10-41『継ぐもの』
僕は、君にはなれないんだと、ずっと昔から分かっていた。
君は強くて、格好良くて。
いつだって僕の前を歩いていた。
輝かしい、僕にとっての正義の味方。
君はいつだって正しく在ったし。
君が言うのなら、僕はそれを疑わずに信じられた。
君なら信じられる――ではなくて。
君になら騙されたっていい。
そういう気持ちが、在ったから。
『すごいよな、あいつら』
一年前の帰り道。
神人試合が終わった後に。
廊下を歩く君は、僕を振り向くことなくそう言った。
『ほんの数年。たったそれしか変わらないんだ。……なのに、数年先の自分が弥人や橘克也。ああいった化け物に勝てるとはどうしても思えない。久しぶりに自信が無くなったよ』
あの日の君は、少し落ち込んでいて。
僕はどう声をかけるべきか悩み、歩を早めた。
君の隣に並ぶ。
大丈夫、君なら大丈夫だよ、って。
そう言おうと思った。
でも、隣を歩く君の顔を見て。
君の浮かべる笑みを見て。
僕は、自分の心配なんて無用なんだと思い知った。
『そして同じくらい心が躍ったよ。いつか僕は、あいつらに勝つんだから』
絶望的な力の差を見せつけられて。
それでも君は折れてはいなかった。
どころか、見上げる先が高ければ高いほど、君は笑った。
面白くなってきた、って。
先が見えるのは楽しいんだ、って。
そう、年相応の子供みたいに笑うのだ。
『才能? そんなものは関係ない。必要なのは正しい努力と相応の時間だ。あいつらに出来るのなら僕にもできる。あいつらが強くなれたのなら、僕だって強くなれるに決まってる』
自分を努力不足だと鼻で笑って。
君は、正しい努力へとまた歩き始める。
何度力の差を見せつけられても。
どれだけ無駄だと突きつけられても。
君は絶対折れないし、諦めない。
『お前もだぞ、志善』
君は僕へと声をかける。
歩き始めてから、やっと君は僕を見る。
どこまでも見通すようなきれいな瞳で。
しかし燃え滾るような決意を宿し、僕を見つめた。
『どうせ強くなるなら僕を超えろ。それくらい強くないと張り合いがない』
そう言って、君は再び前を向く。
言葉を受けて、僕は廊下に立ち尽くした。
強くなる。
この僕が――君より強くなる、なんて。
そんなことできるわけがないと、頭を振った。
「……でも」
もしも、万が一……だけれど。
勝たなくちゃいけない。
そういう場面が、訪れてしまったら。
その『先』のことなんて、なにも考えなくてもいいのなら。
「その時は、優人」
僕は、気づけば口を開いていた。
君の歩みが、止まる。
振り返った君は笑顔を見せると、自信満々に答えてくれた。
『僕も本気で戦うさ。まあ、お前が僕より強くなったら――だけどな』
☆☆☆
満月の夜。
肺を焦がすような灼熱と。
凄まじい衝撃。
鼓膜を貫いた炸裂音。
まるで世界が崩壊したような。
大切だった何かが終わる音で、少女は目を醒ました。
「……あ、れっ」
自分の部屋で寝ていたはずなのに。
気が付けば、彼女は外に放り出されていて。
生まれてからずっと住んでいた屋敷は、既に崩壊を始めていた。
自分の部屋は既に跡形もなく。
何かの衝撃で屋敷の一部が吹っ飛んで。
その余波で放り出されたのだと理解する。
「な、なにが……!?」
咄嗟に意識を完全覚醒。
態勢を整え、近くに転がっていた木刀を構える。
周囲へと視線を巡らせ、意識を広げる。
……そして、倒れている人物がいることに気づく。
「あ、兄上……!?」
自身の後方、ずっと奥。
壊れる屋敷のすぐ前で。
かつて、天守弥人と呼ばれた男の死体が転がっていた。
咄嗟に駆け寄る。
されど、彼がもう死んでいることは分かってた。
その体から石畳に広がる赤い血が。
冷たく冷え切った体が、最悪の事実を突きつける。
「な、なんで……どうして!」
天守弥人は無敵である。
そんなことは周知の事実だ。
彼の天能は彼自身を不滅にする。
14の力などあくまでも付属品。
【善】という天能は使用者を不死にする。
あらゆる状態異常を防ぎ、あらゆる傷を瞬く間に癒し尽くす。
正義の味方として不滅で在る。
それこそが、彼の天能の真髄だった。
なのに、死んだ。
その理由は火を見るより明らかだった。
「兄上……まさか天能が!」
不滅である兄が死んだ。
それはイコール、善なる天能の消失を意味する。
完全に無くなったのか……あるいは、欠片を残して他を強奪されたのか。
……あるいは、天能臨界、というモノを使ったのか。
詳しいことは分からずとも。
完全体の【善】の天能さえあれば、弥人が死ぬことなど有り得ない。
なぜ、どうして。
そして何より――誰がやったのか。
思考が赤く染まる中。
衝撃と共に、屋敷の一部が爆発する。
「――ッ」
顔を上げる。
彼女の瞳が映したのは、崩壊する館で戦うもう一人の兄の姿。
「……っ」
天守優人。
彼女の実兄にして、彼女が目指した背中の一つ。
彼はいつも通りの笑顔を浮かべ、何者かと戦っていた。
けれど、彼を一番近くで見てきた少女だからこそ察せた。
少年の笑顔の内に隠れた……様々な激情を。
憎悪と悲しみ、そして絶望。
燃え滾るような感情を笑顔で隠し、少年は戦う。
その姿は、大っ嫌いな父親とよく似ていた。
なんで、あんなに辛そうなのに。
どうしてあの人は、他人に縋ろうとしないのか。
なんで苦しみを自分一人で背負おうとするのか。
どうして自分に、頼ってくれないのか。
様々な感情が脳内を埋め尽くす。
しかし、天守優人と戦っている人物を眼にし、それらの思いも霧散した。
「……っ」
一瞬しか、その姿は見えなかった。
代わりに見えたのは、その人物が扱っている無数の権能。
館を覆い尽くす黒い霧。
昏き雷が空を灼く。
有り得ない吹雪が頬を打ち。
重力すら崩壊し、瓦礫が浮かぶ。
「この、力は――」
この力を知っていた。
これは……間違いなく、【自然の加護】と呼ばれる力。
されど、彼女が知る力とは全くの別種。
明らかに変異した別の何かだ。
「どう、して――」
その天能を、知っていたから。
少女は涙を瞳に浮かべて、彼らへと問う。
「どうして――」
どうして喧嘩しているのか。
どうして弥人は死んでいるのか。
どうして。
なんで。
あの人たちは、私に頼ってくれない。
どうして自分には……彼らを止めるだけの力が無いんだ、と。
再び、頭の中で思考がぐちゃぐちゃと混ざり始める。
ぽたりと、頬を涙が伝う。
伝った涙は、眼前で倒れる弥人の手へと落ちる。
そして。
――ピクリと、天守弥人の指が動いた。
☆☆☆
「はぁッ、はぁ……っ、はぁッ」
荒い息を吐きながら、僕は屋敷を駆けている。
減速することなんて許されない。
一つの迷いが死に直結しているような、ギリギリの瀬戸際を走る。
背後を振り返る。
おおよそ、サイズは僕の二倍から三倍。
真っ黒に塗りつぶされた、謎の球体。
……おそらくは、重力の応用だろう。
今この瞬間も成長し続けるのは僕だけではない。
志善の能力も、既に僕に与えられた『知識』の上に進んでいた。
「遅いよ優人! そんなんじゃ追いついちゃうよ!」
「あの野郎……っ」
全力で廊下を走る。
僕の全力と同じか、それ以上の速度で黒球が僕へと迫った。
廊下を押しつぶしながら、触れたものすべてを破壊しながら。
刻一刻と僕の命へと距離を詰めてくる。
間違いなく、触れれば即死。
というか、触れなくてもある程度近づけば抵抗も出来ずに吸い込まれそうだ。
それほどの引力と圧力。
僕の方が火力的には上だが……正直、五十歩百歩と言う他ない。
100点満点の内。
僕の火力を120とするならば。
この男は全ての権能で100を取ってくるような反則具合だ。
そして人を殺すというのなら、この男以上の火力は間違いなく不要。
120点だろうが100点だろうが、殺せればそれでいいのなら。
志善悠人が僕を殺そうとする以上、僕の不利はどう足掻いても覆せない。
「チッ……!」
右手に銃を生み出し、構える。
対象は迫りくる黒い球。
イメージするのは……重力にも負けない貫通力と、強烈な威力。
ズキリと、見逃せないような痛みが頭に走る。
まるで脳に直接針束を叩き込まれたような激痛。
けれど僕は笑顔を張り付け、銃を放つ。
一撃。
たったそれだけで、重力の球は霧散する。
……ああ、そうだ、一撃だ。
アイツの一手に対し、僕が返せるのは一発だけ。
二手以上をかけると、僕の消耗が加速する。
ただでさえすでにガス欠のところを無理して力を引き出してるんだ。
これ以上の手間は、本当の意味で命取り。
一撃だ。
全てを一撃で処理する。
それが勝利するための最低条件――
「ねぇ、考えてること当ててあげようか?」
「……ッ!?」
至近距離から、声がする。
焦って声の方へと視線を向ける。
……僕は、最初からずっと志善から視線を切ってはいない。
必ず、視界のどこかで彼の姿を捉えるように動いていた。
現に、志善悠人の姿は庭にあった。
確かにそこに立っていた。
なのに、声がしたのは僕の背後から。
ふわりと、庭に立っていた彼の姿は歪んで消えた。
まるで蜃気楼のように……幻でも見ていたように。
「ま、さか……っ」
「ご名答」
言葉と共に、顔面へと強烈な痛みが走る。
視界がぶれる。
真っ赤な鼻血が吹き上がる。
殴られた――と気づいたのはほんの数瞬後。
されどその数瞬は、この土壇場においては命取り。
「今から、思い切り殴るよ」
みぞおちへと拳がめり込む。
衝撃に呼吸が止まる。
吐き気が喉元まで迫る。
されど歯を食いしばって耐えた僕は……再び顔面を打ち付けられる。
「君の考えていることはただ一つ。『消耗を避けながら時間を稼ぐ』……で。稼いだ時間に何の価値があるのかな? 無駄、無意味、無価値。君が僕に勝てるわけないんだから……さっ!」
何度も、何度も。
世間話をするような気軽さで。
泥のような瞳で、味のない笑顔を浮かべて。
何の容赦もなく、少年は僕を殴った。
そして再び、腹へと一撃。
「が……っ」
「君と僕の天能、弱点は同じく【術者の近接戦闘能力が皆無】な点さ。わかるかい? どれだけ強大な力を持っていても、どれだけ臨界がすぐれていても……術者本人が弱ければ何の意味もない。近づくだけで君の選択肢は狭まるんだから」
僕の腹に拳を押し付けながら、志善は語る。
「加えて君は僕を殺そうともしていない。一度として僕に対して銃口を向けていないのがその証さ。君は、僕を殺さないように手加減した上で戦わなくちゃいけない。……つまらないよ優人。なんで僕を憎まないの? 僕は今から……君を、殺そうって言ってるんだぜ?」
彼は僕へと問う。
しかし、返事できる余裕なんてなくて。
真っ赤に腫れた顔で、荒い息だけ吐いていた。
「志善悠人は殺さない、屋敷は壊さない、他人は巻き込まない。……それを、舐めてる、って言うんだよ、優人……ッ!」
頭部へと蹴りが入る。
咄嗟に両腕で防いだものの、僕の体は窓を突き破り庭へと転がる。
げほっと、喉の奥から血を吐き出した。
内臓……背骨も、いくつか逝ったかな。
普通の人間だったら死んでるよ、と声も出せずに苦笑する。
「本気で戦え! でなけりゃ死ねよ、天守優人!」
声の方へと視線を向ける。
志善は、廊下を出て庭へと足を踏み入れる。
その顔は……どこか、泣きそうにも見えて。
僕は体に力を入れて、右手を伸ばした。
「何度も言ってやる、本気だ! 僕は本気で君を殺すぞ! 君だけじゃない、恋も、セバスも、橘も、地下の子供たちも、学校の皆も! 君の大切なモノも、全てを僕が殺すんだ!」
地を這う。
手を伸ばす。
偶然か、必然か。
僕の目と鼻の先には……倒れた老人の姿があった。
――海老原選人。
殺したいほど憎んだ、家族の仇。
志善の手によって老化を強制され。
最後には、天守周旋の手によって命を散らした。
(……ったく。それは僕の仕事だったんだよ、父さん)
僕は、必死に手を伸ばす。
僕はその死体の――すぐ隣。
灰に埋もれていた、黒いコートを手に取った。
『優人、家族は好きか?』
そのコートを手に取った時。
いつかの、古い声が蘇る。
『弥人はきらい』
『……そ、そうか。いや、別にいいのだが。いや良くはないか』
その人は少し慌てた様子で、目の前にしゃがむ。
彼はどこか懐かしそうで、哀しそうで。
……まるで、もう会えない兄姉を懐かしんでいるような。
そんな表情で、僕の頭を撫でた。
『兄弟は、家族は大切にしなさい』
「……はっ」
昔のあの人を思い出し、思わず噴き出した。
……わざわざ、このタイミングで思い出すかよ。
僕にとってあの人は、母さん大好き過ぎて頭のおかしくなった狂人だ。
なのに、今思い出した記憶の中では。
母さんが死ぬ前の、優しかったころのあの人が笑っていた。
「……何を、笑ってるんだ」
瞳から光の消えた志善が、僕を見下ろす。
僕は全身に力を入れて立ち上がると、乱暴にコートを羽織った。
僅かな死臭。でも、それ以上に懐かしい匂いがした。
袖は破けているし、灰塗れの穴だらけ。
格好なんてこれっぽっちもよくないと思う。
けれど、脳内に溢れた記憶の濁流の中で。
必死に生きて、必死に抗って。
誰からも認められない中で、最後まで意地を通した姿を見た。
(……生まれて初めて、アンタを【父親】として誇らしく思ったよ)
正義を貫いた兄。
愛を貫いた父親。
そんな先人二人を想い、頬を緩ませる。
言いたいことはあるけれど。
文句も不満もたくさんあるけれど。
きっと二人は、後悔なんてしていない。
後悔しない道を貫いて、最後まで走り切った。
少しくらいは、僕らのことを顧みて欲しくはあったけど。
……けど、まあ。
その生き方を否定する気は、これっぽっちもない。
なんてったって、僕も天守。
後悔のしない命の使い方は、二人に倣うさ。
誰からなんと言われようと、最後まで意地だけは通す。
僕も、それだけは曲げずに生きようと思うよ。
「……もういいよ、死ねよ。殺すから。君に期待した僕が馬鹿だった」
志善は、そう呟いた。
彼の手の中に、見たこともない刀が生まれる。
金属の外殻に、その内部からは炎が零れる。
雷が纏い、周囲の空気は凍り落ちてゆく。
……なんだかしらないけど、間違いなく喰らったら死ぬヤツだ。
そう苦笑し、空を見上げる。
真っ黒な夜空には、星が瞬く。
最後には似つかわしくない絶景を見上げて、息を吐く。
前方へと視線を戻すと、志善は刀を構えていた。
「それじゃあ、さようなら。僕の憧れだった君」
志善から、声が届く。
……憧れ。
憧れかぁ。
そんな、大層な者じゃないんだけどな。
それでも……そうだったな。
僕はお前のお兄ちゃんで。
兄はいつでも、弟の先を歩いているもんだ。
僕は思わず苦笑して。
「【天能臨界】」
呟いた、その瞬間。
志善の構えていた刀は――まるでガラス細工のように砕け散った。
「……………………はっ?」
鍔と柄を残し、その刀身は全壊する。
瞬く間の出来事。
彼は唖然と目を見開き、自分の握る刀を見下ろしていた。
「な、なん……なっ、なに、を……っ」
「……疲れてるんだから喋らせるなよ。……でも、しいて言うなら」
何とか声を返し、再び深呼吸する。
何を言えばいいのか。
どう説明すればいいのか。
どういう原理で成り立っているのか。
そんなことは、僕の方こそ聞きたいけれど。
彼に伝えるべき言葉は、すぐに思い浮かんだ。
「賭けには僕が勝ったみたいだ」
「……ッ!? ま、まさか、さっきの――」
志善は、今になって思い出したようだ。
先ほど……僕が口にしたある言葉を。
「セット」
再び、その言葉を口にする。
指をさし指定した先は、志善悠人。
彼は肩を震わせて、刀を捨てた。
「ふ、ふざけるな……ッ! 僕の能力は【天守優人はなにもしていない】って言っている! 君は何もしていない……しているわけがない! そんな言葉は……」
「デタラメか? ま、それでいいよ、お前がそう言うなら」
コートの袖を何度か捲る。
何とか息を整えながらそう言うと、再び彼を見据えた。
「ただこの一撃、仮に狙いがお前だったら……今ので死んでたぞ、志善」
「……っ!?」
僕が事実を告げると、少年は顔を青くした。
ふと、右の視界が赤く染まった。
何かが頬を伝って拭うと、真っ赤な血が付着する。
――臨界の連続発動。
セバスに一撃。
そして、今の一撃。
短いスパンでこうも使うと、やはり反動は激しいな。
強烈な目眩が襲う。
視界なんてさっきから霞んでいるし。
体も限界で膝が震えている。
立っていることも辛くて。
ここで意識を失えば、二度と目を覚まさない予感がある。
根性で意識を繋ぎ止め。
意地と強がりで見栄えを保つ。
つまり……まぁ、なんだ。
なんの問題もないってことだな。
どれだけ辛くとも、苦しくとも。
それらの苦痛は、我慢できない程ではない。
まだ進める。
まだ走れる。
燃料なら、まだまだそこらへんに転がっている。
魂でも体力でも記憶でも感情でも、好きなだけ持っていけ。
削れるものは全て燃やし尽くせ。
薪の代わりにくべてしまえ。
最後にこの意地一つ残れば、それで満足だ。
父の遺したコートを握り、僕は無理やり笑顔を浮かべる。
圧倒的優勢にもかかわらず、志善は思わず後ずさる。
その光景にさらに笑みを深め、僕は一歩踏み出した。
「勘違いするなよ。お前は僕より『格下』だ」
一年前の約束。
お前が僕より強くなったなら、本気で相手をしてやる……って。
あの約束は今もまだ健在だよ。
お前が僕より強くなったなら、僕も本気でお前を倒す。
けど、今はまだ、その時じゃない。
僕は依然として、お前より強いままだから。
「本気で戦え。でないと死ぬぞ、お前」
お前を狙わないように戦うのも、けっこー大変なんだぜ?
☆☆☆
天守優人と、志善悠人。
伸べて戦闘時間は、僅か14分27秒。
橘が屋敷へと辿り着く、おおよそ5分と13秒前。
決着は唐突に。
両名のうち片方の【死】をもって、戦いは終幕を迎える。
今でも夢に見る。
どうしてあの時、自分が生き残ってしまったのか。
泣き崩れる妹を抱え。
心の底から……自分の生存を恨んだ。
僕が……『ユート』こそが、あの場所で終わるべきだった。
あの少年の方が、生きるべきだった。
彼であれば、きっと、もっと、違う未来もあったはずだ。
……【雨森悠人】なんて怪物は、生まれなかったはずなんだ。
次回【星の終焉】
一切の救いなく。
誰の願いが叶うこともなく。
想いが繋がることもなく。
静かに、そして残酷に。
エンドロールは流れゆく。




