3-5『不愉快』
不穏なタイトルでこんなことを言うのはなんですが。
総合、5000ポイント達成しました!
いつも応援ありがとうございます!
これからも頑張りますので、よろしくお願いします!
次は、目指せ1万ポイント!
ということで、不穏な話へどうぞ。
かくして、B組、C組の合同訓練が始まった。
訓練の内容としては、模擬戦闘がメインとなっていた。
それぞれ、いくつかのグループに別れ、C組とB組で対抗戦を行う。
そして最終的な勝利数を出して、どちらがより勝っていたか競う、という半分ゲームのようなものだ。
「で、なんでこうなった」
「えー、だって、雨森って強いじゃん」
火芥子さんが、当たり前のようにそう言った。
いやね、それが……僕のグループなんですけども。
一応、グループの詳細について語っておこうか?
僕、雨森悠人を始めとして。
井篠真琴。
間鍋愉。
火芥子茶々。
天道昼仁。
以上! 見事に文芸部、大集合である!
「いや、お前らの能力って――」
「ふむ、全員が非戦闘系だ。つまり、お前が相手の五人を全員倒せばいいわけだな。頑張って見せろ三次元」
「が、頑張ってね、雨森くん!」
間鍋と井篠、戦う気ゼロである。
どころか、火芥子さん、天道さんも戦う気なんて皆無らしい。
「あー、雨森。いっとくけどサポートも無理だから、頑張ってねー」
「ふふふ、唯一、私の能力ならば雨森氏をさらに限界のその先へ誘うことも可能でしょう! なんなりとものを申すがよいですよ!」
「……面倒な」
僕は一人つぶやくと、相手のグループへと視線を向けた。
対するB組のグループは、見事に女性ばかりだった。
しかも……そのうち一人は星奈さんだ!
やったぜ! まさか部活以外で星奈さんと会えるとは! 今日はなんて素敵な一日なんだろう!
しかし……なんだ、この違和感。
「いやーマジありえねー、っつーか!」
「ほんとそれな! 頭沸いてんじゃねぇのってさ!」
星奈さんを除く少女たちを一瞥する。
まぁ、なんだ。言ってみればギャルだ。
髪を染めて、チャラチャラしてる。女版の烏丸みたいな感じだな。ある意味、僕とは正反対に位置する存在でもある。
もちろん星奈さんとも正反対だがな! 僕とお前らと星奈さんは決して似通ってはいけないトライアングルだ!
「なーんか、嫌な感じ、じゃんね」
火芥子さんが、その光景を見て目を細めていた。
星奈さんは、少女たちの輪に加わっていなかった。
ギャル共は四人で仲良く会話を弾ませていて、星奈さんはその四人から距離を取り、一人で居心地悪そうに佇んでいる。
まぁね、仲良くしろとは言わないよ。
星奈さんだってあんなギャルとは仲良く出来るキャラじゃないし。
だけど……あからさま過ぎやしないか?
虐め……とまで断言していいものか。
まだ観察が足りていないからなんとも言えないが、そういう類の空気を感じる。
誰かが誰かを下に見て。
それを周囲が肯定した時、特有の空気。
腐ったような、へどろのような害悪感。
人間関係に疎い僕でも察せたんだ。
クラスカーストの中で常日頃から空気を読んでいる他の人間なら、尚更の事だろう。
「チッ、これだから三次元は……」
「間鍋氏、今回ばかりは全面的に同意です」
間鍋君や、天道さんも不愉快そうに顔を歪めている。
今回は、人間の悪い所が表に出たな。
他人を嘲り笑うことで、自身の欲を満たす。
自分が他者より上に在ることに快感を感じる。
いや、自分より下がいることに安堵する、と言うべきか。
B組の他グループへと視線を向けるが、さほど目立った光景はない。
となると、星奈さんだけ……か。こんな状況になってるのは。
正直、見るに堪えない光景だ。
だけど、僕らが無理矢理介入していい問題でもない。
僕らの介入で星奈さん周りの人間関係が好転したとしても、必ずどこかにしこりが残る。
絶対に、恨みや憎しみが残り続ける。
そうなれば、星奈さんは絶対に傷ついてしまう。
彼女の純粋に、一片の陰りが生まれる。
それだけは、絶対に避けねばならない事だ。
……うーん、難しいな。
これだから人間関係は嫌いなんだ。
腕っ節とか、悪意とか。
そういうもので簡単に片がつくものなら得意分野なんだけど。今回ばかりは僕の専門外。どちらかと言うと倉敷たちの領分だ。
ちらりと倉敷へと視線を向ける。
当然のように彼女と目が合ったが、互いにすぐ逸らした。
彼女には彼女の仕事がある。
下手に僕の都合で動かすのは下策だろう。
となれば、本格的に僕らで何とかするべきなんだろうが……そう考えれば、また最初の結論にたどり着く。
――僕らには何も出来ない。
消極的で、事実、最も理性的な答えだ。
「僕らは、なにか言えるような立場じゃない」
「で、でも! 雨森くん……!」
星奈さんの元へと行こうとしていた井篠を、片手で制す。
彼の肩を火芥子さんが掴み、僕と同じように首を横に振った。
「井篠、私たちにどうこうできる問題じゃないじゃん。首を突っ込んでいって……さらに部長の立場がなくなったら、最悪ってやつっしょ」
「それに、僕らは星奈さんの味方だ」
なにも、見捨てるわけじゃない。
明確に虐められている訳じゃないなら、まだ多少の猶予はある。
その間に、何かしら解決策を見い出せばいいだけの事。
それこそ、星奈さん本人とも相談して、な。
逆に、星奈さんに何も聞くことなく行動する方が、彼女にとって迷惑に当たるかもしれないだろ。
そう言い含めると、井篠は何とか納得してくれた。
「う、うん……分かった。そうだよね、僕達が星奈さんの――」
友達でいればいい。
そう続けようとした井篠の声を。
女子生徒の声が、掻き消した。
「つーかさー。なにアレ? なんで私らに押し付けられてんの?」
その声に、僕らの動きが完全に止まった。
星奈さんは大きく身体を震わせ、その姿に女子生徒は笑う。
髪を金色に染めた、小柄な少女。
されど、自信に満ち溢れたその姿からは、ライオンのような風格さえ感じる。
俗に言う『クラスカースト最上位』ってヤツだ。
その姿に、少し目を細める。
彼女は、先程からやかましかったギャルの一人だ。
しかも、その中でも中心に位置する人物だろう。彼女を中心に、ギャル達がお供のように付き従う。
「――1年B組、四季いろは。クラスカーストの実質的な最上位。……ウチのクラスで言うところ、佐久間以上の発言力を持っていたはずだ」
「なるほど――って、おい間鍋、なんでそんなこと知ってんじゃん?」
火芥子さんが、間鍋くんから距離を取る。
本来なら僕もそっちに混じりたいところだが……どうやら、そうも言っては居られないらしい。
四季いろは、か。
学力は平均的。
運動神経は高く、男子顔負け。
物怖じしない性格で、明るく元気で。
戦闘向きではないが……実に厄介な異能を持っている、とは聞いていた。
だが、性格までは聞いてなかったなぁ。
これからはもうちょっと他人の内面にまで気を向けようと思います。
「ねぇ、アンタ。ちょっとジュース買ってきてよ」
四季は、星奈さんへとそう言った。
授業中、既にグループでの訓練が始まっているにも関わらず。
C組の僕らを放置し、世間話に花を咲かせて、あまつさえ、星奈さんに『校則を破れ』と暗に突きつけている。
その光景に、井篠が憤慨したように肩を震わせていた。
「え、えっと……今は授業中で――」
「あ? なに、私の言うことが聞けないってワケ?」
うっわ、すげぇ威圧感。
四季を中心として、取り巻きたちが星奈さんを威圧する。
それはさながら、肉食獣の群れのよう。
対する星奈さんは、きっと哀れな羊だろう。
B組の他の生徒たちは、その光景を見ても、変わらず笑顔を崩さない。
「ちょ……おい、お前ら。あれはなにをやってんだ?」
「えっ? 何って――関係なくね? ほっとこうぜ、C組の」
近くにいた佐久間が、目敏く星奈さんの現状を感じ取る。
だが、彼の相手をしていたB組の生徒は、なんの憂いもないと、笑顔でもって言葉を返した。それにはさしもの佐久間も頬を引き攣らせている。
「私らはさぁ、何者にもなれないゴミを、わざわざグループに入れてやってんのよ。なーんの価値も才能も無いただの凡人でしょ、アンタって。そんなのが、私たちの命令に従わないっていうの? ……退学させるわよ、アンタ」
「……っ、で、でも――」
星奈さんは、ぎゅっと胸元で拳を握った。
『ねぇ、星奈さん! 帰りになんか食べて帰らない?』
『あ、えっと……ごめんなさい。ちょっと、お金に余裕がなくて』
思い出したのは、火芥子さんとの会話だった。
あの時は『言い訳』だと考えていた。星奈さんともあろう人が、校則違反を連発するとは思えなかったから。だから、別な用事があるんだろうと考えていた。
けど、もしも本当にお金に余裕がなかったのだとしたら。
――今回のようなことが、原因で。
「あ? ほら、さっさと行ってきなさいよ。私ね……うーんと、任せるわ。好きなの買ってきなさい。……まぁ、もしも気に入ったのがなかったら罰金だけどね! あははははは!」
「私も私も! なんか炭酸系買ってきてー!」
「私オレンジジュース! 早くしないと罰金だよー!」
喚く喚く、騒がしいったらありゃしない。
さすがにもう、ここにいた全員が異変に気が付いた。
戦闘中だったものも、多くが手を止めてこちらを見ている。
黒月も驚いたようにこっちを見ていて、僕とも目が合った。
そりゃそうだ、平和そうに見えたB組で突如として起こった異変。
驚かないって方がおかしい、僕も少なからず驚いてるしな。
ちらりと見れば、朝比奈嬢は顔を憤怒に染めていた。
熱原永志による暴挙を受けた後だものな。
そりゃ、こういったことに過敏になったって仕方ない。
――そう、仕方がないのだ。
「ちょ、あ、雨森!?」
火芥子さんの声が聞こえた。
僕は、四季の、すぐ背後に立っていた。
「え、あっ……えっ?」
「……チッ、あんたって、本っ当にイラつくわね!」
僕の姿に気づいた星奈さんと、気付かぬ四季。
四季は舌打ちを漏らすと、思い切り拳を振りかぶる。
……背後の僕は、四季の拳をキャッチした。
「おい」
「あ? ちょっと、なに勝手に触っ――ぶげはっ!?」
そして、振り返った彼女の顔面へ、思いっきり拳を叩き込んだ。
「「「な――!?」」」
鮮血が吹き上がる。
振り下ろした拳、地面へと叩きつけられた四季の後頭部。
彼女はぴくぴくと痙攣しており、その姿を見下ろし、拳の血を払う。
あーあ、やっちまった。
けど、後悔はない。
まぁ、細心の注意を払って手加減はしたけれど、10分近くは気絶したままだと思うよ。
「ちょ……いろは!? あ、アンタ! いきなり何やって――」
「……何を言っている。もう、訓練は始まっているんだろう?」
そうだ、もう訓練は始まっている。
戦闘訓練である以上……闘争要請の模擬戦闘である以上、この場において校則の一切は通用しない。つまり、星奈さんがジュースを買いに行ってもなんの問題もないし……僕が、女相手にグーパン叩き込んでもなんの支障もない。
「火芥子さん、人質を取ろう。……そうだな、そこにいる妖精みたいな女の子がいいんじゃないか? いかにも弱そうだ」
「……なーる。そういうこと! カッコイイとこあるじゃん、雨森!」
「えっ、えっ!? な、何がどうなって――」
楽しげに星奈さんを人質にとる火芥子さん。
はっはー、あんたも中々にヒールですな。初対面の女子をグーで殴る僕ほどじゃないと思うけれどね。
そうさ、僕らは何かを言えるような立場じゃない。
だから、拳を出そう。
何か言う前に暴力に訴えよう。
幸いに、この場はそれができるように出来ている。
「あ、アンタ……何考えてんのよ!? わ、私たちはちょっとからかってただけじゃない! それを……女の子相手に手を挙げて、恥ずかしいとは思わないの!?」
「からかっていただけ。それが通じるのは加害者だけだ」
それに、『女相手に手を上げて恥ずかしくないのか』って?
恥ずかしくないよ。
男も女も関係はない。
友だろうが赤の他人だろうが。
子供だろうが老害だろうが。
邪魔なら、潰す。
それ以外はないだろう。
それとも、お前らに活かす価値があるとでも?
僕は、星奈さんを振り返る。
彼女は自分の心配……よりも、僕の心配が大きいんだろうな。
涙を浮かべて首を横に振っており、その姿に僕は息を吐く。
「や、やめてください……! わ、私はこんなこと――」
「悪いな星奈さん。嫌いになるならなればいい。僕は、僕のしたいようにやる。自由に過ごす。そのためにこの学校へ入ったのだから」
どの道、朝比奈に目をつけられた時点で『目立たない』なんて不可能さ。
なら、自分のために今日この日だけは目立ってやろう。
女に手を上げるような、C組を代表する屑として。
僕は拳を握りしめる。
でもって、目の前の女共へと視線を据えた。
「さぁ、全員まとめてかかってこい」
とりあえず、殴る。
まずは、それやってから考えよう。
章タイトルの子が出てきました。
何故この子なのか、というのはお楽しみに。




