表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/240

3-13『後日談』

 その翌日。

 案の定というかなんというか、新崎にボコられた僕は、学園の敷地内にある病院へと入院していた。


『入院です。前回の大火傷の際も言いましたが、本当に人間ですか? 普通なら死んでますよ』


 数日前、医者に言われた言葉を思い出す。

 熱原との戦闘もなかなかに重傷を負わされた僕ではあったが、今回の新崎戦はそれ以上の瀕死まで追い込まれてしまった。

 なにせ、嘘偽りなく、本当に気を失ってしまうほどである。

 話を聞くに、内臓破裂、肋骨は六本折れて、頭蓋にもヒビが入り……その他諸々、無事じゃない箇所が見当たらなかったそうだ。なんで生きてるんでしょうね。自分で自分が不思議です。


「はい、悠人。あーん!」


 声が聞こえてきてそっちを見ると、幸せそうな四季いろはが、僕に向かって切り分けたリンゴを近づけてくる。

 その光景を見ているのは、倉敷と黒月の両名。

 二人は信じられないものを見たとばかりに四季を見つめており、倉敷は呆然と呟いた。


「……お前、麻薬でも使ったのか?」

「失礼ね! 悠人がそんなことするわけないでしょ!」


 僕より先に、四季が倉敷へと突っかかった。

 四季はふんすーと鼻息を荒くすると、頬を染めて語り出す。


「単純に、私は悠人に惚れたのよ。暗がりで顔も見えなかったけれど、二年生のど屑連中に攫われ、暴力の限りを尽くされた私を、優しく抱きしめ、助けてくれた悠人! この方は私にとっての王子さ――」

「四季、リンゴをくれ」

「はいっ、ただいま!」


 凄まじい変わり身で、四季がリンゴを差し出してくる。

 僕は彼女の口からリンゴをかじると、ものすごーく幸せそうに顔をゆるめる四季いろは。すっげぇな、星奈さんに癒されてる時の僕みたいになってるぞ。

 ということは……この感情は、愛?


「てか、倉敷さんっていったっけ? アンタ、キャラ違くない?」

「んだよ、雨森。てめぇ説明してなかったのか?」

「あぁ。四季。ちょっと頼み事があるんだけどさ」

「いいですよ!」


 即答であった。

 というか、なんにも言ってないのに許可が下りた。

 えっ、なに、どうしたのこの子。

 そう考える僕を他所に、彼女は恋する乙女の表情だ。


「悠人の言うことは絶対に服従するわよ。それで褒めて貰えるならば……あわよくば頭を撫でてもらったり、抱きしめて貰えるならば! 私は全身全霊を以てなんでも致しましょう!」

「なるほどぉ。雨森、やべぇ女連れてきやがったな」

「雨森さん、倉敷さんと同感です」


 おいおい止せよ、四季は僕のことが好きなだけなんだ。

 なんだったら、僕だって星奈さんのためならなんだってするよ? 抱きしめてあげる、って言われたらこの学園を統一することだってやぶさかじゃない。

 つまり結論、星奈さんは偉大だって話だよね!


「まぁ、それは置いておくにしても……。四季。僕らは朝比奈霞という個人を影から支え、この学園をぶっ潰そうと考えている。そのために組織を作ったんだが、それにお前も入ってもらいたい。ちなみに入ってくれたら一週間に一回抱きしめる」

「えっ、断る選択肢がないんですが」


 四季は、愕然と呟いた。

 よし、これで四季いろはの【夜宴】参入が決定した。

 倉敷たちを見るも、四季の能力を知っている手前、「性格に難はありそうだが、仕方ないから入れよう」みたいな雰囲気だ。

 四季へと視線を戻せば、相変わらず一人で狂喜乱舞している様子。

 そんな姿を見て二人が苦笑する中、僕は、内心で笑った。



 ――限りなく、想定通りに全てが進んでいる。



 まず、四季いろはを手に入れた。

 彼女を、僕が拉致した。

 存在しない生徒たちをでっち上げた。

 痛みと絶望で彼女の思考を大きく削った。

 彼女の体内時間を狂わせた。

 空腹と絶水の果てに心まで追い込んだ。


 まぁ、その根底には僕の【本当の異能】が作用している訳だが、あくまでも『四季いろはの心を壊す』ことへの補正に過ぎない。


 大事なのは、最後に差し出した飴の方。


 彼女は不幸としか言いようがないだろう。

 だって、彼女はなんにも悪くないのだから。


 この学園に、新崎康仁を警戒している者は多く居る。

 彼が最も厄介だと考えるものも、きっと多い。


 だけど、それは間違いだ。

 だって、一番ヤバイ人間はここに居るんだから。


 なぁ、四季いろは。

 言ってみれば、恋は麻薬だ。


 お前はもう、僕から離れられない。

 この先、僕がお前の心を手放すことなど有り得ないから。

 延々と使い続けて、使い潰れるまで隣に立たせる。

 そうでなけりゃ、策を弄した意味が無い。


 それでもきっと、お前は幸せだろう。

 思う存分、僕の【駒】として働き続けて。

 小さな愛を、恋を、麻薬のように与えられ続けて。

 じわじわと弱っていくのも自覚できなくて。


 お前は、死ぬまで僕の駒で在り続ける。


 あぁ、また、他人の人生をひとつ、壊してしまった。

 僕に出会わなければ、四季いろはにも違う一生があったろう。

 誰かと出会い、恋をし、結婚し、子を産んで、次に託す。


 そんなことは、もう叶わない。


 お前は僕だけに恋し続ける。

 決して叶わぬ恋を続ける。

 僕が死ぬまで。あるいはお前が死ぬまで、だ。


 安心してくれ。不幸にはさせないから。

 人生を棒に振ることになるだろうが。

 お前の人生、滅茶苦茶になるだろうが。


 お前はきっと、この先ずっと幸せだ。



「四季、お前は僕のものだ」


「はいっ! その言葉だけで、私は幸せです!」



 四季の言葉を受けて、僕は笑った。

 僕の笑顔を見た四季は黄色い悲鳴をあげたが。


 対する倉敷と黒月は、引きつったような笑顔をしていた。




 ☆☆☆




 それと同時刻。

 朝比奈霞は、考えていた。


「何故……この学園は、こうも荒れているの?」


 部屋の中から窓の外を見上げる。

 何故、この学園において争いが絶えないのか。

 それは、学園が闘争を推奨している……だけでは無い。


 朝比奈霞は思った。

 生徒たちは、不安なのだと。

 不安だから、悪に走るし、争いが起こる。

 全てが満ち足りていれば、なんの問題もない。

 誰もが幸せだし、争いも悪も全てが無くなる。

 秩序で満たされる。

 それこそが、彼女の望んだ正義だった。


「今回も……私は」


 最初から雨森悠人を助けていれば、彼は入院などせずに済んだ。

 けれど、その介入を黒月と倉敷が必死に止めた。


 今出ていけば、必ず戦いになり、退学処分となる。

 戦いを始めるなら、雨森悠人が限界まで粘ってから。

 罰金が発生するにしても、最低限にするべきだと。


 朝比奈霞の身を案じ。

 どころか、雨森悠人の体の状態まで確認し、二人は言った。


 あの場所で、あれだけの判断ができた二人を、朝比奈は尊敬する。

 そして同時に、悔しいと思う。

 あの二人の制止を振り切って、止めてこその正義の味方。

 後先を考えることは確かに大事だと思うけれど。


 それでも、守る。

 何も失うことなく、全てを守り通す。


 それが出来てこその、正義の味方。


「なにが……必ず守る、よ」


 何ひとつとして、出来ていない。

 だから、悔しさと共に、悲しみと共に、覚悟を決めた。


 いい加減、足踏みするのは止めにした。


 ここから先は、一切の妥協はしない。

 一切の手は抜かない、迷わない。


 ありとあらゆる手段を用い、この学園を正しく(ただ)す。


 この学園の不正、間違い、不平等、悪を排して。

 ただ、絶対的な秩序をもたらす。



「それが、私の――朝比奈霞の為すべきこと」



 故に、彼女は決断した。

 同志を募ろう、自分と同じ考えの者達を。


 自分一人では、全てを守り通すには至らない。

 現に、倉敷蛍や黒月奏には、幾度となく助けられている。


 だから、二人を含め、多くの人を仲間にしよう。



 そして、多くの人を救うんだ。



 かくして、朝比奈霞は立ち上がる。

 空を見上げれば、雲一つない青空が広がっている。


「それじゃあ、早速交渉に移りましょうか!」


 彼女はスマホを操作すると、迷いなく一人の生徒へ電話をかけた。

 同志を募るならば、間違いなく【彼】が最初と決めていた。

 だからこそ、朝比奈霞は――!



「あっ、雨森くん? ちょっとお話が――」

『お断りします』



 ブチリと切れた通話を前に、思いっきり号泣した!


少年は嘘つきだ。


彼ら彼女らは知っている。

彼の言葉に真実など無い。

嘘偽りに固められ、心の底は泥の中。

彼の発する一言一句。

その全てが偽りであっても驚きはない。


ゆえにこそ。

少女を使い潰すというその旨は。


それすら嘘と仮定するなら。

きっと彼の言葉は、至極一般的な想いへと反転する。


『お前は誰にも渡さないし、必ず、死ぬまで幸せにするから』


決して彼は認めずとも。

嘘をよく識る少女は微笑む。


ええ、悠人。

私は今日も、最高に幸せよ。



☆☆☆



以上、第三章でした。

メインヒロインは、星奈蕾と四季いろは、皆様のお好きな方を選んで下さい。

えっ、朝比奈……? 誰でしたっけ?


というわけで、

次回、【幕間】を挟んでから新章開幕です!



――第4章【正義の味方 朝比奈霞】



面白ければ下記から高評価よろしくお願いします!

ものすごーーーく、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
白夜ポジが入ってきた…。
[一言] 現状見たところ、主人公の能力、変身に闇に幻覚に…って多彩ですよね。 時間に関しては感覚操作の一環か奏の魔法だと考えてます。 主人公の能力は、複数能力の取得とか? 学習系の能力とかあり得そうだ…
[良い点] オススメされたから読んでみたんですけどガチで面白いっす [気になる点] 雨森の能力、なんとなくだけど「嘘から出た真」って感じがする [一言] まだ自分は半分しか読破してないですがこれからも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ