盾と矛
戦乱に明け暮れるある大陸に、大変仲が悪い二つの国があった。
ヒノテル国は攻撃力を誇り、ツキヨノ国は防御こそ誉れとするお国柄。
隣り合う国は仲が悪いとは世の常なれど、ここまで真逆なのも珍しい。
そして領土、国力もまた拮抗している両国には、それぞれ名軍師がいた。
互いに譲らぬ天才同士、百戦するも決着つかず。
おりしも大陸北部では、大陸一の帝国が、周囲の国を併合せんと虎視眈々している状況でありました。
ヒノテル国のイザナーギは、名軍師アマテラスの一番弟子。
国を憂う真の忠義の青年であった。
「先生、このままツキヨノ国と争っていては帝国に利するだけです。どうか和平を!!」
必死に訴える愛弟子に、微笑み返すアマテラス。
「ツキヨノ国を倒さずして国家の安寧は得られません。我に秘策あり。次こそ完全勝利するから安心しなさい」
駄目だ、このままでは国が滅ぶ。
そう考えたイザナーギ、ツキヨノ国へ手紙を送った。
ツキヨノ国のアイギスは、名軍師スサノーオの一番弟子。
平和を愛する憂国の乙女であった。
「先生、ヒノテル国のイザナーギさまから和平を願う手紙が届いております。どうかお聞き入れ願えませんか」
必死に訴える愛弟子を、睨み返すスサノーオ。
「ヒノテル国を倒さずして国家の安寧は得られまい。我に秘策あり。次こそ完全勝利するから安心するのだ」
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ところ変わって帝国では、侵攻の準備が進められていた。
「将軍、上手く行きましたな」
「ふふふ、いかな天才といえども、所詮は田舎軍師。望んでも得られなかった勝利が手に入ると思えば、飛びつくのは人間の性というものだ」
「次の会戦が両国の最後。互いに疲弊したところで、頼みの援軍に攻撃されれば……」
「うむ、我が帝国は労せずして両国を併合するであろうな」
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「これが最後の戦いです。イザナーギ、私にもしものことがあれば、この手紙を読みなさい。今後のこと、私の伝えるべき全てが記されていますから」
「そんな……私も戦います!!」
「いいえ、貴方はまだ若い。無駄に命を散らしてはなりません。大丈夫、勝って戻りますから」
「これが最後の戦いとなるだろう。アイギス、俺にもしものことがあれば、この手紙を読め。今後のこと、俺の伝えるべき全てが記されている」
「そんな……私も戦います!!」
「いや、お前はまだ若い。無駄に命を散らしてはならん。大丈夫だ、必ず勝つ」
弟子たちの願いむなしく、両国軍が激突する。
「将軍!! ヒノテル国のアマテラス、ツキヨノ国のスサノーオ戦死したとの情報が」
「ふふふ、これは手間が省けたな。よし全軍突撃、一気に制圧するのだ!!」
指揮官を失った軍はもはや烏合の衆。
帝国軍は本性を剥き出して両軍に襲い掛かった。
罠とも知らずに。
誘いこまれた帝国軍は、ほぼ壊滅。将軍を始め、名だたる武将の多くは討ち取られるか、捕虜となった。
両国軍師の命を懸けた最後の策。
練り上げられた最強の矛と最高の楯が帝国を打ち破ったのだ。
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「……先生、こうなることがわかっていたんですね」
イザナーギは泣いた。泣いて泣いて泣き疲れて、そして……手紙を読んだ。
「……先生、どうして……」
アイギスは泣いた。泣いて泣いて泣き疲れて、そして……手紙を読んだ。
帝国に勝利した両国はその後和平を実現し、帝国を倒すことになる。
そこに結ばれた若き軍師たちの働きがあったことは言うまでもないだろう。
「ふう……ああ、いい湯だな、アマテラス」
「そうね、とっても良い湯だわ、スサノーオ」
ここは辺境国の温泉郷。ゆったりと湯につかる男女の姿がある。
「そういやあいつら帝国倒したらしいな」
「そりゃあそうよ。あの子たちなら当たり前」
「ははは、たしかに。これでやっとお役目から自由になれたな」
「ふふふ、そうね。敵を騙すなら味方からってね」
おしまい。
イラスト/ウバ クロネさま