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幕間

この話は、北海道、上富良野町の某焼肉屋がモチーフです。

 退院して間もなくの、日曜日。

 僕は、倉敷と黒月、四季の3人を呼び出した。


「んだよ、休みの日に……。てめーは休日は仕事しねぇ主義だったんじゃねぇのかよ」

「そういえばそんなことも言ってた気がしましたけど……どうしたんですか雨森さん? 随分と急な呼び出しでしたけど」


 ふたりが不思議そうに僕へ尋ねる。

 そんな彼女らに対し、何故か四季は自慢げだった。


「そんなの決まってるじゃない! お疲れ様でしたの会よ! ふたりが思ったより頑張ったからご褒美をくれるに決まってるじゃない!」

「いや、作戦を聞いた限り、今回のMVPは間違いなくてめぇだと思うけどな……」


 それは違いない。

 橘の裏をつく僕の作戦は、四季なしではまず実現出来なかっただろうしな。

 そうなれば絶好調の橘相手に頭脳戦を挑む羽目になり、結果として僕はぼろ負け。なんにもなせずに散っていたはずだ。


 だから、MVPは四季で問題ない。

 が、四季の言ったこともあながち間違いでもなかったわけだ。


「倉敷。A組と戦う前に話したこと、覚えているか?」

「あ? 戦う前…………って、まさか!」


 倉敷が、なにか思い出したように目を見開く。

 その目には喜色が浮かんでおり、僕はゆっくりと頷き返し、ニヤリと笑う。


 そうさ、今日はお疲れ様でしたの会。

 今回の勝利の立役者3人を労うために、僕は色々と調べて……予約もしてきたんだ。


 レビュー数、1000超え。

 平均評価は5に近い4!

 下調べは完璧、あとは食うだけ!



「お前たち、焼肉に行くぞ」



 これは、4人で焼肉を食べるだけの話である。




 ☆☆☆




 というわけで、やってきました焼肉店。


「あら、この焼肉屋、有名なところじゃないの。確か……北海道から出店の所じゃなかった? ねぇ黒月」

「まあ……たしかに名前は聞いたことあるな」


 既に外ということもあり、倉敷と黒月は既に外ゆきの仮面を被っている。

 見上げた店前の看板には『まるまっする』と店名が書いており、北海道出身の黒月は言葉を続ける。


「確か、豚さがりが美味しい店だったはずだな。詳しいことは俺も入ったことがないから分からないが、かなり人気だったのは知っている。比較的近所に住んでいたしな」

「へぇー! とにかく入ろうよ! なんかいい匂いがぷんぷんしてるしさっ、雨森くん!」


 腹を空かせた倉敷が言う。

 僕は頷いて入店すると、すぐに寄ってきた店員さんへと『予約の雨森で』と告げる。

 すぐに席へと通され、メニュー表を渡された。


「へぇー、けっこう安いんだねー」

「学生がそんなに高い店には行けないだろう。まあ、黒月は死ぬほど稼いでそうだがな」


 と言いつつ、僕は入店前から目星のつけていたメニューを数点頼む。

 それぞれランチメニューの定食4つ。

 その他に、四季が呆れるほど食べるだろうという予想から、単品もいくつか。

 豚さがり。

 牛カルビ。

 ホルモン。

 レバー。

 あとラム肉。これが美味いらしい。


「いや、そういう雨森の方が稼いでいると俺は思うがな。……ここだからこそ聞くが、雨森、いつもテストの結果は学年何位だ?」

「あら、そんなの1位に決まってるじゃないの」


 僕が答えるより先に、四季が答える。

 彼女を見ると……嘘だろ。あれだけ頼んだのにまた追加で肉を注文してやがる。ちゃんと来たもの全部食べてからにしなさい。


「悠人は頭いいんだから。ほら、A組の橘さんと同率で1位とか、そういう感じに決まってるわ。だって悠人から貧乏人の気配がしないもの」

「あー、それ私も気になってた! 闘争要請の前は冗談半分で焼肉とかいったけど、本当に奢ってくれるとは思ってなかったしね!」


 おい、いつの間に僕が奢る話になっている。

 おまえ、四季がどれだけ食うのか知ってるのか? 多分お前が想像する十倍は食うからな。前回のデートの450グラムハンバーグでさえ『初デートの緊張で食欲ないのよね』とか言ってたやべぇやつだぞ。


「ま、金銭的に余裕があるのは否定しないさ。お前たちに焼肉二、三度奢っても一切の支障が無い程度にはな」

「あっ、店員さん。さっきの豚さがり、400グラムくらい追加でお願いするわね!」

「……支障は無いはずだ。余程のことがない限りはな」


 珍しく自信の無い僕を見て、倉敷と黒月が同情を浮かべる。


「あ、安心してよ雨森くん! さ、さすがにやばそうだったら私も払うから!」

「俺も同じく。……四季いろは、どこまで食うのか末恐ろしくなってくるな」

「あら、もしかして私の話かしら?」


 そうこう話しているうちに、頼んでいた定食が先に来た。

 僕と四季はさがり・ホルモン定食。

 倉敷と黒月はさがり・牛カルビ定食だ。


「うっわ、すごいゴロゴロしてる……」

「まさに肉塊ね! すばらしいさがりだわ!」


 ゴロゴロと大きなさがりを見て、思わず声を漏らす女子2人。その表情は真逆も甚だしがったが。

 僕はトングで肉を焼き始めると、それを見ていた倉敷が僕のトングを奪い取る。


「今回は私が焼くよ! この中じゃ、ぶっちゃけ1番苦労せずに、1番楽な相手をしちゃったわけだし。苦労人3人のお肉は私が焼いてしんぜよう!」


 そう言って彼女は胸を張る。

 気絶&入院コースまっしぐらだった僕と黒月。そして、最後まで橘月姫の思考を阻害しきった四季いろは。

 そう考えると、結果的には倉敷が1番楽だったのは否めない。

 だが。


「熱原を『楽な相手』とは、間違っても言えないと思うがな。お前も大変だったんじゃないのか? 2対1で勝利する作戦が、結果を見れば3対0に終わっ……このホルモン、そろそろ焼けてるんじゃないか?」

「あ、このさがり、もう焼けてるわね!」

「あー、まあ、クラスメイトには色々と聞かれたけどね。全部上手いこと言って誤魔化したよー」


 倉敷は言いながら肉をひっくり返す。

 ああ、いいにおい。

 焼肉なんて何年ぶりだろうか。


「そういう雨森くんこそ、なんだったのさ、あの異常黒レーザー。とおくからでもバッチリみえたんだけど」


 ああ、あの橘にぶっぱなした光線か。

 生まれて初めて使った異能の全力。

 僕も橘に比べれば異能の習熟度は低い。

 今後、もっと異能の精度を高めていけばあれ以上の威力も出せるんだろうが……人を殺す上であれ以上の火力も必要ない気がする。

 アレで殺せないのは、世界広しといえど橘月姫くらいだろうと思うし。


「あれは橘の異能ということで片付ける。その前の巨大な烏に関しては……そうだな。『雨森悠人の異能が変質した』とでも言……そのホルモン、もういいんじゃないのか?」

「重要なことなんだから最後まで話そうよ……。はい、ホルモンあげる」


 ありがとう倉敷!

 僕は倉敷からホルモンを受け取り、食う。

 濃くもなく薄くもなく。優しい塩味がホルモンを包んでいる。

 じゅわりとした肉汁が口のなかいっぱいに広がり、それを白米と一緒に飲み込む。

 うん、ホルモンはやはりこれくらいの味付けが美味しいと思います。


「うっわ! さがり美味しいっ!?」


 すると、目の前から四季の悲鳴が聞こえた。

 彼女の皿の上には焼けたさがりがいくつか転がっており、彼女は焦ったように箸でさがりを差し出してくる。


「ちょ、ちょっと悠人! このさがり食べてみてちょうだい! ものすごく美味しいわ!」

「そうか。なら遠慮なく」


 僕は彼女が差し出した肉を食べる。

 瞬間、口の中に広がった濃厚な塩味。

 肉汁と一緒に塩の香りが一気に拡散し、ごりっと肉の塊を噛めば、見た目に反してしっかりと噛みきれる。


 食べ応えは抜群なはずなのに。

 1口食えば無限に食べられてしまうんじゃないかとさえ思える美味さ。


 そして白米。

 もう無敵である。


 僕は白米と共に肉を飲み込み、ほっと一息。

 ――これぞ焼肉。

 なんとなく、そんなことを思った。


「なにこれ美味い」

「よね! ちょ、ちょっと二人も食べてみなさいよ! めちゃんこ美味いわよ!」


 そう言う四季をみて、二人は苦笑いをしている。


「いろはちゃんに、雨森くんも。平然と、当然のように間接キスしてたけど、星奈さんは大丈夫なのかな……?」

「雨森は星奈狂いだと思っていたが、正直、どっちが好みなんだ?」

「あら! そういえばそうね! おもいっきり間接キスだったわ!」


 そう言って、箸を口に咥えて頬をゆるめる四季いろは。こら。そういうこと聞いてから箸を舐めるのやめなさい。女の子でしょ。


「そんなことより肉を食え。僕の恋愛事情なんてどうだっていいだろ」

「いやー、うちの朝比奈(リーダー)も雨森くんに首ったけだし? 興味が無い訳じゃな……なにこのお肉美味しっ!?」


 詮索の途中で、倉敷が肉に堕ちた。

 よりにもよってさがりを最初に食らうとは。

 その肉食べたら、もう今日は頼む肉種は塩さがりだけでいい気がしてくるんだよな。


「はーい、追加の豚さがりと、牛カルビ、レバー、ホルモン、あとラム肉でーす」


 そうこう言っていたら追加の肉が来る。

 そうなればもう、他の話などしていられない。


「倉敷さん! お肉大量投入よ! 焼けた端から食べていくから安心してちょうだい! この悠人が使った箸があれば私は無敵よ!」

「あ、店員さん。箸、ちょっともう一膳お願いできますか?」


 変なことを言い出した四季と、僕のなんとも言えない顔を見て店員を呼ぶ黒月。

 倉敷はそんな光景を見て笑いながら、どんどん肉を投入していく。



 焼肉に来て。

 重要な話なんて出来っこないと身をもって知ることが出来たが……まあ、たまには陰謀とか暗躍とは無縁の日があってもいい。


 そんなことを思いつつ、僕は肉を口へと運ぶ。



「うん、頑張ってよかった」



 次は……そうだなぁ。

 学園を潰し終わったら。

 また4人で、焼肉に来よう。


 そんなことを思った。

ということで、第8章でした!


そしてついに、作品のストックが無くなりました!

この作品を投稿し始めた時点で8章前半くらいまでは作っていたのですが、雨森VS橘の『決着の仕方』に悩むことしばらく。気がついたら毎日投稿が現在執筆話まで追いついていました。


ということで、今後は基本、週に1度の投稿になります。

毎日投稿120話とちょっとにお付き合いいただき、ありがとうございました。

まだ『上級生との戦い』『雨森悠人の過去編』『学園ぶっ潰し』が残ってますので、物語的には……少なくとも残り3章分は残っているのかな。

2年生編をやるかどうかは、とりあえず1年生編を書き終えてから!


これからも続きますので、今後ともよろしくお願いいたします!




第9章【怪物の血縁 雨森恋】

近日公開予定

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] 倉敷めっちゃいい奴やん
[良い点] 初めてかもしれないほのぼの回…救われる命がある… 心が浄化される… [気になる点] 本編とは関係ないですが。私の友達がこぼした考察を一つ。 学校で消灯時間が厳しく決められてる理由は弥人くん…
[良い点] 良かったああ
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