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8.ジャンウー

ブックマークありがとうございます。

励みになります。よろしくお願いします。

ぐうううう~~。



突然の唸るような音に、格好良くウィンクを決めて去ろうとしていたクロウの足が止まる。

何事かと部屋を見回し、最後に私の顔をみる。


何かありましたか?

みたいな顔をして見つめ返すが、その直後にまたきゅるきゅると音が鳴った。


私のお腹から。


「腹が減っているのか?」


可哀想な子供を見る目で見られた!


「違っ、違うんです!朝ご飯はちゃんと食べました!」

「昼を食べていないのか…」

「違うんです!馬車がお昼について!行き先は寮だと思ってたので食堂があると思って!入るのに勇気いるお屋敷だったし!」

「昼を食べていないんだな?」

「……はい」


色々と言い訳はしたものの、昼食を食べていないという事実はなくならない。

おなかの音を人に聞かれて恥ずかしいと思うなんて前世以来じゃないのか。

父や母には聞かれても恥ずかしくなかったからね…

むしろ私のおなかの音がご飯の合図だったぐらいだしね…


「よし、じゃあジャンウーだ」

「へぇ?」


ジャンウーとは、ジャンランという小鳥とウーランという猛禽類を縮めた言葉で、鬼ごっこの事だ。

村の子供たちとよく遊んだ。逃げるのがジャンランで、追いかけるのがウーランだ。日本の鬼ごっこと違うのは、ウーランに捕まったジャンランはゲームから離脱するところ。攻守交代はしない。

助け鬼の助けが来ない版っていえばいいのかな?


とにかく、なぜ今ジャンウーなのだ。

私はお腹が空いているのだ。動き回りたくない。


「俺がジャンランで、リセがウーランな」

そういいながら承諾書を小さくたたんでポケットにしまっている。


「俺を捕まえられたら褒美をやろう!さぁ、スタートだ!」


そういってドアに向かって走り出した。


良い歳した大人が何やってるんだ!

私はやるなんて言ってない!だいたい、この屋敷の間取りもわかってないのに追いかけっこなんて不利すぎる!絶対迷子になるよ!


私が追いかけてこないのに気が付いたクロウが、戻ってきてドアから部屋をのぞき込んできた。


「なんで追いかけてこない」

「迷子になりたくないです」

「そんなの、俺を見失わなければ良いだけだろう?」


ニヤニヤ顔で簡単に言ってくれる。足の長さが全然違うだろうよ。


「お腹が空いてるからあまり動きたくないです」

「ご褒美はお茶とお菓子だ」


瞬間的に私はカーペットを蹴って駆け出した。


牧歌的で平和で素朴な村の生活にも、ちゃんと満足していたよ。

麦とそばのあいのこみたいな穀物のおかゆごはんもおいしかったさ。

道端の木の実をもいでおやつにするのも瑞々しくて好きだった。


でも!


貴族の!


茶菓子だよ!



生まれ変わってから九年。

前世より不便で質素な生活だけど、ぎすぎすした人間関係もない平和な世界なんだから十分幸せだって思っていたけど。

このまま、競わない・争わない・ほのぼのした凡人として生活していこうって思っていたけれど。


私、思っていたより甘いものに飢えていたのかもしれない。

今、全速力で前を行く男を追いかけている。


「あっはっは。リセ早いじゃないか!やっぱり体が軽いからか!?」


笑いながらクロウが先を走る。

すれ違うメイドに途中叱られているが、片手をひらひら振ってやり過ごしている。


足の長さが倍どころではなく違うせいで、なかなか距離が縮まらない。

ただ、向こうはセミフォーマルな動きにくそうな服を着ていて、こっちは着古して柔らかくなっている動きやすい服(お古とも言う)を着ている。

しかも、九歳で身長が百十センチぐらいしかない体はだいぶ軽い。

何回かの曲がり角を曲がるうちに小回りが利く分距離が縮まってきた。


「お菓子!!!」


もう目前というところまで来て、手がぎりぎり届かないので体当たりするつもりで飛び込んだ。

膝裏まである長い上着の裾をつかみそうになったその時、クロウと目があった。

にやりと笑うと、右手の人差し指をスイッと振り、その瞬間に目の前から消えた。


「えっ」


つかめるはずのものが目の前から消えてしまい、転びそうになるのをぎりぎりで足を踏み出してこらえる。

なんだ今の。


「わははははは。甘い!甘いぞ!」


足元から声が聞こえてきた。


横を振り向けば、そこには下り階段がある。

声はその階下から聞こえてきているようだ。手すりに駆け寄って下をのぞき込むと一つ下の階の廊下にクロウはいた。


「魔法か・・・」


転生したこのツオ恋の世界も、基本的には物理規則は地球に準拠していると思っている。

そもそも日本人が作ったゲームだから当たり前だね。


であれば、あの勢いで直線を走っていた身長百八十センチぐらいある成人男性の物質が、消えたと錯覚するほどの速度で直角に曲がり階段を駆け下りるのは不可能だ。


手すりを飛び越えたのだったら、目の端にそれが見えたはずである。

一般的な人間の視野角は横方向に二百度と言われているので、視覚の端に映らないわけがないのだ。あんなでかい大人が!

だったら、魔法で瞬間移動みたいなことをしたと考えるほかない。


今、クロウは一つ下の廊下で足を止めている。

姿が消えたことに対して驚いている私を侮っている。

村育ちをなめてもらっては困る。


手すりに置いた手を軸にひらりと体を持ち上げると、手すりに飛び乗って滑り台の要領で滑り降りる。

前世の小学生時代に良くやって、先生に良く怒られていた。


コツは、自分の上着の裾やスカート越しに手すりを握ることで、バランスを取りつつ手のひらの摩擦を減らすことだ。

そして、踊り場で手すりがU字になっている部分をしっかりつかんでスウィングバイで進む力を生かしたまま方向転換すること。


階段を降りてくる足音がしないまま、踊り場からぐるりと突然現れた私に、クロウは目を丸くしている。

残り半分の手すりを一気に滑り降り、その勢いのまま私はクロウに飛びついた!

よんでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉の節々がもう面白すぎて腹筋がぶっ壊れるwww
[良い点] 風魔法で螺旋丸って気脈をズタズタに破壊するエッグい奴では
[良い点] ヒロインが堅実、そして内心の声(説明)が分かりやすい。 村を愛している描写も、ほのぼの平和なのも素敵。 後見人が悪い貴族と思いきやオチャメな貴族だった。 全体的に話が安心できる現在時点…
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