居んだろ。()()()()()()()()()。……自爆が出来ねぇ、ってルールはなかったろ」


 佐久間は、腹に装着した機器を差し出す。

 それを見て朝比奈は悔しそうに歯を食いしばった。


「……ごめん、なさい。また、貴方たちを――」

「謝んじゃ……ねぇよ。俺たちは、俺たちだ。弱いから負けた。それ以上でもそれ以下でもねぇ。……朝比奈、俺たちのした事を、責任を、自分のもんにするんじゃねぇ。……反吐が出ちまうぜ」

「……そう、ね。ごめんなさい」


 それは、佐久間なりの優しさだったろう。

 全てを自分の責任にしてしまう朝比奈を知っているから。

 この現状を受け、自分を責めると知っているから。

 だからこその、言葉だった。


「……ありがとう。佐久間くん、気を使わせたわね」

「いいってことよ。……さぁ、早く送れ、身体中痛てぇんだ」


 かくして、佐久間の機器へと、朝比奈は拳を当てた。

 アラームが鳴り響き、彼の強制転移が始まる。

 彼は光の中で目を開くと、朝比奈を見上げていつものように笑った。



「頼むぜ、朝比奈。雨森を助けてやってくれ」



 やがて、彼の姿は消えてゆく。

 周囲には、同じように傷ついた生徒たちが、20名。

 それらを見渡し、朝比奈霞は立ち上がる。


「……井篠くん。危ない生徒だけ、応急処置をお願い。私は皆を脱落させて、一刻も早く船へと戻すわ。……手伝ってくれるかしら」

「あ、あぁ……もちろん。手伝わせてもらうさ」


 真鍋が率先して答え、彼女らは動き出す。


 歩き出した朝比奈の横顔には、ありありと憎悪が滲んでいる。

 それは、正義の味方には相応しくない横顔だった。

 正義と憎悪は正反対に位置するもの。

 今の彼女ならば……きっと、新崎を【更生対象】とは言わないだろう。

 そう思えるだけの、怒気だった。


 やがて、彼女らは全員の生徒を船へと戻す。


 ……その頃には、既に日は暮れていた。




 ☆☆☆




 日は昇った。

 無人島、二日目。

 セーフティゾーンを見つけ、その中で夜を越した朝比奈たちは、朝、セーフティゾーンへ貼り出された【中間発表】を見て、唖然としていた。


【二日目・中間発表】

 1年B組、残り【1名】

 1年C組、残り【7名】

 夜宴、残り【1名】

 以上、無人島における生き残りとする。


「い、1名……ですって!?」


 B組の生き残り、わずか1名。

 その事実を受け、朝比奈は叫んだ。


「くっ……新崎一人いれば落とせる、ということか」

「それに……雨森が残ってるってことも把握出来たね、ウチらは、朝比奈さん、星奈さん、井篠、真鍋、天道さんに、ウチの6人。なら、7人目は雨森、ってことになるでしょ」

「……そう、なりますね」


 星奈が、哀しそうにそう言った。

 できることなら、間違いであって欲しかった。

 人質になんて取られていて欲しくなかった。

 それが星奈の、彼女ら全員の総意ではあったが、事実は変わらない。


「……でも、何も分からないより、状況は好転したわ」


 雨森がまだ、この島のどこかに居ること。

 B組は、新崎以外の全員が既に脱落していること。

 そして、夜宴の『八咫烏』も、未だ健在ということ。


「そうだな。それに、八咫烏……コイツが俺たちC組の中に居ないことは確定した。B組は分からないが……俺たちの過半は既に脱落済。脱落が直接確認できていないのは倉敷や雨森くらいだが……」

「蛍さんの脱落は、佐久間くんが見ていたわ。そして、雨森くんがC組の中に数えられている以上……私達C組の中に【八咫烏】はいないという事ね」


 あるいは、共通の人物故に、C組の中にも、夜宴の中にもカウントされる場合もあるが、その正解を彼女らは考えなかった。()()()()()()()、その可能性はないだろうと捨ててしまっていた

 それはさながら、一種の【思考誘導】。

 なんらかの力が働いているのか。

 ……否、この尋常ならぬ状況に、思考が狭まっていると考える方が妥当だろう。


 ――冷静にならなくては。

 そう考えられる間は、まだ可愛いもので。

 冷静であると確信している今こそ、最も危険な状態と言える。


 故にこそ。

 そんな朝比奈へと、火芥子は冷静に視線を送っていた。


「……朝比奈さんさ、一つ聞くけど、()()()?」

「……っ」


 火芥子が一つ問う。

 朝比奈は少し目を見開いたが、少しして、大きく息を吐くとともに微笑んだ。


「……ありがとう。いい人ね、火芥子さんは」

「いんや。人より空気を読むのが得意なだけだよ」


 そういって火芥子茶々は微笑む。

 その笑顔を一瞥し、朝比奈霞は歩き出す。


「それじゃあ、皆。私は新崎くんを探すわ。……このまま三日目を迎えれば、人数の差で勝つのは私たちよ。……けれど」

「雨森が居る。ヤツを救わないと言うのであれば、正義の味方からは程遠いぞ、朝比奈霞」


 真鍋の言葉に、朝比奈は笑った。

 その通りだ、誰かを助けてこその正義の味方。

 雨森悠人を助けずして、朝比奈霞とは言えやしない。


「安心してちょうだい。私は必ず助けるわ。……セーフティゾーンは、あと一時間程度なら留まっていても問題ないはず。皆はこの場所で少し待機して貰えるかしら? 私は、新崎くんを探してくるわ」

「……あー、なるほど。私たちじゃ遅すぎる、ってわけね……」


 火芥子はそう言って、困ったように頷いた。


「悪いね、朝比奈さん。結果的に足でまといになって」

「いいえ、あなたたちが無事で、私は救われているの。足でまといだなんて思ってないわ。私はあなたたちを守るのが生き甲斐だもの」

「ふわぁ……かっこいいね、朝比奈さん!」


 井篠が目をキラッキラ輝かせながらそう言った。

 その姿に苦笑しながら、朝比奈はセーフティゾーンから足を踏み出した。


「安心してちょうだい、一時間以内に帰るわ。……もしも帰らなかった時は、脱落してもらって構わないわ。もしも一人になったとしても、絶対に勝つから」

「あー、うん。まぁ、危険そうだったら考えとくよ」


 火芥子の言葉を受け、朝比奈は走り出す。

 その足に迷いはなく、彼女は雷に等しい速度で森を駆け抜ける。


「犯人は、犯行現場へ再び訪れる」


 それは、多くの事件における共通事項。

 まして、愉快犯はその犯行を思い出し、悦に入るため。

 誰かがその現場を前に立ち尽くすのを見て嗤うため。

 確実に、その現場へと戻ってくる。


 例えば――夜が明けたばかりの、時間帯とか。



「――あれ? なんか臭いなぁ。風呂入った? 正義臭いんだけど」



 C組が、スタート地点にしていた浜辺。

 昨日、佐久間らが倒れていた場所に。

 その男は、いつもと変わらぬ様子で立っていた。


 既に、その体には傷はない。

 だが、破れ、血に塗れた制服が、嫌という程に語っていた。

 この男は、雨森悠人と戦い――勝利したのだということを。


「……新崎、康仁!」


 朝比奈は、吠えた。

 怒りに身を任せ、新崎へと叫んだ。


「雨森くんを……雨森くんを返しなさい! 正々堂々戦うと言ったのは嘘だったの!?」

「あ? あぁ……。んー……、うん。なるほど……佐久間だっけ? アイツに言ったこと、信じたんだ。まぁ、こっちも言いづらかったんだけどさぁー」


 対する新崎は、どこか反省した様子を見せた。

 その姿に困惑する朝比奈へ、新崎は、告げた。



「雨森さ、実は――()()()()()()()()()()



「……………………は?」


 一陣の風が吹き抜ける。

 朝比奈霞は、愕然と目を見開いて、立ち尽くした。



そして、物語は冒頭へ。

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【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
― 新着の感想 ―
[一言] 四季はどこにいったんだ? 四季はやられてなくて、裏で生きてる 雨森が新崎に化ける これで人数の帳尻がつく 四季が夜宴にカウントされてるなら 主人公は隠れてる……だけになるのか?
[一言] やけになんだか見たことあるようなないような書き方だと思っていたら、作者さん、「ワールドレコード」の人か!!!!! なるほど、だから通りで纏まっているわけだ、、、
[良い点] 初コメントです。いつも見てます。 [気になる点] 雨森の異能は水もしくは木ではないでしょうか。霧の異能も水を操る異能なら同じことが可能なのでは? また一部の小説では、水は回復のための異能と…
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