4-5『星詠の加護』
祝、総合10,000ポイント達成!
いつもありがとうございます!
改めて説明しよう!
選英学園、体育祭!
1年生から3年生まで入り乱れたイカれた祭りだよ!
3年生に1年生が勝てるわけないよね!
でも戦うんだって! 頭沸いてるんじゃないかなって思う!
でも、参加することに意義があるともいうよね!
ただし、上位入賞しないと参加賞も貰えないんだって!
3年生にボコられるだけボコられて、何も得られず帰るんだって!
ふざけんなって言ってやりたいよね!
これがこの学園のイカレ具合ですぅ!
とまぁ、改めて体育祭のあらすじご紹介。
僕は開会の挨拶を聞きながら、3年生、2年生の方へと意識を向けていた。
この挨拶が終われば、直ぐに一種目目が始まるらしい。
しかも初っ端から大胆不敵に非体育。完全に体育祭にやるやつじゃないよね。明らかに文化系の部活だよね、って感じの種目です。
と、言うわけで。
学園長からの挨拶が終わり、僕らは再び自陣へ戻る。
そしてまもなく、体育祭、第一種目の幕が切って落とされた。
「ということで――第一種目【神経衰弱】、ですッ!」
せめて、最初くらいは普通の種目にしてくれませんか。
きっと、1年生の大半がそう思ったと思われる。
☆☆☆
神経衰弱。
そう、トランプを1枚ずつ捲っていって、最終的に誰が勝つのかな? っていうアレだ。
うん、体育でもなんでもないよねって発言はよそう。
諦めなさい、この学園はちょっと頭おかしいんだよ。
グラウンド中心には、大きなテーブルが置いてある。
その上には数セットのトランプが裏向きでびっしりと並べられており、その机の前へと九クラスから、それぞれ九名の代表が集まっていた。
その中でも、C組が最も警戒しているのはB組の代表についてだろう。
「なるほど……いきなり出てきたか、B組、新崎」
第1回戦から、B組は新崎康仁を出してきた。
というか、ルールには同じ人物の選出制限なんてものは無い。つまるところ、最初っから最後まで、全種目で同じ人物を出すことだって可能なわけだ。
つまり、C組を潰したい新崎にとって、全種目で登場することにはなんの憂いも迷いもないということ。
「これは……うん。想定はしていたけれど、少し厄介ね」
近くにいた朝比奈嬢が顎に手を当てて考えている。
だけど、この第一回戦に関しては問題あるまい。
だって『新崎康仁は、星奈蕾へと危害を加えられない』のだから。
「すぅ、はぁ……。き、緊張します……」
1年C組、代表――星奈蕾。
彼女は胸に手を当てて大きく深呼吸している。
その様子を見た新崎はぴくりと眉を動かしたが、やがて興味をなくしたように違う方向を向いた。
いかに新崎といえど、闘争要請に定めた内容を破ることは出来ない。
だって、破った途端に退学だから。
僕らという標的を残したまま、彼が退学することは無い。
とくれば、星奈さんは必ず安全ということになる。
なる、のだが……。
「心配か?」
「……間鍋くん」
声が聞こえて隣を見れば、間鍋くんが立っていた。
二次元にしか興味のない彼だが……だからといって三次元が嫌いという訳では無いのだろう。彼の瞳にも、星奈さんへ対する心配が見て取れた。だが。
「――いいや、心配はしてないさ」
僕の言葉に、彼は少し驚いてみせた。
「……それは驚いた。よほど星奈部長を信頼しているのだな? しかも……この競技に星奈部長を推薦したのは……雨森、貴様だ。……それは勝率があっての事か? あるいは……星奈部長を安全そうな競技へ出場させるためか?」
彼の言葉には、少しだけトゲがあった。
そりゃあ確かに、星奈さんが大切だから、だから勝敗を無視して安全そうな競技に送り込んだ……とか、そんなこと言われたら怒るだろうね。
だけど、問題ない、安心してくれ間鍋くん。
「他クラスには酷だが、第一種目の勝者は既に決まってる」
現に、新崎康仁にもやる気が見えない。
きっと、彼にも分かっているのだろう。
この第一種目、勝つのはきっと――
☆☆☆
「悪いわね、一、二年生。この競技は私の一人勝ちよ」
3年B組代表の女子生徒は口を開いた。
グラウンドの中心。
テーブルを囲うように集まっていた残る8名の生徒は女子生徒へと視線を向ける。あるものは不機嫌そうに、あるものは不思議そうに。
そして彼女の能力を知っているものは、諦めたように。
皆が彼女の方を向いていた。
「あぁ? んだよアンタ。ゲーム前に心理戦でもお望みか?」
「いいえ、2年C組。私は事実を言っているまで。この戦いにおいて……悪いけれど、私の能力は最強が過ぎるの」
彼女の名は、木奥鞍山。
戦闘系の能力者では無いため、あまり有名ではない女子生徒だ。
だが、彼女の能力は一部の分野において圧倒的な力を誇る。
「……チッ、言ってやがれ。負けた時は知らねぇぞ」
2年C組の男子生徒が呆れたように呟いて。
そして、第一種目、神経衰弱が開始となった。
『さて、神経衰弱、スタートです! それでは1年C組から、1年B組、1年A組、2年C組と、順番にトランプを捲っていってください! なお、ペアを揃えると、もう一度チャレンジすることが出来ます! まぁ、通常の神経衰弱と同じルールですね!』
司会進行役の生徒が改めての説明を行う。
その生徒の声に応じて、緊張気味の星奈蕾がテーブルの前へと進み出る中、3年B組の女子生徒は自信を崩さない。
「なるほど。聞いていた通りね。トランプは3セット、通常行われる量の3倍。つまるところ、記憶しなければいけない量もそれだけ増えるということ。……全く、普通ならば困難極まりないゲームね」
「……チッ、さっきから……なんだてめぇ、そんなに自分の優位性をアピールしてぇのか? それとも自分の能力でも自慢したいか? ああ?」
3年B組と、2年C組の代表二人が睨み合う。
その中で、奇跡的に1発でペアを揃えた星奈は、司会進行役から大きな賞賛を貰いつつ、緊張気味に息を吐いていた。
「ええ……そうね。気に障ったのなら謝るわ。ただ……勝ち目がないと予め教えておきたかったのよ。勝機のないゲームに必死になるのもバカバカしいでしょう? まぁ、2位、3位を狙いたいなら話は別だけれど。少なくとも、1位は諦めておきなさい。親切心から言っておくわ」
「まあまぁ、木奥さん。そう煽らない」
圧倒的な自信を胸に腕を組む木奥。
そんな彼女へと、3年A組の代表から声がかかった。
その代表は、一見、どこにでもいるような黒髪の青年だった。
されど、その青年はこの学園において最も有名な生徒と言っても過言ではないだろう。
「……ッ、最上生徒会長……」
彼はあまりにも影が薄かった。
いや、自然とその場に溶け込みすぎていた。
背景になっていた、とも言っていいだろう。
だからこそ、今になって【生徒会長、参戦】という事実に気づいた出場者たちは大いに驚き……されど、木奥の自信は揺るがなかった。
「あら、生徒会長……。貴方みたいな人が神経衰弱だなんて、珍しいこともあったものね。ただ、悪いけれど、例え貴方が相手でも手は抜かないわ。生徒会長ならば、私の能力もわかっているんでしょう?」
彼女の言葉に生徒会長は頷き。
そして、木奥は実に嬉しそうに声を上げた。
「そう! 私の能力は【絶対記憶】! 見たもの、感じたものを決して忘れぬ知将の才!」
「な――ッ、そ、そんなのありかよ……!」
木奥の言葉に、多くの生徒が目を見開いた。
中には歯を食いしばる生徒も居たが、彼らは元々彼女の能力を見知っていたもの達だろう。
「これだけの枚数……捲られた全てを把握しなければ攻略は難しい。常人ならばそれだけで神経をすりへらすでしょう。だからこその神経衰弱。だけど私は、そんなことで摩耗する神経なんて持ち合わせちゃいないのよ!」
木奥鞍山は、見たもの全てを記憶できる。
つまり、一度でも表向きになってしまえば、その時点で彼女の脳内にはそのカードがインプットされるということ。
そしてそのデータは、決して消えることは無いのだ。
――こと、神経衰弱においてこれほど有利な能力はない。
最上生徒会長もまた、それは分かっているのだろう。
だからこそ、彼の態度はその【器】の大きさを示していた。
「うん、どんな時でも手は抜かないで欲しい。それが他者へ対する必要最低限の敬意だからね」
生徒会長は、穏やかに笑った。
それは波一つない水面のようで。
既に全てを諦めてしまった廃人のようでもあった。
その様子に数人の生徒が舌打ちを漏らすが、生徒会長の雰囲気は変わらない。
相も変わらず穏やかに。
彼は、現実を見据えていた。
「それにさ。僕に勝つのは……どうやら君じゃないらしい」
「…………はっ?」
生徒会長、最上の言葉に。
木奥は一瞬固まって……そして、大歓声が耳に届いた。
驚き、彼女は現実を見る。
そして、限界まで目を見開いた。
「な……ッ!?」
『す、凄いぞ1年C組、星奈蕾! これで24ペア連続だぁぁぁ!』
司会進行役の声に、理解が追いつかない。
木奥は驚きから帰ってくることが出来ず、その姿に苦笑した最上生徒会長は、星奈蕾へと視線を戻した。
「これは……運がいいとか、そういう言葉じゃ片付けられないね。……ねぇ、1年B組、新崎康仁くん。彼女の能力はなんなんだい?」
「えー? 上から目線とかうっざー! ちょっと、なんかいけ好かないんで話しかけないで貰えますかー?」
穏やかな笑顔の生徒会長へ。
新崎康仁は、真正面から、満面の笑顔で喧嘩を売った。
彼の返答にはその場にいた誰もが硬直したが、生徒会長だけは例外だった。
「なるほど。見知らぬ場所で嫌われていたみたいだね。以降、一層に気を付けるとしよう」
「生徒会長ぉー、そーいう感じのお利口さん、僕、大嫌いなんですよねー。見てるだけで胸糞悪くなるんですー。退学してくれません?」
「はは、それは嫌かな。ごめんね新崎くん」
それは、優しくて、穏やかな謝罪だった。
まるで、親が子供にする『格好だけ』の謝罪のよう。
――まるで相手にされてない。
そう気づいた新崎は、満面の笑みで舌打ちを漏らす。
「けっ、嫌になるねー。これだから上に立つ人間は」
「さて、本題に戻るとして……彼女の能力はなんなんだろう?」
二人が話している間にも、星奈の手は止まらなかった。
迷う様子など一切なく。
真っ直ぐに伸びた手は、100%正解のペアを掴み取る。
それはまるで、伏せられたトランプを全て把握しているような。
いや、それは正しくない。きっと、これは――。
☆☆☆
「――【星詠の加護】」
僕の言葉に、近くにいたクラスメイトたちが反応した。
その中には朝比奈嬢の姿もあり、彼女は驚いたように僕を見る。
「そ、それって――」
「星奈さんは、あまり能力というものに興味が無い。だから、誰にも言わないし誇らない。けど、誇らないから大したことがない、という訳では決してない」
星奈蕾。
彼女もまた、れっきとした【加護】の能力者。
そしてその能力は、正しくぶっ壊れってヤツだ。
「【使用後一時間以内に、目の前で起こる全事象を予知する】」
有り体にいえば、的中率100%の未来予知だ。
それを、彼女はこのタイミングで使用した。
それはつまり、彼女は記憶するでも直感するでも思考を巡らすでもなく、最初から知り尽くしている。
今から一時間以内に捲られたであろうカードの表を。
揃えられたであろうペアの位置を。
全てを、見知って、理解しているのだ。
「まさか……雨森、知っていたのか?」
間鍋くんが、呆れたように口を開いた。
下手に【目を悪くする】なんてハズレ能力者を知っているだけあって、話したがらない=弱い能力⇒詳しく詮索しない方がいい、みたいな流れが出来てたね。
でも、残念、彼女は決して弱くないんだ。
元より、1年B組において僕が警戒していたのは三人だけ。
新崎康仁。
四季いろは。
そして、星奈蕾。
この内の二人を引きずり込まれてる時点でB組も可哀想になってくるが、まぁ、そこら辺は、おいおい、だな。
僕の視線の先で、星奈さんは最後のペアへと手を伸ばす。
絶対記憶も、運の良さも、引きの強さも何もかも。
未来が読める。
それを前には、無力も同然。
他クラスの代表者たちが崩れ落ち。
生徒会長とやらが微笑ましそうに佇む中。
星奈さんは、全てのペアを、一度の間違いもなく引き切った。
『な、なんということでしょう! 第一種目、第1位は、1年C組! ぶっちぎりの、全ペア揃えて勝利したあああああ!!』
星奈さんはぴくりと震えると、困ったように笑顔を浮かべる。
その笑顔は、正しく女神の微笑み。
2、3年には勝てないと思われた体育祭。
一つでも入賞出来れば万々歳だと思われていたはず。
にも関わらず、箱を開けてみれば……どうだ、この結果は。
僕は大きく息を吐き、遠くの星奈さんへとサムズアップした。
彼女は僕の姿を捉えると、恥ずかしそうに、ぐっと拳を返してくれる。
その姿にC組が歓声に包まれて。
星奈さんは、恥ずかしそうに、嬉しそうに笑うのだ。
「……C組に、馴染めてないのでは、と心配していたが……」
「うん。杞憂だったな」
僕と間鍋くんは顔を見合せ、互いに笑う。
どうやら彼も、ただの二次元バカという訳では無いらしい。
【星詠の加護】
能力の発動と同時に、以降1時間以内に起こり得る可能性、その先の未来を把握し、その上で無数に知った未来を取捨選択して、都合のいい『果て』を選ぶ。
未来を読むというより、正確には『最良な未来へと因果律を操作する』能力です。
【嘘なし豆情報】
星奈蕾の異能力。
非戦闘型の中では全異能最強格の能力です。
1年B組は、新崎康仁の純粋な武力と、星奈蕾の未来改変の両方を評価されて『他クラスに並ぶ』と判断されていました。
星奈さんの移動によりC組が戦力過多になった訳ですが、それは新崎康仁とて理解していたこと。
『雨森悠人が気に食わない』
そうして始めた闘争要請でしたが、星奈蕾をC組へと引き渡したことにも、彼なりの確たる考えがあったらしいです。
自称、正義の味方、新崎康仁。
果たして、彼の真意とは――。
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