4-7『規格外』
「くっそおおお! あと一秒早けりゃぁ!」
佐久間は頭をかきむしっていた。
結果から言って、佐久間は【第二位】へと入賞を果たした。
ちなみに第一位は1年B組、新崎康仁だった。
新崎の速度でもどうか……と思っていたが、どうやら想定は大ハズレ。
もともと勧誘なんてふざけたことをしてなければ、瞬殺できるだけの力はあったらしい。
この結果には……まぁ、誰もが納得しているだろう。
問題は、第二位が二人居たということだ。
第三種目、虎殺し。
第二位――【1年C組及び1年A組】。
完全なる同着。奇跡的にも程がある、コンマ1秒の誤差もない同殺。
佐久間の溶岩と、熱原の鉄拳と。
それらがマンティコアの命を刈り取ったのは同時の事だったらしい。
故にこその、同率第二位。
佐久間が悔しがっているのは、堂島先輩の力を借りてまで、同着までしか持っていけなかった不甲斐なさからだろう。
「うーむ。やはり能力者は強いなぁ。俺のような直接的な戦闘能力がない生徒は、こういう場面で出遅れる」
堂島先輩が、いつの間にか近くへとやってきていた。
僕は咄嗟に姿を隠すと、誰かを探すように周囲を見渡す堂島先輩。
彼は結局お目当ての生徒を見つけられなかったのか、佐久間や朝比奈嬢の方へと向かった。
「いやー、まけた負けた。完敗だぜ、1年C組。まさか、第三種目。ぜーんぶ1年生にぶんどられちまうとは思わなかったけどなぁ」
「いえ、どうやら2、3年は、強さよりも速さに重きを置いていた様子。虎、つまりは現実的な生物を倒すのに、力よりも純粋な速さを取るのは正しかったのでしょう。……今回は、学園側の性格が悪かっただけかと」
「はっ、朝比奈の嬢ちゃんも言葉が上手えなァ。年上の顔を立ててくれて嬉しいったらありゃしねぇ」
そう言って、堂島先輩は大きな声で笑った。
そんな彼へと、佐久間が近づいていくのが見えた。
「堂島さん。悪いとは思うが、謝らねぇぜ。真剣勝負で、あんたを利用させてもらった。んで、最終的に俺が勝った。いくらあんたの功績が大きくても……」
「わーってるさ。むしろ安心したぜ。男ってのはそれくらい堂々としてなきゃ物足りねぇ。胸を張れよ、近接最強の男を見事利用しちまったんだから」
佐久間のどこか割り切った発言に、堂島先輩は優しく笑った。
彼は佐久間の頭を軽く小突くと、手をヒラヒラと振って自陣へと戻っていく。
その際に、朝比奈嬢の隣を通った堂島先輩は、彼女へと何かを告げて言ったように見えた。
この距離からじゃ音声までは拾えなかったが……まぁいいさ。体育祭での面倒ごとは、全て自警団に任せてある。夜宴は活動見送りです。
「さて。佐久間くんが第二位と、素晴らしい結果を残してくれたわ。一種目目の星奈さん、二種目目の黒月くんと……三人続けて入賞を続けてきた。なら、この勢いのまま総合優勝まで目指しましょう!」
朝比奈嬢が拳を掲げ、クラスメイトたちがそれに倣った。
1年C組をイケイケムードが包む中、僕は次の種目のパンフレットを開いていた。
僕の出番はまだだが……次の競技も気は抜けない。
仮に、僕が敵ならまず間違いなくこの競技で仕掛ける。
だからこそ、新崎の行動も容易く読める。
『さぁ、第四種目は【王将倒し】! 一クラス五人のチームを組み、チームの王将が戦闘不能になったら負けの、なんでもありのサバイバル!』
遠方では、新崎が楽しげな笑みを浮かべている。
A組もまた、新崎の動きが分かっているのだろう。
だから、制御のできない熱原は出さずに、他の生徒たちで固めているようだ。……うーん。これはこの競技、勝者は決まったか。
「……さて。ついては次の競技……確実に新崎くんが襲ってくると思われるわ。だから、予め決めていた通り【最強の布陣】で臨みましょう」
朝比奈嬢は、自ら率先して一歩を踏み出し。
その背後に、残る四人が追随する。
……もちろん、先程戦ったばかりの佐久間や、今後の競技に向けてまだ異能を隠しておきたい烏丸なんかは選ばれていない。だが、彼らを除けば間違いなく最強の布陣と呼べるものが揃っていた。
朝比奈霞【雷神の加護】
黒月奏【魔王の加護】
倉敷蛍【???の加護】
楽市楽座【忍の王】
真備佳奈【機翼の王】
ちなみに楽市くんは、忍者のコスプレした変な生徒で。
真備さんは倉敷の大親友のギャル。倉敷と電器店に買い物に行った際、約束したのを忘れてた『カナちゃん』ってのは彼女のことだ。
彼女の能力は使い方が難しく、最初はあまり強さも目立っていなかったが……努力が実を結び、王の異能の中でもトップクラスの強さを誇るようになった、らしいね。僕はよく知らないんだけど。
そして倉敷、いい加減能力を教えてくれ。
それをお前に言ったら『お前が教えてくれたら教えてやるよ』とでも言われそうだから言わないんだけどさ。
「倉敷さん、危険な競技よ」
「だからこそだよ! 誰もやりたくないことには率先して手をあげる。それが委員長ってものでしょ?」
倉敷はそう笑って、【王様】の目印になるハチマキを頭につけたのだろう。
王が戦闘不能――つまりは、ハチマキが外れた時点で失格、敗北となってしまう。
しかし簡単なルールだけあって、そのルールの裏なんて……狡賢いヤツならいくらでも考えられる。
「倉敷さん」
近くを倉敷が通ったため、声をかける。
彼女は少し驚いたように僕を見上げたが……その瞳を見下ろして、少し考え、言葉の代わりに息を吐く。
「んっ? どーしたのさ雨森くん」
「……いや、なんでもない」
そう言って、僕は彼女を見送った
今回、口を出さないと言ったのは僕だしな。自分で言ったことを破るつもりは無い。僕は正直者だからね!
だから、好きなようにやりなさい。
そして思う存分、負けてくればいい。
どこの世界にも『規格外』ってのは居るものだ。
彼女らを含め、合計九クラス、45名がグラウンドに集う。
先程までとは比べ物にならない人数が、殺気にも似たものを滾らせ、戦闘態勢を整える。
そして、その『時』が、やってくる。
『それでは、第四種目――王倒し! スタートです!』
☆☆☆
真っ先に動いたのは、新崎だった。
「待ってたかいがあったね! ようやく君たちを潰せるみたいだ!」
新崎は、他へは一切目もくれず、C組へ迫った。
その速度は明らかに僕以上。神帝の加護と言ったか。パワーはもちろんのこと、スピードまで強化しちゃうとかなんなんだろうね? どんなチート能力ですか?
僕は彼の行動に大きなため息を漏らして。
「相手が誰だか、忘れてないかしら?」
――雷鳴が、轟いた。
黄色い稲妻が新崎の体を貫いた。
あまりの衝撃、あまりの轟音に新崎の体が大きく吹き飛ぶ。
彼は目を見開いて倒れ伏し、それを朝比奈霞が見下ろした。
「悪いわね、新崎くん。今回は私が出てるの。意味、分かるかしら?」
「は、はは……。とんだ、化け物じゃん」
今まで、朝比奈霞が戦うことは無かった。
だからこそ、誰もが想像の中でしか考えていなかった。
雷神の加護。
神の名を冠する以上、強いのだろう、と。
だが現実は、僕らの想定を軽く超えてきた。
強過ぎる。
あの新崎をも一瞬で、一撃でぶっ倒した。
えっ、なに、もしかして僕、とんでもないやつにストーカーだの正義の味方(笑)だの言ってたの、あなた?
……うん、次からちょっと、態度を改めようかしら。
そんなことを考えていると、新崎は勢いよく立ち上がり、朝比奈へと拳を振るった。
「なんでもあり……なら、ぶっ殺してもいいんだよねぇ!」
「お好きにどうぞ。触れるならば」
新崎の拳が唸りをあげる。
だが、朝比奈霞には掠りもしない。
彼女は一瞬にして新崎の背後へと回り込むと、再びその体へと雷を放った。
閃光と共に新崎の体が痙攣する。
常人ならば一撃目で意識が飛んでいてもおかしくない。
それを新崎は――2発も受けて、それでもなお攻撃に転じた。
「ふ、ふはは、はぁッ!」
「貴方……防御力まで上がっているの?」
あまりの耐久力に、朝比奈嬢は驚いていた。
だが……いや、それだけじゃない。
新崎の受けていた傷がみるみるうちに癒えてゆき、数秒後には完全無欠に無傷へ戻った新崎の姿があるばかり。
「……っ! そ、それは……」
「霞ちゃん。噂なんだけど、身体強化能力と……自分の回復能力みたいな。複数の能力を保有した【力】、っていうのもあるみたいだよ。たぶん、新崎くんのはそういう能力なんだと思う」
噂っていうか、それお前の能力だよな?
霧道の時も自分の傷は自分で癒してたみたいだし、身体能力にしたって新崎と同等だし。倉敷自身がその『複合能力者』ってやつなんだろう。
しかし、新崎康仁の能力は――そのさらに上を行く。
「やっだなぁ、僕はただ、下から力を徴収しているだけだよ。身体能力、耐久性能、精神力、肉体の回復力……そして、【異能】の力を!」
「ま、まさ、か――ッ」
朝比奈嬢は驚き、その場から飛び退る。
直後、新崎の体から飛び出した刃が朝比奈嬢のいた地面を抉り、彼女は……いや、その場にいた大勢の生徒が驚きに目を見開いた。
「か、体から刃を伸ばすって……!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 新崎の能力って、純粋な強化能力じゃなかったの!?」
違う、新崎の【神帝の加護】はそんな程度の能力じゃない。
彼の力は、本人が言う通り【力の徴収】なのだ。
自分を【格上】と認めるあらゆる存在から、持ち得る【力】を全てコピーし、自分のものへと還元する。
もちろん、格上でありながらも【敵】と考えている僕ら他クラスの人間には通用しないが――それは、同じクラスの生徒たちには馬鹿ほど通用する。
「星奈と、あといろはもいたね。二人と僕を除いて、今の僕には、27人分の筋力、27人分の耐久能力、27人分の移動速度、27人分の――異能。その全てが加わってるんだよね!」
これぞ、新崎の持つ最強の力。
僕は彼の【パワー】を本質と捉えた。
だが、厄介な点はそれだけでは無い。
いやむしろ、こちらの方が厄介か?
「刃を生み出す異能、盾を生み出す異能、浮遊する異能、姿を隠す異能。精神攻撃の異能、人の上に立つ異能、召喚魔法の異能、重力魔法の異能、魔力を無限大にする異能、相手の敵性を判断する異能、錬金術が使える異能、体を硬化させる異能、霊が見えるようになる異能、見ただけで相手を凍らせる魔眼――等々」
インフレって言葉がよく似合いますね。
ひとつ取ってもそれなりに強い異能が……27人分?
それに加えて、常時27人分の肉体性能を誇っているとか、馬鹿なんじゃなかろうか? そりゃ僕が押し負けて当然だよ。いくら僕でも27人分の50%……13~14人と綱引きやって勝てるとは思えない。
まして、27人分全て引き出した新崎とか……想像するだけで嫌になる。
「な、なんて力を――」
「さぁ、朝比奈さん! 君を相手には100%をだすよ! 全身全霊で君を潰して、C組をぶっ壊してやるんだァ!」
新崎は満面の狂気を浮かべ。
朝比奈嬢たちは、危機感に顔を曇らせる。
誰もが、彼らの一触即発の雰囲気に目を向ける。
他の対戦者にしたってそうだ。
あまりの物々しさに、一瞬だけ、誰もがそちらへ目をやった。
――その瞬間に、全てが終わった。
「…………は?」
誰かが呟いた。
それは、驚愕を超えた声だったろう。
気がついた時、全てのハチマキが消えていた。
それはもちろん、倉敷や新崎のハチマキも例外ではない。
まるで最初からなかったかのように。
幻であるかのように、瞬く間に消失した。
その光景には、朝比奈嬢や新崎でさえ驚いている。
油断なんてなかったろう。警戒心を限界まで引きあげていただろう。
それでもなお、格が違いすぎた。
『な、なんっ……何が起こったー!? い、1年A組! この一瞬で全てのハチマキを……王を倒しているッ!』
全ての視線がA組へと向かう。
そちらへと視線を向ければ、A組の生徒たちの前へと無数のハチマキが積み上がっている。
朝比奈嬢は、王のハチマキを身につけていた倉敷を振り返る。
倉敷の目には限界を超えた驚きが見えており、朝比奈嬢もまた、信じられないとハチマキの山へと目を戻す。
……見えていたのは、僕だけか。
僕は『アイツ』の能力を知っていた。
だから、最初からその対策をとっていた。
あの女が見えるように、耐性を取っていた。
(――この、化け物が)
競技開始に先立ち、全てのハチマキを回収した。
そして、全てのハチマキを回収した状態で準備が進んだ。
誰も【王】のハチマキなんて身につけていないのに、誰もが身につけていると錯覚していた。質量を持ってそこに【在る】と考えていた。
それは、ここにいる人間、全員がそう錯覚していた。
だからこそ、司会進行役の生徒は競技の開始を宣言し。
その瞬間に、勝敗が決していた。
「……嘘でしょ?」
あの新崎でさえ、笑顔が引き攣っていた。
あえて錯覚を解くのを遅らせたのは、新崎や朝比奈嬢の力を探るためか。
A組へと視線を向ければ、参加者の中に白髪赤目の少女がいて。
その少女は、真っ直ぐに僕の方を向いて、笑っていた。
【嘘なし豆情報】
橘月姫の異能は最強です。
異能の強さだけなら間違いなく雨森悠人以上。
雨森悠人が負ける姿が想像できないのと同じく、作者的には、橘月姫が負ける姿も想像できません。
……この二人、戦わせたくないなぁ(切実)




