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10-18『強者』

長らく明かされなかった二人の天能。

ついに公開です!

 残り時間が1分を切ってから、しばらく。

 体内時間で、おそらくあと十秒足らず。


 未だ無傷の橘克也。

 対して、天守弥人は傷を負っていた。


「うっはー! こんなに痛いのは、はじめてだ!」


 額が切れて、血が流れる。

 片目が血に濡れて、おそらく視界の半分は赤く染まっているだろう。雷を使いすぎたのか、身体中は煤汚れの火傷だらけ。どれだけ弥人の回復能力があろうと……あれだけの高威力、使い続ければ自分の身すら灼いてしまう。


「……ッ!」


 それでも焦っていたのは、橘克也の方だった。

 五分間。

 あらゆる攻撃を無効化し。

 全ての攻撃が一撃必殺になる。

 まさしく無敵。

 黄金に輝くその五分間を以てしてもーーついぞ、天守弥人を詰ませるには至っていなかったから。


「この化け物が……!」

「その言葉お返しするぜ、橘克也!」


 刻一刻と、時間が流れる。

 黄金の五分間が終わりへ向かう。

 もう、幾ばくも余裕は残されていない。


 この戦いは。

 あと十秒もせずに終わりを迎える。


「……分かった。私も腹を括ろう」


 最初に動いたのは、橘克也。

 彼は初めて拳を構える。

 まるで武に触れたことない初心者がするような、稚拙な大振りの構え。事実、橘克也は初心者だろうし、武の基本にすら触れたことが無いはずだ。

 にもかかわらず、その体からは威圧感が溢れ出す。

 ーーこの一撃で決める。

 語らずともその目が告げていた。

 この一撃に全てを載せるつもりで。

 天守弥人を殺す気で、力の全てを拳先へと込めた。


「……いいね! 大変分かりやすくて結構だ!」


 対する弥人も動き出す。

 扱う力は、雷と重力。

 屋敷を飲み込むほど膨大な雷が宙に集まる。

 あまりの熱量に喉が灼けるようだった。

 弥人はそれを、これ以上なく手早く、上手に、執拗な程に圧縮し、一抱え程度に押し固める。

 その上からさらに重力による圧迫。

 空を覆うような雷は、指の爪ほどの大きさにまで固められ、異様なまでのプレッシャーを放っていた。


「僕が誇る最高火力ーー【雷】の必殺技と!」

「橘克也の『ただの拳』。どちらが上かで勝敗としよう」


 彼我の距離は、およそ二十メートル。

 その二人とは五十メートル近く離れているが……僕は緊張と恐怖で動けずにいた。まるでそれは、四方数メートルの室内に空腹の熊と閉じ込められているような。どれだけ遠く離れても逃れられないような……そんな恐怖。


「……参ったねぇ、二人共殺す気でしょ、あれ」


 一成さんが呆れて言う。

 不滅故に絶対に死なない天守弥人と。

 無敵の状態であれば絶対に死なない橘克也。

 互いが互いに『死なない』と分かっているからこそ出せる本気。殺しは無しとされているこの試合において、本来であればありえない全力。

 僕は今になって察する。

 あの二人だけは、何があっても戦わせてはいけなかったのだ。


「ちょ! ま、マズいんじゃ……!」

「……分かっている。頼めるか、橘殿」


 焦る僕。

 どうやって止めようか。

 割り込もうにも自殺行為にしか見えないし……。

 そう考えている間に、父上が口を開いた。

 驚いてそちらを見ると、苦渋の表情を浮かべる父上と呆れた様子の一成さんが目に入る。


「……いいんだね? ()()()()?」

「仕方あるまい。あの二人の本気がぶつかり合えば、この屋敷程度消し飛ぶだろう。……どころか、近隣にまで被害が及ぶ」


 この屋敷は人里離れた場所にある。

 周囲には民家はなく、というより周辺一帯が天守の敷地だ。隣近所にこの戦いで迷惑するような一般人は居ない。

 そう、当然のように理解した上での発言。

 近隣に被害が及ぶというのは、その周辺一帯を乗り越えてさらにその先まで被害が進むと考えての発言だろう。


「と、止められるんですか……アレを」

「止めるしかないだろ? なら止めるさ。子のしり拭いくらい出来なくて、一体誰が父親を名乗れるんだい」


 僕の問いに、一成さんは言う。

 どこか苦笑いを含めて。

 けれど、自信満々に断言する。

 あの戦いを止めるのだ、と。


「じゃ、行ってくるよ」


 そう言って、彼は歩き出す。

 歩き出してまもなく、弥人と克也が始動した。

 弥人の掌から、白い雷が迸る。

 克也は大地を踏み飛ばし、一気に駆ける。

 あまりの速さに目が追いつかない。

 咄嗟に、消えたと錯覚するような速度だった。


 天守弥人。

 橘克也。

 それぞれの全力。

 全力で放った雷

 本気の本気で固めた拳。


 それぞれ、あまりある威力。

 それらは訓練場の中心で衝突。



 ーーするかに、思えた。



「ちょいと失礼するよ、二人とも」



 弥人の雷。

 克也の拳。


 それらが、ある一点で()()()()


「「……ッ!?」」


 目に見えて2人が驚く。

 それぞれ全力の一撃。

 ーーだったはず、なのに。

 雷はまるで幻だったように消えてしまう。

 拳は威力が掻き消されーーそして、限界が訪れる。

 克也の体から闇が浮かび上がり、大人の体から本来の少年の姿が吐き出される。


「くっ……時間切れか!」

『カーッ! あとチョットだったのによォー! ったく、相変わらず嫌なところで邪魔するぜ、なぁ一成さんよォ!』


 元の姿に戻った執行官が喚く。

 先程の姿を見た後だからか、彼は妙にコミカルに見えた。


「そりゃ邪魔するさ。二人ともやりすぎ」


 いつの間にか、一成さんは克也の目の前まで移動していた。

 克也が目を見開くより先にゲンコツが落ちる。

 地に響くような衝撃。

 声もなく転げ回る克也を見ていると、もう片方でも衝撃音。

 見れば、弥人も同じように頭を抱えて転げ回っていた。


「ほ、本気の弥人を相手に……いとも簡単に」

「……当然です。地上最強は伊達ではありませんよ」


 赤子の手をひねるように、弥人と克也の戦いを止め。

 散歩するように、二人へ拳骨を叩き込む。

 まるで怪物。

 思わず頬を引き攣らせる僕の視線の先で。


 橘一成は、僕らをーー天守周旋を振り返った。



「さぁ、次は私たちの番だ。あっさり終わらせてやるよ」



 自信に満ち溢れた彼を見て。

 その娘は、自慢げに語るのだった。



「橘一成。天能の名はーー【()】」



 あの男は、正攻法ではどうあっても倒せないのだと。

 まるで敗北を想定していない表情で告げるのだった。


「……降参――」

「出来ると思うかい?」


 父上の言葉に、一成さんが重ねて言った。

 僕がこの家に来て学んだことの一つ。

【この世界における最大勢力は橘である】ということ。

 橘は寿命が長い。

 ということは、それだけ多くの伝手があるということでもある。

 総業200年の大手会社の設立に携わっていた初期メンバーの一人、だとか。大手製薬会社が開発してきた過半の薬をたった一人の天才が製造していた、だとか。

 どれだけ橘のご隠居達を閉じ込めたとしても、数百名にも及ぶ『橘』を完全に封じ込めておくことなんて絶対に不可能。橘の技術は、橘の歴史は、姿を変え形を化かして様々な場所へと浸透している。


 ここで断れば、天守は社会的に終わる。


 容易く察せた父上は顔をしかめる。

 考えていた様子は、わずか数秒。

 やがて、父上は諦めた様子で歩き出す。


 その背に一切のやる気は感じられず。

 隣にいた月姫が目に見えて顔を顰めたのを察した。


「……あまり、他所の父君に口出ししようとは思いませんが……」

「いいよ言っちゃっても。かっこ悪いって」


 父上……とは呼んではいても。

 僕は彼を尊敬したことは一度としてない。

 その目的を知った時から。

 僕が彼に向けるのは憐憫だけだ。


 愛を失い。

 故に愛を見失った。

 誰からも愛されず。

 誰も愛することの出来ない男。


 天守周旋とはそういう人物だ。

 そんな半分廃人のような男、かっこいいわけが無い。

 そういう意味でも、天守周旋と天守弥人は正反対なのだ。


 やがて、父上は一成さんの目の前まで辿り着く。


「……止めておいた方がいい。弥人が戦っただけで被害が甚大なのだ。私達が戦えば、その被害はーー」

「はっ、酷い勘違いだね周旋」


 言いかけた言葉を、一成さんが鼻で笑う。

 その瞳には同情と。

 揺るぎない自信が溢れていた。



「被害出るほど接戦できるワケないでしょ、()()()()



「……零落した、神風情が」



 その瞬間、父上の全身から殺意が溢れる。

 どろりと。

 泥のような液体が彼の手から零れた。


 ()()()()()()()()()()()()


 触れただけで死ぬ。

 耐久力だけは誇れるこの僕でも、一滴で死ぬかもしれない。

 そういうレベルの致死性を感じた。



「天守周旋ーー天能は【毒】……殺傷に特化した能力ですか」



 全能たる【善】

 対多数戦では強力な【銃】

 白兵戦で無敵を誇る【斬】

 そして、人殺しに特化した周旋の【毒】


 ここに出揃った【天守】の天能四種。

 橘ほど多くの伝手もなく。

 橘ほど全世界的な知名度もなく。

 それでも代々橘と鎬を削って来た名家。

 その根底にあった力を改めて認識する。

 そして、自分の力がやっぱり劣ってるんだなぁって再確認した。

 いくら自然を操っても、あの毒に勝てる気がしなかった。


 緊張感が一気に高まる。

 二人の集中力が加速する。


 ……空気が重い。

 肌に纏わりつくような、泥のような空気。

 殺意と威圧の入り混じったソレに、思わず喉を押えた。息をするのも苦しく感じるほど濃厚な闘志……先の戦いが可愛く見える程の質感(リアリティ)


 僕は察する。


 この場で相対するこの2人は。

 間違いなく、この瞬間。


 この星に存在する生命の中で、ぶっちぎりの最強なのだと。


「ーー侵し殺す」

「はは、無理に決まってるだろ」


 片や毒を垂れ流し。

 片や自信満々に立ち尽くす。


 天守周旋は目を細め。

 橘一成は、ゴキリと指を鳴らした。



「なんたって、今は私が最強だからね」


【嘘なし豆情報】

〇天守周旋の天能【毒】

弱毒から致死性の毒まであらゆる毒性を操る。

また、指定した物質を毒性に変化させることも可能。ただし毒性の強さは自身から近ければ近いほど強く設定できるが、離れていれば弱毒にしかならない。

純粋な戦闘よりも、暗殺において無類の強さを誇る。


ーーまた、これは機密とされているが。

天守周旋の家族は多くが突然死しており。

解剖の結果、体内から大量の毒素が見つかったそうだ。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] ダメだ、前に雨森くんが朝比奈さんは弥人を超えるっていってたけど朝比奈さんが超えれるビジョンが見えねぇ
2023/06/11 23:27 退会済み
管理
[気になる点] 天守弥人が死ぬとしたら【善】の能力がない時、封印とかは きかないんでしたよね?やっぱり貸し出ししたんだろうなぁ、 でも、異能の複数所持が大変なことって知ってるのに 弥人がそれするかぁ?…
[良い点] 天守の天能は殺すことに特化しすぎ。 [気になる点] 恋と悠人以外はみんな死んでるし……何があったのか [一言] 盾で殴る。盾は武器。
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