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蒼山碧海に龍は遊ぶ  作者: 望月かける
暗君の凋落
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元「足」

 段達に呼びつけられて仔虎によって苹州の蓮邑に飛ばされた芳俊は、とりあえず段季から借りていた鳥を使って、朝議の間で行われた弾劾からそれぞれの陣に戻った貞俊と泰俊に連絡を飛ばした。

「申し訳ございませんが、地公の呼び出しにより蓮邑におります。すぐには韋州柳州の連合軍に戻れません。どうも苹州と頴州の国境の村にはおかしな仕掛けがあったみたいです」

 そう伝言を告げてから、芳俊は「気持ち悪っ」と言われた足に「ちょっと形を直すからおとなしくして」と声をかけて、手でぐしゃっと足を潰した。

「ひい!」

 石禹斗と迅が思わず悲鳴を上げる。

 芳俊は潰した足を粘土のようにねて、適当な枝を小刀で削ってへらにしてから小さな人型に成形した。

「芳俊、なにその羽」

「これ? 可愛いでしょ?」

 そう言われて段達と石禹斗と迅は瞬きをして芳俊を見てから、芳俊に背を向けて三人で肩を寄せた。

「あれうちの州公ですか?」

 迅が不安げに言う。

「五寸ぐらいの人形に羽付けるってどういう趣味なんだ?」

 石禹斗は好みを疑った。

「あれは今ちょっと見た目は男だけど、天牢に来て縁談の申し入れ書ぶちまけて癇癪起こした女だ」

 段達は芳俊がどういう性格なのかを思い出そうとし、それから思った。

(そういえば芳俊の趣味を作ったのは芦楓ろふうと梅香姉さんだった。あのふたりのお話しには狐狸精や妖精が色々と出てくる)

 芳俊がパチンと手を叩き、三人は元足を見る。

 こじんまりとした顔色の悪い妖精が机の上に座っていた。

「喋らないな」

「芳児、これは喋れるのか?」

 芳俊が段達を見る。

「喋れる。喋る意思がないだけだと思う」

 少し芳俊の言葉を思案し、段達は「結界」と言った。

「これも結界を攻撃するだろうか?」

 芳俊が「ああ、そうか」と頷いて小さな結界を元足の上に張る。

 元足は結界に反応して小さな術の矢を飛ばし始め、四人は顔を見合わせた。

「結界に反応して、結界を破る矢を放つんだな」

「意思がある生き物じゃないんだ。死体から魄が離れないようにして、強制的に術を使わせてる」

 芳俊がそう言いながら結界を消すと、元足がおとなしくなる。

「矢の色は青だから、天龍か、天公廟の祭司官だったんだろうな」

 迅がぞっとしたように背筋を震わせた。

 段達は「禹斗か迅、黒い命の粒拾ってきてもらえないだろうか」と石禹斗と迅を振り返る。

「自分で行く気はないのか」

「そうですか」

「向こうに行くなら結界を解かないと」

 芳俊が立ち上がる。

 四人はそれぞれに互いの顔を見て沈黙していたが「裏表で二人一組」と石禹斗が言ったことで「よし」と頷いた。

 よくある「組分け」だ。

「裏表!」

 せーので手を出し、それぞれに他人が出した手を見る。

「芳児と禹斗が手の甲、私と迅が掌」

「それじゃ、私と禹斗が行く」

 芳俊がさっさと決めて石禹斗を引きずりながら鳥居に向かって行った。

 迅が芳俊と石禹斗を見送りながら段達に対して「怖いんだ」と小さく笑う。

「得体が知れない」

 段達は顔を覆った。

「足は拾ってくるわ黒いのは拾いに行くわ、芳児が強い」

「あれがうちの州天公様なんだな」

 少々嬉しそうな、感心したような迅の言葉に「そうだな」と段達は頷く。


 芳俊は鳥居の前で、しきりに頴州の手や死体から攻撃を受けている結界の下のほうに穴を開けて、石禹斗に「そこから潜ろう」と指さした。

「はいはい」

 おざなりな返事をして、石禹斗は芳俊に急かされながら結界の中に潜り込む。

 石禹斗のあとから結界に潜り込んだところで、手に腕を掴まれて芳俊は「わー!」と声をあげてから腕にぴったりと巻き付くように作った結界を盾状に広げて手を弾き飛ばした。

 盾状の結界に反応して、今度は手が術の矢を飛ばしはじめる。

 結界からはみ出した石禹斗が「怖い怖い怖い!」と言いながら、急いで黒ずんだ命の粒をふたつ三つ拾って「戻る!」と芳俊に声をかけた。

 石禹斗を先に穴のほうへ押しやってから手を振り返り、「直接対決はまた今度!」と言って芳俊も結界の穴を抜け、盾状の結界を融合させて穴を閉じる。

「結界がなければ攻撃してこないなら、結界解いてもいいのかな」

 そう言った石禹斗に、芳俊が「出てこないっていう確証があるなら」と言って首を振った。

「手に足を掴まれたのが、よそ者なのに入ったからなのか、それともあれが苹州に向かって這い出してくるのか分からないから」

「そうだった。それで召喚陣で天公を呼び出したんだ」

 石禹斗を見て、芳俊が呆れる。

「その黒い粒はなに?」

「魄から分離した魂。段達がこれを集めて地龍の世界に持ち帰ってる」

 芳俊が「そうか、だから段達はそれを取ってこいと言ったのか」と納得した。


 ふたたび元足を見た四人は、石禹斗が拾って来た黒い粒と元足を見る。

「この黒ずんだ命の粒を元足に入れる」

 段達はそう言いながら黒ずんだ命の粒をつまんでひとつにまとめてから、元足の胸あたりに押し込むように入れた。

「ところで芳俊、この元足をなぜ女にした」

「男より作りやすいから」

 段達も石禹斗も迅も、思わず芳俊を見つめた。

「小さいから下作るのが面倒だったんだもの」

「繁殖行動が伴わないなら下はなくてもいいんじゃないか?」

 芳俊がじっと段達を眺め、「それは」と顔をしかめる。

「意識があったら、ちょっとかわいそうじゃない?」

「下作るのは面倒なのに羽は作るのか」

 段達は芳俊が「うん、まあ」と言い淀んだのを見て「まあいいけど」と話を終わらせた。

 そんな話をしているあいだに、元足が「体だ」と声をあげ、四人は元足を覗き込む。

「喋った」

「よし、喋ったな」

 覗き込まれた元足は、四人を見て「頴州人か」と誰何した。

「苹州だ」

 石禹斗が答え、段達も迅も芳俊も、石禹斗を黙らせる。

 苹州と聞いた元足が四人に術の矢を飛ばしはじめた。

「またこれ!」

 迅が頭を抱える。

 段達は腕を組んで元足を眺める。

「なんか、あの黒い感じどこかで見たことがあるんだよな」

「どこで見た!」

 石禹斗が段達に訊く。

「どこだったかな」

 首をひねってからしばらく考え込む。

(廟? 違うな。地龍の世界? それも違う。なんかもっと賑やかだった)

 それから「わかった」と頷く。

「梅香姉さんを地龍の眷属にしたときに、両手両足をこういう黒いもやみたいなので縛られていて、力を封じられてると大人たちが言っていたんだ」

 今度は芳俊が「そうなのか」と言いながら元足を見て首をひねる。

「地龍の呪い?」

「それはない」

 首を振った段達の横から迅が、口を挟む。

「天公廟の祭司官なら天龍と半身契約をするから、天龍にも魂を縛ることができる」

「それなら封印が読めるかも」

 頷いてから、芳俊が黒い靄に意識を向けた。

 元足はそのあいだもしきりに四方八方に術の矢を飛ばしていたが、芳俊が黒い糸を巻きとりはじめると徐々に攻撃が減った。

 芳俊は黒い靄を眺め、なにかに納得したように三人と元足を見た。

「意思とは無関係に勝手に体を動かす。いまは苹州の結界や苹州という言葉に反応して攻撃するようになってる。頴州公が縛った封印だ。いまは頴州公不在だから、この封印を完全に払おうと思ったら王権が必要になる」

 黒い靄を引きずり出したままの状態で、芳俊が段達に目を向ける。

「質問をするならいま」

 段達は頷いて元足を見た。

「名前はあるか?」

 元足が首を振る。

「名前がない? 覚えていない?」

 迅が訊きなおす。

「覚えていない」

 元足が答えた。

「頴州の、天公廟の祭司官だった?」

「さよう」

 元足が頷き、「州公の軍に廟が接収された。それからはなにも覚えていない」と答える。

 芳俊が元足を覗き込む。

「おまえにかけられている呪いは先の頴州公が作らせたもののようだから、王権がないと解けない。いまならば鳥かごにでも入ってもらって、一殿下のところに連れていくことができる。それでよいだろうか?」

「よい」

 元足が大きく頷いた。

 芳俊が「ああ」と天を仰ぐ。

「なに」

 訊いた段達に、芳俊が「斧鉞ふえつがあれば、あの村を丸ごと浄化できるんだろうなと思っただけ」と言ってひっくり返った。

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