4-8『騎馬戦』
第五種目、障害物競走。
ここでは火芥子さんが活躍した。
――火芥子茶々。
能力【現実把握】。
周囲、360度、百メートル以内にある全ての事象を理解するという、戦闘向きではないにせよ、十分すぎるほどのチート能力である。
彼女は能力を用い、ありとあらゆる障害を突破。
見事入賞を果たしたのだが……そこは、流石の二、三年生。火芥子さんをも上回る猛者が二人も居たため、火芥子さんは3位という結果になってしまった。
そして、第六種目、借り人競走。
これは……まぁ、うん。
色々とあったね。わすれさせてください。
「いやー、まぁ、私にしては頑張った方じゃん? ねぇ雨森?」
「あぁ、さすがは文芸部の次期副部長だな」
「ふっ、副部長は、雨森くんですよっ」
僕の言葉に星奈さんが頬をふくらませる。可愛い。
そんな星奈さんに微笑ましさを覚えつつ、火芥子さんの健闘をたたえていると、とうとう第七種目がやってきてしまった。
――そう、ついに僕の出番である、
『さーて! 第七種は体育祭の定番――【騎馬戦】です!』
参加者はグラウンドへ集まってください、と声がかかり、僕を含めたC組の四人がグラウンドへと集う。
メンバーとしては、僕と佐久間、烏丸、そして錦町。
もう一度言おう、錦町である!
「わっはー! すごいなすごいな! テンション上がってきたぞ!」
ものすごい大声が聞こえて、僕らは眉をしかめる。
騎馬戦において必要なのは、騎馬の強さと、上に乗る者の技量である。
そこで、C組屈指のトリックスター、烏丸冬至を上に乗せることは決まったのだが、残る騎馬が誰がやるかで非常に悩んだ。
もちろん、身体能力の高い僕や佐久間はすぐに決まったのだが……如何せん、僕らに匹敵する身体能力の持ち主がなかなかどうして見つからなかった。
――ただ、錦町という男を除いて。
「錦町……お前、勝手に突っ走るんじゃねぇぞ」
「わかってるよぉ! 頑張るから見ててくれ!」
「じゃあまず、声のボリュームを下げるところから始めてくれ」
「分かった!!」
声のボリュームが上がった気がした。
まぁ……錦町も錦町でかなりイロモノというかポンコツというか、アホだが、ガタイだけはこの中で一番デカい。
僕が170後半、佐久間が180後半とするなら、錦町は190前半だろう。
何この身長格差、こいつら改めて見てもでか過ぎないですか? クラスカースト最上位になるには身長がないとダメなんでしょうか?
『改めてルール説明です! 騎馬戦のルールは簡単! 騎馬の上に乗る大将が身につけている『頭の上の風船』を割られたら脱落です! 異能は大将のみが使用を許されます。それ以外のメンバーが異能を使えば、その時点で失格となりますのでご注意ください! あと、騎馬から落ちても失格です!』
うん、最初に聞いていた通りのルール説明だ。
僕、佐久間、錦町は異能が使えず、使えるのは烏丸だけ。
まぁ……十分か。二、三年生が相手だろうと戦える。
『それでは皆さん、準備はよろしいですか!?』
僕を戦闘に、佐久間と錦町で騎馬を組み。
大将として烏丸が僕らの上に座り込む。
「よーし、そんじゃ、カッコイイとこみせたるかー!」
烏丸が、大将としての掛け声を上げ。
かくして、第七種目【騎馬戦】の幕が切って落とされた――。
☆☆☆
1年C組は、現時点においてほぼ全ての競技で入賞している。
第一種目、神経衰弱【第一位】
第二種目、玉入れ【第三位】
第三種目、虎殺し【第二位】
第五種目、障害物競走【第三位】
第六種目……これも【第一位】だった。
思い出したくもないけれど。
定期テストの結果はまだ出ていないが……あまり点数の振るわなかった生徒からすれば心の底から嬉しい臨時報酬だろう。
だが、それは2、3年生とて同じこと。
2、3年は、当然のごとく僕らよりも長く学園にいる。
それだけ苦労もあったろうし、それだけ努力も重ねてきた。
それでも懐が寒い生徒は確実にいるだろう。
そんなさなかに、1年生……しかもC組の活躍だ。
……きっと、2年生、3年生からすれば面白くない結果だろう。
だからこそ、この状況も想像出来ていた。
「1年C組だ! あのクラスを潰せ!」
「他のクラスも忘れるなよ! 1年生で生意気にも入賞しまくってる奴らだ! ここで一回、徹底的にぶっ潰せ!」
「戦じゃあああああ! 突撃突撃ィ!」
「うっわぁ。大人気じゃん。俺ら」
多くのクラスが僕らの方へと向かってきてきた。
僕は1年B組へと視線を向ける。
新崎も今回は『クラスメイトと協力して行う』競技だったからか、自陣にて休んでいる様子だ。……ここぞとばかりに仕掛けてくるかと思ったんだがな。
「ま。いいさ! 全員殺ることには変わりないでしょ!」
烏丸は両手を広げると、見たことも無い黄金の弓を生み出した。
彼は大きく弓を引き絞ると、黄金の矢が生まれ落ちた。
「おお、今回は弓矢なのか!」
錦町が驚いたように声を上げ、烏丸は矢を撃ち放つ!
それは敵チームの頭の風船目掛けて飛んで行ったが、すんでのところで回避され、相手チームを止めるには至らない。
「はっ! 弓使いなんざありふれた能力! そんな雑魚を大将にするとは、C組もとうとう弾切れってか!」
弓を回避した相手チームは、嘲笑を浮かべて突撃してくる。
だが、烏丸は勝利を確信していた。
「おや、誰がいつ弓使いだと言ったかな?」
笑った烏丸は、僕らの上から消え失せた。
その光景には迫っていた全てのチームが唖然とする中。僕は、先程のチームの背後まで【瞬間移動】した烏丸の姿を見据えていた。
「はい一人目ェ!」
烏丸の回し蹴りが相手チームの風船を砕き割る。
驚きに彼らが振り返った時、既に烏丸の姿はない。
ずっしりとした重さと共に上を見れば、そこには烏丸冬至の姿がある。
「相変わらず……なんでもありの能力だな」
「あぁ、俺の能力はそういうもんだ」
烏丸がキメ顔と共に指でピストルのマークを作ると、同時に風船の破裂音が響いた。
そちらへと視線を向ければ、先程烏丸が放った矢が風船を割ったところだった。
……そりゃあ、かわせないよな。
外れた矢が、自動的にホーミングして戻ってくるなんて。
「【絶対に外れない弓矢を生み出す能力】と【瞬間移動できる能力】だ。どうですか先輩方。他にもご要望があれば頑張りますけど」
「な、なんっ……なんなんだよあの男! 異能の複数持ち!? どうなってやがるんだ……!」
そりゃあ確かに。最初に見せられた時は驚いた。
だってこの男は、無数の異能を使い分けているのだから。
複合系の能力者と言うにはあまりにも関係の無い力を持っていて。
かといって、複数の能力を一度に使うことも無い。
いや、使えない。それが彼の能力の唯一の欠点とさえ言ってもいいだろう。
「俺の能力――【虚ろの王】、自分が思った能力になる能力」
彼の言葉に周囲が愕然とし、思わず足が止まる。
背後で佐久間が苦笑を漏らし、錦町がにししと笑う。
彼の能力は、言ってみれば全能だ。
ありとあらゆる能力へ化ける異能。
もしかすると、強すぎる力には変化することも出来ないのかもしれないが、それにしたって限りなく全能に近い万能だろう。
「強いぞー! 烏丸は! なんてったって、最強の王系統能力者だかんな!」
「止めい、錦町。そんなこと言って負けたらかっこ悪いだろー」
錦町の言葉を受け、烏丸が冗談交じりにそう返す。
けれど、彼の謙遜さえ冗談だと言うのは誰もが理解していた。
だってその力は、誰がどう考えても加護の域にあるのだから。
「ま、頑張ってくださいよ、先輩方。生憎、同時に複数の能力になることは出来ません。……まぁ、さっきの【矢】みたいに、能力を変えても消えないことはありますけれど」
これこそが、C組において黒月に次ぐ最強の男、烏丸冬至。
もしかしたら熱原との闘争要請も、僕が黒月をやる気にさせずとも、この男が一人で勝利していたかもしれない。
それほどまでの力、才覚。
チャラそうに見えても、この男はバカほど強い。
信頼することさえ出来れば、夜宴に迎えたいくらいの人材だ。
「さーて、雨森。騎馬の方は任せたぜー。地面に足を着いてもアウトだ。初見ならまだしも、さっきみたいな転移はもう使いたくないからなー。伊達に2年生や3年生やってる訳じゃないでしょ」
「承った。最善は尽くす」
まぁ、僕一人にできることなんて限られてるけどな。
僕はそう返すと、烏丸はニヤリと笑った。
「OK! んじゃまぁ、さっさと優勝持ち帰ろうぜ! 三人とも!」
「おうよ! 任せとけー!」
錦町が大きな声で烏丸に答える。
そして、錦町の方の耳が痛い。こいつはどんだけ大声なんだろうか。こいつと結婚したら、奥さんの鼓膜は数ヶ月も持たないと思う。
僕はそんなことを考えながら周囲を見渡して。
――ゾクリと、寒気が背中へ突き抜けた。
「――烏丸、上空へ飛べ」
「……へ? ……ッ!?」
僕が告げた次の直後、巨大な何かが僕らへ向かって突っ込んでくる。
瞬間、凄まじい衝撃が僕らを襲った。
烏丸は両腕を翼へと変えて上空へと飛び上がり、完全にバラバラになった僕ら騎馬は、地面に膝をつき、突撃してきた巨大な騎馬を見上げた。
「よぉ、やっと会えたな、雨森悠人。ずぅっと、探してたんだ」
「ちょ! ちょちょ、な、何でアンタが……!」
どこかで聞き覚えのある声に顔をあげる。
烏丸が驚いたように声を上げたが……それも仕方ないだろう。
だって、そこに居たのは、烏丸自身も所属している、【自警団】のメンバーだったのだから。
見上げるほどの巨体。
筋骨隆々とした肉体は対するだけで威圧される。
佐久間が分かりやすく顔を顰め、錦町がほえーっと顔を上げる。
騎馬の最前列。
つまりは僕と同じポジションに立っていたその男は。
まるで戦闘狂のような笑顔をうかべ、僕を見ていた。
「さぁ、雨森悠人。どっちが強いか比べてみようぜ」
――自警団、堂島忠。
筋力の塊にしてゴリラ人間。
選英高校において、近接最強と名高き怪物。
それを前に、僕は大きく息を吐く。
「自警団って言うのは……ストーカー気質の集まりなのか?」
なるほど。類は友を呼ぶとあるが。
朝比奈霞は、厄介極まりない戦闘狂を呼んでしまったらしい。
悪にとって、人生はいつだって不公平だ。
正義の敵は悪と、相場が決まっている。
されど、悪の敵は正義とは限らない。
ただ、今回ばかりは。
悪の前に立ちふさがったのは、ただの正義で間違いない。
されど、時にして同類を相手取るより。
清濁併せ吞んだ正義の方が、何倍も厄介なものだ。
次回【雨森VS堂島】(①)
ちなみにですが。
雨森君の言う『思い出したくもない前競技』については、この章の幕間としてお届けする予定です。倉敷と雨森と朝比奈と。三人で頑張って取った第一位をお楽しみに!




