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3-3『集え、部員!』

 翌日から、朝比奈霞のストーキングが始まった。


 あの野郎、僕が口を割らないとみて実力行使に出やがった。

 正確に言えば、僕が部活に向かうのをストーキングし、僕の後を追って部活動を探り当てる、ってのを実行し始めた。


 これがもう……厄介ってレベルじゃないんだよ。

 彼女の力は『雷神の加護』。

 あまりにも強すぎて誰も相手にならないため、その能力の全貌は未だ不明。だが、落雷にも等しい攻撃力と、雷の如き速さを兼ね備えている、ってのは分かってる。間違っても勝てるような相手じゃねぇなぁ。朝比奈嬢に真正面から戦って勝てる生命体なんて居るんだろうか?


「くっ……速いな」


 そんなことを考えながら、今日も今日とて校舎を疾走する。

 身体能力だけは自信があるし、手を抜いた今の状態でも同学年にはそうそう負けやしないだろう。

 だが、それ以上に目立ってるのが、僕の後ろにいる女。


「さすが、速いわね雨森くん!」


 そう、朝比奈嬢である。

 この女、あろう事か能力も使わずに今の僕についてきてやがる。

 朝比奈さん、男女の体格差、って知ってます?

 同年代の中でも速いであろう僕に、なんで女子のあなたが普通に追いつけてるんですかね? もしかして常識を知らないのかな?

 僕はいい加減諦めて立ち止まると、朝比奈嬢は警戒したように周囲へと視線を向けた。


「同じ轍は踏まないわ。昨日も一昨日も、貴方が立ち止まってから逃げられたのだもの。今日という今日こそは絶対に目を離したりしないわ!」

「あ、そう。やれるものならやってみろ」


 そう言って、僕は男子トイレへ直行した。

 瞬間、僕の前へと回り込む朝比奈嬢。

 その顔は真っ赤に染まっており、彼女は焦ったように声を上げる。


「そっ、それは……反則じゃないかしら!?」

「なるほど、ストーカーな上に変態でもあるのか。赤の他人の『下』の管理までしようとは……これは度を超えたド変態だ」

「くぅぅ……!」


 毒舌に対し、彼女は悔しげに歯を食いしばった。


「それに……お前は僕一人捕まえられないくせに正義の味方を目指しているのか?」

「な……、それは――」

「男子トイレの入口は、裏口の窓とこの出入口の二つに一つ。僕のヘボ能力に比べ、お前の力は学園最高位の加護なんだろう? そんな力まで貰っておいて……まさか、トイレに逃げ込んだ生徒一人捕まえられないなんて言わないよな?」


 僕の言葉に、彼女は拳を握りしめた。

 そして僕は確信した、今日も勝ったな。


「……ええ、ええ! もちろんよ雨森くん! 極力この力には頼らないでいようと思っていたけれど……そこまで言われて引くほど、私も安い女ではないわ! いいでしょう、好きなだけ逃げなさい! 私が絶対にあなたを捕まえてみせるわ!」

「あぁそうか。ドデカいのを捻り出すんでな。少々遅くなるかもしれないが、是非とも待っていてくれ」

「ど、ドデカ……っ!?」


 顔を真っ赤にした朝比奈嬢を他所に、僕はトイレの中へと入る。

 そして、発動! 変身能力!

 僕は存在もしない男子生徒へと変身すると、何食わぬ顔で表の入口から外に出る。しかも、濡れてもいない手を拭く素振りをしながら、だ。

 顔をあげれば、顔を赤く染めた朝比奈嬢が腕を組み、仁王立ちしながら男子トイレを見つめている。

 ざわざわ……と周囲から色んな声が聞こえるが、全て無視して僕の帰りを待っているらしい。


 とりあえず……お疲れ様、朝比奈さん!

 今日は日が暮れるまで男子トイレの前で待っていてくれ!


 僕は厄介者を排除した喜びに湧き、晴れやかな気分で図書室へ向かう。

 さぁ、昨日も星奈さんに癒されてくるとするか!




 ☆☆☆




「おっ、雨森じゃん。おっすー」


 その日、図書室には見慣れない人達の姿があった。

 ……いや、見慣れない、って訳じゃないな。思いっきり知っている人だった。というか、同じクラスの人達だった。


「あっ、雨森くん……!」


 クラスメイトたちを前に困惑してい森の妖精……じゃない、間違えた、星奈さんが、僕を見て安心したように微笑んだ。

 さっすが星奈さん、今日も安定の可愛らしさだ。

 その笑顔を見るだけで、今日一日頑張って良かったと思える。

 そして、明日も一日頑張ろうと思える。

 星奈さんの笑顔があれば、この世から戦争は消えるだろうな。

 僕はホクホクしながら歩いていくと、見知った顔が四人もいやがる。


「雨森くんも、文芸部だったんだね!」

「井篠か、どうしたんだ、みんな揃って」


 そこに居たのは……なんというか、珍しい組み合わせの四人だった。


 一人は、我らがC組を代表する男の娘、井篠真琴。

 名前だけ見れば明らかに女の子。

 外見を見ても明らかに女の子。

 でも男。世界の不思議を体現したような存在だ。


「おや、雨森。図書室は漫画やラノベ……いわゆる二次元の宝庫かと思っていたが……三次元もいるのだな。……まぁ、僕は嫁さえいればどこでも構わないのだけれどね」


 声を聞けばわかる、間鍋くん。

 あいっかわらず、凄いなこの人は。

 えっ、何が、って? 聞くんじゃないよ野暮なことは。

 とにかく凄い。語彙がそれしか出てこない。


「こら、間鍋。雨森とB組の子に失礼じゃん。……悪いね、雨森と部長さん、こいつ、色々と頭が沸いてんだ。基本的に無視してくれて構わないから」


 そしてクラスメイトの火芥子(ひがらし)茶々(ちゃちゃ)さん。

 赤みがかった長髪の、雰囲気クールな少女だ。

 かなりの長身で、前にすると威圧的だが……話してみると案外いい人。面倒臭がり屋なオーラが漂ってるが、悪い人じゃない。


「おや、雨森氏! 貴殿もこの地に漂う龍脈の魔素を求めて来たと見ました。だが、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ……! 決して簡単な道ではないと心得ることですよ!」


 そして最後の四人目。

 彼女も声を聞いたらわかるね、天道さんです。

 C組が誇る厨二病、以上。説明おわり。

 男の娘、二次元オタク、面倒臭がり屋、厨二病。

 ……うーん、どういう繋がりだ? お前ら。


「で、星奈部長、なんなんすかこいつら」

「あ、あの、なんというか……入部希望? と、いわれまして」


 な、なんだと……!?

 入部希望って、まさか、文芸部にか!?

 僕と星奈さんの聖域に土足で踏み入る気かこいつら!

 正気とは思えん……僕に恨みでもあるのだろうか?

 あまりの恐ろしさに戦慄していると、井篠が遠慮気味に僕を見ていた。


「え、えっと……その。実は、僕達って戦闘向きの能力じゃなくて……。あまり戦いたくもないから。文化系の部活に入りたいなー、って」


 彼の言葉に嘘はない。

 この四人全員の能力は知っているが、誰一人として戦闘には役立たない、どちらかと言えばサポート向きの異能ばかりだ。例をあげれば井篠の【医術の王】だな。治すしかできず、戦うことはもってのほかだ。


「……まぁ、疑ってる訳じゃないが、文化系でも、先輩のいる部活の方が有利だと思うぞ。先輩と繋がりが持てる、って言うのは大事な事だ」

「雨森よ。俯瞰的に見て、俺たちが年上の三次元と仲良く出来ると思うか?」

「思わない」


 即答した。

 まず井篠は、絶対に良くない輩に目をつけられる。

 だって、男の娘だもんっ! 絶対に危ないね! 確信できるわ。


 そして間鍋、お前は論外。


 火芥子さんは、良くも悪くも達観してるからなぁ。

 上級生からすれば面白くはないだろう。


 最後に、天道さんも論外だね。

 君はまず、厨二病を卒業しましょう。


「そ、即答って……失礼じゃん」

「いや、分かってるから文芸部に来たんじゃないのか?」

「……まぁ、そうなんだけどさー」


 不満そうな火芥子さん。

 僕は彼女から視線を外し、背後の星奈さんを振り返る。

 僕個人としては……まぁ、どっちでもいいかな。

 星奈さんとの蜜月な読書も捨てがたいが、僕もそろそろ普通の友達が欲しい。朝比奈とか倉敷とか黒月とか、ああいった類じゃない、普通の友達が欲しい。

 そのため、結局のところ【どっちでもいい】のだ。

 どっちに転んでも、僕は得をするのだから。


「星奈部長。……まぁ、全員悪いヤツではないけど、星奈部長としてはどうだ? 最終的な決定権は、部長である星奈さんにあるだろうし」

「ええっ? わ、私、ですか……?」


 不安そうに僕を見上げる星奈さん。

 やばっ、可愛い。昇天するかと思った。

 僕は心の中で膝を折ると、彼女は緊張気味に四人の前へと踏み出した。


「え、えっと、B組の、星奈です。一応部長をさせていただいてます」

「あ、ご丁寧にどうも……。C組の井篠です。あと、間鍋くん、火芥子さん、天道さんです」

「あっ、こちらこそご丁寧にどうもありがとうございます……」

「いえいえ! そんなそんな……」


 絶世の女神と、神秘の男の娘、奇跡の共演。

 なんだろう、夢でも見ているんだろうか?

 不思議だろ? あの女神みたいなの、普通の女の子なんだぜ?

 あそこで笑ってる女の子みたいなの、実は生えてるんだぜ?

 世の中って、不思議なことでいっぱいだ。


 そんなことを考えていると、んんっ、と可愛らしい女神の咳払いが聞こえてきた。この神聖さは星奈さんかな?


「え、えっと……私は、その、一人でも多く、本の良さを知ってもらいたくて。なので、皆さんが来てくださって……とっても嬉しかったです」


 そして発動! 女神の微笑み!

 四人へと、衝撃が突きぬけた。

 きっと彼らは今、森の中にいるだろう。

 圧倒的な大自然に目を見開いて、母なる女神を幻視する。

 そして我に返って、図書室へと舞い戻るのだ。

 僕が星奈さんに邂逅した時と全く同じ展開ですね。よく分かります。


「……何この子、やっべぇじゃん。凄いいい子じゃん」

「……ふっ、まだ、三次元も捨てたものでは無いな」


 火芥子さんと、間鍋がなんか言っていた。

 天道さんは衝撃的過ぎたのか、完全に固まっており、井篠は今になってようやく正気へ戻ったようだ。


「……っ! あ、は、はいっ! 頑張ります!」

「ふふっ、自分の好きなように、好きな本を読む。それが文芸部です」


 そういった星奈さんは、今日一の笑顔で彼らを迎える。



「ようこそ、文芸部へ。皆さんを歓迎します」



 こうして、文芸部に新たな部員が入部した。


《文芸部紹介》

○部長

星奈蕾。図書館の妖精。女神。

○副部長

雨森悠人。星奈様を信仰している。

○部員

井篠真琴。男の娘。

間鍋愉。二次元オタク。

火芥子茶々。面倒くさがり。

天道昼仁。眼帯をつけた中二病。


一言、濃ゆい!!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
雨森よ、六千年以上生きても厨二病が治らない者もいるのだ…。
2024/12/18 16:44 漆黒ヒーロー『ツクヨミ』
[良い点] 最初は主人公好きになれなそうだなって思ったけど、2章の戦いから好きになれた。 [一言] 感想欄で今後の展開のヒントがちょくちょくあるから、感想見ないようにします笑
[良い点] ダメだぁ、笑いが止まらんww
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