鶴のウォン返し
むかしむかし、おじいさんが山で芝刈りをしていると一羽の鶴を見つけました。鶴は罠に掛かって動けず、藻掻けば藻掻くほど罠が食い込み悲鳴を上げ、おじいさんは鶴が可哀相になり助けてあげました。代わりと言ってはなんですが、おじいさんは罠におにぎりを挟んでおきました。
おじいさんが家に帰ると、おばあさんがしょんぼりとしておりました。
「おやおや、どうしたんだい?」
「今朝私が山に仕掛けた罠におにぎりが掛かってたんだよ……」
「…………」
いつの間にか外は吹雪になっておりました。
──コンコン
「おや? 誰か来たようだね」
扉を開けると、そこには一人の女がおりました。
「道に迷ってしまいました。どうか雪が止むまで一晩泊めては貰えませぬか?」
「ええ、こんな粗末な我が家で良ければいくらでも泊まるがよい」
おじいさんとおばあさんは女を喜んで泊めてあげました。
「泊めて頂いた御ウォンは忘れませぬ。何かお礼をしたいので、部屋を開けないでもらえませんか?」
「ご……おん?」
「御ウォン」
「をん?」
「ウォン」
女はその夜は部屋から出て来ずに、部屋の中からはオフセット印刷機の音が聞こえ続けました。
次の日の朝、女が部屋から出てくるとその手には札束が握られておりました。
「こ、これは……!?」
「ウォンです」
おじいさんは見たことも聞いたこともない紙幣に戸惑いました。物々交換がメインの田舎村ではお金は機能しておらず、山を越えて隣の町まで行かないと使えないからです。
「私が隣町まで行って参ります」
女はおばあさんが拵えた弁当を持って出かけて行きました。
それ以降、女は戻ってきませんでした…………
おじいさんの家に警察がやってきました。
女が使っていた部屋には偽札製造用の版が置いてあり、どうやら女は通貨偽造の容疑で逮捕されたようです。おじいさんとおばあさんは関わっていなかったとして逮捕はされませんでしたが、驚きを隠せませんでした。
そしておじいさんは残された印刷機で印刷業を始めました。