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7.来た! 見た! 騙された!

「やあ、よく来たね!ようこそ我が家へ!」

両手を広げながらにこにこと入ってきたのは、先日村までやってきた男性のうちの一人だった。

そう、牢屋行きだぞと脅してきた方の人。我が家って言ったね?やっぱり寮じゃないんじゃん!


「こんにちわ」

ソファから立って、頭を下げる。


「まずは自己紹介しようか。俺の名前はクロウだ。クロウ・クルゥバッハ」

「私はリセです。ただのリセです」


クロウは大きな身振り手振りで名前を名乗りながらそばまで来ると、ドカッとソファに腰を下ろした。

フルネームで名乗られたが、こちらにはファミリーネームはないのでただのリセですと名乗ったのだが


「貴族には家名があり、平民には家名が無いということを君は理解しているんだな、リセ」


そういってニヤリと笑われた。貴族と関わりの無い平民はファミリーネームの存在すら知らない可能性があったのか。やっちまったかもしれない。まぁ、適当にしらを切っておくことにしよう。


クロウはテーブルの上の風呂敷包みをちらりと一瞥すると「まだ片付けてないのか」とつぶやいた。

手で座れと椅子を指されたので、有難く座ることにする。

街の門からこの家まで結構歩いたので足がつかれているんだよね。



「さて、まずは先日渡した書類をもらおうか。両親のサインはちゃんと入っているね?」

「はい」


うなづくと、風呂敷包みを開いて一番上に乗っていた封書を取り出す。

封筒の中からサイン入りの書類を一枚とってクロウに渡した。

クロウは書類をざっと読み直してサインが入っていることを確認すると、にやりと笑った。


「これで、リセの王都での後見人。つまり保護者は俺ということになったな」


何言ってるんだこのおっさん。


「そんなこと、その書類には書いてありませんでした!」


書類には、魔法学院に入学すること、寮に入ること、特待生としてお金は免除されること。

そういった事しか書いてなかったはずだ。私に後見人が付くとかそんなことは書いていなかった。


クロウはニヤニヤ笑うと「字が読めるのは嘘じゃなかったんだな」と言って私の手から封筒を奪い取った。

中から別の紙を取り出すと、文面を私に見せてきた


「こちらの書類は読んだか?」


見せてきた書類は、入学や入寮についての案内が書かれている書類だった。

授業の開始時間や下校時間、寮の起床時間や就寝時間、食堂の利用方法などが書かれていたはずだ。あんまりにも細かい規則などが書かれているので、入学してからおいおい読めばいいだろうと思っていたのだ。


「規則が細かいから・・・入学前に読めばいいかと思って半分くらいしか読んでない…です」


それを聞いて、クロウはしてやったりという顔をした。

学校や寮の規則や入学・入寮時の案内しか書いていない書類に、後見人についての記載なんてあるはずない

あるはずないよね……?


「ここを読んでみろ」


案内書類の3枚目、その下半分のあたりを指さしてながら書類を渡してきた。

そこを読んで、私の顔はみるみる青くなっていく。


[特待生として各種学費が免除される者で、王都外から入学する者については、王都内に住む三位以内の貴族家に属するものが後見人となる事]


入学するにあたっての、両親のサインが必要な承認書はだいぶ読み込んでいた。

貴族からの申し出で、無料で学校に行けるなんてうまい話には絶対に裏があると思ったからだ。

まだ意味の分からない単語なんかは、商売をやっている雑貨屋のおじさんや村長さんに教えてもらいながら、全文読んだ。

そこに、特に不利益になるようなことは何も書いていなかったし、魔力の強い人材を有効に活用するためとか埋もれさせないとかそういう、国に対してもちゃんとメリットのあることだという説明も書いてあった。

だから、そういうものだと思って納得して両親もサインしたのに。


「学校の規則の方に書いてあるなんて…」


たぶん意図的だ。

契約書には「入学するからには校則を守ります」的な文言しか書かれていない。

まさか校則の方に「平民は貴族の後見人が付くよ(意訳)」なんて書いてあるなんて思わなかった。

くそう。甘かった。

現世ではまだわかる単語が少なくて全文読み切れなかったのが敗因だ。

学校のない村の個人的な勉強では限界があったのだ。

これでは、王都にいる間の私の行動にはこの人の許可が必要になる。学校さぼって勇者を目指す方針が取りにくくなった。


「これは、私があなたの養子になるということではないですよね?」

「もちろん。リセの両親は今まで通り村に住んでいる二人だ」

それを聞いて安心した。帰ることもできなくなるのではないかと一瞬心配した。


切り替えよう。

なってしまったものは仕方がない。


「学校はいつから始まるのですか?」

「君が入学するのは一年後だ」


は?


「魔法学院の入学年齢は十歳だ。君はまだ今年で九歳だからね。入学は来年だ」

「じゃあ、こちらに来るのは来年で良かったじゃないですか!」


意味が分からない。

クロウという人は、いったい何がしたいのか。


「魔法学院の生徒は九割が貴族の子だ。貴族の子は入学までに家庭教師をつけて勉強しているから、学問の基礎の基礎は学院で教えたりはしないんだよ」

「そんな…」

そんなところに学校もない村出身の平民が入学したって勉強についていけるわけがない

「君は、一年間ウチで基礎学習をするんだ。ちゃんと入学して勉強についていくためにね」


乙女ゲーである『ツオ恋』は学校の入学式から始まる。

入学前にこんな苦労しているなんて聞いてないよ‥‥


「まぁ、自分の家だと思って気楽に過ごすといい。家のものには伝えておくから家の中も自由に動き回っていいからね」


そういってクロウは、サイン入りの書類をつかむと立ち上がった。


「ようこそ、クルゥバッハ家へ」

そういってウィンクして見せる姿は、悔しいが超絶カッコよかった。


これだから乙女ゲーム世界は油断ならないんだ…

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