10-40『銃VS星』
最初に動いたのは志善だった。
彼は大きく右手を振るうと、黒い霧が周囲へと溢れた。
弥人の使っていた白い霧と……ほぼ同質か。
色の差異はあれど、圧倒的な密度で視界を一気に奪われる。
「少しは慢心しろよ……」
思わず言ったのとほぼ同時に、上空から雷が飛来する。
速度は自然界の雷と変わらず、威力に至ってはそれ以上。
彼の臨界【星の恩恵】によって底上げされた天能出力は、おおよそ平時に出せる出力限界を遥かに上回る。
威力だけならば……間違いなく、弥人をも上回るだろう。
「けど、威力だけだな」
指を弾くと、途端に僕目掛けて落ちてきた雷が霧散する。
雷は無数の細かい線となって大地へと降り注ぎ、その衝撃で黒い霧が晴れていく。
やがて、志善の姿が見える。
彼は歯を食いしばり、僕を睨んでいた。
「威力だけは褒めてやるが、扱いは弥人の足元にも及ばないな。これならまだ、アイツの方が手強かった」
僕の頭上には多くの弾丸が浮いている。
臨界を経験したことにより、僕の天能への解釈も変化している。今までは銃火器として捉えていたモノを、今では銃は銃、弾丸は弾丸として捉えるようになっていた。
当然、それによって以前は使えたものが使えなくなった……と言ったことは無いが、その逆は大いにある。
事前に雷の通り道へと鉄の弾丸を配置し、避雷針として雷の方向を逸らす。前々から弥人を相手に……と考えていた戦術だが、まさかお前を相手に試すことになるとは思ってなかったよ。
「減らず口を……ッ!」
「……っ」
嫌な予感。
警戒を最大まで引き上げ、後の先に集中する。
雷が通じないと理解した志善悠人。
彼が次に取った攻撃手段は――大地の操作だった。
「【喰らう獣顎】!」
大地が揺らぐ。
咄嗟に上空へと飛び上がる。
僕が見たのは、蠢き、変形し、巨大な獣の【口】となった大地だった。
牙のサイズは、目測だが……僕の身長の10倍以上はあるだろう。
「随分な大技を……」
と言いかけて、志善の表情を見る。
彼の顔には色濃く苛立ちが映っていたが、それだけだ。
僕にとっては一歩対応を間違えれば即死の大技。
にもかかわらず……アイツにとってはただの通常攻撃。
(……いつから、こんなに差をつけられたんだろうな)
思わず苦笑し、アギトへと指を向ける。
実力差は明確。
今の僕ではどうあがいても勝ち目は薄い。
――ならば、今の僕ではなくなればいいだけの話だ。
一歩ずつ、では遅すぎる。
もう、そんな悠長なことを言ってられる相手じゃない。
数段飛ばしで成長しろ、進化し続けろ。
数分先を常に見据えて、対応し、乗り越え続けろ。
「――セット」
「……ッ」
指定した先は、志善悠人。
僕の声を聞いて、初めて彼の表情に焦りが滲む。
……大丈夫、心配するな。
ただの賭けだ。成功する確率なんてゼロに近い。
だが同時に、成功すればお前を確実にぶち抜ける一手でもある。
そしてお前は……この一手だけは読み取れない。
「こ、殺せアギト!」
おそらく、星の権能を使ったのだろう。
現在と過去のすべてを読み取る知恵の海を使用した。
その上で、僕が何をしたのか分からなかった。
全知である世界の中に、たった一筋の【未知】の混入。
彼の表情にさらなる焦りが滲む。
対する僕は、どこまでも冷静だった。
「簡略展開――銃身」
先ほど流れてきた、世界の情報。
その中の一つ――天守周旋が成功させた【臨界の簡略化】。
それを応用して、自分の天能に落とし込む。
……まあ正直、父さんに比べれば子供の悪戯みたいなもんだけど。
僕の周囲へと、再び弾丸が産み落とされる。
先ほども見せた、弾丸の召喚。
だけど、ただ召喚するだけではまだ足りない。
「穿て」
天能は術者のイメージを形にする。
僕が想像したのは、透明な銃身。
空気をその形に見立て、一切の過不足なく圧を加える。
――そして、発射。
僕の召喚した弾丸は、そのまま牙へと飛来する。
「な……っ!?」
迫りくる牙へとヒビが入る。
一撃で壊すのは厳しかったようなので――続いて二射目。
寸分たがわず同じ位置へと着弾した弾丸は、迫る牙全てを粉砕した。
……二射。
その事実に顔が歪みそうになる。
まだまだ未熟。
この程度、一撃で粉砕出来なくちゃ……話にもならない。
次は、二射も要らない。
確実に、一撃で粉砕する。
そう覚悟を決める僕の眼前で、地の獣が崩れていく。
その向こう側で、志善悠人は僕を見上げていた。
召喚した銃の上に乗る。
両手を広げ、僕は眼下の世界を見渡した。
「凄いぜ志善。天能はこうも自由だ」
セバスとの戦い。
臨界の発現。
あれ以降、僕の中で何かが変わった。
というより、モノの見方が一変した。
ああ、これは使える。
これは使えない。
だけど、本当に使えないのか?
要らないモノを削れば、使えるんじゃないのか?
そういう思考が、新しく生まれた。
火力に特化すると宣い。
実際、その極致を生み出した――その先に。
はじめて僕の天能は、【自由】を知った。
「銃身を削ってもよかったんだ。そうすれば音も出ないし、余計な手間も一切省ける。攻撃までの時間ロスもない。今まで以上に素早く、手間なく……あとは、どうすれば火力が伴うか……だが」
何でもかんでも取り入れるわけではなく。
要らないモノを削る。
その先に初めて見える光景がある。
「……ッ! ああ、そうかい! 君が今も成長しようというのなら、完全に進化しきる前に潰すまでだよ!【裏六番・ガルダ】!」
志善は両手の指六本を組み合わせる。
そして生まれ落ちたのは、屋敷を飲み込むほど巨大な怪鳥。
空を見上げる。
弥人の魔猪よりもさらに大きい。
……まあ、そりゃそうか。
火力・出力だけならこいつは弥人を上回る。
同じ力を使えば、確実にあの兄をも超えてくる。
「さらに付与・雷! これに勝てるかい、優人!」
ガルダの体に雷が纏う。
凄まじい威圧感。
こりゃ、弥人の魔猪でも秒で屠られそうだ。
そんなことを思いはした。
けれど、その怪物を見上げて。
僕は……すんと、心が冷める思いだった。
「何を勘違いしているのか知らないが……」
右手に銃を生み出す。
その光景に志善は眉を寄せた。
せっかく銃身を不要とした攻撃を可能にしたのに。
何故、今更銃身を用意したのか――と。
疑問に思い、天能に問いかける。
その答えが出るより先に、僕は怪鳥へと銃を構えた。
「消音、簡略、耐久、使い勝手――今回、削るのはお前らだ」
削り、削って、要らないモノを削ぎ落して。
その先に見える光景、新しい極地。
眼下で志善が目を見開く。
そんな彼をよそに、僕はたった一発、弾丸を放った。
『キュ』
断末魔、と呼べるのだろうか。
小さな、最期の悲鳴が聞こえた。
回避する余裕もなく。
危機を察する時間もなく。
気が付けば、怪鳥の眉間に巨大な穴が穿たれている。
「ば……っ!?」
怪鳥が霧となって霧散する。
あぁ、良かった。
僕の考えは間違っちゃいなかった。
あの怪鳥を見上げて。
直感的に過ぎった言葉。
ーーなんだ、こんなもんか。
「驚くなよ志善、当たり前のことだろ」
下で驚く志善へと。
僕は、当たり前のことを口にする。
「火力を求めた僕に、お前が火力で勝てるわけがないんだ」
お前は天能の多様さを求めた。
その答えが、お前の『星』だ。
全てに手が届く多様性。万能と言って差し支えない。
でも、そんなもんは僕は求めちゃいないんだよ。
火力、火力、火力。
それだけを追求した果ての今。
「お前みたいな半端に、僕の一撃が耐えられるかよ」
頑固。
意固地。
その上脳筋。
我ながら、言葉に起こすと笑いそうになる。
悪いが、僕はお前ほど賢く生きちゃいないんだ。
なんてったって、凡人だからな。
愚かしいと思うが、僕は僕の選んだ道を行く。
……例えその道が、長く続かないものだとしても。
「……随分と、無茶をするね」
ふと、下から志善の声がする。
僕を見上げるその瞳には憐憫が映る。
まるで可哀そうなモノを見るような表情で、彼は言葉を重ねた。
「天能は魂の力。言い換えれば、天能を使えば使うほど精神力は疲弊する」
ぽたりと、鼻から何かが滴る。
手で拭うと、掌に付着したのは鉄味の赤色。
「精神力は基本、加齢によってのみ増えていく。……対して君は、まだ子供だ」
彼が何を言いたいのかは分かっている。
その上で、言い返す余力も惜しくて。
僕は、黙って彼の結論を受け入れる。
「魂を削っての火力の上限突破。……続ければ死ぬよ、優人」
……分かってるさ。
お前の言う通り、これは、削っちゃいけないモノだって知っている。
大人になって、精神力の成長した僕が初めて使えるであろう、超威力。
今の僕では逆立ちしても引き出せないソレを……無理やり引っ張り出した。
その分、代価はある程度大きいものだと……分かってはいたさ。
一度使うたびに、心の中の大切なモノが削られていく。
それは想いか、感情か、希望か、絶望か。
あるいは――思い出か、僕の命か。
と、そこまで考えて僕は笑った。
確かに大切だ。
けど、それ以上に大切なことが目の前にある。
「弟に負けて無様晒すよりは、百億倍マシだろうが」
ここで志善を止められなければ、僕は一生後悔する。
どれだけ生きながらえようと、この瞬間を一生背負って生きていく。
あの時、もうちょっと無茶していれば。
もっと、ずっと、頑張れたら。
そんなことを思って、過去を振り返り歩いていく。
そんな人生、クソ喰らえだ。
僕の人生は僕のモノだ。
お前に対する罪悪感なんて抱いてやるものか。
お前に対する後悔なんて残してやるものか。
不必要なものを削って、必要なものに手を届かせる。
それが僕の戦い方なら。
魂だろうが、この命だろうが。
不必要と思えば、何の躊躇もなく削ってやる。
「それに、どうせ負ければ死ぬんだろ? なら、勝って死んだ方が夢見が良い」
「……イカれてるよ、君は」
彼の言葉に返事もなく。
僕は、新たに作り出した銃を構える。
既に、ガス欠のすっからかん。
力を使うたびに激痛が体中を走る。
けれど、痛みは見せない、弱みは見せない。
なんてったって、僕はこいつのお兄ちゃんだから。
兄はいつだって、いつも通りに。
死ぬその時まで、元気な顔して居るもんだ。
『優人は泣き虫だなぁ』
いつか聞いた、兄の声が蘇る。
僕は笑みを深めて、トリガーを振り絞る。
涙なんて、お前が死んだときに枯らしたよ。
お前を殺した、あの時から。
痛くても、辛くても。
頑張るって決めたんだ。
だからもう、泣き虫は卒業だ。
お前が教えてくれたように。
僕は最後まで……兄として、この馬鹿に付き合うとするさ。
【嘘なし豆知識】
〇作者、ついに過去編の執筆終了
朗報です、作者だけ一足先に鬱から解放されました。
辛かった、本当に書いてて辛かった。
この話を考えた人は、頭でも沸いていたのでしょうか。
どうして書いている途中で筆が止まらなかったのでしょうか。
「あれっ、ちょっと地獄過ぎない?」
「話、もうちょっと明るく改変したほうがよくない?」
そんな考えは過らなかったのでしょうか?
過らなかったようです。
皆さん、45話までありますので頑張ってください。
ただ、本当に耐えられない人向けに、過去編完結後に鬱っぽさを排除した【過去編のざっくりとしたあらすじ】を掲載予定です。
現時点でつらいよ、って方は過去編完結後にそちらを見るのもおススメです。
※すでに手遅れです、という感想は受け付けておりません。




