我が名はガスパル・トニー・ディノッゾ
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東イタリアに生まれた僕、ハウスネームはディノッゾ。これから赴く事と相成ったのは、ターラントの入口にある大家である。
乾いた陽が登りかける明朝、僕は目的地であった大家の鉄格子の門前ドアベルを鳴らした。上を見上げ大家の窓を見上げるとうっすら光が灯ったのがわかった。しばらくしてエントランスの明かりが灯る。ジップライターを持った鉤鼻の女中が門を開けた。灯りはジップライターの光だった。「トニーディノッゾです。よろしく。」女中はライターを押し付け、門を閉めた。真っ黒なライターを見ながら彼女に問う。「手紙は届きましたか?」女中は足早に階段を登りながら言う。「家具やら手すりに触らんとってください。汚れますので。旦那様への手紙は読んではならんのです。」僕は客人にかしこまらない女中の態度に舌打ちした。「旦那様はまだ寝とりますのでここでお待ちを。」そう言った女中に通されたのは壁一面がボトルグリーンの部屋だった。部屋には二脚のイージーチェアとローテーブルそして一面の壁に飾られた青い瞳の夫人の肖像画。それだけだ、女中にどれくらいかかるか聞こうとするが女中は消えていた。