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12 修羅場の入口

 22:00


 私は日課となってるのゲームSOAをプレイしていた。


 アーチャーの松風にエネミー3体がマジックミサイル攻撃。

 攻撃が命中した松風は、自分の攻撃をキャンセルされてダメージ数字を噴き出してる。

 松風のHP残り60%を確認した私は、松風の近くへ駆け出す。

 別のエネミーから私にヒッカキ攻撃が入る、けれど、前衛盾の回復をメインとした前衛型のヒーラーである私の強力な防御は、そんな軽い物理攻撃では破れない。松風を範囲に捉えてヒールスキル発動! 松風がブルーに輝きHPゲージは100%に回復する。


「サンキュー 桜花。」

 松風がゲームチャットでお礼してくる。


「ホホイのホイさぁー」

 私は何でもないさーって意味の挨拶をして、次に自分が取るべき行動に移る。



 今日、ヘルプで入ってもらった盾ナイトの瑞鶴ずいかくさんはちょっと残念な人だと思えていた。今だってヘイトスキルの範囲漏れで松風さんが攻撃受けてるし。

彼に指揮を任せたのは失敗だったかなと悔やまれる。


 盾ってダメージに耐えるだけじゃなくて、敵の攻撃・位置取り・敵の向きをコントロールする事になるから、盾が指揮すると普通ならスムーズに行くんだけど。

彼はフィールドのど真ん中でヘイトスキルを連発するだけで棒立ち盾、…カカシだ。スキルを使うタイミングや場所も悪いから、さっきみたいにヘイトスキルの範囲から漏れたエネミーの攻撃が頻繁にメンバーを襲う。


 私のパーティーのホンモノのメイン盾は、私の部屋でタブレット眺めてるしさ。

 私の横であのカカシ盾に指導して欲しいのに、メンバーに知られたくないって理由で来てくれない。私はメンバーに知られたって、全然かまわないんだけどな。


 あ!またー!!

 私は別のメンバーの方へ駆け出す。

 ヒーラーが忙しすぎるパーティーなんて最低よ!


 その時、不意に携帯端末のメッセージ着信音がなった。

 瞬間、私は嫌な予感がしたけど、ゲームを片手で操作したまま、メッセージを確認する。


――――――――

今部屋に向かってる、23:08着の電車で行くよ

――――――――


 視界に彼もどきからのメッセージが見えた瞬間、ゲームを操作する手が止まった。

 ううん、私の全てが止まった。

 一瞬で、私の中の何かが壊れた。

 視界を淡く黒い霧が覆い、そしてそれが濃くなって行く。


「ごめん、吐きそうトイレ行くね、みんなセーフティーポイントで待ってて!」


 私は叫んで、ゲームを操作していた。そしてパーティーチャットをミュートにして。

「お父さん!」


 ううん、これは私じゃない、全て桜花(別人格)が私に代わってしてくれたこと。私の人格の中で、唯一私と記憶を共有してる分身のような特別な存在の桜花。私の視界には彼もどきのメッセージだけが見えていた。



 私の肩に優しくお父さんの手がかかったのを感じる。

「どうした?大丈夫?」


 私は自分の意思で言葉が出せない。

 彼からのメッセージが表示された携帯端末をお父さんに渡す。


「これ、彼もどき?」

 頷く。


「この様子じゃゲーム続行無理そうだね、具合悪くなったって言って落ちれる?」

「うん。」


 たぶん、桜花が答えてくれた。

 暗くなった視界の中で桜花がパソコンを操作してるのを感じる。



 視界が少しづつ戻ってくる。

 気が付くと床のクッションに腰を下ろしていた。


 お父さんの声がする。

「涼音さん、とりあえず都合悪いって返事からの居留守かな。」


 お父さんの声聞いてると落ち着くなあ。

 声が出そうな気がする。


「……うん……やって……みる。」

 良かった声出せた。


 お父さんの手が優しく私の肩の上にのっているのを感じる。

 私は、クリアになってきた視界の中から携帯端末を探し出す。

 そして、少し考えてからメッセージを入力する。


―――――――――

来るなら早めに教えて欲しい

ごめんね

今日は友達といるから逢えないよ

―――――――――



「お父さん、送ったよ。」

 

 お父さんは私の端末を覗き込みながら、私の頭をナデナデした。

 ちょっと嬉しい。


「うん、うまいね、完璧!」

「じゃ、あわせ技で、早めに部屋の明かりを消しておこうか。」


 暗闇の中、私はお父さんの肩にもたれていた。

 怖い、身体が震える、なのに、こうしてると不思議に穏やかな気持ちになる。


 お父さんの事だから、私がギリギリ嘘のない逃げの効くメッセージにしたってのは、お見通しなんだろうな。私の事もそうだけど、お父さんてって何でも鋭く気付いて、核心をついてくるんだよね。それなのに、私のお父さんへの想いは少し誤解してる気がするのが、とってももどかしい。


 よくクサい台詞も言うけど、その台詞が浮くこともなく彼の普段の行動に合致するのがすごいなって思う。


「涼音さん、彼もどきから返信あった?」

「ううん」


 もうすぐ予告した電車の到着時間になるけど、彼もどきからの返信はない。

 お父さんにもたれかかってるのが心地よくて、忘れそうになっていた恐怖心。それが私の身体を再び支配してきた。

 

 怖い。身体が震える。


 お父さんも、うーんと唸っている。

「返事が来ないってのは困るね、あのメッセージ見たら来ないのが普通だとは思うが。」

「返事も来ないってのはちょっと不気味だな。」


「うん、怖い……。」

 そう言って、私はさらに深くお父さんにもたれかかった。



 お父さんの奥さんってどんな人なんだろう?

 ちょっぴり羨ましいな。

 いつも、こんな安心感を味わってるのかな…。

 次の瞬間に心の奥に沸き上がった黒い感情を私は必死に封じ込めた。

 それは醜い感情。



 暗い部屋の中では、時間さえ闇に飲み込まれたみたいで、時間が経過する感覚が消えていた。

 私の中で怖さは溶けて、安心感が温かく大きくなっていた。

 今が壊れないで欲しい、いつまででもこのままでいたい。



「23時40分になったよ。」


 お父さんの声で、消えていた時間と現実を一瞬で取り戻す。

 予告してあった駅着の時間から30分以上が過ぎている。

 駅からここまでは、ゆっくり歩いても15分もかからない。


「たぶん来ないんじゃないかな?」

「念の為に0時までは部屋を暗いままにしておこう。」


「うん。」

 返信がないのが気になるけど、少しホットとする。

 ……このままもう少し私にお父さんを下さい。

 私は目を閉じて、お父さんの肩に身体を任せた。



「0時を過ぎた、さすがに大丈夫だと思う。」


 お父さんは立ち上がって私から離れ、部屋の間接照明をつけた。

 そして、いつもの椅子に腰をおろして、ヤレヤレと疲れたような顔をしている。

 とっても嫌な時間だった筈なのに、とっても穏やかな時間だった。

 今は嫌な事は忘れて、穏やかな時間に抱かれていたい。



 ピンポーンー!突然インターホンが鳴る。

 一瞬前まで感じていた安堵感と幸福感が、一瞬で霧散して心が凍りそうになる。

 お父さんも緊張した顔で私を見つめてくる。


 私は動く事ができなかった、そして居留守の私の行動はこれで良い筈。……筈だった。


 ピンポーン!


 再び響くインターホン。それは2度3度…。

 その都度、私の心は飛び散りそうになる。

 ……そして静寂。

 間違いなく彼もどきだろう、私の凍り付いていた。


「さすがに諦めたかな…。」


 お父さんの声に、少しだけ安心する。

 だけど、その1ミリの安心は次の瞬間には再び消え失せる。

 携帯端末のメッセージ着信音が鳴った。


 見るのが怖い!。


 お父さんが私の隣に寄り添って、メッセージを見るように促してくる。

 私は勇気を振り絞ってメッセージを確認した。


―――――――――

お部屋に入れて、いるのはわかってる

―――――――――


 隣で見ていたお父さんは、私の肩に手を回して私を抱き寄せる。

 私はそれを、「無視しなさい」という無言のメッセージなのだと感じた。


 ……数分の静寂の後に再び着信音がなる。

 先程と同じようにお父さんに身を寄せたままメッセージを確認する。


―――――――――

居るんだろ、さっき部屋の明かりがついたよ

男と居るのは判ってる、部屋に入れて

―――――――――


 どうして、どうして判るの?


 何もバレるような行動はしてない筈。

 別の人格? ううん、お父さんが昨日来てから、お父さんが呼び出した以外では記憶が途絶えていない。ここは8階、外から覗く事もできなし。

 ありえない事に私は恐怖を感じた。


 ブルブル震えていると、お父さんが私の肩を優しく叩いた。

「面倒だ、やましい事ないし、入れていいよ。」

「僕は大丈夫だから、僕を信じて。」


 お父さんの言葉をキッカケに私は開き直った。

 それは自分でも驚くくらいの心境の変化。

 そうね、やましい事ないし、お父さんもいるから大丈夫。

 まだ、怖さはあるけど、きっとなんとかなる。


「それから、彼との話の相手は僕をメインにして任せてね。」


 ほんとうに、お父さんの言葉って不思議。

 私は、ただの怖がって震える女の子では無くなっていた。


――――――――――

鍵開けるから、もう一度インターホンを鳴らして

――――――――――


 メッセージを送ると、数分後にインターホンが鳴った。

 私は無言でエントランスのロックを解除していた。モニターの画面を見る事すらできなかった。

 数分後には彼もどきが部屋にやってくる。






 面倒な事になった……。

 面倒な事は大嫌いなんだけどな。

 しかも、これは人生で初めての修羅場ってやつかな。

 しかたない、なんとかなるさ。

 僕はドアの内側で涼音の彼もどきを待っていた。


 暴力的な人じゃないないなら、話し合いに持っていけるなら大丈夫だという妙な自信があった。

 暴力的じゃなくても、切れてそういう行動を取るかもしれない。そんな時はどうやって暴力を封じるか、相手の身体の何処を、どうやって押さえるか、そういうシュミレーションも頭の中で行っていた。


 これから俗に言う「修羅場」という戦いが始まる。

「戦い」であるなら、奇襲をしかけてきた彼もどきが有利かもしれないけど、お互いの能力はまだわからない。

 とにかく、暴力さえなければ、なんとかなるさと考えていた。



 ドアチャイムの音で僕がドアを開けると、彼もどきが睨んできた。


「はじめまして、こんばんは。」

 僕から声をかけると相手も挨拶を返してきた。

「こんばんは、はじめまして。」


「泊まっているんでしょう?。」

「うん、そうだよ。」

「これが、どういう事が判ってるよね?」

「ああ、どういうことか判ってるさ。」

「涼音さんは中で待ってる、とにかく入って。」


 浮気の現場を押さえたよ、という意味だろう。


 僕より少し若い彼もどきは、僕より少し身長が低く、優しそうな雰囲気を感じる人だった。僕はそんな彼を見て少し安堵していた、暴力的な人には見えなかったのと、早速言葉でマウントを取りに来たという事から、話し合いになると思ったからだ。



 リビングで僕は、いつもの椅子に腰を下ろした。

 彼もどきは入口の近くで立っていた。

 涼音は、少し離れた床に座っていた。

 ほぼ正三角形の配置。


 彼もどきが俯いて座っている涼音に声をかける。

「最近、おかしいと思っていたんだ、やっぱり浮気してたんだね。」


 涼音は無言で俯いていたていた。


 今度は僕を睨む。

「あなた、SOAの いつきって人だろ?」

「ああ、そうだよ、何度か同じパーティになったね。」

 僕を特定していたことに驚いたけど、同じゲームにいるのだから、ログイン状況や涼音さんのパーティーの様子を疑いの目で見ていれば、察する事もできるだろうと納得する。


「僕を甘く見ないでね、僕はネットに詳しいんだよ、君だという事なんてすぐにわかる。」


 彼は調子にのって語り続ける。

「今日の夕方、すずちゃん(涼音)と食事にでも行こうかと車で来てみたら、君とすずちゃんが一緒にマンションに入るのを見えたんだ。」

「それから、マンションの見える駐車場に車を止めて、様子を見てたんだよ。」


 ちょっと、それ怖いって、何なのコイツ。


「SOAログインしたら、今日もすずちゃんのパーティに いつきさん居ないから、すぐに分かったよ。」

「昨日もいなかったよね、昨日も泊まってんだろう?。」

「だから、電車で行くってメッセージを送って様子を見てたのさ。」


 つまり、こいつは毎日ようにSOAでの僕らを監視して、今日は夕方から今までずっと近くでマンションを監視していたってことか。

 気持悪い事する奴だとは思うけど、手の内をバラしてくれるのはありがたい。

 たぶん、勝ったような気持でいるから自慢げに話したくなるんだろうな。


「すずちゃん、婚約してるのに浮気するなんて酷いな。」


 え?『 こ ん や く 』聞いてない。

 涼音を見ると、彼女は下を向いたまま黙っている。


「君も、この責任はとってくれるんだろうね?」

 僕にも勝利宣言のような言葉を投げて来た。

 『婚約』って言葉には驚いたけど、今はそれに反応する時ではない。

 僕は少しだけ下を向いて返事はしない。


 その後も彼は、勝利宣言のように自分の正当性や僕らの不道徳さを語り続けた。

 僕は、多少の生返事を交えるだけで、黙って彼の話を聞き続ける。

 僕と涼音が何も反論しないので、彼は自分の勝利や正当性をまったく疑っていないのだろう。反論できないんじゃなくて、わざとしないのだけどね。


 口論、口喧嘩……、つまり交渉ね。交渉で有利になるのにすべきこと。

 まず相手に情報を出させて、自分の情報を出さない。相手の話をよく聞いて、相手をよく見ること。簡単に言えば、情報の少ない初期には、相手に好きなように話させておけってこと。


 そうして相手の情報を引き出して見極める。その上で相手に自分の情報の何を見せるかを選択し、何で攻撃するのが一番有利かを見極めてから攻撃する。

 全力……、全部を見せての攻撃なんてはしない、必要な武器を選んで的確に急所を打つ。全力で攻撃したら、それ防がれたら詰むからね。特に情報のない初見の相手と戦う時には必要な事。


 客観的に見れば、彼もどきに僕と涼音さんが一方的に責め続けられてる状態。

でも、僕の内心では……。


 あー、なんだ、この程度か……問題ない。そろそろ反撃するかな……。


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