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蒼山碧海に龍は遊ぶ  作者: 望月かける
動乱の揺籃
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創生地龍の八公主、転生先に男子を勧められる

どのような世界なのか、八公主の名前はなんなのかも伏せた状態の出だしですが、なるべく読みやすくしていきたいと思います。

 十二歳の誕生日を前に、姉たちに「姉妹だけの話よ」と言われて王宮の一番奥にある宮に呼ばれた。十二歳の誕生日には、転生の儀式がある。その前に話しておかないといけないことがある、と言われた。

「儀式前のお祝いの会よ」


   *** *** *** *** ***


「この世界は四人の天龍王が作ってひとりの地龍王が命を吹き込んだと言うでしょう?」

 一番上の姉が言った。

「はい、その話は何度も聞きました」

「お父様はその地龍王でしょう?」

「はい」

「私たちは四人の天龍王が作った国のどこかで人間界のことを勉強しないといけないということは躾役から聞いたかしら?」

「はい」

 一番上の姉が頷いた。

「転生の儀式というのは、自分がどこの国で命の扱い方を学ぶか選ぶ儀式よ。そこで人間に紛れて人間のことや世界のことを学んで、知識を増やすの」

「はい」

「その国の天龍族の皇子は婚約者候補になる相手だからしっかり情報を集めるのよ」

「……はい……」

 転生の儀式というのがあることは躾役から聞かされていたが、まさか国を選んだ時点で婚約者候補が決まってしまうとは姉たちから聞くまで想像もしていなかった。

「八妹これから言うことをよくお聞きなさいね」

 六姉が言う。

「天龍って怖いのよ……」

「怖いのですか? 私たち姉妹は天龍王の血統の東宮と儀礼的に婚約する必要があると教えられてきたように思うのですが」

 そう問えば姉たちはそれぞれに頷いた。

「私が朱王の国を選んで女の子を依り代に選んだのは過ちだったわ。とても色鮮やかで美しい国ではあるけれど、身分階級ごとのしきたりが厳格すぎるの。それにうっかり果物を芽吹かせたり実らせたりしたせいで、神殿に入れられてまったく外に出られなくなってしまって……庭を素足で歩くのも侍女の許可がいるのよ」

 四姉が呆れたように文句を言う。

「一の姉上はどうして男の子を依り代に選んだの?」

「玄王の国を選んだら、女の子はやめておきなさいと伯母様の助言があったのよ」

 一の姉上が笑った。

「玄王の国は草原ね」

 言えば、一の姉上が頷く。

「草原を馬で駆け抜けるのは気持ちがよいものよ」

「八妹はどこの国が気になっているの?」

 人間界として作られた国には、草原の玄国、熱帯の朱国、オアシスの炎国、大海の蘇国の四大国、それに鉄のヴェスタブール大陸がある。

 どの国も央原君と呼ばれる原初の神が住む世界の国を模していると言うが、草原の国、熱帯の国、オアシスの国、大海の国という四大国と比べて、鉄の国だけは異質な世界になっている。ヴェスタブール大陸だけは、天龍たちが「捨てた」国と言えばよいのだろうか、龍であることが露見すると人の手で狩られるのだというのだ。

「蘇がいいと思うのです」

「蘇?」

 姉たちがそれぞれに首を傾げる。

「あの国、面白いものあったかしら……」

「見渡す限り、だいたい海と田んぼだと思うのよ」

「どこの国を選んだとしても、女の子に生まれることを選ぶといいことないのは確かだと思うわね」

 姉たちは言う。

「最初に女の子だと周りに思われてしまうと、外に出られなかったり遠出ができなくて、婚約者候補たちの本性が噂でしかわからないことが多いの」

「そうなのね」

 姉たちの話を聴く限り、だいたいこの王宮にいても、女の姿では自由に出掛けられるわけでもない。天龍王たちが作った人間界でも自由にならないのだとしたら、それは男の子に生まれたほうがよいのかもしれない。

「人間界でも地公の廟に入れば帰ってきて姉上たちに会えるから安心しなさいな」

「はい」

「最初は天龍が作った世界を学ぶために記憶を封印されるからこの世界のことを忘れるけれど、地公廟で命を管理する命譜の作り方を教わるときには封印が解かれるから全部思い出せるの、だから人間界に生まれることは何も怖くないわ」

「はい」

 蘇国には、玄国のようなどこまでも続く草原はない、朱国のようにむせかえるような熱帯の緑に彩られた国でもない、炎国のように砂漠のなかに宝石のようにきらめくオアシスもない。蘇の国にあるのは、精緻な工芸品に加工された玉や木彫で飾られた建物や文物たち。

 それは夢のように細やかな細工で、もしあの国に新しい工芸品の素材を与えたらどうなるだろうと考えるだけで楽しみになる。

 転生先に炎を選んだ二番目の姉が付け加えた。

「男の子に生まれたとしても時には女の子に形を変えて遊んでおくと、どちらの体にも馴染むことができていい」

「人の器は、そんなに自由になるものですか?」

「そもそも私たちが人間界で使う器なんて自分の好みで作るものだから、どうにでもなる」


 姉たちは、最後に付け加えた。


「地龍たちは人間のなかに隠れていることが多いけれど、天龍に食べられないように隠れているだけだから出会えたらしっかりお友達としてつかまえておきなさい」

「姉上! 天龍が地龍を食べると聞いたのは初めてです!」

「うっかり、王族以外の天龍に見つからないように気を付けること」

「辛いことも多いけれど、耐えるのよ」


 姉たちからの「儀式前のお祝いの会」が終わったあとには、不安だけが残った。

天龍と地龍の物語、冒頭を最後まで読んでくださってありがとうございます。時には変幻自在に姿を使い分ける「人間に生まれた龍」と、玉座を争うために地龍の公主を手に入れようとする天龍の皇子兄弟の物語になる予定です。

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